日本の伝統芸能に旋風を巻き起こした津軽三味線奏者 吉田兄弟(吉田良一郎・吉田健一)。そして、「キャトルマンスタイル」で一世を風靡したピアノ連弾 レ・フレール(斎藤守也・斎藤圭土)。この人気の二組の兄弟によるコラボレーション・アルバム『吉田兄弟×Les Frères』が2021年9月にリリースされた。そして、12月23日(木)には久々の東京公演となる『スペシャルコラボコンサート』を東京国際フォーラムで開催する。
――出会いは2017年だそうですね。以来、競演ライヴもすでに15本以上されています。
守也:同じ兄弟同士で活動しているということで、共通の知り合いから(競演ライヴを)やってみないかとお話がありました。最初は、対バンのような形でそれぞれが演奏し、コラボレーションの曲はほんの数曲でしたが、がっつり4人でやる楽曲を徐々に増やしていきました。
健一:最初、レ・フレールの二人に「楽曲を送ってください」と伝えたところ、全部送ってきたので(笑)、それをすべて聴きました。
三味線はとても不器用な楽器なので、ピアノに合わせられるかどうか……彼らをどのように盛り立てられるかが課題でした。三味線は、明るい曲が苦手です。音階で言うと、マイナー的な楽曲が得意です。明るくなってしまうと三線のようになってしまいます。三味線の良さを出すために、彼らの楽曲のなかにどのように入っていけるかどうかを探すのが、最初の作業でした。
やってみてフィーリング的に合うかどうかもあります。そういう意味で、3年できていることは、ひとつの結果だと思っています。
圭土:お二人とやることによって、三味線の特徴やその魅力をたくさん知ることができました。ライヴを重ねていくなかで、「こういう曲、できるんじゃないかな」というイメージも沸いてきました。3年間、一緒にライヴをやってきたことはとても重要で、今回、そこからアルバムを作っていくことになったのは、とても自然な流れだと思います。
三味線とピアノのそれぞれの良さを残しつつ、ということが作曲していくなかでの課題でした。うまく融合できたと思っています。やりたい曲は、いまだに生まれてきます。
――ピアノと三味線で合わせるときの、楽しさと難しさを教えていただけますか?
健一:僕らは、これまでもピアノとのやり取りはたくさんありましたが、今回やってみて思ったのは、「個」が立っているので、個性をどう活かすかがとても重要だということです。特に、レ・フレールは連弾です。固定のお客さまもいらっしゃるなかで、「三味線とやってよかった」「吉田兄弟とやってよかったね」と言ってもらえるような見せ方。
やはり、CDや配信よりも、生で聴いてもらうのに適した組み合わせだと思うのです。お客さまと直接対話するなかで、良し悪しに関しては空気感で伝わってきますよね。そういった面がはっきり出るようなアルバムやコンサートにしていくのが、ひとつのテーマだと思っています。
とはいえ、4人しかいないので、マックスの音は決まっているわけです。だから、ステージでもアルバムでも、引き算することが必要だと思います。4人いるので、楽しくやることはいくらでもできます。そうではないところを作ることによって、どう流れを生み出していくのか……それを、今回のアルバムのなかでみなさまに提示できたと思います。
守也:楽器として確かに和と洋という違いはあると思います。でも、僕らとしては、いろいろなものを意識して取り入れ、それを連弾で表現しようとする機会は多いので、洋にこだわっている部分はそんなにないのです。
吉田兄弟の二人も、セッションでロックをとり入れたりスペインの楽曲をとり入れたりされているので、そういった意味では楽器については洋と和とはっきりと分かれています。でも、意識的なものは似ている部分や共通点はあるのではないかと思います。
それから、楽器は違いますが、兄弟で活動している者同士で、似ているところはあると感じています。
――12月のコンサートは、アルバムの曲も演奏されるそうですね。
健一:ライヴの楽曲を、より多くの人に聴いていただくことをベースにしています。アルバムにも入っているのですが、ライヴで圭土さんとやらせていただいた「シャクナンガンピ」が、三味線との相性がムチャクチャ良いように思っています。ライヴ中、「レコーディングしたいね、音を残したいね」とお客さまに公言し、そこからどんどんレコーディングへとつながっていきました。
それから、やるからには、新しいものを皆さまに聴いていただこうと、今年の6月から作曲を始めました。それぞれのフレーズを持ち寄ってテーブルの上に並べ、「どう組み合わせようか?」と。コロナ禍でしたけれど、換気などもうまくやりながら、相談を重ねました。やっぱり、リモートではないところから生まれるものって、すごく大きいです、雑談とか。演奏している時間半分……あれ? 喋っている時間の方が長いかな?
全員:(笑)
健一:でも、それが大事です。ライヴでしか互いに会話してこなかったところから、作曲へとさらに一歩踏み込んでいます。そこが、「共作」という僕らが今まで一番やりたかったことで、互いの曲に入り合うのではなく、4人でしかできないことをやろうという発想です。さらに、コロナが明けたら海外ツアーを見据えて作りたいね、というところは最初からあったと思います。
守也:吉田兄弟の二人も僕らもそうですけれど、いままで他ではやっていないことを、オリジナル楽曲のなかで表現しています。その二組がコラボレーションするとなると当然、唯一無二の演奏になるので、それを形に残せて良かったと思います。
圭土:兄弟なので、まったりした時間が自然にできたということはありますね、家のような(笑)。そういうなかで生まれてきた世界観と言いますか、音楽的な面では、伝統的なものと革新的なものとを吉田兄弟の二人はうまく押さえていて、僕らもテーマにしているところです。
――コンサートではトークも楽しみですね。
健一:そうですね。それから、この4人のなかで入れ替えもできます。一人ひとりの個性が強い分、入れ替えると全く違うものが生まれてくるのです。いまのコンサートでは、弟チームと兄チームに分かれて演奏したり、いろんな表現方法がありますね。
守也:兄弟シャッフルもやりました。
健一:そういうこともできるので、組む相手によってアウトプットされるものが違うのです。お客さまは、そういうところも楽しんでいらっしゃいます。
――素朴な疑問ですが、楽譜ってありますか?
守也:楽譜はないです。三味線って、もともとそんなに楽譜はない?
健一:そうですね。津軽三味線に関してはほぼアドリブなので、存在しません。今回のアルバムも音のみでやろうとしたので、何も残ってないです。
全員:(笑)
健一:一応エンジニアさんがわかるような、全体の尺がわかるようなものはあるのですが、事細かには書いていません。
――まさに一期一会ですね。
健一:それも、リピーターのお客さまが楽しむ一つの要素だと思います。「ここでどういう風に、誰がアプローチしてくるか」というようなことは、その日の思いつきでやっていますので、僕らもスタッフもハラハラ、ドキドキで……「今日は失敗したね」みたいな、そんなこともありつつ(笑)。
――ところで、プライヴェートでお会いすることはあるのですか?
守也:僕が、健一さんを遊園地に誘うとか!?(笑)
健一:兄弟間でもあまりないかも。ただ、アルバム作ることになった時は頻繁に会いました。なので、今年の夏の想い出は、ここしかないです(笑)。まさに、実家に帰っているような感じですよ。久々に会っても、久々に会った感じがしないのです。
――東京国際フォーラムでのコンサートは、レ・フレール×吉田兄弟としては久しぶりの東京公演となりますね。
健一:地方でのコンサートがかなり多かったのです。時間が空いてしまっているので、アルバムを引っ提げてのコンサートを、東京でやらせてもらえることをとてもありがたいと思います。
良一郎:今回、アルバムを一緒に作って、良い意味で密になり、音楽も重なってきているし、やればやるほどどんどん良くなっています。このタイミングで、東京でプレイできることを嬉しく思っています。
守也:本当に久しぶりです。レコーディングやこういった取材を重ねて、四人の一体感が強くなっていくのを感じます。この良い状態で、東京のお客さまに届けられるのではないかと思っています。
健一:アルバムも含めてですが。新たな日本の音と、その可能性を見ていただきたいです。レ・フレールの可能性も吉田兄弟の可能性も見せていけると思っています。
『吉田兄弟×Les Frères』ティザー映像/Yoshida Brothers×Les Frères Teaser(「BUSHIDO」Ver.)
取材・文=道下京子