福田廉之介
若くして渡欧し、現在スイスを拠点とするヴァイオリニスト、福田廉之介(ふくだ・れんのすけ)が日本コロムビアの『7STAR』シリーズに登場する。
福田は、2014年メニューイン国際コンクール(ジュニア部門)優勝を皮切りに、ハイフェッツ国際(2017)、ハノーファー国際コンクール(2018)等で入賞を重ね、欧州を中心に活動してきた。2020年には、Opus OneレーベルよりCDデビュー。自身がプロデュースする室内楽「THE MOST」の公演を国内各地で企画するなど、日本での活動を本格始動させている。
2021年12月17日(金)王子ホールにて開催されるリサイタルは、CDデビュー後初の東京ソロ・リサイタル。プーランク、ラヴェル、ストラヴィンスキーという同じ時代を生きた作曲家の作品によるプログラムに挑む。
――プログラムのコンセプトを教えてください。フランスの香りの漂うプログラムですね。
僕はいま、スイスのフランス語圏に住んでいて、最近、フランスの作曲家による作品を演奏することが多くなりました。昔は、どちらかというとフランスの作品は嫌いでした。でも、演奏する機会が増えるにつれてどんどん好きなっています。
いろんな意味でやっと心に落ちるものがあり、弾いていてとても楽しくなりました。フランスのふわっとしているところ、けれども、和声などがしっかりと組み込まれていたりと、その融合が素晴らしいと思っています。
ラヴェルの「ヴァイオリン・ソナタ」は、今回初挑戦です。前から弾きたい気持ちは強くありました。ストラヴィンスキーの「ディヴェルティメント」には、スイスのダンスなどが取り入れられている曲もあります。
今回は、僕のさまざまなところを見ていただけるプログラムだと思います。
――ラヴェルの「ヴァイオリン・ソナタ」の魅力を教えてください。
この作品は、僕ではないと思うのです(笑)。普段の僕は、とても陽気で、天真爛漫なイメージを持たれていると思います。一方で、ラヴェルの音楽は、ふわっとしているように見えるのですが、実は繊細で、そのなかにはさまざまな要素が組み込まれています。だから、普段の僕ではないと(笑)。だからこそ、そういう音楽のなかで自分を表現していくと、どういうふうになるのか。ラヴェルのこの作品と僕とが組み合わさった時の魅力を、自分自身も楽しみにしています。
福田廉之介
――プーランクの「ヴァイオリン・ソナタ」も演奏されますね。
プーランクとストラヴィンスキーの音楽は、僕に近いところがたくさんあると思います。
プーランクのこの曲は、冒頭からとても迫力のある音楽じゃないですか。訴えたくて訴えたくて仕方がない、そんな叫びを感じますが、かと思えば、それをそのまま、音でぶゎーっと表現するわけではない。もちろんフォルテ記号などもたくさん書かれているのですが、自分の気持ちを伝えたいけれど言葉では伝えられない時、それを心のなかで叫びまくるようなイメージがあります。逆にストラヴィンスキーは、完全に行動として起こしているところもあって、わかりやすい音楽です。
僕自身が、二重、三重の人格を持っているのではないかと思っているんです。今はこういう姿ですが、子どもになるときは子どもになり、甘えたい時には甘えたい……そういういろんな側面、音楽がプーランクにもストラヴィンスキーにも組み込まれています。僕にとって、この2曲は自分を表現できる場でもあるので、ラヴェルと比べるとだいぶ楽に表現できると思います。
――プーランクの音楽は、次々と表情が変わりますよね。
まさしく僕です……でも、そんな性格は変わりませんよ(笑)。普段、演奏していても、プーランクってやりたいことが明確に見えます。それを僕がどう解釈するか。プーランクを何度か演奏していますが、いつも捉え方が少しずつ変わっています。最初はとにかく弾き切る……体力との勝負でした。テクニックも難しいですから。でも今は、自由に表現でき始めたかなと思っています。
――ストラヴィンスキーの「ディヴェルティメント」を選ばれた理由は?
スイスに関連しているところです。例えば、第2楽章はスイスのダンスです。
ストラヴィンスキーのこの作品は、スイスで作曲されています。住んでいると、その雰囲気もわかってきました。スイスの自由さとともに、高貴的なところがありながらもちょっと雑な部分もあるような……。スイス人と日本人はとてもよく似ていますね。清潔さもそうですが、時間に正確です。どちらかというと、僕とは違いますが(笑)。
この曲は、例えば、とてもきれいだなと思っていると、その後に短調に変わったりします。ふつうに過ごしているところに、突然ふわっと風が吹いてくる……スイスの自然の情景が目の前に浮かんでくるかのようです。ヨーロッパでは、雨が降る前にふわっと風が吹き始めます。アルプスの世界の、嵐の前の情景を最初から感じられます。
福田廉之介
――共演するピアニストの松本さんも、福田さんと同じく岡山ご出身ですね。
そうなのです。小さな頃から松本さんの演奏会へ行っていました。当時からとても素晴らしかったです! 最近、共演する機会が急に増えています。彼とのアンサンブルは、とても好きですね。
――松本さんの演奏の魅力を教えてください。
自由ですよね。お互いにやりたいことが合うのです。もちろん合わないところもありますが、そういう時には話し合います。僕は、彼ほどアンサンブルがしっくりくる日本人アーティストには、会ったことがありません。
松本さんは、音楽の本質をすべて持っているピアニストです。音楽はその場で作られ、その時にしか味わえない一瞬の芸術です。まさしくそれを表現されていますし、さまざまな演奏会で同じ曲を弾いても、それぞれ違います。僕も変えるから彼も変える……最終的には化学反応が起きます。
――コンサートにかける意気込みを。
東京で本格的なリサイタルに挑むのは2回目ですが、新たにラヴェルにもチャレンジするなど、自分のいろんなものを引き出してくれるプログラムです。僕は、人と同じようには弾きたくない。その作品を自分自身の音楽にしたいのです。それらをすべて発揮できればと思います。このプログラムを通して、東京のみなさまに僕はこんな変人なんだということを見せつけられるように、頑張っていきたいです。
取材・文=道下京子