黒木渚
黒木渚 ONEMAN LIVE 2021『死に損ないのパレード』
2021.11.6(sat)
10月3日(日)に東京キネマ倶楽部にて、1年6ヶ月振りの有観客ワンマンライブ『黒木渚 ONEMAN LIVE 2021『死に損ないのパレード』』を行なった黒木渚。ファンクラブ会員限定公演、かつ感染拡大対策のために観客数も絞られていたプレミア公演の模様が、11月6日(土)にStreaming+で有料配信された。この映像は、11月14日(日)23:59までアーカイブ配信されているため、このライブレポートでは演出のネタバレは避けなければいけないのだが、ただ、観終えた今思うのは、とにかく内容を書きたい衝動にかなり襲われている。もう、書いて、書いて、書き倒したくてしょうがない! そんな強烈な興奮が湧き上がってくるほどに感情を揺さぶられるライブであり、黒木渚の現在のモードが凄まじい熱量で伝わってくる映像作品だった。
黒木渚
オープニングは黒木のポエトリーリーディングから。ときに韻を踏みながら、リズミカルに繰り広げられる朗読の内容に、ライブのトレイラーにも映っていた白い球体が、サイケデリックな照明をあびて、まるで細胞やウイルスに覆われた地球のように見える。そんな圧巻のオープニングから流れ込んだ「あたしの心臓あげる」から、とにかく凄まじいテンション。サポートメンバーの及川晃治(Gt)、宮川トモユキ(Ba)、柏倉隆史(Dr)、神佐澄人(Key)と共にギターをかき鳴らして、ダイナミックなバンドアンサンブルを轟かせつつ、実に伸びやかで、力強い声で響かせていた。そして、フロアに向かって「(観客は)今日は声を出して歌えないけど、あなた達の気持ち、楽しんでいる思いはしっかりステージに伝わってきます! 音楽でひとつになろう!」と、笑顔で語りかける。
黒木渚
この日のライブは、今年7月に発表された最新アルバム『死に損ないのパレード』を軸にしたもので、裏テーマとして黒木が考えていたものが「百鬼夜行」だったとのこと。様々な妖怪が夜中に列をなして歩くように、多種多様な悩みや生きにくさを抱えていることを隠し、普段は人間の振りをしている“妖怪”達の集会であり、パレードといったところ。タイトル曲の「死に損ないのパレード」では、“行灯”と名付けられた炎の形を模したサイリウムをオーディエンスが左右に振ると、黒木も「すっごいきれい! 怪しい!」と、かなり楽しそうだ。
黒木渚
黒木渚
他にも、怪しげなギターリフがキネマ倶楽部という会場にも映えた「竹」など、次々に曲を届けていたのだが、なかでも秀逸だったのが、「合わせ鏡」からの「モンロー」だった。「合わせ鏡」は、これまで9年間活動してきた中で、ファン同士で結婚したというカップルも少なくないことから、それを受けて黒木が初めて書いたウェディングソングだ。そんな曲をリリースした後、これは「私とファンの歌」でもあることに気付いたと話す。真っ白なライトを浴びながら、白いワンピースを着て柔らかな歌声を届けると、続く「モンロー」では、曲タイトルにもなっている名女優をオマージュした演出でも客席を盛り上げていて、会場全体が幸せな空気で充満しているのが画面からでも伝わってきた……のだが、ここからライブは予想だにしない方向に進んでいく。何が起きたのかは、ぜひともアーカイブ映像をご覧いただきたい。
黒木渚
黒木渚
この日のMCで、「いろいろやりたいことがあって、それを全部詰め込んだ」と、黒木が話していたのだが、つい笑ってしまうものから、深く考えさせられるものまで様々な演出が徹底的に盛り込まれていた。「ふざけんな世界、ふざけろよ」に<ユーモアの弾丸>という歌詞が出てくるのだが、まさにその感じともいえるだろう。ちなみに、この日披露された同曲にはサンバアレンジ(!)が施されていて、手練れが繰り出す強靭なグルーヴの上で、「踊りなさいよ! 人はね、ふくらはぎをいじめているときは、なぜかくよくよできません! ほら! 生きて帰れると思うなよ!」とオーディエンスを叱咤しながら、ステップを踏み、ホイッスルを吹き鳴らしていた。
黒木渚
あの手この手で客席を魅了していた黒木だったが、本人曰く、それは「自分のやりたいことが決まっていた」からに他ならない。
黒木「たくさん応援してくれたみんなに、やっと返す余裕ができた。やっと幸せな状態にフルで充電されたので、今度はみんなに私が応援を返すべきというか」
咽頭ジストニアのため活動休止をし、これから先も音楽をやるのか、やらないのか──それは音楽家にとって、生きるのか、死ぬのかという話でもあるのだが。その究極の二択を迫られたとき、彼女は音楽家として生き続けることを決めた。たとえ世界がパンデミックに覆われようとも、心に“イエス”と言い続けて、自分の信じた道をまっすぐに歩み続けてきた。「これからの●分間だけで構いません。黒木渚を、あなたの本命にしてください」という彼女が発するお馴染みの口上があるが(この日は90分だった)、そのことに対しても「私も逆にそうなんですよ」と話す。
黒木渚
黒木渚
黒木「私の推しはあなたたちなんです。だからね、こうやってめちゃくちゃ高い看板(ステージの後方には「死損者行進」と書かれた看板が掲げられていた)とかを作って、貢ぐわけですよ。だからまあ、また滅ぼしあっていこうね?(笑) 自分が持っているものはすべて注ぎ込んで、みなさんと歩いて行こうと決めましたので」
地獄を見ても死に損なった、生きることをやめなかった黒木が放つメッセージは、本当に強い。もともと言葉の強いアーティストではあったが、いまはそこに深い優しさも感じられる。なかでも「アーモンド」のアウトロで繰り広げた絶叫は、この日のライブのハイライトとして挙げたい場面でもあり、黒木渚というアーティストだからこそ伝えられるものでもあるので、ぜひともアーカイブで彼女の真髄に触れていただきたい。改めて、このライブの模様は11月14日(日)23:59までアーカイブ配信されている。もしもあなたが現実に息苦しさを感じている“死に損ない”であれば、確実に感じられるものがあるはずだ。
文=山口哲夫 撮影=後藤壮太郎
黒木渚
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