(左から)大河内淳矢、KOHKI、辻博之
「和×洋の創作曲で表す“現在”」をコンセプトとしたコンサートが、2021年11月23日(火・祝)にニッショーホールで行われる。
コンサートのタイトルは『ワブヨウネ』。漢字に変換すると、「和舞洋音」となり、音楽の和と洋、そこに舞踊が加わり、ミクスチャーの世界を探求する、ある意味実験的な公演になる。音楽における和と洋のコラボレーションは、新しい表現手段として90年代から注目されているが、今回は、尺八、オークラウロ、笙、篳篥という和楽器に10人編成のオーケストラ、さらにオペラ歌手と日本舞踊家が加わるという。なんとなく想像できるようで、でも、どんな曲を演奏するのかとか、描く“現在”とはどんなカタチなのか。ちょっと踏み込んで考えてみると、いろいろな疑問が浮かんでくる。
そこで作曲、編曲、音楽監督を務めるプロデューサーのKOHKI、尺八&オークラウロ奏者の大河内淳矢、指揮者の辻博之の3人にいろいろお話しをうかがった。
ーーまずは、3人の関係性からおうかがいできますか。
KOHKI:僕と大河内さんは、10年くらいの付き合いですかね。僕が大河内さんのCDをプロデュースすることになり、これまでに『Nostalgia』と『八∞縁』という2枚のアルバムに関わっています。辻さんとは今回の企画のタイミングで引き合わせていただいたので、共演するのは初めてになります。
(左から)辻博之、KOHKI、大河内淳矢
ーーもともとはロックやポップスをやっていたKOHKIさんがなぜ尺八の大河内さんをプロデュースすることになったのですか? 和楽器にもともと興味が?
KOHKI:篠笛奏者との出会いから始まり、いつの間にか和楽器をよくプロデュースしている人になっていたんですが、もともとはネオ和楽器といった分野に全然共感していなくて、だから、最初は「俺がぶっ壊してやるよ」というノリでアプローチしていたんですね(笑)。和楽器の響きを大切にする、なんて気持ちはなく、むしろぶっ壊してカッコいいものにする、というスタンスでプロデュースしていたのがおもしろがられるなかで、和楽器との接点が増えていきました。
大河内:和楽器をもっといろいろな人に聴いていただけるようにしたいと思っていた時に、KOHKI君と知り合うことができて……。
ーー辻さんは、オペラの指揮者ですが、和楽器との接点というのは?
辻:小学生の時に能楽師になりたくて、長唄にも興味があったし、中学生になると、雅楽もやりたくなって、中2で龍笛を買ったり、人間国宝・藤舎名生(とうしゃめいしょう)さんの横笛をCDで聴いていたりしていました。同時にその頃オペラも好きになり、芸大の声楽科に進んだわけですが、今はコロナ禍で時間ができたのを幸いに、日本舞踊のお稽古を楽しんでいます。
ーー辻さんは、KOHKIさんと大河内さんが出演された。朗読舞踊劇Tales of Love『お七-最初で最後の恋-』をご覧になったそうですが……。
KOHKI、大河内:本当ですか?
辻:もちろんですよ。今回コンサートマスターを務めるヴァイオリンの佐藤恵梨奈さんと一緒に行きました。すごくいい公演でしたね。大河内さんは、竹材の尺八の難しさを話されたりしますが、ご本人はすごくいい耳の持ち主。それがちょっと高めの耳なので、尺八の奏でる音がすごく華やかなんです。音が綺麗でね。
大河内:そんな風に見てくださったのは嬉しいです。
大河内淳矢
ーーさて、今回のコンサート、具体的にはどんな内容なのか。まずどんな楽曲を演奏するのか、そこから教えてください。
KOHKI:書き下ろしの新曲を含めて、僕が作曲した曲で、そのなかには大河内さんと共作した曲もあるのですが、それらをコンサートに合わせて編曲し直しています。
辻:すごい速さでそのアレンジが上がってくるんですよ。絶対何も食べないで仕事していると思います(笑)。
KOHKI:10名編成のオーケスラが演奏して映える編曲に変えているので、大河内さんのCDで聴ける曲も、この公演でしか聴けない演奏になると思います。そのなかで尺八とフルート、また篳篥(ひちりき)とオーボエといった音色的に接点を見いだせる楽器を綯い交ぜにするというか、どこからどこまでが尺八で、どこからどこまでがフルートなのか、一瞬わからなくなるような瞬間を狙ったり、ということをしたいと思っています。
ーー境界線をなくすということですか?
KOHKI:そうです。それと心地好い戸惑いというか、アレ? というのを作りたくて。かなりミックストアップするアレンジを今やっています。
ーーそもそもというところで、オーケストラと共演する発想はどこから生まれたもので?
KOHKI:僕は微妙な立ち位置にいて、ポップスの世界でやるにはちょっとクラシックすぎて、クラシックの世界でやるにはポップスすぎて、なかなか居場所がないというか。オーケストラとの共演はずっとやりたかったことで、アレンジなどをやりながら、「僕はずっとこれがやりたかったのか」と自分で勝手に腑に落ちています、フフフフ……。
ーー西洋音楽の世界にいる辻さんは、和と洋の融合を試みたことはありますか?
辻:ないです。基本的にこれまでは和楽器は、和楽器の曲を演った方がいいと思っていました。だから、どうなんだろうという気持ちで、『お七』を観に行ったんですが、それが良かった。しかも楽曲は、既存のものではなく、KOHKIさんがコラボレーションを前提に書いているので、トラディショナル&オリジナルだし、そこはかとなくロマンがあるんですよ。西洋音楽も和楽器も長い歴史があって、それぞれが背負っている歴史が一緒になることで、時間的な奥行きが感じられるというか。そこが魅力的だと思います。例えるならば、聖徳太子とルイ13世がおしゃべりをしているようなもの。それってちょっと聴きたくなるでしょ(笑)。
辻博之
ーー具体的に楽器演奏は、どのような感じに?
KOHKI:オーケストラはほぼ全ての楽曲で演奏してもらうのですが、曲によってフィーチャーされる楽器が変わっていきます。そのなかで音楽的なマリアージュを試みていきますが、全体としてはオーケストラのサウンドに包まれている心地好さも得ていただけるんじゃないかと思っています。
辻:オペラ歌手とのコラボは、初めてですか?
KOHKI:そう言えば、初めてですね。僕は、デビューした頃クラブミュージックから細分化されたような“エレクトロニカ”といった音楽をやっていたんです。そこには音楽をメロディとか、歌詞とか、コードとか、譜面に書き表せる要素で聴くんじゃなくて、音の質感とか、ドレミじゃなくて、この音色がいいよね。もっと言えば、音に食感があるならば、この音の外はカリッと、中はモチッと表現されるような音を作っていたんです。だから、和と洋のコラボも音階とかではなく、質感ですり合わせていく感覚があります。
ーーそこが従来の和洋折衷の音楽との違いのように思いますね。
大河内:KOHKI君の音のこだわりがいいんです。『お七』もそうでしたが、KOHKI君の作るサウンドは、ギターひとつでもすごくエフェクターをかませるんですよね。今回も音にこだわってアレンジしていると聞いているので、僕も尺八の音にこだわりながら、バトンタッチしていくというか、みんなでいいバトンを渡しながら、どの楽器もおもしろい響きがあるよね、というところにまで到達できたらいいなと思っています。
KOHKI:大河内さんはちゃんと技術のベースがあるから、僕は、サウンドでやりたい放題ができるんです。やりたい放題のサウンドに尺八が絶対に負けないので。
ーー今尺八のお話が出ましたが、大河内さんが演奏される“オークラウロ”についてもうかがえますか?
大河内:この楽器は、戦前に大倉喜七郎さん、ホテル・オークラの創業者が考案した楽器で、尺八とフルートを合体させたようなハイブリットの楽器です。尺八の息づかいとフルートキーのメカニカルな融合を感じていただけたらと思います。
(左から)メタル素材の尺八、オークラウロ、尺八
ーーオークラウロの他に今日は、メタル素材の尺八もお持ちいただいたようですが……。
大河内:金属製の楽器と比べると竹の尺八は、やわらかい音色を奏でる印象がありますが、自然の素材なので楽器にも多少の個体差があるんです。メタル素材の尺八は、そういう意味で個体差がなく、尺八よりもエッジの効いた音になりますね。
ーー最後にKOHKIさんがこのコンサートをプロデュースする意図、狙いといったものを教えていただけますか。
KOHKI:日本に西洋音楽が輸入されたのは明治時代です。僕の曾祖父は、長野県で初めての交響楽団を組織した人でした。僕らは、もともと日本に根付いた伝統音楽と、輸入された西洋音楽、ある種二足の草鞋を履かざるを得ない状態がずっと続いています。そのことを僕はいろいろ考えていきたいと思っていて、和と洋の間で絶賛“もがいている”最中です。それが今回の企画につながりました。コンサートでは音楽の歴史とか、楽器の説明をわかりやすくするトークコーナーを設けますので、それもぜひ楽しんでいただきたいと思います。
取材・文=服部のり子 撮影=WeWork東急四谷