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Omoinotakeら3組のグルーヴに揺れた、渋谷・宮下公園のフリーライブ『WEEKEND LIVE LOVERS』

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Omoinotake 撮影=Shin Ishihara

Omoinotake 撮影=Shin Ishihara

WEEKEND LIVE LOVERS  2021.11.13  宮下公園

2021年11月13日、渋谷・宮下公園にてフリーの野外ライブ『WEEKEND LIVE LOVERS』が開催された。これは、カルチャーや環境、ビジネスなど様々なテーマを掲げ、渋谷の街の各会場と配信コンテンツを組み合わた“都市型フェス”『SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA』の一環であったのだが、個別のイベントとしての意義も感慨も大いに感じることのできる内容になっていたと思う。

まず、宮下公園が改修され今の形になって以降、初めてバンドセットのライブが行われたのがこの『WEEKEND LIVE LOVERS』であるということ。渋谷駅からほど近く、ブランドショップや飲食店の入ったランドマークの屋上に位置しながら、緑に覆われ陽光の降り注ぐロケーションは、なかなか他に類を見ないもの。ライブハウスやクラブだけでなく「街に当たり前に音楽やカルチャーがある」状態を一つの理想とするならば、屈指の大都市・渋谷にあるこの場所でライブを楽しめることは一つの象徴となり得る。騒音等の問題を考えるとラウド寄りなジャンルだと難しいのかもしれないが、もし今後ライブやイベントの開催地の選択肢に宮下公園が加わってくるようになれば、なかなか面白いのではないだろうか。

ここ2年はほぼ味わうことのできていなかった、野外フェスの雰囲気を味わえたのも嬉しかった。といっても大人数がもみくちゃになって踊るようなスタイルではなく、芝生に腰掛けながらのんびり観ることのできる方のそれ(お酒なんかあるとなお良いが、時勢柄それはまだお預け)。実際、この日のライブを企画・制作していたのは、後者のタイプのフェス『THE SOLAR BUDOKAN』のチームであり、ディスタンスを確保された芝生エリアに観客たちが思い思いに腰掛け、まわりでは子供が遊んでいたりと、ゆったりした環境の中に音楽がある状態は『THE SOLAR BUDOKAN』を彷彿とさせるものだった(NONA REEVESのMCによれば「渋谷の中の岐阜」)。飲食エリアこそないけれど、すぐ横にスタバがあるし、一旦会場を出れば無数に飲食店が存在しているから、そのあたりは完全にストレスフリー。なんせ渋谷なので。

『SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA』には、公式サイトの文言を借りれば「多様なアイデアが、出会い、つながり、形になれば、世界はもっと、良い方向に動き出す」「アイデアと触れあう、渋谷の10日間」という狙いがあり、それはつまり、様々な視座から新たなアイディアを社会に提起していこう、それらに触れていこう、ということ。この『WEEKEND LIVE LOVERS』でもライブだけではなく、ジョー横溝をMCに「働き方とエネルギーは、自由に楽しむ時代へ!」「エンターテイメント未来予想~音楽の力は変わらない~」という2つのトークセッションを設け、コロナ禍の中で様変わりを余儀なくされた音楽業界に携わる面々が、時代の変化とエンタメの形についてトークを展開。気候変動など世界的な事象から音楽ビジネスの今に至るまでを、あくまでポジティヴに語らい、考え、より身近に感じられるひと時となっていた。

そして肝心のライブ内容はというと、記念すべきメジャーデビューの日を目前にしたヘッドライナーのOmoinotakeをはじめ、SOMETIME’S、NONA REEVESと、都会的で洒落た音像とチルな心地よさの両方を備えた出演バンドたちが、このイベントの空気にも会場の環境にもとてもよく似合う歌と演奏で楽しませてくれた。

SOMETIME'S

SOMETIME'S

「Take a chance on yourself」からライブをスタートさせたSOMETIME’Sは、ファンキーで軽やかなダンスビートが楽しい「Slow Dance」、一転して王道感あるバラードの「KAGERO」と続け、その抜きん出たセンスを示してみせる。SOTA(Vo)が、ライブ直前のトークセッションで「ミュージシャンの働き方」というテーマが出ていたことを引き合いに出しながら、某有名ラーメン店で働いていることを明かした際には、洋楽ライクなサウンド感とのあまりのギャップに場が和んだ。あたたかなミドルテンポに優しいメロディが乗った「Morning」までの全5曲、他のアーティストを目当てやたまたま通りかかった観客も少なくないであろう環境ながら、自分たちの存在をしっかりと刻み込むステージだった。決まっているスケジュールがない、と語ってもいたが、もう少し長めの尺でじっくり観られたらより深く浸れるタイプの音楽性だけに、今後の動向も注目していきたい。

ライブを前に、西寺郷太(Vo)のポッドキャスト番組『西寺郷太の最高!ファンクラブ』の公開収録を行なったのはNONA REEVES。奥田健介(Gt)と小松シゲル(Dr)がゲストという立ち位置で、音楽業界屈指の(?)軽妙なトークスキルを誇る西寺に対し、2人が聞き役に回ったり合いの手を入れたりしながら進行すると、足を止めるオーディエンスが続出し、にわかに盛況となっていった。

NONA REEVES

NONA REEVES

そんな状態のなか始まったライブでは、「Saturday Lover」「Music Family」などイベントの主旨や空気と通ずる選曲で、昨今の音楽シーンで主役ともいえるソウルやファンク、R&Bといった要素をふんだんに含んだ音を、20年以上にわたり鳴らしている彼らならではの熟達したグルーヴとスキルで演奏。メンバー3人にサポートの冨田謙を加えた編成で、会場をくまなく揺らしていく。ラストの「Seventeen」演奏時に機材トラブルが起こる一幕もあったが、当たり前のようにMC(しかも渋谷にちなんだ内容)で繋ぎ、むしろ場を盛り上げてみせたのは、流石というより他ない。

『WEEKEND LIVE LOVERS』のラストを飾ったOmoinotakeは、このライブの3日後に念願のメジャーデビューを果たすということで、暮れなずむ場内は祝福モードでいっぱい。藤井怜央(Vo/Key)のキラキラとした鍵盤の音色と抜けの良いハイトーンで始まる「彼方」、冨田洋之進(Dr)の力強いビートと福島智朗(Ba)のグルーヴィにうねるベースが推進していく「産声」と、このところの彼らの勢いを象徴する楽曲にはじまり、中盤にはミディアムスローな楽曲にファルセットボイスが美しい「惑星」をしっとり聴かせるなど、バンド音楽としての完成度とポップスとしての高い強度を実感できる時間が続く。

Omoinotake

Omoinotake

「通りすがりで『何やってるんだ?』って集まってくれたみなさんも、本当にありがとうございます。僕たちはそこのスクランブル交差点で、週に何度も路上ライブをしていたバンドです」(藤井)

注目の新星として脚光を浴びているが、アマチュア~インディーズ期には渋谷のスクランブル交差点で路上ライブを繰り返すなど10年近い地道なキャリアを重ねてきた彼らにとって、この日は原点ともいえる場所でのライブでもある。ここ4~5年で彼らを知った筆者でさえ、サーキットイベントの小さいハコやイベントのオープングアクトで観た姿とは見違えるほど、クオリティもオーラも飛躍を遂げた彼らを、もし路上の頃から知っている人が今日の会場内にいたとしたら、どれほどロマンのあることだろうか。そんなことを思う。

そして、ライブの後半にはここ最近の覚醒ぶりを象徴するような「By My Side」「EVERBLUE」というメジャーデビュー作に収録されるパワーチューンを並べ、歓喜を呼び込んだOmoinotake。このタイミングで彼らが渋谷の野外でライブをしたこと、宮下公園初のバンドセットのライブでトリを務めたのが彼らであったこと。たまたま居合わせた人を含む多くの観客たちがそれを見届けたこと。あとから振り返れば記念碑的ライブとなるのかもしれない。

よく「日本はライブを楽しむハードルが高い」というようなことを言われる。実際、昔ほどではないにせよライブハウスにはアングラなイメージを持つ人も少なくないだろうし、路上での活動も原則的にはNGな場所がほとんど。それだけに、渋谷という大都市の中心地でこういうフリーイベントが開催できたという事実と、その内容が音楽フェスが持つピースフルな魅力の一端を味わえるものだったことは意義深い。
多様なアイデアが、出会い、つながり、形になれば、世界はもっと、良い方向に動き出す――それは音楽の世界にも言えること。『WEEKEND LIVE LOVERS』のような試みが、必要/不要かなどという次元ではない形で、社会と音楽、芸術・文化が関わり合っていく礎となることを願う。

取材・文=風間大洋 撮影=風間大洋(SOMETIME'S、NONA REEVES、Omoinotake)、Shin Ishihara(Omoinotake)

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