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ストレイテナーの「より核の部分を打ち出した」最新作『Clank Up』をホリエ&大山が語る

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ストレイテナー・ホリエアツシ / 大山純 撮影=菊池貴裕

ストレイテナー・ホリエアツシ / 大山純 撮影=菊池貴裕

2018年のフルアルバム『Future Soundtrack』以降、2019年にミニアルバム『Blank Map』、2020年にはフルアルバム『Applause』、そして今年2022年11月17日には最新ミニアルバム『Clank Up』をリリース。と、近年はフルアルバムとミニアルバムを交互に、毎年リリースを続けているストレイテナーだが、それぞれの作品のカラーは実に様々だ。その中でも、一聴してガツンとくるロックナンバー「宇宙の夜、二人の朝」から幕を開ける今作は、エモーショナルでアグレッシヴなバンドの一面が色濃く映し出された、「これぞ!」という一枚に。本稿では、フロントマン/ソングライターのホリエアツシに加え、ギタリスト・大山純にも参加してもらい、ストレイテナーらしさ全開かつその”らしさ”を更新する快作『Clank Up』について、あれこれ訊いていく。

――6月公開のインタビュー(『20201217+2021Applause TOUR』リリース時)でお話を伺った際に、既に曲はいくつか作っているということでしたが、それらが今回の収録曲という認識でいいでしょうか。

ホリエアツシ:2曲はそのとき録り終えてたのかな、多分。

大山純:6月だとそうだね。

ホリエ:「群像劇」と「倍で返せ!」はそのときには録り終えてました。リリースの日程とかをカッチリ決めてたわけじゃないんですけど。「秋にツアーをやりたいね」っていう話から、そのタイミングに何らかの形で作品をリリースするプランがあって。(前回のインタビュー時は)この2曲にプラス3曲くらいできればミニアルバムになるな、という時点でしたね。

――フルアルバムサイズの作品に向かうときと、ミニアルバムのときとでは、初めの段階からわりと意識が違うものですか?

ホリエ:最近はフルアルバムを作るときも、一気に1ヶ月とかスタジオ入って作り続けるみたいなことはやらないので、そんなに気分としては変わらないです。一気に1枚のアルバムを作ろうと思うと、すごく消耗するけど(笑)。

――かつてはそういう作り方を。

ホリエ:ありましたねぇ。どれがどの曲だっけ、みたいな。

大山:(笑)

ホリエ:で、なぜだかメンバーみんな、一曲一曲に違う仕掛けを作りたがるというか。「この曲はこのスタイルで」みたいに変えるじゃん?

大山:うん。

ホリエ:それが、曲数が多くなってくるとバリエーションをめちゃくちゃ求められるんだよね。

大山:「今日新曲作るのか……ネタねえなぁ」って、もう曲を聴く前から思ってたりする(笑)。

――じゃあポツポツと一曲ずつできてくる方が。

ホリエ:そう。一曲に集中できた方が、他の曲と比べなくていいから。

――フルアルバムでも前作の『Applause』は結構な期間をかけて作ってましたもんね

ホリエ:『Applause』はコロナ禍もあってスケジュールに余裕があったんですけど、前々作の『Future Soundtrack』は一気に作ったような気がするな。だから、行き詰まった曲もあったと思う。『Applause』は存分に時間をかけられたし、詰め込まずに間隔を空けながら「今月のレコーディングではこの3曲が録れたらいいかな」とか、点々とスケジュールされてたっていう。

 

――『Applause』制作中はライブ活動がほぼ止まっていましたけど、今年に入ってからも大きくは状況は変わらずでした。その中でも心境面や動き方などどこか変わってきました?

ホリエ:気持ちの面ではシンプルになってるなって。この1年はライブができなかったわけじゃないから、ライブの楽しさとか、そこにいてくれるファンのみんなの顔だったりとか、気持ちにも触れることができての今作なので。100%安心してっていうところまではいけないとしても、ライブをやれる前提で、ライブでの感情表現により気持ちが向いていて、まっすぐになれているっていうか、ポジティヴさが表れているんじゃないかなと。
『Applause』は肉体的ではありながら今までにない新鮮さを求めてたところがあって。今作は「ストレイテナーとは」というか、より核の部分を打ち出したかなって。実験とか新鮮さというよりも、持っているもので勝負している。『Applause』が、肉体的ではあるけど、外によりも内向きな楽曲を主軸としていて、セッションして自分たちだけでも楽しめる音楽だったとしたら、今作は外向きなエモーショナルさと攻撃性みたいなところに戻ったというか、そうならざるをえなかったというか。そういうのを作りたくなっちゃった感じですね。

――ではデモの段階からこういう方向に向いていた。

大山:そうですね。自分としては、『Applause』のときは新しいことをやってやる、自分の中のものを出してやるっていう欲みたいな、捻り出す感覚が少しあったんですけど、今回はすごく自然に出てきたものが多いです。「もうちょっと雰囲気変えられる?」っていう一言に対して出したものも一発で採用みたいな。ホリエくんが歌っているのを聞きながら弾いたものがもうOKだったり、すごく自然な状態な音っていうんですかね。曲がそうしてくれって言ってるというか。

ホリエ:まあその……言ってしまうと、元々やってきたことを、その先でフィードバックさせた感覚が近いかもしれないですね。

――歌が前面に出た『Future Soundtrack』や肉体的かつチルな『Applause』、そういう変遷を経た状態で、もっともっと以前からバンドが持っていたものと今一度向き合ったわけですね。

ホリエ:そう。その全部がらせん状になって繋がってるとは思いますね。

――この『Crank up』を一枚トータルで捉えたときにはどんな作品だと思いますか? たとえばオムニバス風なのか、一つの流れを持ったものなのか、とかでいうと。

ホリエ:ミニアルバムってオムニバスっぽくなりがちなんですけど、今回は結構はっきりテーマの焦点が絞られてると思うので、楽曲の個性はあるけど、ベクトル的に散らばってはないと思いますね。一つのシーンに向かってみんな向き合っているような5曲なのかな。
過去でいうと、『Blank map』にはまず出囃子にする曲を入れてみたり、『Immortal』にはインストの曲を入れてみたり、実験的な要素があって。……今回は『Resplendent』みたいな感じじゃないですかね? 「シンデレラソング」とか「BRILLIANT DREAMER」とか入ってて――

大山:あれ、超いいよ。あのへんの曲でMV撮りたい。

ホリエ:めちゃくちゃいいよね。

――たしかに感触としても近いかもしれないです。ちなみにタイトルの『Crank up』は、映画を撮り終えたときなんかに使われる和製英語と、「スタートを切る、始動する」みたいな本来の意味とがありますけど、ここでは後者ですか?

ホリエ:いや、これは映画の方ですね。「群像劇」っていう曲名だったり、歌詞にも随所にあるんですけど。映画のクランクアップから、役者が役を演じきって素の自分に戻るというところにかけて、誰しも一人ひとりの人間の人生に真実の部分と演じている部分があって、本当の自分、本来あるべき姿をテーマにしています。

――先ほどの「よりシンプルに」という意識の部分ともつながりますね。

ホリエ:そう。「流星群」の歌詞では<馬鹿げた芝居もここらで終わらそう>って歌っていたり、誰かに決められた価値観みたいなものを捨てて原点に帰るという。

――そのあたりから「何かのはじまり」というイメージが湧いて、本来の意味の「Crank up」にも思えたんですよね。

ホリエ:ああー、そうかそうか!

――そういうメッセージ、精神みたいな部分はどの曲にも通底していますよね。

 

――収録曲それぞれについても伺いたいんですが、まずはじめに録ったという「群像劇」と3曲目「倍で返せ!」。OJさんは最初に受けた印象って覚えてます?

大山:両極端な曲たちなので「どうなっちゃうのかな」とは思いましたけどね(笑)。「群像劇」は何気にリズムアプローチとしてはやったことがない、でも日向なんかはすごく得意なテンポ感とかグルーヴ感だと思うんですけど。

ホリエ:一番最初に作ったんで、『Applause』からの流れを汲んでるよね。

大山:うん。その中でもギターで印象付けようっていうのは常に思っているので、サビのカッティングはカッティングなのに歌えるフレーズにして。

――このカッティング、めちゃめちゃ良いですよ。

大山:ありがとうございます……! よかった。

――あまり重たくない、切れ味よりもフワッとした印象の。

大山:フワッと感を出してほしいっていうのはアッくんからもあったんですよね、アイディアとして。もうちょっと最初はカラッとしてた気がするんですけど。

ホリエ:そうだね。BLACKPINKのROSEのソロ曲の、すごくあったかい、しかもアコギじゃなくてエレキのフレーズが良かったので、聴いてみてもらって。そういう音の雰囲気にしたいなっていう話はしました。

――ちょっとブラックミュージックなノリでもありますけど、あまりオシャレすぎないというか。

大山:そうなんですよ。あまりにも今っぽいオシャレさになってしまうと、我々っぽくはないので。良いところに着地したかな。

――もう一方の「倍で返せ!」はパンク要素とダンス要素が行き来する、なかなかぶっ飛んだ構成です。

ホリエ:最初からビートチェンジありきの曲にしようとは思っていて。

大山:これも面白いよね。まあ、最初は意味がわからないなとは思いましたけど(笑)。

ホリエ:弾き語りでデモを録ってるからね。

大山:弾き語りで聴いてもなんのことやら(笑)。でもアプローチとしては、実は「Super Magical Illusion」とかと近いことはやってるかな。

ホリエ:曲の位置的にもそこだよね。

大山:ギターは1番のAメロ途中までただのフィードバックですからね。でもそのくらいぶっ飛んでた方が面白いなって録ってるときから思ってました。

 

――この2曲を録って以降、残りはどんな順番でできてきたんですか?

ホリエ:「七夕の街」「宇宙の夜、二人の朝」「流星群」っていう順番だったかな? 

――「七夕の街」はインスタライブでも披露していましたよね?

ホリエ:そうですね。弾き語ったのが最初です。まだ自分しか知らないっていうときに。

――この曲、これまでのストレイテナーのバラードの中でも屈指ではないかと。

ホリエ:ありがとうございます。この曲の序盤の感じは過去の曲だと「Boy Friend」とかのイメージなんですけど、サビの激情感が中央線のちょっと熱苦しいロックバンドっぽいかなって思ってて(笑)。アーバンじゃなさをここで出したというか。

大山:でかめのコーラスも良いですよね。

――「宇宙の夜、二人の朝」は、初披露した『THE SOLAR BUDOKAN』で生で観てガツンとやられました。

大山:このサビのフレーズなんかは、弾き語りを聴いた瞬間にできちゃいました。Aメロは3ピースバンドのイメージでっていうのを聞いて、じゃあすごいシンプルなことをやろうかなと。この曲で思うのはやっぱり、アウトロに行って帰ってこないところ。ちょっと落として鍵盤が入って、今までだったらもう一回キメを作ってからサビに行って終わりかなっていう感じなんですけど。

ホリエ:Dメロがそのままアウトロにつながって終わるっていう。

大山:それが後々クセになるというか。

――MVを観ていてもそこは思いました。

大山:MVは強烈でしたね。Dメロに入ってからの美しさが。

ホリエ:あそこで終わるのは、歌詞が終わっちゃったからですね。さらに先に続く詞が書ければサビに戻っても良かったんですけど、Dメロで言い切っちゃったんですよね、宇宙の夜にいる二人を、もう一度目覚めさせる気になれなかったというか(笑)。「もういい」って言ってるんだからそっとしておきたくて。

大山:はははは! 前もやってるもんね、「混ぜれば黒になる絵の具」で。

ホリエ:ああ、そうだね(笑)。「2番、書けなかったわ」って。

 

――ストーリーがすごくきれいに着地しちゃってますもんね。

ホリエ:そうなんですよねえ。

大山:それがまた完成してから良くなるんだよね。

ホリエ:ポップミュージックは繰り返しが当たり前になりがちですけど、繰り返しながらもどんどん展開させていくような歌詞を書ける人はすごい才能だなと思うんですよね。僕は元々そういうのをやってこなかったので、完全に繰り返しの……たとえば洋楽で言ったら1番と2番が同じとか、平気であるじゃないですか。
そういう生まれ育ちなので、起承転結を1番2番の中に作るのはすごく難しくて、物語を一から作るようなものだと思っているので。この曲なんかは、書いているうちに自分でも思っていなかった結末に行き着いたから、もう繰り返さない方がロマンチックだなって、ここで終わるほうが美しいじゃんっていうことですよね。

――今作の中で最後にできたという「流星群」、このドラムは打ち込みですよね?

ホリエ:はい。

――ちょっとドラムンベースっぽいリズムパターンが印象的で、メロディはけっこう強いという。

ホリエ:強くて、ちょっと和心が入っている感じ。そこのミクスチャー感が……最近こういうコードが増えたのが、ギターとしてはなかなかむずいんだよね?

大山:そうね。曲の中で、今まで弾いてたキーで急に合わなくなるみたいなことが起こるんですよ。半音ずらしたりして確実にコードに乗せないとなんか気持ち悪い瞬間がある。どこがどうなってるのかが、何回かやりとりしないとわからなくて。

ホリエ:3音くらいを鳴らしてるだけなら多分大丈夫なんですけど、OJはメロディを弾くから。やっぱりコードの道が狭くなるほど、そこで歌メロだけじゃないギターのメロディを作らなきゃいけないっていうか。昔からある日本の歌謡曲みたいなコード進行ではあるんですけど、それをロックに昇華しようとしたり、ハイブリッドさを出そうとするとめっちゃ難しい。そこの戦いです(笑)。

大山:コードを弾けば別にスムーズなんですけど、歌メロとは別に俺もメロを乗せようとするから、こんなんなっちゃう(笑)。「流星群」は、このBメロが好きですね。<ふいに景色が変わる>のところから本当に変わるみたいな。あとは不本意かもしれないけど、仮歌の時の歌詞も良かった。

ホリエ:(笑)仮歌の時はもっとくだけてたんですよ。もっと散文っぽくどうでもいいことも混じってて。レコーディングに入って曲の形が見えてくるにつれて、これはカッコいい曲になると実感して、歌詞もクールにしたくなっちゃって。不意にもっといい言葉を思いついたから、変えちゃったんですよね。

大山:<夏はビールに限る>って言ってたもんね。

――結果、歌詞の濃度が高いというか、言葉の詰まった曲になっていて。

ホリエ:歌詞でいったら、「流星群」が一番よくできてるんじゃないですか。

大山:それに比べて「倍で返せ!」の文字の少なさね(笑)。

 

――ちなみに、お2人それぞれの特に思い入れのある曲でいうとどのあたりでしょうか?

ホリエ:あえて言うなら僕はこの「流星群」の歌詞です。歌詞をブラッシュアップした時に自分の中で思い入れが増すというけっこう稀な、こんな歌詞を書けた!っていう曲ですね。韻の踏み方だったり、「枕草子」の引用も含めて、自分の中で新しいと思っていて。「宇宙の夜、二人の朝」のDメロの歌詞も捨て難いですけど。

――OJさんはどうでしょう。

大山:ギターでいうと、「倍で返せ!」の2番で、いにしえからのギターの必殺技みたいな、ギューンっていうの(ピックスクラッチ)を……そんなの俺ライブでもやったことないんですけど。アイディアとして、それをやりながら手動で音を消すっていうすごいトリッキーなことをやってます。それが、すごいカッコよくハマりました。

ホリエ:どうやってるかわかんないけど、カッコいいから良いんじゃない?っていう感じだったよね(笑)。

――今回はリリースに先んじてツアーが始まってまして、この取材時点ではまだ一本を終えたところではありますが、今のところどんな印象ですか。

ホリエ:今回は長いツアーじゃないので、自分たちとしてはすぐ終わっちゃうなぁと。ツアーができるっていうことはすごくありがたいですし、やっぱりワンマンでいろんな曲をやれて、自由に時間を使える……前のアルバムツアーって、(感染対策ガイドライン等で)きっかり2時間で終わらないといけない縛りもあったりしたけど、まずは初日から久々の2時間10分超っていう(笑)。

――それはやっぱりMCとかが……

ホリエ:たぶん30分はしゃべってる(笑)。

――“非常時”みたいなライブがずっと続いてきた中で、元どおりではないにせよ、徐々に今のライブというものやり方や気構えが固まってきたような感覚もありますか。

ホリエ:もう充分楽しいとは思いますね。お客さんは自由に声を出せない我慢という、その辛さはあるとは思いますけど。

――OJさんはどうでしたか、ライブをしてみて。

OJ:すごく久々だったじゃないですか。俺自身(体力的に)もつかな?って不安だったんです。シンペイも最後に転びそうになったって言ってましたし。でもやってしまえばものすごく楽しいですね。……あとはツアーの最後までもつかな?です(笑)。

――12月にも新たなツアーが発表になりました。

ホリエ:このツアーの延長戦で、東京と大阪なので追加公演みたいな扱いなんですけど、ファンの中でも「12月にストレイテナーのコーストがある」っていうのは、恒例みたいになっていると思うので、最後のコースト(※来年1月で営業終了)をこのツアーで飾れるっていうことが気持ちとしてアツいですね。

取材・文=風間大洋 撮影=菊池貴裕

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