マカロニえんぴつ 撮影=酒井ダイスケ
マカロックツアーvol.12~生き止まらないように走るんだゾ!篇~ 2021.11.2 Zepp Tokyo
マカロニえんぴつ、9月28日(火)の新潟LOTSからスタートした9箇所・15本のツアー『マカロックツアーvol.12~生き止まらないように走るんだゾ!篇~』のファイナル、東京・Zepp Tokyo2デイズの2日目、11月2日火曜日。
「たぶん僕らがZeppに立って演奏するのは、これが最後かもしれない。10分ぐらい床にスリスリしてていい?」(はっとり:Vo/Gt)と、2021年いっぱいでクローズが決まっているこの会場に別れを惜しみながら、本編15曲とアンコール2曲、約1時間30分にわたり、コロナ禍対応で1階が座席仕様になったZepp Tokyoのオーディエンスを魅了し続けた。なお、このライブには、WOWOWの生中継が入った。
「愛のレンタル」「listen to the radio」で始まり、「もう最後なんで、何も思うことないです! 精一杯置いて行きますんで、受け取って帰ってください」というはっとりの言葉からの「恋のマジカルミステリー」「洗濯機と君とラヂオ」の二連打で、さらにステージの下と上の温度を上げる。
MCをはさんで、「恋人ごっこ」「two much pain」の、言わば「じっくり浸らせる曲」ゾーンへ。続く「幸せやそれに似たもの」では、長谷川大喜(Key/Cho)→はっとり→田辺由明(Gt/Cho)が、順にソロをとる。
次のMCは、前述のZepp Tokyoに別れを惜しむ言葉と、メンバー紹介が中心。はっとりは自身を「マカロニのセンター張ってます。ロック・スターです」と紹介。
夜の街に出ることができないメンバーたちのために、各地のイベンターが用意してくれた心尽くしのケータリングを堪能した長谷川は、このツアーで7キロ太ったことを報告する。
ジャズとヨーロッパ民謡を足しっぱなしにしたような曲調が、突然ハードロックになったり、また元に戻ったりする「Mr.ウォーター」、はっとりと田辺がツイン・リードを聴かせ、他のメンバーも次々とソロをとる「裸の旅人」で、「客前で生演奏してなんぼ」である、ロック・バンドとしてのポテンシャルの高さを見せつける。いや、「聴かせつける」という方が適切か。ないけど、そんな言葉。
次は、10月12日に配信リリースしたばかりの「トマソン」。この曲も、リズムも曲調も音楽ジャンルも1曲の中でコロコロ変わる。続く、2019年のアルバム『エイチビー』からの「ハートロッカー」も、極めてキャッチーだが、極めて目まぐるしい曲だ。
その2曲で、健気に無言のままだが(そう、本当に「健気」という言い方がぴったりだった)、身体を使ってのリアクションが一層大きくなったオーディエンスに、はっとりが「心の中で、サビ前のあれを叫んでほしいんですが! いけますか?」と求めてからの「ワンドリンク別」。「いい恋してるかい?」という問いかけから歌に入った「レモンパイ」。どちらの曲も、誰も声を出していないのに、それぞれが歌う声がきこえるみたいな錯覚に陥る、そんな幸せな空気に包まれる。
2021年4月リリースのメジャー1stシングル「はしりがき」を、「走り続けろよ!」という叫びで終えたはっとりが、ギターをつま弾きながら語った本編ラストのMCが、とてもよかったので、ここはそのまま載せる。
「僕は、このバンドが大好きです。この場所で、この位置で、向きはこの方向で、歌うことが大好きだと、わかってたんだけど、わかんなくなって。でも、途中でまたわかりました。やっぱり大好きです。それだけでいいですか? それだけでいいと思います。あなたは何をしている時の自分が好きですか? どこに立っている時の自分が好きですか? 考えなくてもいい。数えなくてもいい。もうそこにあるから。そこから目を反らさないように。わからなくなったら、思い出してください。迷いだらけのマカロニえんぴつを。あなたと一緒に悩んでるから。あなたと一緒に答えを探してるから。なんでマカロニえんぴつの歌の人は、幸せじゃないんですか? そう言われることがたまにある。幸せを探してる最中なんです、あなたと一緒に。だから、ずっと幸せじゃなくていい。辿り着くものじゃない、感じるものだ。あなたと一緒に。本当にありがとうございました。マカロニえんぴつという、あなたが愛した音楽でした」
この言葉に続いて、本編ラストの曲「hope」の、あのストリングス調のイントロが鳴り出した瞬間、鳥肌もんだった。
マカロニえんぴつとリスナーの連帯を呼びかけるようなMCだったし、「hope」は<手を繋いでいたい 手を繋いでいたいのだ>というサビだが、(この時に限らず)はっとりは、オーディエンスに対してちゃんと語る時、「みなさん」とか「あなたたち」という言葉は使わない。「あなた」と言う。マカロニえんぴつ聴き手は一対一である、という意識が、常にある。その姿勢が端的に表れたMCであり、楽曲だった、と感じた。
アンコールでは、来年2022年が結成10周年であること、1月12日(水)にメジャー1stフルアルバム『ハッピーエンドへの期待は』(12月31日公開の映画『明け方の若者たち』に提供した主題歌と同タイトル)をリリースすること、2月15・16日の日本武道館から始まり3月22・23日の大阪城ホールまで続くリリース・ツアーを行うことを、発表。
そして。「今日はなんとなくね、ライブで全部思いをのせられました。そんな気がしてます。すごい深いところで、今日はマカロニえんぴつと、あなたと、繋がれた日になったかなと思っています。改めて、本当に心からありがとうございます」という言葉に続いて、これから歌う曲が、ニューアルバムの収録曲であり、ライブ終了直後に配信がスタート&MVが公開になることを告げてから、「なんでもないよ、」を初披露した。
長谷川のピアノとはっとりの歌で始まり、ドラム&ベース、ギター、と、徐々に加わってくる。世のラブソングの定型をひっくり返すような歌詞でありながらも、まごうかたなきラブソングであり、コロナ禍を経たからこそ書けたようなフシもある、美しい曲である。
「アレンジでやりすぎる」のも魅力だが、超シンプルに音を奏でるのも魅力である、マカロニえんぴつならではのソングライティングが、新しい形で発揮された曲だった。
「あなたの歌じゃないかな、これは。今夜だけお借りして歌っていいですか?」と、最後にプレイされたのは、「ヤングアダルト」。前半のMCではっとりは、今回のツアーはヤングに加えてアダルトも増えてきた、いよいよ全世代対応型ロック・バンドになってきた、とうれしそうに言っていたが、ここにかかっていたのかもしれない。違うかもしれない。違う気もする。
ともあれ、<僕らは美しい 明日もヒトで入れるために愛を探す/愛を集めてる>というサビのリフレインは、おそらくオーディエンスを目の前にしているからこそ、音源で聴くよりもよりいっそう力強く、よりいっそうリアルに響いた。
取材・文=兵庫慎司 撮影=酒井ダイスケ