古海行子(C)Darek Golik Chopin Institute
ワルシャワで開催された第18回ショパン国際ピアノコンクールのセミファイナリスト、古海行子。そのセミファイナルで圧巻の存在感を放った「ピアノ・ソナタ第3番」などをたずさえ、2021年12月4日(土)に東京・浜離宮朝日ホールに登場する。
――12月のこのリサイタルが決まったのは、いつごろですか?
コンクールが終わった頃でした。以前から予定していたわけではなく、日本コロムビアの方がお声掛けくださったのです。
――リサイタルのお話を受けた時のお気持ちは?
ショパン・コンクール以外にも配信されるコンクールはほかにもあり、自分もいくつか経験しましたが、そのなかでもショパン・コンクールの注目度はすごく高くて……みなさんがご覧になっているのを、現地にいながらひしひしと感じていました。応援くださっている声もたくさんいただきました。コンクールの配信を視聴してくださったみなさまにも、直接お会いする機会を持つことができるのは、ありがたいことだと思います。
ショパン・コンクールにて
――今回のリサイタルプログラムにはショパン「ピアノ・ソナタ第3番」と「舟歌」、そしてスクリャービンの「ピアノ・ソナタ第2番」をとりあげていますが、ショパンのその2曲はコンクールでも演奏されました。
そうです。生の演奏で聴いていただける機会ということで、このリサイタルではショパン・コンクールで演奏した曲のなかから、特に聴いていただきたい作品を選びました。
――コンクールの第3次予選では、ピアノ・ソナタについては第2番と第3番が課題曲でした。そのなかから第3番を選曲した理由は?
第3番は、レパートリーのなかでもかなり長く付き合っている曲で、本番でもたくさんとり上げてきました。譜読みしたのはいつだったか……記憶にないくらい若い時から演奏している作品なのです。
4楽章形式のソナタは個人的に好きですね。このピアノ・ソナタは、オーソドックスな4楽章形式で書かれています。4つの性格でひとつの建築物を建てるような、そういう時間が好きなのです。
――「舟歌」も素晴らしい作品ですね!
この曲にしかないものがよく表われている作品ですね。生の演奏と配信では、それぞれの良さはありますが、まったく別物だと感じています。このリサイタルでは、特に音の響きや空間の広がりを聴いていただきたいと思います。
――「舟歌」を最初に弾いたのはいつごろですか?
覚えていないですね。ショパンの作品との付き合いはとても長くて、彼のほかの作品の多くも最近から弾き始めたわけではないのです。高校生か中学生、なかには小学生から弾いている曲もあるので、記憶にないです。
――本当にショパンは小さい頃から向き合っている作曲家なのですね。ところで、このリサイタルではスクリャービンも演奏されます。
昨年の暮れごろから勉強し始めました。ショパンを聴いていただきたいと思う一方で、そこからいろんな方向に広げていきたいとも考えています。それこそスクリャービンも生の演奏で聴いていただきたい音楽です。ショパンに影響されたということもありますし、「ピアノ・ソナタ第2番」のもつ特別な空気感をせっかくお届けできる機会なので、とりあげました。
――スクリャービンは「ロシアのショパン」と言われていますよね。
そうですね、スクリャービンの初期の作品は、ショパンからの影響を受けていますよね。
――そのほかの曲目は?
もうそろそろ決めないと思いつつ……でもみなさん、何がお聴きになりたいのかなと。それから、12月初めのころはどんな様子かなと思いながら、いま考えています。リクエストを受けつけようかと思ったりもしています。
――それ、いいかもしれません!古海さんは、お客さまの顔を思い浮かべながら選曲されるのですね。
そうですね。今回は「配信で聴いてくださったみなさまに向けて」という気持ちもありますので、そういう意味でみなさまの望まれるものを提供したいと思っています。
ショパン・コンクールにて
――ショパン・コンクールに出場したのは、今回で2回目でした。
前回参加したのは高校3年生。前回のコンクールのあと、いろんなことを考えました。もっと勉強していきたいと思ったり、こういう演奏者になりたいと感じたりしたわけですが、次回もこのコンクールを受けようという気持ちはありませんでした。もちろん5年後に同じコンクールが開催されることはわかってしましたが、それに縛られたくないと思っていました。
その後、いろんな経験を積み、ただ自分が成長できること、そして目の前のことに取り組んで勉強してきました。そして、今回のショパン・コンクールに申し込む時期を迎えました。自分の原点のような……自分が演奏を続ける意味を感じた場所ではありますが、そこにいろんな経験を積んだうえで、再び同じ舞台に立つ時に自分が何を感じるだろうかと考え、申し込みました。結果を求めるよりも、自分が今できる最大限を尽くそう、と。今の時点でできる最高のショパンを描きたいと思って挑みました。
――今回は、第3次予選まで進みましたが、その時の心境を教えてください。
私の演奏順は、出場者のなかでも後ろの方でしたので、演奏が終わって結果が出るまでソワソワする期間は短くて助かりました。もちろん緊張などもありましたが、準備して臨んだ作品をあの舞台で弾くことができて、ありがたいという気持ちでいっぱいです。コンクール期間も、サポートも会場の雰囲気もあたたかく、みなさんが待ちわびてくださっていた空気を感じました。コンクールですが、それだけではない特別な時間でした。
――期間中、気分転換などは?
日本でも海外でもコンクール期間中は、ひとりの時間を大切にしようと、食事もなるべく外食したくないと思ってしまいます。一人でじっくりと音楽と向き合う時間ですね。今回は、聖十字架教会といったショパンにゆかりのある場所や、ワルシャワの街を少し歩いてみました。
――古海さんにとって、ショパンはどんな存在ですか?
特別な存在だと思います。ショパン・コンクールを受けた経験から来るものもあり、向き合ってきた時間も長く、何よりも彼の音楽が私の心に響くのです。どんなに彼と一緒に時間を過ごしても、いつまでも憧れですし、親密さも覚えますし、一生涯向き合っていきたい作曲家です。
――ところで、ピアノ以外でご趣味ってありますか?
何かを極めているわけではないですが、最近は料理をすることが好きです。特に野菜を切るのが好きです。集中できる単純作業は好きで、ガーッと夢中になれる(笑)。ピアノとはまた違うテンションで集中できるのがいいのかな。
――読者のみなさまに、このリサイタルにかける思いをお聞かせください。
ショパン・コンクールを、日本にいらっしゃるみなさまもショパンの音楽を好きで楽しみに見てくださったと思います。このコンクール期間中に、私を知ってくださった人もいらっしゃると思います。
音楽には、生の演奏でしか感じられないものもあり、生の音でお届けしたいとの思いも強くもっています。このリサイタルにお越しいただけましたら嬉しく思います。
取材・文=道下京子