L⇒R:前川真悟(かりゆし58)、コザック前田(ガガガSP)、日食なつこ、大澤敦史(打首獄門同好会)
音楽レーベル・LD&Kの所属アーティストに加え、縁のあるアーティストを招いて全国5箇所のZeppを巡る『LD&K NIGHT 2021~憂晴福反応~』が11月5日(金)Zepp Nagoyaからスタートする。各日異なるラインナップで、普段はなかなか観られない組み合わせによるこのツアーならではの“福反応”が各地で起こるに違いない。そんなツアー開催を前に出演者を代表して、ガガガSP/コザック前田、かりゆし58/前川真悟、打首獄門同好会/大澤敦史、日食なつこの4人の座談会が実現。レーベルメイトながらもこの4人が揃ってじっくり話すのは今回が初めてだということで、お互いの印象やコロナ禍でのそれぞれの活動についても語り合ってもらったことで、おのずとツアーの見所までもが見えてきた。
■コロナ禍で見えた、音楽の正体
――11月5日(金)Zepp Nagoyaを皮切りに全国で開催される『LD&K NIGHT 2021 憂晴福反応』。緊急事態宣言も解除されて、世の中が少し落ち着きを戻している昨今。まずはこういったイベントが開催できるまでに至った、現在の気持ちを聞かせて下さい。
前川:僕らにとってこの2年間くらいの沈黙は、その前に体の療養で5年近く休んでいたメンバー(中村洋貴)の復帰も兼ねた大事な時期が、棒に振られた感じもあって。現在のライブ復活の狼煙は時勢の良い兆しだけじゃなくて、僕らにとっては“やっとメンバーが揃った状態で、音楽と仲直り出来たところを見せられる”という気持ちもあって。このツアーを通じて、世の中と音楽の喧嘩の仲裁役にもなれたらいいなと思っています。
前田:ウチはライブもちょこちょこしてきたんですけど、個人的には9月にソロアルバムも出したりというのもありまして。いまソロとバンドのバランスがすごく良い形になってるし、ライブも仕上がってきているんですが。最近はスタジオに籠もってばかりだったので、早くライブハウスで発散したいです。いつもは小さなハコでやることが多くて、Zeppでやることもなかなか無いので。それもすごく楽しみにしてます。
日食:私はソロアーティストというところで、意外とコロナ禍というところに振り回されなかったかな? というのがありまして。むしろ、この間に家で20曲くらい宅録をやって、クラウドファンディングで出したりとか、普段はできないことをやれたり。みんなでカラオケに行くこともできないから、“だったら家でカラオケしよう”ってカラオケアルバムを出してみたり。すごい挑戦的なことを色々やって、普段以上に動いてるんじゃないか? という時期だったんですけど。その感想を、お客さんと接して直接聞くという機会が無かったので。こちらから一方的に出したものの答えを聞くということが、この『LD&K NIGHT』からようやく始まるかな? と思っていて、それも楽しみなんです。
大澤:ウチはコロナ禍が始まった頃、結成15周年のツアー終盤で。ツアーはできたんですけど、ファイナルが中止になってしまったんです。世間的にもライブができない時間が何ヶ月かあった後、“そろそろ動かないと業界も危ない”という状況で、僕らもツアーを始めたらまた年末のファイナルが中止になってしまって。世の波にすごく翻弄されたところがあったので、いまは少し落ち着いているけど心の中で安心はできていなくて。とはいえ、できる範囲で動いていかないとライブハウスも危ないし経営もキツイという状況で、象徴的なのがライブハウスなどの音楽事業と飲食店経営という、コロナ禍において最悪の組み合わせで頑張っている我らがLD&Kで(笑)。LD&Kの所属アーティストで動くというのは、すごく意義のあることだと思うし。いままでのツアーとは違った何かを見出せるんじゃないか? と思っています。
――打首獄門同好会は日々状況が変わっていく中で、かなり被害を食らったし、翻弄されたバンドだと思うんですけど。その都度、危機をどう乗り越えてきました?
大澤:最初、政府の要請でファイナルが中止になったのが開催の3日前で。急遽、無観客配信ライブをやることになったんですけど。そうなった時、それまで自分たちが使ってきた武器があれもこれも使えないということに気付いて、“これでできんのか?”というところから挑戦が始まって。有観客ライブができるようになっても、声も出せなければモッシュやダイブもできなくて、こっちから客席にアプローチする演出もできない中で勝負することを強いられたので。大変だったし不本意ではありますが、すごく修行になるなと思いながらやっていました。他のバンドを見ていても、音楽でしか勝負ができないので、音楽的に向上してたりして。勢いで誤魔化せないから、上手くやるしかないっていうところで、すごく歌が上手くなったバンドは多いと思います(笑)。
日食:やっぱりバンドって特に、お客さんと交流してなんぼで、コミュニケーションも音楽に含まれてると思うので。私は客観的に見て、“頑張れ!”としか言えないし、どう生き抜くかは分からないけど、なんとかして途絶えないで欲しいと思ってました。バンドの数だけの色んな解決方法で切り抜けたんだろうなと思いました。
大澤:いつもはグイグイ行く前田さんも水もかけられないじゃん! と思って(笑)。
前田:それ、対バンにイジられますね。“コザック前田が水を吹かない時代が来たぞ!”って(笑)。いまはお客さんがライブの一挙手一投足まで見る状態というか、それまでは勢いでできてたことが通用しなくなって。こっちも真面目なことを言いがちなのを、なんとか散らしたいけど、真面目なことを言ってしまう、みたいな思考のブレもあったり。
大澤:面白いこと言っても、スベってるみたいになりますしね(笑)。コール&レスポンスの曲とか、封印しちゃいますよね。
かりゆし58/前川真悟
――メンバー復帰のタイミングを挫かれたかりゆしは、コロナ禍でどんな影響がありましたか?
前川:ウチの場合、コロナが始まってメンバーがとった行動が、“アウトドアにハマる”とか、“壁を登る”で。音楽がやりたくて5年我慢した仲間が戻ってきたら、他のみんなが全く音楽と違うところに行っちゃったんです(笑)。それはこのタイミングでそれぞれのメンバーが“自分と暮らしと音楽”を見つめたからだと思うし、ライブが無かったからだと思うんです。特に沖縄という島は、暮らしの上に音楽がある島なので。自分の暮らしを豊かにしていくことにメンバーが動いたところがあったんです。でもそしたらライブをやる時、音楽と違うところで培ってきた栄養がそれぞれの太さになっていて。いまはどっしりやれているような気がするんです。もともと人見知りで緊張で固かったバンドが、どっしりした佇まいを手にしていて。それはライブ以外で培ってきたものの影響があるなと思って。コロナ禍で得たものも、少なからずあったんだなと思いました。
日食:音楽本来の楽しさを再認識した、みたいなことはありますよね。お客さんがいなくても、自分自身の音楽を楽しむみたいなことが私もあって。私は山に引っ越したので、ライブもない中、山奥で自分のために音楽を書いていて。“音楽ってこういうもんだったな”と思いながら、客目線の音楽をやれるようになったので、通じるところはあります。
前川:この状況下で俺たちがしがみつこうとしている音楽というものの、優しさの実態が分かったというか。音楽は現実に負けない、人も負けないということも改めて分かって。なんか、音楽の正体がちょっと見えた気がしたんです。
日食:音楽の正体が見えかけたのは私もあります。逆にエンタメ側というか、お客さんに向かっていた時は見えなかったけど。お客さんと切り離された時に、“音楽って何のためにやってたんだっけ?”みたいなことを改めて考えて、少しだけ分かったがこの2年間だったのかなと思っているんです。
前川:大谷さん(LD&K社長:大谷秀政氏)の10億円の上でね(笑)。
日食:まぁ、言えないですけど、大谷さんの計り知れない力の上に音楽を許してもらってたっていうのは大前提ですね(笑)。
日食なつこ、大澤敦史(打首獄門同好会)
■俺たちは悲観的になるほど何かを失ったのか?
――その話、もうちょっと詳しく聞きたいですね(笑)。みなさんの所属事務所であるLD&Kがコロナ禍で大きな借金をしながら、新規のライブハウスを出店したり、一貫した攻めの姿勢を見せてましたが。所属アーティストのみなさんは、どう見ていたのでしょうか?
大澤:僕はぶっちゃけた話、“誰か社長を止めてあげて!”と思ってました(笑)。物によっては、社員に聞いたら“僕も知らなかった”って言ってましたからね。
日食:誰も止められない勢いと馬力があったんでしょうね(笑)。
前川:ライブハウスと飲食合わせたら、二桁近いくらいオープンしてますからね。LD&Kの話でいうと、今日集まってる4人の音楽家たちは毛色が全然違って見えると思うんですけど。打首がやってる日常にあるおかしみを爆発させる音楽だったり、なっちゃんの人間の内面に迫る詞だったり、前田さんの泥臭くでも生きていくという音楽だったり。どれも人間の小さいところを鼓舞する音楽家というところで、根っこが一緒だなと思って。これがLD&Kの根本にあるものかな? と思うんです。以前、LD&Kの社名の由来を大谷さんに聞いた時、“リビングダイニング&キッチンで、人が集まるところを作りたかった”と言っていて。人がハッピーでいられる場所を作ろう、まずは自分の一人称でいいから幸せになれることをやろうとしている自分はおかしくないと思えたし。巡り合わせでLD&Kでやらせてもらえてるのは嬉しいなと、改めて思ったのと、あと最近思ったのは、ライブハウスや飲食を十何店舗持ってて、ジャガーに乗って渋谷の街をさっそうと走ってる大谷さんが、渋谷で一番貧乏人なんですよ(笑)。これがお金の正体というか、面白いな!と思って。
――確かに。なにせ、持ち金はマイナス10億円ですからね(笑)。
前川:そう。でも、奪われたように見えるマイナス10億円は、大谷さんの中では数字でしかなくて。その中で新しい家族や仲間のような社員さんが増えてるし、自分のパフォーマンスができてるアーティストがいるというのが、あの人の財産で。“俺たちはそんなに悲観的になるほど、何かを失ってるのだろうか?”ということを、大谷さんの姿勢が示してくれてる気がしたんです。だからこの間に、足りないものを追いかけてとか、昔を懐かしんでってところに表現が行かなかったのは、大谷さんのお陰というのもあるんです。
大澤:“LD&Kはリビングダイニングとキッチン”と言われて、確かに打首って、リビングとキッチンだなと思いました。言われてみればそうですね(笑)。
日食:大谷さんはすごい先見の明のある方なので、10億円の借金の向こうに何が見えてるんだろう? と思ってたんですけど。いまの話を聞いて、すごく腑に落ちました。新しい社員さんや今いてくれる仲間たちを財産とみなすっていう面も確かにあるだろうなと思うし。その考えって、人が集まる場所という意味を持つ、社名に表れてますよね。
前田:大谷さんの“安定したことと危ないことがあったら、危ないことやっちまえよ”みたいなところは、20年前に知り合った頃から変わらなくて。守るものが増えてきてるのは明らかなのに、いまなお攻めの姿勢が変わらないってところに、あの人の色気や魅力があるのかなっていうのは感じますね。
ガガガSP/コザック前田
――そして、この4人が顔を合わせる座談会は初めてということで。お互いの印象や関係性についても改めて聞きたいのですが。かりゆし58はガガガSPが所属しているということで、LD&Kにデモテープを送ったそうですね?
前川:その通りです。僕らが音楽の道に進んだのって、夢とかそんなものより、もっと壮絶だったというか。これ以外の人生だと生き恥を晒してしまいそうだと思って、なんのバックボーンも無いのに選んだのが音楽の道だったんです。そこで僕らが県外に出た初めてのライブが九州ツアーだったんですが、その時にガガガSPが『青春狂時代』の曲たちを見せてくれて。「卒業」で好きになってデモテープを送った僕らに、いまも新しい曲が届けられた時、“俺たちはどんどん新しい曲を作り続ける、長い旅に出たんだな”と思わせてくれたんです。ガガガSPは僕らの憧れでいてくれたけど、憧れの場所は人間臭いし泥臭いし、不安定な場所だった。その時、そこで自分を見失ったらどうなるか? というのも生き様で示してくれているのが前田さんだったし。みんな個性的でバラバラで一枚岩じゃないメンバーなのに、一発揃ったグルーヴを出すんだっていうバンドの凄さも教えてくれました。
――前田さんはかりゆし58の印象、いかがですか?
前田:かりゆし58は沖縄っていう風土もあると思うんですけど、最初に会った時から、僕らがずっとこだわってきたものと全然違うものを持っているんです。僕らが20代の頃はただ、ごちゃごちゃした関西のライブハウスシーンで、今日は勝ったとか負けたとか、そんな感覚しかなくて。いまとなってはそれだけじゃないってことが分かるようになってきたけど、真悟はそれをもっと早くに気付いていたし、人間関係もどんどん広げていって。自分が持っていない物を持ってるから羨ましく見えるのかも知れないし。自分は自分の人生を歩んでいくしかないですけど、“こうありたい”という憧れのひとつです。
日食なつこ
――日食さんはガガガSPの印象いかがですか?
日食:私がLD&Kに入った時には、ガガガSPとかりゆし58は二大巨頭で。しっかり土台を作ってやってらっしゃる印象だったし、“これが俺だ! 好きなヤツはついて来い”と大きな旗を振って人が勝手についていくという印象で。良い意味での荒さと力強さを感じていたので、“私、大丈夫か?”と思いましたし。みなさん、誰かに育てられるんじゃなくて、自分たちで育っていった方々だと思っていたので。そんな中に女性ソロがポッと入ってきて、扱いに困られないかな? とも思ってました。私は女性ソロというガワを持ってるだけで、マインドはバンドさんのやっていることに近かったり。私も“今日のライブは勝った、負けた。以上!”みたいなところがあるので(笑)。頼もしい先輩が先んじて事務所にいらっしゃったのは、私にとってラッキーな人生の分岐だったなと思います。
前田:日食なつこを見ていると、一人やのに醸し出してるものが圧倒的で、確かにバンド以上なんですよね。僕の場合はノミの心臓なので、ライブでああしなきゃいけないところもあるんですけど。そういうところが全くない気がして。“コロナ禍で音楽が分かった”と話してましたけど、その前から分かってたと思うし。僕はまだ分かってないですから(笑)。あと、これは統計的なものですけど、女の人である程度人を集められるシンガーって、男の人よりも強いところがあるなと思って。男ってなんやかんや言って弱いですからね。
前川:自分に酔えなくなると急に弱いですよね。急に足腰が立たなくなる。
前田:そう。好きな話で、吉田拓郎さんがやってる『つま恋』に、中島みゆきさんがシークレットで出たんですよ。そこで中島みゆきさんがステージに立ったら、知ってた拓郎さんが後ずさりして。中島みゆきさんは1曲歌ってスッと帰っていったんですけど、いなくなった後に拓郎さんが“女って怖いね”って言ったって話があって(笑)。迫力としてはそれくらいですよ!
――大澤会長は日食さんの印象いかがですか?
大澤:日食さんは担当スタッフが一緒だったんで、わりと接点があって。ステージを観る機会も多くて。俺も“この人、肝座ってるなぁ!”っていうみなさんと同じ印象です。MCで喋った流れで瞬時に曲に入って、“わっ!”と思わせるあの感じは、刀でいうところの居合いですよ。あれをやられたらたまらない。
前川:ノーモーションのパンチが打てるんだよね。怖いんだよ!
日食:いや~、私、自分の知らないところで色んな必殺技を繰り出していたんですね(笑)。
大澤:日食さんは全部一人でやるって覚悟があるけど、俺たちは“困ったらメンバーに振れる”って甘えがあるんですよ(笑)。全部が自分の時間で、空気と時間を一人で支配してますから。ステージを観て、“心臓、強っ!”と思ってました。
日食:そこは一人でやるって決めた宿命だよなと思って、その瞬間だけノミの心臓を大きくしてるだけで。ステージを下りたら“はぁ……”ですよ(笑)。でも、みなさん武器があって、真悟さんだと“真悟さんの喋りって太陽だな!”と私は思っていて。どんなに仕事でしんどくても、真悟さんの言葉ひとつで太陽が出てきて、陰が消される印象があって。
前川 :本当ですか? メンバーにさえ日差しが届いてない気がするけどな(笑)。
日食:コザックさんはカルバリン砲って感じのデカイ武器でお客さんの陰を木っ端微塵にしてくれるし。大澤さんはどんな陰もひっくり返して笑いにして、“そんなの笑えばいい話だから!”って言ってくれている気がして。それぞれが武器を持っていて、そこがいいなと思って見ているし。私はどうしても真面目になっちゃうから、羨ましいなと思って見てます。
――大澤会長はかりゆし58の印象いかがですか?
大澤:ガガガSPは音楽的にも近いものがあったので、ツアーに呼んでもらったり、逆に出てもらったりという接点があったんですけど。かりゆし58とは直接的に対バンすることもあまりなくて。一番の接点というとフェスで、特に『男鹿ナマハゲロックフェスティバル』で毎年一緒になっていて。言っちゃなんですけど、『オガフェス』には日本でも最もカオスな打ち上げがあって、そこで早々に真悟さんの人となりを知ったというか。
前川:あの中にいたら、僕なんて常識人に見えますからね(笑)。
大澤:物凄い悪球が飛んでくるのを、スッといなしてるのを見て、“この会場の良心がここにいる!”と思いました(笑)。あと少し恥ずかしいんですけど、フェスの終盤に良い曲が来たりするとホロッとしながら見てますね。その数日後には事務所で“お疲れさまです!”とか言ってたりするんで、身内でそういうのって恥ずかしいんですけど。
前川:“身内で”って言われたのは嬉しいな。前田さんたちみたいにずっと一緒にいた期間があると、勝手な身内感もあるけど。“大澤会長、天才だよ!”って言葉もよく聞くし、なっちゃんの歌詞なんて本当に打ちのめされちゃうことがあったりして、二人は憧れの対象だから、身内とか言われるとキュンとしちゃうな(笑)。打首が所属した時、会長にウチらのライブを観てもらったことがあって。“後ろに段差があって、車椅子でも観れるようにしてあって、みんなが観れるようにしてあった。かりゆし、いい奴らじゃん”ってTwitterで書いてくれて、嬉しかったのを覚えてて。“みんなの退屈な時間を一瞬でも削いでいく”ってところが、打首の愛やサービスの形だったりするけど。ああいった緻密なものは、こういう視点から作り上げていくんだと思って。
前川真悟(かりゆし58)、コザック前田(ガガガSP)
――前田さんは打首の印象、いかがですか?
前田:お互いのツアーで対バンさせてもらうことがそこそこあって。大澤さんの普段の振る舞いから、素晴らしく人間のできた方だなっていうのがすごく思ったことで。自分はバイオリズムの周期があって、20代後半から35歳くらいまで、ステージにいる自分とプライベートの自分の境目が分からなくなった時期があったんです。そこで大澤さんなんてステージですごいエンターテイメントされてるのに、普段は大人しい方じゃないですか? 自分が普段こうしておられるのは、真悟もそうですけど、そういった切り替えや振る舞いを見せてもらったのが大きいと思うんです。20代のままの勢いで行きたかったのか? 調子に乗ってた部分があるのか? それは自分でも不確かなんですけど、何かを作り上げていく人って、どこかでインドアで。それをアウトドアに持っていこうとすると作れなくなってしまうところがあるんですけど。大澤さんはインドアな部分も徹底されてるし、人と話す時やお客さんに対してすごく丁寧で。このかゆいところに手が届く丁寧さって、落ち着きがないとできないと思うんですよ。実は大澤さんって、僕と同い年なんですけど。こんな大人の方がステージではあんなに叫んでて(笑)。最近は特に羨望の目で見ています。
大澤:僕はなんていうか、客観的に物ごとを見るみたいなところを重視するタイプなのかも知れないですね。例えばステージにいる者として、“客席から見たらどうだろう?”みたいなことを考えるじゃないですか? そこで目からウロコだったのが、“でも私は見えないから”っていう女の子の意見で。どういうことだろう? と思ったら、単純に背が低かったんです。俺は175cmあるので、150cmの女の子の気持ちが欠片もわからなくて。ライブハウスで膝を曲げて見た時に、やっと“なるほど!”と思って、そういう想像をだんだんするようになっていったんです。だから、そんな経験が反映されて、MCで“今日はこういうイベントだから、こういう人にこう気を使わなきゃいけないよ”みたいなことを暗に匂わせたり、そういう気の使い方をしちゃうんです(笑)。『LD&K NIGHT』の話だと、コロナ渦中で良かったと思うんです。例えば、日食さんとウチって、普段なら絶対に対バンできなくて。日食なつこを見に来た人が最前列に詰めて、ウチのお客さんがモッシュやダイブをしたら間違いなく危険だけど、コロナ禍だと成り立っちゃうんですよね。
日食:なるほど、確かに! そこまで考えが至ってなかったです。
大澤:そういうことを考えちゃうから、曲のアレンジにまでその考えが出て来たことがあって。コール&レスポンスの1番がこうなのに、2番を変えると、フェイントかけられたと思うかな? とか、考えちゃって。単純にしてしまうことは音楽的にいいのか? それとも捻った方が音楽的には面白いのか? って、葛藤が生まれたりしたんです。
前川:なるほど。コロナが示した思考だと、Twitterの動画の上限が2分20秒で。Twitter上でそのまま見る人が多いだろうから、みんなの胃袋が2分20秒に合わせにいってるんじゃないか? と思って。かりゆし58はポピュラリティのある音楽をやってると思ってるから、2番があって大サビがあってとか、シングルライクな曲を作るのがセオリーだったんだけど。“果たしていま、サビを何度も聴く体力がみんなにあるだろうか?”と思って作ったのが、コロナの中でできた作品だったりして。自分がどうしても書き残しておきたいものなら、サイズにとらわれなくていいんだろうけど。もっともらしくするためにサビを付けるなら、音符も聴いてる人も可愛そうだと思ったのが、俺の最近の思考だったかな。
日食:音楽性を取るか、エンタメとしての楽しさを取るか? ですよね。難しいな。
前川:一生かけても聴ききれない量の音楽の中で選んでもらったと思うと、フルボリュームで整えるのも誠意だし、削ぎ落とすのも誠意だなと思ったりしますね。
■中和と真逆の方に気持ちが動いてる
――『LD&K NIGHT 2021 憂晴福反応』についてもお聞きしたいのですが。
前川:新しい価値観に出会うチャンスが、いま世界的に来てると思うから。打首を見に来た人が、なっちゃんを見て食らってるところとか見てみたい!
大澤:意外と好きなんですよ、こういう異種格闘技的なイベントって。
日食:私も好きです。日食のお客さんはライブハウスを全く知らない人が多いんですけど、バンドさんに対バンで呼んでいただいた時に見ていると、知らないだけで嫌いじゃない人が多いことがよく分かって。普段、座って静かに見ているお客さんも、ホスト側のバンドが踊らせる、唸らせるみたいなタイプだと、目をギラギラさせて見ていたりして(笑)。ビックリはすると思うんですけど、不快な気持ちになる人はいないと思うんです。
――では、各日の見どころやご自分が楽しみにしているところについて聞いていきます。まず初日、11月5日(金)Zepp Nagoyaの出演は、かりゆし58、日食なつこ、プッシュプルポルト。代表して、日食さんお願いします。
日食:どのアーティストのファンの方も、入ったことのない料理屋に入る感覚に近いと思うんで。入るんだったら、とことん冒険して欲しいと思います。中華料理屋さんに行って、“なんて書いてあるか全然読めないけど、凄い冒険したいからこれ下さい!”みたいな感じで(笑)。行ったこと無い道、行ったこと無い道をとことん歩いてみて欲しいです。
――11月12日(金)Zepp Fukuokaは打首獄門同好会、四星球、ヤングオオハラ。代表して、大澤会長お願いします。
大澤:我らが沖縄の新兵器、ヤングオオハラが出演ということで。フェスで観たりしているんですけど、対バンは初めてなのですごく楽しみです。四星球は絡みも多いし、聞くところによるとヤングオオハラが大好きらしいので。これはイジってくるぞ! っていう楽しみもあったり。ウチと四星球が馴染みが深すぎて、ヤングオオハラがアウェイという洗礼を受けると思うので、それも含めて楽しみです(笑)。
――11月19日(金)Zepp Osaka BaysideはガガガSP、セックスマシーン!!、and more。前田さん、お願いします。
前田:セックスマシーン!!というバンドがどういうバンドか、僕もあまり分かってないんですけど(笑)。もうand moreもメガマサヒデにして、盛大なる身内ノリを見せたいと思います。この間なんて、待ち合わせもしてないのに駅前で3人ばったり会いましたからね! 板宿でできるようなライブを、Zeppでやってやろうと思ってます。(※座談会後にメガマサヒデの出演が決定)
大澤:その3組こそある意味、『LD&K NIGHT』ですよね。
前川:“LD&Kクラッシック”ですよ!(笑)
――11月22日(月)Zepp Sapporoは打首獄門同好会、FINLANDS、湯木慧。代表して、大澤会長お願いします。
大澤:この日が一番、異種格闘技ですよね。これまた若手のエース、湯木さんですね。
日食:私は個人的に断トツ、嫉妬の対象です(笑)。慧ちゃんの楽曲は素晴らしくて、私が23~24歳くらいで作ってたような曲をすでに10代で作ってますから。完成が早すぎた少女って印象です。FINLANDSさんも女性アーティストってところで交流があって、打首さんも女性が多くて。私の出演はないですけど、個人的に気になっている公演です。
大澤:そうか。これは男の僕が個人的にアウェイになる可能性が大きいわけですね(笑)。日食さん、覚えてます? 会社の忘年会(2016年)があって、湯木さんが歌ってたらマイクが下がってきて。弾き語りで直せないから、俺が直しに出て行ったこと。それ以来、接点がないので“マイクを直しに来たおじさん”って認識の可能性があるんです(笑)。FINLANDSも、あんなに北海道が似合うアーティストはいないと思うし。この日はすごく美しい時間が流れる中、ひとつだけおかしいのが投下されるという感じなので。ウチはあえて逆方向に行って、どれだけ乱暴な音を出してやろうか? と考えてます(笑)。ツアーいちの爆音を鳴らしてやろうと思ってるので、来る人は楽しみにしていて下さい。
――最終日の11月29日(月)Zepp Hanedaがかりゆし58、打首獄門同好会、ドラマチックアラスカ。代表して、前川さんお願いします。
前川:ひと言で言うと“楽しみ”って言葉に落ち着くんですが。今日もコロナ禍でどんなことを思ったとか、自分の音楽の精神の根本にどんなことがあるかって話を聞かせてもらって。これって、ボクシングの試合前の会見みたいなことだったと思うんです。煽り合いこそないけど、ツアーが始まってみたら“あんな話、してたのに!?”みたいなこともあると思うし、だからバンドってバンドだと思うし。今日の話から中和が生まれることは絶対無いし、この座談会のおかげで中和とは真逆の方に気持ちが動いてると思うし。俺の中にも一ヶ月かけて磨かなきゃいけないものがあるので。そんなこんなが全て起爆剤になって、身内にナメられないプライドや、LD&Kブランドのプライドを良い方に活かせるツアーになればいいなと思います。
大澤:あと最後になって、“あ、ガガガSPや日食なつことはやらないんだ!”と気付いたので、始まる前からおかわりが欲しくなっていて。見てくれた人もきっとおかわりが欲しくなるツアーになると思うので、楽しみにしていて下さい。ただ、これが上手く行き過ぎると大谷さんが“じゃあ、フェスやろうか?”って言い出すと思うんで、その時は“一回考えましょうか?”と止めることにします(笑)。
取材・文=フジジュン 撮影=森好弘