雨のパレード Photo by Ray Otabe
ame_no_parade TOUR 2021 ”ESSENCE” 2021.10.29 東京・EX THEATER ROPPONGI
夜の六本木に少し人が戻ってきた10月29日。19時開演という設定も少し日常が戻ってきた印象だ。雨のパレードがこの日、東京・EX THEATER ROPPONGIでツアー『ame_no_parade TOUR 2021“ESSENCE”』のファイナル公演を行うことは彼らのキャリア、いや人生に於いて不可欠だったんじゃないだろうか。というのも、2020年にアルバム『BORDERLESS』に伴うツアーを途中中断せざるを得ないコロナ禍の状況があり、振替公演も実現できなかった、その時の会場がここEX THEATER ROPPONGIなのだ。
既に2020年12月に、最新アルバム『Face to Face』のリリースに伴う一夜限りのライブをZepp DiverCity(TOKYO)で開催したが、今回は2021年に配信リリースした「Override」、そして福永浩平(Vo/)30歳の誕生日にサプライズリリースした「ESSENCE」以降のツアーだ。”本質”を意味するツアータイトルどおり、バンド結成以来、雨のパレードが何を表現し、何を歌ってきたのか?に、これまでにないほど迫る内容。ここまでこのバンドのライフストーリーをダイレクトに感じ取ったことはーー少なくとも自分はなかった。海外の現行のダンス/エレクトロミュージックやオルタナティヴR&Bとバンドサウンドの融合など、いくらでもオリジナルな個性を持つ雨パレだが、この日の彼らから伝わるものは既にそうした輪郭の説明を飛び越えていたのだ。
アルバム・リリースを伴わない今回のツアーでは、さながら福永が上京してからクラブで体感した爆音を浴びる喜び、人の目を気にせずそれによって解き放たれる感覚、そして自ら日本のポップミュージックに風穴を開けていくプロセス、そしてその中で味わってきた挫折が端的に理解できるセットリストが組まれていたように思う。そしてそれを理解させるバンドアンサンブルとライブPAの丹念な磨き上げ。オープナーの「new place」で言葉のひとつひとつがはっきり理解できるサウンドメイクに、今回のライブに懸ける意図がスルッと飲み込めた。
ブライトな「Summer Time Magic」や「if」。様々な時代からの選曲にも何ら違和感はない。冒頭の3曲は福永の歌、そして山﨑康介(Gt)の繊細なギターのフレーズやリフが過不足なく聴こえたこと、一打入魂の大澤実音穂(Dr)による無駄のなさゆえにパッシヴなドラミング、さらに前回に引き続きサポートを務める雲丹亀卓人(Ba)の引き算のフレージング、シンセを含む鍵盤全般を操るちゃんMARIの、5人全員のバランスの良さに感銘を受けた。ステージ上のメンバーはもちろん、ライブPAチームとの練り上げを経た完成度の高さで「ライブの本質」を証明して見せたのだ。そう、この日、何度か福永は「この場所でしか聴こえない音、体感できない音があると思う」と語っていたが、その尽力は序盤から叶っていたのだ。
人生の挫折や個人的な傷を歌う「Shoes」や「Dear Friends」が説得力を持って届いたことも、歌がよく聴こえたことに起因するが、サウンドの先鋭性はもはや雨パレにとっては身についたスキルであり、その核心にある歌でジャンルを突破してしまった痛快さが何より大きな進化に感じられた。バンドヒストリーの時間軸とは違っていても、「Dear Friends」の後に、哀愁と勇敢さをたたえた山﨑のギターフレーズが響き渡り、「Ahead Ahead」のプリミティヴなビートに突入していくのはとても自然な感情を呼び起こす。
バンドアンサンブルに身を任せて自由に動く福永も、ギターとシンセをスイッチしながら演奏する山﨑も、現在のスタイルを構築できたせいか、見ていて非常に自由だ。サポートの二人にツアーの感想を福永が尋ねると二人とも「最高!」としか言わない。ミュージシャン冥利に尽きるステージが実現しているのだろう。度重なる延期や中止で悔しい思いをした分、福永は「爆発するようなライブにしたい」と、フロアからのエネルギーを目一杯吸い込んで循環させている様子。夏らしい夏なんてなかったけれど、命を燃やすようなアッパーな「Override」が生み出された理由が分かるような、エネルギーに満ちた演奏が続く。
ともにシンガロングできる日を願う「Override」のあとは福永の潔癖さ、唾棄すべきものの何にも降伏したくないという気持ちが、夜の街をあとにするようなスピード感を伴って実感できる「Count me out」、硬いグロッケンのような打音を大澤が放ち、グッとアレンジがアップデートされた「epoch」。まさに居たくない場所から爆音のクラブにたどり着き、<僕ら声枯らし歌った/僕ら汗流し踊った~このまま このまま このまま 僕らの波は広がって~時代をきっと変えるはず>という、バンド初期の予感にたどり着くセットリスト。ここに意志がないわけがないだろう。ただ、それで終わらず、ここ数年の顔の見えない悪意や自分も潔白であるとは言い切れないという矛盾を暴き出す「scapegoat」までを包摂した、このブロックも心揺さぶられた。今回のセットリストが芯を食っている所以だと思う。
子ども声が響き合うSEに乗せて、福永がさらに本音を語る。コロナ禍でライブの動員が減っている事実、アーティストの中にはライブなんて必ずしもなくてもいいと言う人もいるけれど、自分には必要だ、と。そこから演奏された日常を慈しむような「morning」の静かな平穏、ちゃんMARIのオルガンのフレーズがゴスペル的なホーリーさを拡張した「Hallelujah!!」のいい変貌ぶり。「BORDERLESS」もサビ前にピアノのアレンジが追加されたことで、ポップスとしての強度が格段に増していた。
バンドストーリーをともに歩いてきたような時間を選曲で作り上げ、さらに一歩踏み出す流れができたところで、福永が「みんなの顔見て、満たされてます。僕は音源作るのが好きで、ライブやんなくても大丈夫だと思ってたんだけど、このツアーの初日に全細胞が喜んで“生きてる!”って思ったんです」と、これまで訊いたことのないような力強さで本心を解き放った。ツアーを実現させたからこそわかったこと。その実感が込められたからこそ、踊れて日常感もある「ESSENCE」はさらに躍動感を増し、バンドが合奏し、それにオーディエンスが反応するというシンプルでその場所でしか起こり得ない奇跡が輝く。ラストは彼らにとって大事な始まりの曲「Tokyo」が、いまの状況に重なってことさらに響いた。いま、福永が歌いかける<調子はどう?>はこの曲が生まれたときより、おそらくずっとタフだ。
本編終了後は会場もインスタライブを見ているファンも一緒に「ESSENCE」のミュージックビデオの解禁を見守り、次回のBBHFとの2マンライブの発表も。ライブ終了後にステージに戻りトークする雨パレなんて、以前は想像もつかなかったが、そもそも前を向ける楽しいことをダイレクトに届けるバンドだったじゃないか、雨パレって。根拠のあるパワーをありがとうと言いたい。
取材・文=石角友香 撮影=Ray Otabe