HYDE、ハロウィンとオーケストラの極上のケミストリー「20th Orchestra Concert HYDE 黑ミサ 2021 Halloween」ライブレポート
10月30日・31日に千葉・幕張メッセ 国際展示場 9・10・11ホールで開催された20th Orchestra Concert HYDE 黑ミサ 2021 HalloweenのオフィシャルLIVE REPORTが到着した。(取材・文 本間夕子)
ハロウィンとオーケストラという一見、異質にも思える取り合わせから生まれた極上のケミストリー。豪華なゲスト陣も加わり会場一体となって作り上げる最高のエンターテインメント空間。HYDEのソロ活動20周年を祝したアニバーサリーコンサートの一環として10月30、31日の2日間に渡り、千葉県・幕張メッセ 国際展示場9・10・11ホールにて開催された“20th Orchestra Concert HYDE 黑ミサ 2021 Halloween”はコロナ禍にあってそう簡単にはいかなくなってしまった“人と人とが集い、繋がりあうこと”“歓喜を分かち合い、共に何かを生み出すこと”の尊さを改めて実感する場であり、こうした状況下であってもしっかりと策を講じ、一人ひとりが協力し合えれば、それは充分に実現可能であることを指し示すものとなっていたのではないだろうか。
ところでタイトルに冠されている“黑ミサ”とは本来、毎年富良野でごくひっそりと開かれるHYDEのファンクラブ限定ディナーショーに端を発するが、その特別編として2017年に“HYDE Christmas Concert 2017 -黑ミサ TOKYO-”と銘打って幕張にて初の大規模開催、その後、2018年には“HYDE ACOUSTIC CONCERT TOUR 2018 -黑ミサ ASIA-”としてアジアをツアーし、さらに2019年には“HYDE ACOUSTIC CONCERT 2019 黑ミサ BIRTHDAY”の名で幕張と彼の出身地である和歌山県で大々的に行われてきたコンサートのこと。ソロ活動20周年の節目となる今年は今回の幕張に加え、11月23、24日に地元・和歌山県での開催が予定されている。また、HYDEはハロウィンとの縁も深く、2005年に初のハロウィンイベントを開催して以来、2018年までの間に12回、“HALLOWEEN PARTY”などのハロウィンイベントを幕張メッセを中心として主宰してきた実績も持つ。今回、“黑ミサ”と“HALLOWEEN”がいわばコラボする形となったのは、たまたま会場をおさえることができたのがこの日程だったからというあまり趣のない理由からだが、HYDEにとってもHYDEファン、“ハロパ”ファンにとっても3年ぶりのハロウィンコンサート。“ハロパ”出演の皆勤賞を誇り、公私ともにHYDEと親交の深いDAIGOを筆頭に、手越祐也、ASH DA HERO、ペレ草田、ロザリーナ、分島花音という豪華ゲストの参加も事前に告知され、通常のステージとはまた一味も二味も異なるスペクタクルな2日間が展開された。
ペレ草田、ASH DA HEROによるオープニングアクトで開演前から熱気に包まれる場内。来場者には不織布マスクの着用を義務付け、さらに歓声や歌唱等の発声は禁止、会場の至るところにアルコール消毒剤を設置し、ソーシャルディスタンスを促すなど徹底した新型コロナウイルス感染予防対策が講じられているため、浮ついたムードはほぼ感じられないが、昂揚感は確実に満ちている。初日の前日はHYDEが仮装した「東京リベンジャーズ」のマイキーこと東京卍會総長・佐野万次郎が大きな話題を呼んだことで、ハロウィン当日である2日目、10月31日への期待もいっそう高まるばかり。暗転した場内に「Welcome to the 黑ミサ HALLOWEEN!」のアナウンスと雷鳴が響き渡るなか、最初に現れたのは馬車(を模したフロート)に乗った金髪ロングヘアの美少女、手越祐也だった。HYDEのハロウィンイベントのテーマソングと呼ぶべき「HALLOWEEN PARTY」の“サーカス Ver.”を可憐に歌いながら客席の間を廻り終えると、それまで閉ざされていたステージの幕がオープン、そこには中世ヨーロッパの宮中を思わせるセットを背にした見目麗しきHYDEの姿が。扮しているのは「黒執事」のシエル・ファントムハイヴならぬシエル・ファントム“ハイド”、彼がこれまでにしてきた仮装のなかでもトップクラスの人気を誇るキャラクターだ。物々しげな演説台に立ち、ガべルを振るっては安室奈美恵の「Hide & Seek」を“黑ミサ HALLOWEEN”アレンジで妖艶に熱唱、オーディエンスも歓声の代わりに持ち込みが許可された鳴り物を鳴らしてその登場を喜んだ。
「ようこそ、“黑ミサ Halloween”へ。みんな、とても美しくドレスアップされて素晴らしい眺めだ。コロナ禍で面倒な想いをして、ここまでよくぞたどり着いていただきました。ありがとう」
1曲を歌い終えたHYDEはそう観客をねぎらいつつ、「どうして僕が悪魔と契約したのかって? それは待ちに待ったこの夜に罪深いオマエたち全員、始末するためだ。全員死刑!」とハロウィンらしくアジテーション。ヘヴィかつアグレッシヴな「AFTER LIGHT」へとなだれ込んでゆく。どうやら“黑ミサ HALLOWEEN”2日目のトータルコンセプトが「黒執事」らしく、オーケストラのメンバーもそれぞれ執事やメイドの仮装で演奏。ともあれ、この“黑ミサ HALLOWEEN”の肝となるのはなんと言っても総勢22名のオーケストラによって奏でられるHYDEの名曲たちだろう。コロナ禍によって音楽業界も多大なる打撃を受けるなか、HYDEは諦めることなく表現のあり方を模索し、ソロ活動20周年に自身の音楽をオーディエンスに届ける最適な手段としてオーケストラを選んだ。これまでほとんどステージで再現されることのなかった1stソロアルバム「ROENTGEN」を携えたツアー“20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021”で全国を廻り、京都・平安神宮にて開催した“20th Orchestra Concert 2021 HYDE HEIANJINGU”ではオーケストラと雅楽の共演を成し遂げるなど、その試みは驚きと感動に溢れており、そのたびに新しい可能性の扉を開いてきたHYDE。“黑ミサ Halloween”では前述のコンサートにはラインナップされなかった楽曲も満載で、例えばジャジーなアレンジで原曲を大胆に変身させた「DEFEAT」や、より荘重さを増してのっぴきならない印象を残す「WHO’S GONNA SAVE US」、ボサノヴァ風「DEVIL SIDE」などオーケストラによって引き出された表情はどれもがもれなく新鮮で魅力的、この曲がこんなポテンシャルを秘めていたのかとたびたび目を見張った。当然ながら分厚くドラマティックなオーケストラサウンドをバックにして一切呑まれることなく、むしろひときわ存在感を放って伸びやかなHYDEの歌唱力、表現力そのものにもだ。仮装のインパクトに乗っ取られることのないHYDEのHYDEたる佇まいの揺るぎなさにも感服する。
もちろんハロウィンならではのスペシャルな演出も随所に盛り込まれ、オーディエンスを魅了する。なかでも特筆すべきは「VAMPIRE’S LOVE」での美しいキスシーンだろう。ステージ中央に置かれた棺桶と、そのなかに真紅の薔薇に囲まれて眠る金髪の美少女・手越。流麗なピアノソロに導かれるようにHYDEは少女の頬に手を添え、そっと口づけた。まるで映画のワンシーンのようなその一幕に、一斉に沸くオーディエンス。おそらく鳴り物の音量はこの日最高をマークしたに違いない。のちのMCではこのキスを振り返り、「祐也ファンに言っとくと、柔らかかったよ。しかも、あったかかった」とHYDEが明かすと「ほんとドキドキする。できることなら目を開けていたかった」と手越も本音を口にする、微笑ましいやり取りも。
さらに後半戦では、これまた「黒執事」のセバスチャン(スクリーンの字幕では“セバスダイゴチャン”と紹介)に扮したDAIGOが登場してHYDEと一緒に「flower」で声を重ね、続く「HONEY」では美少女からヴァンパイアへと姿を替えた手越も参入して3人で歌い上げるという、まさに夢のようなコラボレーションも実現。かねてよりHYDEファン、L’Arc〜en〜Cielファンを公言している手越はステージでは初となる共演に興奮覚めやらぬ様子で「カラオケとかで死ぬほど歌ってきた、そして普通にライヴで観ていた「HONEY」をここで一緒に歌えるなんて。夢って思い続けていると叶うんだな」と喜びを口にした。
ペレ草田にASH DA HERO、分島花音も参加したゲームコーナーを挟み、HYDE、DAIGO、手越の3人で歌われた「GLAMOROUS SKY」で一旦、幕を閉じた本編。幕間には11月24日にリリースされるHYDEの新曲「FINAL PIECE」ミュージックビデオのフルバージョンが初披露。その後、手越が「ウインク」等3曲を歌唱し、コンサートは佳境へ。ステージにはHYDEがオープニング主題歌を務めた映画『えんとつ町のプペル』の世界が具現され、作品から抜け出した様な船とともに主人公・ルビッチに扮したロザリーナと、プペルとなったHYDEが、同作品のエンディング主題歌でロザリーナの楽曲である「えんとつ町のプペル」を歌い、エンディングでは船が浮上しそのまま客席の上を飛行するという大掛かりな演出で“黑ミサ Halloween”のクライマックスを飾った。曲中に“ここにいるみんなで星空を作ろう”というメッセージがスクリーンに映し出されると、それに応えたオーディエンス一人ひとりのスマートフォンに光が灯り、会場一面に“星空”が出現。ステージと客席が一緒になって映画のワンシーンをリアルに作り上げた、まさに感動の光景だ。「星はあるんです。普段は見えなくても一人ひとりが輝いています。だから何も見えなくてもひとりじゃない」と客席に語りかけたHYDEの言葉は今、この世界を照らす希望だと思えた。
ラストはフロート化した船の横にDAIGO、手越も乗り込んで「HALLOWEEN PARTY-プペル Ver.-」を合唱しながら客席の通路をぐるりと廻り、最後にステージに全員が集まって大団円。「またお会いしましょう。ハッピーハロウィン! みなさん、気をつけて帰ってね」と呼びかけては幕が閉まるまで名残惜しそうに手を振り続けるHYDEだった。
前述した通り、11月23、24日にはHYDEの地元、和歌山県・和歌山ビッグホエールにて“20th Orchestra Concert HYDE 黑ミサ 2021 Wakayama”が開催される。この1年を通じて自身のやり方でその音楽を提示してきた彼の、ソロ活動20周年の集大成となるはずだ。また、現在制作中のニューアルバムの全貌もそろそろ見えてくるのを楽しみに待ちたいと思う。HYDEの背中からまだまだ目を離すわけにはいかない。