Chilli Beans. 撮影=ハヤシマコ
2019年の結成以降、SNSを中心に人気が高まりSpotifyのバイラルチャートで楽曲「lemonade」(2021年)が1位を獲得するなど、若手バンドのなかでも「ネクストブレイク」の最有力候補として名前が挙げられている3人組、Chilli Beans.。海外のポップミュージックからの影響を多大に感じさせるメロディに遊び心満点の日本語詞をまじわらせた楽曲を次々と発表している。そんなチリビの1stデジタルシングル「アンドロン」が11月24日(水)に配信リリースされる。「lemonade」に続いて共作でクレジットされているのは、ヒットメイカーのVaundy。今回は恋愛をモチーフに、立ちはだかる壁を打ち破ろうとする女の子の気持ちを描いた同曲について、メンバーのMoto(Vo)、Maika(Ba.Vo)、Lily(Gt.Vo)に話を訊いた。
Chilli Beans.
――11月リリース「アンドロン」もいろんな人のもとに届きますね。ちなみにこの「アンドロン」というのは聞きなれない単語ですが。
Moto:パッと浮かんだ言葉なんです。「アンドロン」の「アン」は、「unlove」のアン(un)みたいなもの。ドロン(=なくなる)しない恋、というテーマと意味合いです。
――歌詞には<バルトサーダン>というこれまた聞きなれない言葉が出てきて、それが恋の敵として登場しますね。
Moto:「バルトサーダン」も造語というか、私が作り出した架空の敵です。悪魔と天使が自分のなかに共存していて囁いてくる……みたいな話がありますよね。この曲で言うと「好きな人のところにいきたいのに、バルトサーダンが邪魔をしてくる」という感じで。
Maika:私も最初、「バルトサーダン?」と思って検索しました。
Lily:そうそう。「自分が知らないだけかな」と。で、「バルトサーダンってなに?」と聞きました。
Maika:何なのか分からなかったけど、言葉の語呂がおもしろくて使いました。「シェキララ」(2021年)という曲のタイトルも造語なんですけど、やっぱりそれも語感が楽しくて。「アンドロン」もそんな感覚がありますよね。
Lily:あと「アンドロン」はMotoが中心になって作った曲なんですが、パーソナルなところにちょっと踏み入れることができた気がします。
Maika:Motoが作りたかった世界観をチリビで表すには一番良い感じの曲。楽器隊もパンチの効いたリフがあったりして。「ここにそんなにゴリゴリのリフを持ってくるのか」という。それらがまじわっていて、個人的にもすごく好きな一曲です。
Moto:歌詞やメロディはポップな雰囲気だけど、リフなんかは実はすごく騒がしさが出ていて。作りたい世界観が出来上がりました。
Maika
――みなさんは実際「自分にとって乗り越えるべき敵」みたいなものはありますか。
Moto:いると思います。例えば何かを言われて、それが自分とは意見が全然違ったりすると衝突が生まれますよね。分かり合いたくてもそれができなかったとき、「あー」という感じで曲にしちゃうときがあります。だから、「乗り越えるべき敵」という意味では、すべての人がその対象になる。あと、誰かに言われたちょっとした言葉から、いろいろ想像を膨らませて歌詞にすることもあります。
Maika:私も特定の誰かはいないんですけど、でも人と接するなかで違和感を持つことは当然あります。「It’s ME」(2020年)なんかは、「言われた通りにやっておけばいい」と言われたことへのモヤモヤから歌詞が膨らんでいきました。そうやっていろんな感情をガチャガチャと漁って曲にしていきます。
Lily:私の場合は、乗り越えるべきものは自分なんです。いつも自分目線でしか世界を見ることができなくて、それがつらいところでもあるんです。毎回、そういう考え方みたいなものと闘っています。どうやってそれを乗り越えたら良いのか、そして着地点はどこにあるのか全然分からないんです。
Moto
――「アンドロン」は、好きな人に近づきたいけれど自分に自信がなくて、「あんな人みたいになりたい」と他人と比較してしまうという内容でもあります。比較を意味する歌詞として<タラバガニとカニカマ>が出てきたりして。
Moto:障壁や障害は、人間関係のなかで生まれることが多いですよね。だからつい、誰かと見比べて「あんなふうにうまく喋れたり、積極的になれたら良いな」と羨ましくなっちゃう。だけどそういう本音はみんな、誰にも言いたがらない。その胸の内にあるものをあえて曲としてポップに人に聴かせたかった。私自身を重ねたわけではなく、ひとりの女の子にそれを当てはめました。
――ちなみにみなさんは、他人と自分を比較することはありますか。
Moto:比較することはそれほど多くないんですが、ただ「この人になりたい」という理想の部分では、YUIさんに憧れていました。YUIさんはシンガーとしてちゃんとメッセージを相手に伝えることができる方なので「YUIさんになりたかったな」と。
Maika:私は結構、人と自分を比べてしまう性格でした。自分が歌詞を書いた「This Way」(2020年)の頃は、特にそういう時期でした。もともと周りに話を合わせるタイプで、自分のなかに軸はあったけど、それをはっきり見せるわけでもなかったから。ただ、「This Way」を書いたことで「自分の道を進めば良いじゃん」と考えられるようになったんです。
Lily:私は、幼いときは姉と常に比較されていました。姉は勉強もスポーツもそれとなくできて、交友関係も広く、自分とは正反対だったから。無意識に姉と比べたりして勝手に落ち込んでいました。そして必死に追いつこうとしていました。ただ音楽に出会ってから、やっと自信が持てるようになったんです。音楽のおかげで自分が出来上がっていきました。
Lily
――「アンドロン」ほか、今年8月リリースのEP「d a n c i n g a l o n e」に収録されている「シェキララ」「lemonade」など近作は、強烈かつ過剰に愛情を欲している感がありますよね。2020年春の「This Way」では、「ひとりが良い」と歌っていたのに。この約1年でグループの何が変化してそういった心情表現になったのでしょうか。
Moto:もともと、いきすぎちゃっている過剰な表現が好きなんです。しかもコロナ渦でそれぞれの孤独感が浮き彫りになったことで、余計にいきすぎた表現をしたくなったのかも。「シェキララ」や「Digital Persona」(2021年)はまさにコロナ禍、リモートで制作を進めていたからそういった部分が出ていると思います。
Maika:ただ、「アンドロン」や「シェキララ」と「This Way」も、一転した楽曲のように見えて実は表裏一体なのかもしれない。どちらもチリビなんですよね。ものすごく何かを求めたい自分と、放っておいてほしい自分。だって「ひとりになりたい」と思っても、いざそうなると寂しくなったりして「誰かにそばにいてもらいたい」と天邪鬼になることってありませんか? だからまったく違う一面を歌っているように見えて、同じテンション感でベクトルがちょっと違うだけ。心情がはっきり変化しているわけではないですね。
Lily:私はステージに上がるとコントロールできない感情がわき出てくるんですが、それをパンキッシュに爆発させるのが好きなんです。だから確かに、いきすぎた表現は好きかもしれません。あと過剰さって人間味を感じる。それを隠す必要はないですよね。これからもバンドとして、ステージの上ではそういう可能なものをどんどん出していきたいです。
Chilli Beans.
取材・文=田辺ユウキ 撮影=ハヤシマコ