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ReoNa 久々の全国ツアー『”These Days”』過ぎ去った絶望も、新しい悲しみも内包する“お歌”の力

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撮影=平野タカシ

2021.11.22(Mon)『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2021 "These Days”』@中野サンプラザ

※編集部注 掲載時セットリストに一部誤りがありました。お詫びして修正させて頂きます。

「この日」がついにやってきた。

ReoNaにとって約2年ぶりとなる全国ツアー『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2021 “These Days”』が11月22日の中野サンプラザでファイナルを迎えた。

10月14日のKT Zepp Yokohamaを皮切りに、全国七カ所を回ってきた彼女が東京に戻ってきた。会場はソールドアウト。会場に入った瞬間からグッズ販売所も含めてファンの熱量が素晴らしく高い。今回のタイトルとなっている「These Days」は世界的ロックバンド、ボン・ジョヴィの6枚目のアルバムタイトルでもある。開演までの時間も会場内にはボン・ジョヴィの楽曲が流れ続ける。客電が付く中、バンドメンバーが静かにポジションに付く。派手なSEがあるわけでもなく、無音の中照明が消される。そっとステージの真ん中に立ったReoNaがスタンバイされ、ツアーファイナルのステージが始まる。

一曲目は「ピルグリム」。旅立ちの歌が、ミラーボールの光の中奏でられる。始まりは終わりへのプレリュード。円環のように回るお歌の世界がその豊かな歌声とともに開幕した。

続く「forget-me-not」では、発声禁止の客席の代わりのように照明が大きく回っていく。コールが出来なくても心の声は聞こえていると言わんばかりの演出。初日の横浜も観覧したが、ReoNaの歌声は確実に伸びやかになっている。勿論ツアーを通して歌い続けていたこともあるとは思うが、やはりアーティストはステージに立ち続けることで成長するのだということを実感する。

蠱惑的なイントロから始まる「ないない」はバンドサウンドによってどこか生々しくも聴こえる。有機的な、まるで脈動するように唸るリズムの中で、ReoNaは緩急をつけつつ歌い上げていく。続く「Scar/let」では一転、鋭く強い音が直球で投げつけられる。そこから一呼吸の間も置かず、彼女の代表曲である「ANIMA」に繋がっていく。

Aメロでは客席から手拍子が巻き起こった。声が出せなくても思いは届いている。この曲を最大限に楽しんでいる、というのがひしひしと伝わる強いクラップがReoNaを鼓舞するように響く。既にライブやイベントでも何度もこの「ANIMA」を聴いているが、難曲であるがゆえにReoNaの成長を感じられる一曲だと思う。歌の緩急、メッセージを乗せる表現力、リズムやピッチ……初めて生で聴いた時とは段違いのパフォーマンスは加速していく。

「自分の心に蓋をしてしまった事ありませんか?」

そんな問いかけから奏でられたのが「unknown」。名もなき絶望に、名もなきお歌で寄り添えますように、と願いを込めた一曲はそこまでの激しさと対象的に優しく響く。

今回のステージはReoNaを含むメンバーが、それぞれ独立した高さの違う島のような舞台で演奏する形になっていた。それはまるで人それぞれの孤独を表しているようだ。同じ舞台で表現を繰り広げている仲間でも、人としては独り。そんな触れ合えない、寄り添えない寂しさはReoNaの絶望系アニソンシンガーとしての深層心理を表しているように感じた。

「あなたらしく生きられないとしたら、それは優しいあなたのせいじゃない」

そう語りかけてくるお歌が、それでも生きていく僕らを繋いでいる気がする。ステージはそれぞれ独立していても、そこから発せられる音楽がお歌として一つになる。孤独だけど孤独じゃない。彼女が寄り添う“名も無き絶望”へのアンサーがそこにあった。

「長い歴史を誇るFateシリーズ…」その言葉がReoNaから語られる日が来た。『Fate/stay night [Realta Nua]』OPテーマ曲である「黄金の輝き」のカバーverが披露される。主題歌コンピレーションアルバム『Fate song material』に収録されたものだが、ReoNaの単独ライブで歌われることは原作ファンからするとなかなかに感慨深い。そしてこれは新たな扉を開く鍵でしかない。

TYPE-MOONの原点である『月姫』のリメイクである『月姫 -A piece of blue glass moon-』の楽曲をReoNaが全て担当した事は今年のアニソン界の大きなトピックの一つであったが、念願のツアーでこの楽曲たちが全て披露されたのだ。

タイトル曲である「生命線」から始まったこのセクションは、演出も特に力が入っていたような気がする。荒幡亮平のピアノが静かに『月姫』のテーマソングでもある「月下」のフレーズを奏でだし、舞台奥に巨大な満月が映し出される。静かに、そして激しくステージを彩るレーザーの表現も全開だ。まさに『月姫』の世界をそのまま表現したようなステージング。

続く「Believer」も、これからのReoNaのライブの中核を担うであろう強力な楽曲。深い水の底から湧き上がってくるような感情を内包した「Lost」も情感たっぷりに披露するReoNaは、気が付けば本当にホールが似合うアーティストになった。ライブハウスの真ん中で居場所を探していた少女が、今は2000人の前で堂々と立っている。

「生命線」と対を成すような色味を持つ「ジュブナイル」はReoNa的世界観と『月姫』が融合した一曲。改めて楽曲を噛み砕くと、ReoNaの曲は本当に緊張と緩和、興奮と集中のバランスが上手いと感じる。熱量高いサビが来たと思ったら、次の瞬間はピアノと声だけのパートになったりと、一瞬も気が抜けない。なのでファンはその言葉、メロディに集中せざるを得ない。コンポーザーである毛蟹や傘村トータ、言葉を紡ぐハヤシケイの妙腕だ。

怒涛のこのパートが終わった後に満足げに「私はアルクェイドが好きです…!」と少し胸を張るようにMCしたのも、彼女の可愛らしさが垣間見える一瞬だった。

バンドメンバーを紹介しつつも繰り広げられたMCでは、ギターの高慶”CO-K”卓史が両手いっぱいの紙袋に芋けんぴを持って楽屋入りした話などで温かい空気感を作る。こういうMCパートが挟めるようになった事も含めて、いい意味で肩の力が抜けてきた気がする。その空気を持ったまま展開された「あしたはハレルヤ」はほんの小さな絶望の話。マクロからミクロまで、人の中にある淀みをすくい取るような音楽を彼女は歌う。

圧巻だったのは「まっさら」から続けて披露された「生きてるだけでえらいよ」の展開だった。個人的に「まっさら」という楽曲は今のReoNaが持つ、絶望に対するアプローチのマスターピースだと思っている。

後悔ばかりでも構わない、私は、貴方は、私達は今日も生きていく。

絶望を奏で、その悲しみに寄り添い続けようとする彼女が全身からエネルギーを放出しながら歌い上げる人間賛歌は、この日一番かと思うほどの熱を感じる一曲だった。そしてそんな賛歌から続いたのが荒幡亮平のピアノ伴奏だけで訥々と歌われる「生きてるだけでえらいよ」。

先述の「unknown」もこの「生きてるだけでえらいよ」も共に傘村トータが担当した楽曲だが、この傘村トータとReoNaの邂逅というのも、彼女のキャリアの中でとても大きなエポックメイキングなのではないかと思っている。

傘村トータが担当する楽曲の世界観は恐ろしく日常に沿っている。「生きてるだけでえらいよ」は自転車にぶつかりそうになった少女(明確に少女という記述はないのだが、僕はどうしてもこの楽曲の主人公は少女だと感じてしまう)から始まる。世界を変えるような大きなことも、歴史の裏で行われる戦いもない。ただ日々辛いと感じてしまう主人公が、ちょっと人の思いやりに触れたというだけの話。「なんだ、そんな話か」という人もいるかもしれないが、彼女にとってはそれは生きている中のほぼ全てを占める絶望なのだ。

喜びも悲しみも普遍的なものではなく、人それぞれに相対性があるものなのだとこの切なく美しいメロディが改めて気付かせてくれる。この世界観を共有して音楽に昇華できる傘村トータの存在は今の、これからのReoNaに必要なものなのだと強く感じる。

デビューから歌い続けてきた「トウシンダイ」の一歩踏み出した主人公の造形も、今のReoNaの歌唱力では更にその姿が浮き彫りになる。歌で歌われるだけのキャラクターが血肉を持つような感覚。ReoNaが歌う“彼女”たちが、ささやかでもいいから幸せを感じられますように。無人のスポットライトと共に歌われるお歌を聴きながら、ただそれを願った。

「辛い時、辛いと言えたらいいのにね」

たった一言のMCから届けられたのは「決意の朝に」。今回のツアーでも歌い続けてきたAqua Timezの名曲のカバー、ライブも最終盤でこの明日への一歩を感じる一曲は、どこか成長を感じるとともに力をくれるようでもある。

「todayでも、this dayでもない、These Days」

そう言ったReoNa。These Daysは直訳すれば「最近」や「近頃は」という意味だ。過去と比較した現在。絶望を受け止めそれでも歩く彼女からしたら、日々は常に前に進んでいく“この日”の積み重ねなのかもしれない。ライブの最後はReoNaにとって大切な一曲、始まりの「SWEET HURT」。

「近頃は」という進化を得ても、超えてきた日々を忘れないように、過ぎ去った絶望も、新しい絶望も抱えて歩けるように。前よりも豊かに響くそのお歌にはアンコールはない。満面の笑みを浮かべてステージを去ったReoNaは振り返ることもない。今日というThese Daysは終わったのだ。

規制退場を待つ間、客出しのBGMとしてボン・ジョヴィの「These Days」が流れていた。ぼんやりとその楽曲に耳を傾ける。

全体的に悲観的に感じるその歌詞のサビでは、こう歌われている。

「These ain’t no time to waste, These ain’t nobody left to take the blame」

(無駄にできる時間はない、それを誰かのせいにも出来ない)

来年春から全国アコースティックコンサートツアーである『ReoNa Acoustic Concert Tour 2022 “Naked”』を開催することも発表したReoNa。彼女の新たなThese Daysはもう始まっている。

レポート・文=加東岳史 撮影=平野タカシ

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