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藤巻亮太「まほろば」携えたツアーが開幕 名曲の数々と穏やかな空気で包んだ初日を振り返る

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藤巻亮太 撮影=風間大洋

藤巻亮太 撮影=風間大洋

Acoustic Live Tour 2021「まほろば」   2021.10.28  行徳文化ホールI&I

藤巻亮太にとっておよそ2年ぶりとなるツアー『Acoustic Live Tour 2021「まほろば」』が、千葉・行徳文化ホールI&Iにて幕を開けた。

タイトル通り、アコースティック・アレンジでまわる今回のツアーは、この千葉公演を含む半数以上がジャズ・ピアニストの桑原あいとの2人編成。藤巻はアコギを演奏したり、曲によっては伴奏をピアノに委ねてハンドマイク1本で、その柔らかくも力強い歌声をじっくりと届けていった。微細な強弱やニュアンス、息遣いまでも感じ取れるのは音数の少ないアコースティックならではの醍醐味と言える。

ツアー初日ということで演奏曲や曲順の詳細は極力伏せるが、ツアータイトルとなっている「まほろば」をはじめソロとして発表した曲、レミオロメン時代の曲、さらにはカバー曲まで、時代もテイストも様々な楽曲を披露する構成に。たとえば「僕らの街」が中部横断自動車道の開通を受けて生まれたことなど、それぞれの曲の背景や思い入れなどを語るMCパートが多めだったのも、ホールでの着席スタイルで観るアコースティック・ライブとよく噛み合っていた。決して饒舌というキャラクターではない藤巻だが、むしろそういう人柄がにじむような柔和な語り口でじんわりと場の空気を作り上げ、時折笑いも誘いながら目の前の観客たちとのコミュニケーションを楽しむ様子が印象的だ。

観客たちもまた、発声こそできないものの生のライブを高い熱量で迎えていた。「南風」のようなビート感の前面に出た曲ではすかさずハンドクラップで演奏を後押し。ライブは演者と観客とのキャッチボールである、というようなことはよく言われるが、それが当たり前ではなくなった時期を経てのライブだけに、一曲ごとの演奏や歌へと注がれるリアクションの一つひとつが、この1本のライブをよりかけがえのない特別なものとしている。

特別感ということで言えば、桑原あいによるピアノのソロ演奏も素晴らしい。藤巻がその場で出すお題を受けてのインプロビゼーションのスタイルで、この日のキーワードは「はじまりの一歩」だった。期待や不安など複数の感情が織り混ざるテーマに対し、ドラマティックな抑揚と精緻な技巧で応えてみせた桑原。おそらく公演ごとに全く違った演奏となるであろうこのコーナーでは、普段のロックやポップスのライブではなかなか体験できない、息を呑むような数分間を味わえることだろう。

全9本からなる今ツアーは12月5日の長野・若里市民文化ホールまで続いていく。いずれもライブハウスではなくホールで、おまけに大都市圏からは少し外れたロケーションでの開催である。おそらく、藤巻の生み出す楽曲に通底する人や自然に対する愛や慈しみ、敬意といった要素を、いつも以上に肌で感じることができるツアー、ということにもなるだろう。幅広いファン、リスナーが藤巻の歌い鳴らす音と言葉に触れ、心を交わす機会となることを願う。

取材・文・撮影=風間大洋

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