三浦文彰 (ヴァイオリン)、髙木竜馬 (ピアノ)
このところ、日本の音楽界から新時代を担う若き星が次々に誕生している。2018年の第16回エドヴァルド・グリーグ国際ピアノコンクールで優勝し、同時に聴衆賞も受賞した髙木 竜馬(たかぎ・りょうま)も、今、最も期待されているピアニストのひとり。
10代前半から数々のジュニア国際コンクールを制してきた高木の演奏は、同世代の多くの共演者からも熱烈に支持されている。昨年から髙木は、記念年を迎える作曲家をフィーチャーした『アニバーサリー・シリーズ』を始めた。第1弾では、グリーグに加えて、ベートーヴェン(生誕250年)、ショパン(生誕210年)、チャイコフスキー(生誕180年)にちなんだ作品が演奏された。第2弾となる今年は、リスト(生誕210年)、ストラヴィンスキー(没後50年)、ドヴォルザーク(生誕180年)、プロコフィエフ(生誕130年)の作品を、2021年12月19日(日)紀尾井ホールで演奏する。
世界最難関と言われるハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールを史上最年少の16歳で優勝したヴァイオリニスト、三浦 文彰(みうら・ふみあき)をスペシャルゲストに迎え、グローバルに活躍する二人の若き天才奏者は、どのようなセンスと新しい世界を聴かせてくれるだろうか。二人から今回の公演にかける想いを訊いた。
髙木竜馬 、三浦文彰
幻のプログラムを再び
――『アニバーサリー・シリーズ』第2弾は、三浦文彰さんとの共演ですね。第1弾は、ピアノソロによる公演でしたが、今回はどのようにスペシャルゲストを決めたのでしょうか。
髙木:アニバーサリー・イヤーを迎える作曲家を探していた時に、ヴァイオリンのレパートリーを書いた作曲家が挙がっていました。その時点では、三浦さんと共演したことはなかったのですが、今年2月に共演する機会を頂き、「是非、お願いしたい」と感じて声をかけました。三浦さんは、尊敬してやまない人です!
三浦:僕も尊敬してやまない高木さんからのお話で、嬉しかったですね(笑)。
――お二人が共演する今回のプログラムは、充実のラインナップですね。
リスト:愛の夢 S.541 ※ピアノソロ
ドヴォルジャーク:4つのロマンティックな小品 Op.75
ストラヴィンスキー (ドゥシュキン編):ディヴェルティメント
プロコフィエフ:5つのメロディ Op.35bis
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 Op.94a
※曲目・曲順は変更になる可能性がありますのでご了承ください。
髙木:実は、このプログラムにはちょっといわくがあって、今夏、中止となったパシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌(PMF)で予定していた幻のプログラムが中心です。その時は、リストの「愛の夢」はなく、ドヴォルジャークの代わりにドビュッシーのソナタでした。
三浦:当日、それも本番3時間前に中止されたので、とても残念でした。
髙木:前日のホールでのリハーサルも良い感じでした。当日は、僕が先にホールに入ったんですが、スタッフの方から「中止になりました」と言われ、泣いちゃいました。スタッフの方も泣いて……。三浦さんとはリハーサル音源を聴きながら、ホテルの自室で「これが弾きたかったね」なんて語り合いながら、飲みました(笑)。
三浦:はい(笑)。
三浦文彰、髙木竜馬
――今回の公演で演奏される作品の魅力をお聞かせください。幕開けを飾るのはリストの「愛の夢」。そして、ドヴォルジャーク「4つのロマンティックな小品」、ストラヴィンスキー「ディヴェルティメント」と続きますね。
髙木:最初は「愛の夢」。お客様が客席に座られると空間がクラシックの演奏会に変わるような、落ち着いた作品で始めたいと思いました。聞き馴染んだ曲ですが、歌をもとに作曲され、人間愛といった壮大な世界を伝えてくれる。また、最後は美しくロマンティックに終わるので、次の三浦さんと演奏する「4つのロマンティックな小品」に上手く繋がっていくと思っています。
三浦:ドヴォルジャークは土臭くってファーマーな感じだよね。情景が浮かぶような音楽です。1曲目がよく演奏されますが、全部好きですね! 最後の死に絶えるような感じも。
髙木:ドヴォルジャークの終わりと3曲目の「ディヴェルティメント」の繋がりもいいよね。
三浦:ああ、いい。すごくいい!
髙木:ストラヴィンスキーのこの作品は、もともとはバレエの曲。チャイコフスキーへのオマージュがたくさん書かれている一方で、ストラヴィンスキー特有のリズムが交錯する様子だったり、ピアノとヴァイオリンが丁々発止で盛り上がっていったりと、色々な場面が浮かぶ楽しい曲です。
――休憩を挟んでの後半ですが、プロコフィエフの2作品が演奏されます。
三浦:まずは「5つのメロディ」。この曲には、プロコフィエフのピュアなメロディーメーカーという感じが出ています。チャイコフスキーほどではないけれど、綺麗なメロディを書いています。ハーモニーが素晴らしく、聞きやすい一曲です。
髙木:確かに。「(この曲は)本当に素晴らしい」というのが、二人の一致した意見です。演奏していても「すごくいい曲だなあ」と揺さぶられる。エモーショナルな作品です。
髙木竜馬
三浦:1曲1曲が短くライトな感じで考えられがちですが、二人でやった時は、音楽にすごく深みがありました。
高木:そうだね。この作品は、元々、ヴォカリーズなんですが、歌詞があったらプロコフィエフは一体何を伝えたかったでしょうね。特に5曲目がおススメです。
――そして、フィナーレを飾るのが「ヴァイオリン・ソナタ第2番」ですね。
髙木:プロコフィエフのピアノ作品に「戦争ソナタ」第6番、第7番、第8番があります。「ヴァイオリン・ソナタ第2番」はそれらと同時期に書かれた作品で、ヴァイオリンの戦争ソナタと言ってもいいくらいです。戦争をリアルに描写している激しい部分も多くあります。一方で、戦争とは思えない、イマジネーションの世界を感じさせる部分もあります。本当に美しい部分が沢山ある曲で、プログラムの最後にふさわしい作品です。
三浦:そうだね。以前、二人で「ヴァイオリン・ソナタ第1番」も演奏しました。それも凄くよかったんですが、第2番は出だしがとてもメロディックです。ひょっとしたら第1番よりも入りやすい雰囲気があるかもしれませんね。
衝撃的な出会い
――お二人とも、若い時にウィーンで留学を始められましたが、おいくつのときだったんですか。
髙木:僕は高校卒業してからなので、18歳。
三浦:僕は、高校の途中でした。徳永二男先生に習っていて、マスタークラスなどで習いたい海外の先生を紹介して頂いていました。高校2年生の時に僕が習いたかったパヴェル・ヴェルニコフ先生のクラスに空きが出て、来ていいよという話になりました。
――その年齢で外国のカルチャーの中で生活することに、不安はありませんでしたか。
髙木:言葉が難しいとか、親元を離れるといった、誰もが抱くような不安はもちろんありました。でも、幼い頃から「いつかは留学するものだ」と思っていたので、不安は大きくはありませんでしたね。行き先がウィーンになったのはちょっと意外だったんですけれども。
三浦:僕は反抗期、真っただ中ということもあって、行く前はワクワクしていましたね(笑)。
三浦文彰
――お二人が出会ったのもウィーンですね。
三浦:そうです。16歳位だったかな。
髙木:ちょうど、彼がハノーファー国際コンクールで1位をとった直後のことです。ウィーンで行われた湯浅勇治先生の誕生日パーティーで出会いました。
三浦:結構大きなパーティーだったね。
髙木:色んな国籍の人が100人位いて……誰かから「三浦さんも来る」って教えてもらったんです。「会ってみたいな」とワクワクしていました。パーティーの途中、表の空気を吸おうと外に行くと、丁度、彼もそこにいました。「どうも髙木竜馬です」って挨拶をしたら、「おっす!」って(笑)。その時の服装は黒服だったと思うんですけど、第3ボタンくらいまで開けて、襟をピンって立てて、髪の毛も噴水みたいになっていた(笑)。衝撃的な出会いでした(笑)。
三浦:僕も出会ったときのことはよく覚えています。「神童」としてテレビで取り上げられているのを観ましたから。
髙木:それから、1、2回飲んだりしました。ただ、僕は学生生活、彼は世界中を飛び回っての演奏生活なので、あんまり交わりはなかったと思います。
――そうして、今年2月の初共演に至るわけですね。
三浦:そうです。僕が頼んでいたピアニストがコロナ禍の影響で来日できなくなり、同世代のピアニストでいいなと思う人を探していました。たまたま、「誰かいないかなー」ってYouTubeを眺めていたら、髙木さんのコンクールでのコンチェルトの映像に出会ったんです。「すごいじゃん!」って思いました。ピアニストって、すごく上手でも室内楽ができない人も少なくないんです。「絶対、髙木さんなら室内楽素晴らしい!」と感じました。公演の1、2ヶ月前だったので、「ダメもと」で連絡したら、引き受けてくれ、ありがたかったですね。
髙木:毎年2月にリサイタルを開いており、ちょうど日本に帰るタイミングでした。スケジュールを見たら空いていて、しかも、プログラムもモーツァルト以外は全部弾いたことありました。「三浦君と出来たらなぁ」という想いはあったので、連絡をもらった時は部屋の中で雄叫びを挙げました(笑)。
三浦文彰、髙木竜馬
――出会いから共演に至るドラマチックなストーリーですね。今後のお二人の予定も教えてください。
三浦:近いところでは、11月にスペインのバルセロナ交響楽団と公演を控えています。ズーカーマンの指揮で、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」やバッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲」などを演奏します。また、延期になっていたピアノのマリア・ジョアン・ピレシュとのリサイタルも楽しみです。
髙木:僕は、チェリストの佐藤晴真(さとう・はるま)さんとのツアーが11月にあります。佐藤さんが、先日、リリースされたCD『SOUVENIR 〜 ドビュッシー&フランク作品集』(2021/11/5発売)ではピアノパートを担当させていただいたので、渋谷のタワーレコードで発売記念のインストアライブも12月にあります。
――最後に、リサイタルを楽しみにされているお客様に向けてのメッセージをお願いいたします。
三浦:高木さんのアニバーサリー・シリーズに、ゲストとして共演させてもらうことを楽しみにしています。プログラムが本当に素晴らしいので、沢山のお客様と共有できたら嬉しいです。
髙木:今回は、尊敬してやまない三浦さんが来てくださいます。一年の集大成として、充実したプログラムと素晴らしいヴァイオリニストとの共演を聴いていただきたいですね。「接種証明 or 抗原検査で安心コンサート」となりますので、安心感をもって音楽を聴いていただけると思います。今年一年大変なこともありましたが、コンサートの時間はそういったことを忘れ、音楽の世界に身をゆだねていただけるように頑張ります。ご来場をお待ちしております。
三浦文彰、髙木竜馬
取材・文=大野はな恵 撮影=ジョニー寺坂