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SUPER BEAVERが語る2020年の歩みーー4本のライブ映像作品集から紐解くバンドの結束力

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SUPER BEAVER 撮影=森好弘

SUPER BEAVER 撮影=森好弘

一つひとつの出来事に納得しないと前に進むことができない。SUPER BEAVERは、どこまでも筋を通すバンドだ。10月27日(水)にリリースされる映像作品『LIVE VIDEO 4.5 Tokai No Rakuda Special in “2020”』は、そんなSUPER BEAVERの不器用で真っすぐなバンドの生き様をくっきりと浮き彫りにするライブ映像作品集になった。新型コロナウィルスの感染拡大により、新しいライブの在り方を模索し続けた2020年。そのなかで開催された新木場STUDIO COAST、スタジオアコースティックライブ、日比谷野外大音楽堂、横浜アリーナと言う4本の配信ライブをまとめた今作には、当時メンバーが抱いていた様々な感情が克明に刻まれている。以下のインタビューでは、そんな4本のライブを軸に、改めて四人にとっての2020年を振り返ってもらった。その言葉からは、16年間にわたり、ひとつの「意思」として歩み続けてきたバンドの結束力の秘密がわかるのではないだろうか。

SUPER BEAVER

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ずっと「人」を思っていたからこそ、悩んだし、葛藤したし、時間をかけて話し合えた。(藤原)

――「4本のライブを見る」と言うつもりで観ると、ちょっと驚かされる内容だなと思いました。ドキュメンタリーのような作品でした。

柳沢亮太(Gt):そうやって受け取ってもらえると嬉しいです。

――すでにバンドとしては、2021年にリリースもツアーも精力的におこなってきましたけど、このタイミングで、ある種、振り返りになる作品を出そうと思ったのは、どういう意図があるんですか?

渋谷龍太(Vo):2021年の我々SUPER BEAVERを語るにあたって、2020年が大事だったなと思うんですよね。いろいろなことを再認識できた年だったので。もともとライブを年間100本やってきた自分たちが、2020年に人前でライブをやったのは10本だけで。しかも、1月から2月までに5本を終えていて、こういう状況になってからは5本しかできなかったんです。ずっと自分たちがやってきたことが欠落してしまったと言うか。決して楽しい年ではなかったですけど、そのなかで前を向けたキッカケが、この映像作品には入ってるんです。

――自分たちで改めてライブを見返したときに思うことはありましたか?

藤原”33才”広明(Dr):いま2021年になって、ライブとかツアーをやれるまでには、一つひとつ順序立てて考えていかなきゃいけないことがあったんですよね。それこそ先が見えなくて話が進まないときもあったけど。そういうのも含めて全部そのままパッケージしたものになったと思います。

――裏側までも全部見せてしまうことに抵抗はなかったですか?

藤原:たしかに葛藤していたときを見せなくていいと言う考え方もあるとは思うんです。でも、いまは見せてもいいと思えたんですよ。ずっとライブを楽しみにしてくれてる人を思っていたからこそ、悩んだし、葛藤したし、時間をかけて話し合えたので。

上杉研太(Ba):その影響は、2021年になって露骨にバンドに表れてるんです。いま圧倒的にライブがいいんですよ。そこに2020年の1個1個の考え方がすごく出てる。わかりやすく言うと、2019年までのSUPER BEAVERを見てる人が、2021年のいまを見たら、紐づかないと思うんですよね。

――わかります。それぐらい急激にライブがよくなっているから。

上杉:そう。だから、2020年と言うものを1個かたちにしておく意味は、たぶんバンドとしてもあるような気がするんですよね。

――だから全部がつながってますよね。バンドとして美しい歩みだなと思いました。

渋谷:本当ですか!? けっこうジタバタしてましたけどね。足掻いてたし、もがいてたから。そうやって言っていただけるとは思ってなかった。

――たしかに1本1本のライブには戸惑いとか試行錯誤が見えるけど、軸はブレてないじゃないですか。そういうのが最後の横浜アリーナに全部つながってる。だから美しいんです。

渋谷:あー、なるほど。たぶんメンバー同士の気持ちの交換をわりと短いスパンでやれたのが、ブレの少なさにつながったのかなとは思ってます。

柳沢:ライブ映像を見ると、当時Zoom越しにしてた会話を思い出すんですよ。何を大事にしたくて、何をやりたくないとか。そんなことにこだわってるのはこっちだけじゃないの? と言うくらい細かい気持ちの機微みたいなのを繰り返し会話してて。

――映像のなかでは、藤原くんが「LINEを何百通もやりとりした」と言ってました。

柳沢:めちゃくちゃしたよね。LINEもZoomも。

渋谷:うん。でもあれ、やってよかったと思うんですよね。何かに対するメンバー一人ひとりの距離のとり方の違いがバンドのブレに直結すると思ってたので。

柳沢:(コロナで)環境が変わってしまって、最初は頭から「仕方ない」と受け入れられなかったんです。でも、受け入れざるを得ないことがたくさんあった。それを踏まえて、どこまでを許容するかと言う覚悟の変化が、1本1本のライブ映像で見えてくると思うんです。時系列が進んでいくごとに、柔和になるところは柔和になり、研ぎ澄まされてるところは研ぎ澄まされて。ちぐはぐだった気持ちがどんどんひとつになっていって、横浜アリーナまでいく。最初、これを作り始めたときに「ドキュメンタリーになる」と言う感覚はなかったんですけど。全部をくっつけて考えてみたときに、非常にドキュメンタリーになったなとは、僕も思いますね。

こういうことをしなきゃ音楽できないんじゃ、バンドをやる意味はないとすら思った。(渋谷)

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――柳沢くんが言ってくれた「どこまで許容するのか」と言う話のいちばん最初の難題だったのが、2020年7月11日(土)の新木場コーストでの無観客配信ライブ『SUPER BEAVER 15th Anniversary 都会のラクダSP ~LIVE document~』です。

渋谷:あれはめちゃくちゃ悩みましたね。

――本来、目の前に「あなた」がいなければいけなかったはずのバンドが、目の前に「あなた」がいない場所でライブをやることに踏み切ったと言う許容ですよね。

渋谷:うん。やるのがいいのか、やらないのがいいのか。マジでわからなかった。僕はどっちかと言ったら、最初のタイミングでは後ろ向きだったと思います。いちばん抵抗があった。こういうことをしなきゃ音楽できないんじゃ、バンドをやる意味はないとすら思ってたし。ライブと距離を置くと、ライブをできないことに対するストレスがものすごい反面、安心感があるんですよ。

――ライブがない生活に慣れてきちゃうと言う感じ?

渋谷:いや、やっぱりあの1本1本はすさまじい緊張感と集中力なんです、毎回。それがなくなったことに心が安堵しちゃったことに対するストレスと言うか。もう1回ライブをやりまくる日々に戻るのが怖くて仕方なくなる時期もあったんです。そう思っちゃってることに対するストレスも強くて。全部が悪循環。でも、どうにかして音楽を鳴らさなきゃいけない。俺たちがいまできることは何だろう? と思ったときに、「これしかないのか」というところが新木場だったんです。

――積極的に「やろう」と言うことじゃなくて、「これしか選べない」と言う打開策だったと。そのなかで、無観客配信に踏み切れたポイントは何だったんですか?

上杉:腑に落ちるやり方を見つけたのは大きかったですよね。ステージから誰もいないところに投げかけるんじゃなくて、スタジオでセッションするようなかたちにしてみようとか。

――フロアで四人が向き合って演奏していましたね。

柳沢:あれはリーダーが言い出したんだよね。

上杉:うん。映像じゃないとできないことをやろうと。要はこれを積極的にいっぱいやって、自分たちのなかで腑に落ちるところを見つけられたらいいんじゃないかなと思ってましたね。

――意外だったのは、新木場はいわゆるライブっぽさと映像作品の中間を目指してたという話でした。私の感覚としては、あれは完全にライブだったから。

渋谷:あのときに思ってたのは、これがどれだけ長く続くのかわからないと言うことだったんですよ。おそらく(配信が)1回きりで済むことはないだろうとは思ってたんですよね。僕、当時30本ぐらい配信ライブを観たんです。そうなったときに、今後どんどん配信映像は似てくるなと思いました。だったら僕らが「生配信」でライブを観せるのは、次の段階なんじゃないかなと。まずはライブの生配信よりも、収録のライブ&ドキュメンタリー映像作品と言う手法から始めて、どんどん変えていかないと、と思ってたんです。

――今後を見据えての1本目だったと。

渋谷:そう。それが結果的にライブになっちゃったというのはありますけどね。

――ライブの内容に関して、正直に言うと、あのビーバーが15年目にして、こんなに戸惑いながらライブをやる日がくるとはと思いました。どうしたらいいのかわからないと言うか……。

渋谷:ほんと、どうしたらいいかわからなかったですから(笑)。自分たちでも明確な答えを見つけられてないし、暗中模索、手探り状態だった。これを踏まえて最後の横浜アリーナでした。

――同じ無観客ライブだけど、横アリとは全然違いますもんね。

渋谷:全然違う。新木場はめっちゃ迷ってた。俺、このとき、画面の向こうから何かを聴こうとしたんですよ。なんとか聴こえるようにしようと思ったんですけど、最後、完全にあきらめてるんです。「聴こえない」と。これが配信のリアルなんだろうなと思いました。そこらへんの紆余曲折と言うか、心情の変化も出てますよね。

藤原:迷いはずっとありましたからね。直前も、始まってからも。ちゃんと気持ちを電波にのせて画面の奥に届けられるかわからないなと思ってました。けど、終わってすぐ、思ってたよりも全然ライブだったなと思ったので。考え方を整理する必要はあるけど、もしかしたら、このかたちでもショーとして届けられる何かがあるんじゃないかと言う手応えを持って帰った日でした。

アコースティックでやったとしても、本質的なところは変わらない。(上杉)

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――9月6日(日)の『アコースティック配信ライブ』は、15周年ツアーの中止に伴って、チケットの払い戻しをしなかった人たち向けに配信したものですね。

渋谷:特別なものを見せたかったと言うのはありますね。2020年はなかなかチケットがとれないと言う声がたくさん聞こえてきたなかで、ようやくチケットをとれた人が楽しみにしてくれてた。その状況を僕らもわかってたから。お金を返して、「はい、残念だったね」で終わらせるより、そうやってドキドキワクワクしてきたスペシャルをどうにか守りたかったんです。それで、アコースティック音源をプレゼントして、その人たちにしか見られないライブをやったんです。

――2020年の夏から秋頃と言うと、新型コロナの第二波が直撃して、ビーバーだけじゃなく、たくさんのアーティストのチケットの払い戻しも多い時期だった記憶があります。

渋谷:もちろんお金を返すのは当たり前のことなんですよ。でも、なんとなくね、ちょっとだけ薄情な感じがしちゃったんですよね。だからと言って、俺らは毎回こういうことをやるのかと言ったら、そうじゃないんだけど。この先、払い戻ししかしない状況だって絶対にあると思うんです。でも、こういうことを常に思ってますよと言う姿勢だけは見せたかったんですよね。

――ビーバーがアコースティックライブをやるのは初めてですか?

柳沢:アコースティックだけで7曲もやるのは初めてだよね?

渋谷:そっか、やったことはないか。

藤原:ファンクラブでトーク&アコースティックライブみたいなことはやってますけど。

柳沢:あれはエレキも入れてたから。

上杉:アコースティックに特化したのは初めてですね。

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――時期的にアコースティック用のリアレンジをするためのスタジオには入れたんですか?

上杉:いや、全然入れなかったですね。

柳沢:基本的にデータのやりとりでした。「言えって」とか「赤を塗って」とかはアコースティックで触わったことがあったし、「ひとりで生きていたならば」はゆったりとした曲だったから、アコースティックでハマると言うのがあったんですけど。「正攻法」と「予感」は、リアレンジで変わるのが面白くなる曲にしようと言う理由で選んだので。遠隔でアレンジを作っていったんです。

――アコースティックライブでは、新木場と違って全員がカメラのほうを向いて演奏していますね。このあたりは、どんな意図があったんですか?

渋谷:明確に「この人たちに」と言うのはありましたね。

柳沢:この言い方がいいかわからないけど、ややビデオレターみたいな気持ちでした。贈り物を作ってるような感覚があったから。そういう意味で、あの形態が自然だったんですよね。

――すごく温かい空間になりましたよね。アコースティックのビーバーを、自分たちではどう捉えていますか?

渋谷:その歌が持ってる表情は変わってくるなと思いますね。意外な表情が見える。

上杉:僕らはアコースティックが合ってるなと思うんですよ。そもそもの作り方がメロディと歌詞をどうやって伝えるかというところからはじまっていて。あんまりバンド然としてないんです。メッセージに対して、音にしていくことのほうが圧倒的に多いバンドだから。そこが背骨としてある以上、アコースティックでやったって、本質的なところは変わらなくて。どういうところが旨味として出てくるか。たとえば、BPMが下がったぶん、ここの歌詞が入ってくるようになりましたとか、ここの音像が気持ちいいよねとか。そこが変わるだけで、基本は何も変わってないのかなとは思いましたね。

まずは自分たちが冠を掲げてライブをやることに意味があった。(柳沢)

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――10月3日(土)の日比谷野音で開催した『SUPER BEAVER 15th Anniversary 都会のラクダSP~ラクダビルディング&ビルディング~』。これは1曲目の「ありがとう」でお客さんが泣いてるシーンでぐっときてしまいました。

渋谷:あれは破壊力がありますよね(笑)。

――ああいう編集の方向性はメンバーから伝えることもあるんですか?

渋谷:いや、ここをいっぱい抜いてくれとかはほとんどないです。監督や、カメラマンの方が感じたまんまのものがいいのかなと思ってるので。

――マスクをしてても、お客さんが泣いてたのは見えてましたか?

渋谷:なんとなくですね。このときはまだ不慣れなんですよ。まだお客さんの心情とかを察知するには、俺らの能力が足りてないんですけど。でも見えてました。

――ああいう光景を見たときは、どういう感情になるんですか?

渋谷:ある程度、気持ちを殺さないとヤバいですよね。

柳沢:ハハハ、そうだね(笑)。

渋谷:本当にそのマインドでいったら、僕も同じように泣いちゃうから。そこはちょっと感情を殺しています。「自分はステージに立つ側だから」と言い聞かせないと無理ですよね。

――この日は、メンバーの気持ちとして「生配信をお客さんに観てもらう」ことにこだわっていたそうですね。要するに、お客さんが入ったライブを生配信するのとは意味が違ったと。

渋谷:そうです。最初はお客さんを入れられないと思ってたから、まず日比谷の野音で無観客で生配信ライブをすると言う心構えでいたんです。あとになって、お客さんを入れられるとなったから、順序的には、画面の向こうに届けることを考えながらやってた。どっちが先だったかと言うだけの話なんですけど。カメラの向こうに届ける熱量を高くしたかったんです。

――そもそも目の前にお客さんがいるのに、カメラの向こう側に届けるなんて、7月の配信ライブの前だったら考えられないですよね。カメラを覗き込んでMCをしたり、演奏をしたり。

渋谷:いままでカメラのことを意識しながらやったことがなかったですからね。でも野音ではバリバリ意識してました。観にきていただける人数が制限されてたし、カメラの向こうにたくさんの方が待っててくれてるのもわかってたので。

SUPER BEAVER

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――ここで話したいのは、コール&レスポンスの曲です。「秘密」と「東京流星群」。

渋谷:特に「秘密」ですよね。

――ええ、「秘密」では、お客さんのレスポンの部分であえてメンバーも歌わず、シーンとなる空白を作った。そこですごく現実を突きつけられるんですよ。

渋谷:あれは、そうなるだろうなとわかってたんですよ。

上杉:わかったうえであえてやりたかった。

――それをやることで何を伝えたかったんですか?

上杉:やってる側も、観てる側も、これがいまの現実だよねと言うことですかね。

渋谷:いままでのライブではあそこで声がしてたけど、そこがなくなることで、俺たちにとって、観にきてくださってる人の存在がどれだけ大事だったのかをわかってほしかったんです。あなたの声がないと成り立たなくなるんだよと言うのを体験してほしかった。

――あそこは野音の肝だったと思います。

渋谷:うん、肝です。なんかね、生々しいものを見せたかったと言うよりも、あなたの存在意義と言うか、いてくれることがどれだけ尊いことなのかを伝えたかったんです。

――MCでは、渋谷くんが「最高だなと思ったり、寂しいなと思ったり、すごく素敵な時間でした」と言ったじゃないですか。あの「寂しいな」と言う表現もすごく印象的で。やっぱりこのライブは100%じゃないよね、欠けてるよねとちゃんと言ってくれたのもうれしかった。

渋谷:取り繕うことはできるんですよ、いくらでも。ただ、やっぱりそうじゃないことを俺たちは言ったほうがいいバンドだと思うんですよね。完全にショーにしちゃわないほうがいいんです。足りないなとか寂しいなと思う感情も全部表に出すべきだと言うのを意識したのは覚えてますね。

――あれは意識して言ってたんですね。

渋谷:うん。迷ってました。言うべきか、言わないべきか。

上杉:きれいなところばっかり見せたって意味がないと思うんです。汚いものを見せたくてやってるわけじゃないけど(笑)。そこはフラットでいたいんじゃないですかね。フラットな気持ちで、その時々の状況における感情をああだこうだしたいですよね。

――ああだこうだ(笑)。まだ迷いはありつつ、ようやく目の前にお客さんがいるライブを8ヵ月ぶりにやれた意味は大きかったのかなと思います。

柳沢:日比谷はやっぱり、俺らのなかではデカい起点になってると思います。それまで僕たちはお誘いいただいた配信のイベントとかライブを遠慮させてもらってたんです。その理由も細かく説明して理解してもらって。まず自分たちのライブを先にやるというのを、わざわざ認識することが大事だった。僕ら、自分らのツアーを飛ばしてますからね。ただでさえライブができない最中に、ステージに立てる場所を用意してくださった人たちにはありがたい気持ちがめちゃくちゃあるんですけど。まずは自分たちが冠を掲げてライブをやることに意味があると僕は思ってて。

――ええ。

柳沢:ぶーやん(渋谷)が言ったとおり、「生配信にお客さんを呼んでいる」と言う意味に頑なにこだわたってたのも、それが東京でしかできなかったからなんですね。各地で待ってくれてる人がいるのに。そこの感覚は半ば意地になって守り続けなきゃいけないと思ってました。自主公演で人を呼ばせてもらうことで、ようやくいろいろなところに足を運べる。お待たせして申し訳なかったんですけど、自分たちなりに筋を通したんで、今度こそ「やらせてください」と言うためには、絶対に必要なことだったから。ここで狼煙をあげられたたので、重要な一歩でしたね。

――もちろん、それぞれバンドによって自分たちのツアーが中止になったうえでフェスに出る選択をした人たちもいて。それぞれに筋の通し方があったとは思うけど。まずは自分たちのお客さんを最優先に考えたところがSUPER BEAVERらしいなと思います。

渋谷:うん、それを最初に思えるか思えないかで1本1本のライブに対する責任感は全然違うと思うんですよ。こういうやり方を選んだのも、いまこのタイミングで奇を衒ってやり始めたことじゃないし、僕らはこのスタンスでずっとやってきたと言うことですよね。

こんなタイミングで横浜アリーナを押さえられてる時点でラッキーでしかないから。(藤原)

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――最後が12月9日(水)の横浜アリーナでの『SUPER BEAVER 15th Anniversary 都会のラクダSP~ 全席空席、生配信渾身~』です。ここにきてようやく、「やりたいからやっちゃう」と言うシンプルな動機を言い切るようになりますね。

渋谷:そうですね(笑)。ここも最初は俺、けっこう渋ったんですよ。いつも俺が渋ると言う。

藤原:みんなで話し合ってるときにね。

渋谷:「嫌だ!」みたいな(笑)。

藤原:いや、待て待て、と(笑)。

渋谷:慎重なんです、臆病なんですよ。

――フロントマンだから、納得しないとお客さんの前で喋れないでしょうし。

渋谷:そう。

上杉:対象にいちばん向き合ってますからね。そこの感覚の違いだなと俺は思ってた。

渋谷:これに関しては三人の強い気持ちに背中を押された気がします。ここで腹を括んないとなと。いまもやってよかったと思ってるけど、当時やるべきなのか、やらないべきなのかと言うのをちゃんと話し合えたのは意味があったと思うんです。すぐに頷けなかったことにも理由があったし、頷いたのにも理由があるし。

――そのあたりを詳しく話せますか?

渋谷:もう配信ライブをめっちゃやってるしと思ったんです。僕らはライブ1本1本にプライドを持ってるし、あんまりボンボン見せたくないと言うのが正直あって。年間100本まわってても、実際にひとりのお客さんが観にきてくださるのは、年間1回とか2回とかじゃないですか。こんなに短いスパンで俺らのライブを見せまくるっていかがなもんだろう? と言うのは思ったんです。あとね、俺、この時期になると、配信ライブに飽きてたんですよ。全然観なくなっちゃって。こういうふうに消費されるのも嫌だなと思っちゃったんですよねと言う、いろいろな気持ちがあって。

藤原:ぶーやんがいちばんそこは考えてくれてたからね。

渋谷:それで、メンバーの気持ちを聞いたときに、やるのにも意味があるかもしれない、やると決めたからにはしっかり向き合おうと自分のマインドが変わっていきました。

――三人が横アリをやりたいと強く思ったのは、どうしてだったんですか?

藤原:新木場とアコースティック、野音を通じて、いま自分たちを求める人が絶対にいると言うことを感じたからですね。だから、やりたい。そういうバカな感情でいいなと。それをみんなで話すときに、「どうしてやったほうがいいと思うのか」とか、「なんでやりすぎだと思うのか」とか、「じゃあ、どういうかたちだったら届けてもいいのか」をすごくちゃんと話したんです。ぶーやんも言ってたけど、それを話したか話してないかでまったく意味が違いますよね。最初の入り口はみんなの意見が違ってもよくて、結果的に腑に落ちるかたちでやれることが大事なんですよ。

――2020年はずっとそれの繰り返しだったわけですよね。

藤原:そうです。その話し合いのなかで、よく話題に出てたのが、こんなタイミングで日比谷の野音と横浜アリーナを押さえられてる時点で、これはもうラッキーでしかないから。SUPER BEAVERを求めてる方に何かできるんだったら、やったほうがいいんじゃないかと思いました。

――最終的にシンプルな結論になっていったと。

柳沢:場所があるし。

渋谷:やろうと。

――横アリはダイナミックな空間を生かした演出も見どころですね。

柳沢:いろいろな経験が活きてますよね。リーダーが「また真ん中でやろうよ」と言って「それでいいと思う」となって。「俺たちがバンドだよねってなれる感覚ってよくない?」みたいな話もあったし。やってきた1個1個の集大成と言うか。横浜アリーナは最初の戸惑いとも違って、そこに感情をのっけられてるんです。それは自分らの慣れだけじゃなくて、各セクションがいろいろ会話をしながら、横アリに向かってきて。「さあ、いいものを届けよう」と言う気持ちが明確だった。ようやくシンプルなところに辿り着けたのはよかったですよね。

――4本通して見たときに、同じ曲が何回も入ってることも個人的にはいいなと思ってるんです。

柳沢:たしかに(笑)。

上杉:そういうバランスを考えてないんですよ。

藤原:最初はまとめる気がなかったから。

上杉:そういう欲のもとにやってたライブじゃないからね。

――全公演で歌ってるのは「ひとりで生きていたならば」と……。

渋谷:「予感」ですね。

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――この時期、セットリストを決めるうえで意識したことはあったんですか?

渋谷:特別話したっけ?

上杉:いつものライブを決めるような感覚で決めたんじゃないかな。

――じゃあ、「予感」が全公演に入ってるのも?

渋谷:たまたまです。

柳沢:「実はね」みたいなのはない(笑)。

渋谷:いつもどおり純粋に「これだ!」と言う曲を選んでますね。

上杉:あと、「ハイライト」とか「ひとりで生きていたならば」に関しては、2020年にメジャー再契約してリリースした新曲だったけど、全然人前で披露できてなかったんですよ。俺が横浜アリーナをやりたいと思ったのはそういうところもあったんです。2020年をアイドリングしたくなかった。2019年までに代々木(第一体育館)と神戸(ワールド記念ホール)2Daysまでやってきた歩みがあって、「これからだ」と思っていたところで、満を持して再契約をしてるわけで。こういう状況になったからと言って、「ちょっとお休み」となってしまいたくなかった。できる限りのことをやって、こんな状況だけど、さらに高みを目指してアピールし続けたい。ひとりでも多くの、まだSUPER BEAVERを知らない人に知ってもらえることまで考えて、2020年すら活動したいと言う気持ちはあったと思いますね。

――ちなみに、今回の映像作品の途中に挟まれているインタビューは、それぞれ個別で撮ってるんですか? みんな一緒にいたんですか?

柳沢:あれはバラで撮ってます。ただ、それぞれの言葉を聞いてると「だよね」と思う部分がすごくあるし、使ってる言葉自体は違ってても、似たようなことを言ってるんですよ。

――まさにそこが話したかったところで。ひとつのキーワードとして、渋谷くんと柳沢くんが「想像力」の話をしてるじゃないですか。見えない人の気持ちを考えることが大切だったって。

渋谷:なんとなく相手のリアクションを見ないで何かをやるのは薄情な気がしてたんですよね。だから、最初は画面の向こうの声とか気持ちが届いてるとか、聴こえてるというふうにしかったんです。でも、無理なものは無理だし。聴こえねえし、見えねえしと言う実際のところを正直に言った先で、相手がどんなことを思って聴いてくれてるのかな? ということが、俺らは人とのコミュニケーションのすべてだと思うんです。相手がどんなふうに気持ちを受け取ってくれるかまで、全部自分たちが考えながらやること。それがコミュニケーションとして、むしろ純粋だなと思えたので。この感覚を持てたと言うのはデカいかもしれないです。

――そう考えると、この作品は、想像力を働かせるコミュニケーションや、人と話し合いを重ねることの大切さを考えさせられる気がします。それがいまの社会に欠けているものだと思うし。

渋谷:うん。すぐに答えを見たがるんですよね。それはそんなに重要か? と思います。なんて言うんですかね。特に、情の部分。友情とか愛情とか、そういう部分はあくまで個人の感覚も強いですよね。それを忘れずに、ちゃんと言葉で伝え合うことが大事だなと思います。

取材・文=秦理絵 撮影=森好弘

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