メリー、新体制での第1作「Strip」発表を経て結成20周年のアニヴァーサリー・イヤーが開幕
11月7日、東京・恵比寿リキッドルームにて、メリーが大きな節目を迎えた。「メリー 20th Anniversary Opening Live Showcase 1【Strip】」という長い公演タイトルが示しているように、バンドの結成記念日であるこの日をもってその歴史が満20年となり、同時に、去る11月3日に発売されたばかりの新作アルバム「Strip」の楽曲群が披露される初の機会となった。
しかも、4人編成という新体制での初の有観客公演。そうしたいくつもの重要事項が重なる局面でのライヴだけに、どのような公演内容になるのか、ツイン・ギターの片翼を担ってきた健一を欠いたことでバンド・サウンドにどのような変化が生じているのかといったところに当然のように注目が集中していたはずだが、ステージ上の4人が提示してみせたのは“歴史”ではなく“今”であり、喪失ではなく新たな可能性の獲得だったといえる。
極彩色の照明やレーザーライトが「Strip」というアルバム・タイトルに似つかわしい華々しくも猥雑な空気感を醸し出すなか、ショウの幕開けを飾ったのは今作のコンセプトが生まれるうえで鍵になったという
“erotica”。それを皮切りに繰り広げられたのは歴史の総括ではなくあくまで「Strip」を軸とした演奏プログラム。終わってみれば、アルバム収録曲のうちこの夜披露されなかったのはわずか1曲のみだった(この先に名古屋、大阪での公演も控えているだけに、具体的な曲名は書かずにおく)。「Strip」という作品自体、当然ながら4人で制作されているわけだが、その音源からも感じられたヒリヒリするような剝き出しの生々しさが刺激的だった。
4人編成になったことでステージ上の風景にも必然的に変化があったが、健一の脱退により生じた穴を埋めようとするのではなく、誤解を恐れずに言えば、最初から4人編成のバンドだったかのように感じられるほど、4ピース・バンドとしてのたたずまいがとても自然なものとして目に映った。同様のことは音についてもいえ、テツの奏でる重低音のうごめき、自己主張の多いネロのドラミングといったものが、従来以上に奥行きと立体感のあるものに感じられた。結生のギタリスト然とした存在感、破天荒さと繊細さを併せ持ったガラの歌声の魅力も、いっそう際立つようになっていた。
前述のとおり、演奏内容はあくまで「Strip」の楽曲を中心とするもので、過去、節目となるようなライヴを迎えた際の彼らがたいがい「やりたいことを盛り込みすぎ」な傾向にあったことを踏まえると、意外ともいえるくらいシンプルな構成ではあった。随所に挿入された過去の楽曲群についても、懐かしい曲を聴けたというレア感以上に、それらと「Strip」の世界との噛み合わせの良さを感じさせられた。それは旧楽曲が4人編成となった今現在の時制に似つかわしいものにアップデートされていることを象徴していたのと同時に、このバンドのコアな部分が少しも変わっていないことを裏付けていたように思う。
アンコールの際には各メンバーが20周年に際してのコメントを述べる場面が設けられてはいたものの、それ以外にアニヴァーサリー的な趣向は特に盛り込まれることなく、4人はあくまで「Strip」の世界を体現すること、新体制のリアルな姿を提示することに徹していた。そこから伝わってきたのは、新たな決意、覚悟の強さを思わせる気迫だった。実際、このアニヴァーサリーに際して祝福されるべきは、20年という長い時間経過ではなく、紆余曲折を経てきたのちに“今”を充実した状態で迎えているという現実のほうだろう。
アンコール時、ガラの口からは2022年1月に次なるショート・ツアーを行なうとの情報が明かされた。今回の東名阪での公演が「Strip」と銘打たれているのに対し、その新ツアーのタイトルは「Stripper」で、ガラによれば「全裸でステージに立つ」ことになるのだという。それが言葉通りの一糸まとわぬ姿を指すのか、はたまた精神的な意味での全裸状態を意味するのかは不明だが、いずれにせよこの日に幕を開けたメリーのアニヴァーサリー・イヤーが、攻撃的で賑やかなものになることは間違いないだろう。
もちろん今現在も依然としてライヴ開催にはさまざまな規制が伴い、来場者にはマスクの常時着用が求められ、合唱すらも叶わない状況にはあるが、この先のライヴ活動が続いていくなかで、いつかバンドとオーディエンスの双方が完全に解き放たれ、歌声をひとつに重ねることができる瞬間が到来することを信じていたいものだ。同時に、このアニヴァーサリー・イヤーを通じて「Strip」という痛快きわまりないアルバムと新体制のメリーが、どのような進化を遂げていくことになるのかにも注目したい。なお、この夜のライヴの模様は生配信されており、そのアーカイヴ映像は11月10日の23:59まで視聴可能となっている。当日、来場の叶わなかった皆さんにも是非この機会にメリーの刺激的な“今”に触れて欲しい。
文:増田勇一