椎名慶治
再来年25周年を迎える音楽ユニットSURFACEのボーカリストとしてもお馴染みの、アーティスト椎名慶治。ソロアルバム『and』リリースに若手ミュージシャンと作り上げた新たな形でのライブと、コロナ禍においても歩みを止めず、模索し続けたソロデビュー10周年だった。そんな2021年の集大成として、久々の大型ライブハウスでの有観客ワンマン公演『4 now and 4ever 2 U +1』開催を選択した椎名に、今の想いを存分に語っていただいた。
――コロナ禍で思うように活動出来ない中でも、配信ライブに最新アルバム『and』のリリース、そしてリリースツアーと精力的な活動を見せてきた椎名慶治さん。年末ライブも控えた現在、2021年を振り返っていかがでしょうか?
新型コロナが蔓延していく2020年には、「2021年には収まっているだろうな」と何の根拠もない楽観的な考えだったのですが。2021年も終わろうとしている現在もまだ収まったわけではないというのが、まず予想外でした。2020年12月30日の誕生日には、感染予防対策もしっかりする中で有観客ライブを行ったんですが。その翌日が2020年で最も感染者数の多い日で。そんな中でライブをやってたんだと思ったらゾッとしましたし、みんなにリスクを負ってもらっちゃったなと、本当に申し訳ない気分になりながら2021年を迎えて。2021年はどんな年になっちゃうんだろう? という不安を抱えて始めた中で決めたことは、「もう一度、無観客でライブをやろう」ということだったんです。そこで上半期は無観客での配信ライブを何度かやりまして。
――当然ながら、「足を止める」という選択肢はそこに無かったんですよね?
無いです。足を止めるのは簡単だけど、止めたら動かし始める時がすごく大変だし、そんなことしていたらあっという間に誰もいなくなってしまうんです。ネット社会になって、たくさんの情報が溢れる中、僕以外にも素晴らしい音楽をやっているアーティストは山ほどいる。そんな中で、椎名慶治を忘れさせないためにも、動き続けていなきゃいけなかったし。逆に言うと「動かなかったら終わる」という恐怖心もありました。
――2021年は椎名さんにとっては、ソロ10周年の記念すべき年でもありました。今だから言えるってところで、10周年に向けて予定していたプロジェクトもあったんですか?
本来予定していたツアーがあって、会場も抑えていたんですけど。「“延期”という形で先延ばしにさせてもらっているらしい」というのは、会社から聞いてます。それを僕に伝えて、変なプレッシャーは与えるようなことはしないですけど、会社はそういうのもいっぱい抱えてるみたいです(笑)。だから、僕が動いて出来ることはなるべくやりたいなと思ってて。それが実現すれば、2022年はライブもたくさん出来ると思います。
――逆はどうですか? こういう状況だからこそ成し得たことはありました?
それは即答で配信ですね! ただ、ライブって僕だけじゃなくて、誰もがしくじるものなんですが。それが生だけでなく、アーカイブで残る。これが残酷なんですよ。生でしか観れないならいいですけど、それが一週間晒されますからね(笑)。ま、僕の場合は「あ、椎名が間違えた。私、ライブに来てるんだ」と思ってもらえるキャラだから、恥も晒しながらやっていきましたけど。色んなトラブルとも闘いながら、配信ライブをやって来れたのは、こういう状況だからこそですよね。
――そこで改めて、有観客ライブの良さやありがたさに気付ける部分もありますしね。
まさに。どんなに声が出せなくても、有観客の方が絶対上ですからね。専門的な話になるんですけど、ライブのリハーサルを会場で行う時、お客さんがいない会場で音を作って、本番に臨むんですけど。無観客の場合は、本番とリハの音が一緒なんです。それがお客さんが入ると、どんな音になるか読めなくて、第一声からめちゃくちゃ歌いづらかったりして。それはお客さんが音を吸って、音が返って来なくなるから起きることなんです。でもそれって、お客さんが体全てで浴びてくれてるということでもあって、それを実感することが気持ちいいんです。「そこに人がいる、音を浴びてくれている、だから音が変わった」というのがライブの醍醐味だし、ここにいる人にダイレクトに自分の感情を乗せられたんだなと思うと、それに敵うものは無い。だから有観客でライブをやって、こういう状況下でリスクを背負ってでも会場に来てくれる人には、本当に感謝しているんです。
――無観客の方が完璧に近いものを届けられるけど、そこにはどこか物足りなさがあって。有観客だと歌いづらいけど、お客さんが与えてくれるそれ以上のものがあると。
そうなんです。歌いづらくなって喜んでるという矛盾はあるんですけど、お客さんの拍手、手拍子、そして熱を感じるだけで、「ライブやってるな!」と感じることが出来るし、“ライブ=生きる”ということを感じられるし。配信を経たからこそ、久々の有観客ライブには思うところが色々あったんです。
椎名慶治
――いい話です! 色々と規制がある中ではありましたが、秋に全国6箇所のツアーを回っての感想はいかがでしたか?
やっぱり各所で空気が違って、スロースタートな所もあれば、声も出せないのに最初からすごく盛り上がる所もあって。東京以外のライブは2年ぶりだったので、ライブをやりながら「あ、名古屋ってこうだったよな」と思い出したり。長い移動から家に着いた時の「疲れてる、俺!」って感じからも、ツアーを回ってる感慨深さを感じたし。今回のツアーは週末だけだったので、積み上げて重ねてきたものではなく、毎回忘れかけてるものを取り返すような形だったので。いつもメンバーと新鮮な気持ちで出来たというのも、ありっちゃありな気がしましたね。いつも発見があったし、同じ所でトチったし(笑)。久々のツアーをすごく楽しく回ることが出来ました。
――今年リリースした最新アルバム『and』を掲げてのツアーでしたが。ツアーを回って、『and』はどんなアルバムだったと思いましたか?
いままでと違った毛色の作品を作ろうという気持ちで作ったのが今作で。いまSURFACEがいるからこそ、新たな一歩を踏まなきゃいけないというのをすごく気にして作ったアルバムだったんですが。いざライブをしてみたら「大して差がないな」というのが本当のところで、「俺は俺なんだな」というのを改めて感じて。神経質にストイックに考えた割には、答えを出してみたらあまり変わらなかったです、いい意味で(笑)。
――ツアーでは『and』の新曲たちをメインにセットリストを組んでましたが、後半はライブ定番曲が並んでエンディングに向かっていくという流れもすごく自然でした。
僕も自分でやってて違和感を感じなかったので、心配しすぎたかな? というのはありましたね。だから、次はもっと自由に作ってもらしくなるから、気にせずになんでもやれよという気持ちにはなったし。いまは次の作品制作に対する不安感は無いですね。
――今回は若いメンバーを揃えて、すごくフレッシュで勢いのあるバンドサウンドを聴かせてくれて。『and』の作品世界をしっかり表現しながら、ライブ仕様になった演奏にすごく驚いたんですけど。椎名さんが歌い出すと結局、椎名慶治オンステージになっていて。椎名さんのスターぶりになにより驚かされました!
ありがとうございます。自分も年を重ねてきて、変わらず年上のメンバーと一緒にやってたら、「いぶし銀だね、渋いなぁ!」というライブになると思うんですけど、『and』ってそういうアルバムじゃないなと思って。共同プロデューサーの宮田’レフティ’リョウに「メンバーを紹介してくれ」ってお願いして、20代30代の僕より若い奴らと一緒にやって。例えば、サトウカツシロという27歳のギタリストと演って、ソリッドでエネルギッシュで荒々しい感じが出ると、僕もそこに引っ張られて若くなるんですよね。だから、いまは『もっと若いヤツとやりたいな』と思うようになっていて、10代と演ってみようかな?とも思ったりしてるんです(笑)。世代が違うとやっぱり間の取り方や感覚も全然違って、「俺だったらこうだ」っていうのが全然通じなかったりするんですが、それがすごく面白いなと思ったし。もっと、若いヤツらと演ってみたいという気になりました。
――新しい自分、新しい可能性を追求して、ツアーでその答えやさらなる意欲を生み出して。お話を聞いてるとコロナ禍でも、この一年でグッと前に進んだ感がありますね。
そうですね、そこは周りの環境にもすごく感謝しています。緊急事態下でもツアーをやらせてくれたスタッフにも感謝してますし、ファンにも感謝してますし。ツアーが終わって何週間か経ちますが、ライブで感染者が出たという話も聞いていないのでホッとしていて。今年の経験はいまだけでなく、今後に必ず活きてくる経験だったと思うし、小さなことじゃビクつかなくなったと思うし。活動を止めずにやって来て良かったですね。
椎名慶治
――“SURFACEと椎名慶治ソロの両方がある現在”というところでは、SURFACEとしての椎名さんとソロシンガーとしての椎名さんってところでの在り方で、なにか変わったことや分かったことはありましたか?
それは確実にあって、言葉にするのが難しいんですけど、勝手にスイッチが変わるんですよね。例えば、地元が地方にある人が東京で標準語を話してても、地元に戻ると自然と方言が出るみたいなことが起きるんです。だからSURFACEにいると、SURFACEの椎名慶治になるってことは絶対あるんですけど、それを言葉にすることは凄い難しいです。
――『and』を作る時、「両方がある現在だからこそ、明確な違いを出したくて、宮田’レフティ’リョウに共同プロデュースを頼んだ」と話していました。
はい、それはありました。ソロとの一番の違いは横にギタリストがいるか? なので、『and』を作る時はそこを凄く意識したし、レフティに頼んだところで。「ギターを立てずにカッコいいものが作れるなら、ギターレスになっても良い」と最初に言ったんですが。SURFACEのギターの永谷喬夫という人間は、ギターを前に立たせようという気のない人間で、あまりギタリストらしくないというか(笑)。昔のエピソードなんですけど、「この曲がシングルになります。テレビに出ることがあるかも知れません」と言ってるのに、「ギター無しでいいですか?」って言ったこともあったくらいで。
――あはは。二人でSURFACEなんだから、横でギター弾いて欲しいですよね(笑)。
それくらい、ギターを立たせる気持ちのないギタリストなので。そことの区分けがすごく難しいんですが。ギターを立たせるというのを僕が意識しているので。SURFACEでやる時は、「ギターをどうにか目立たせたい」という気持ちは常にありますね。「ギターソロを弾かない」とか言い出したら、「ソロを弾け!」って命令したり。言葉を選ばずに言うとね、ウチの相方はめんどくさいんですよ(笑)。そこのめんどくささを手綱を引いて、僕が誘導するのがSURFACEの面白さだと思うんですけど。
――それは面白さなんですね、わずらわしさでは無くて(笑)。
いや、そりゃわずらわしいですよ!(笑) でも、それがSURFACEだと思うし、そうやって二人で出来た曲を聴いて「わ~、SURFACEだ!」とみんなが思うのも、そこから始まってるんです。僕が手綱を引かなくなったら、サポートギタリストでしか無くなっちゃいますから。このわずらわしさがSURFACEの音楽を生んでいると信じてます。
椎名慶治
――いや、凄く良い関係性だと思いますよ(笑)。そんな椎名さんは12月には大阪、横浜でのワンマンライブ『4 now and 4ever 2 U +1』が控えています。どんなテーマで、どんな内容のライブになるのでしょうか?
大阪がクリスマスのタイミングで、これまでなかなかクリスマスにライブをやることが無かったし。東京はバースデーライブなので、なにか特別な演出を考えようと思ったんですけど、やっぱり違うなと思って。そこはあまり考えずにセットリストを考えようと思っているんですが。今回、サポートに僕が1stツアーを回った時のメンバーが再集結するので、僕はそれだけでもワクワクしているんです。当時はYUIがボーカルのFlower Flowerもまだやっておらず、藤井風のサポートもやっていなかった、佐治宣英がドラム。当時から人気絶頂でいまも陰りを見せない、スーパーベーシストの山口寛雄がベース。ゆずやflumpoolのバンマスも経た磯貝サイモンが鍵盤&ギター。そして僕の1stアルバムから支えてくれている重鎮、友森昭一がギターで参加してくれて。最強メンバーが7年ぶりに集まったので何をやっても正解だと思うし、自分がこのメンバーでやって楽しいと思うセットリストを組みたいと思っています。
――椎名さんがこのメンバーでやりたいことを形にしたら、きっとお客さんが観たいもの、求めるものになるでしょうしね。
大きなズレは無いと思います。今回、マニュピレートと言われる機械仕掛けのものが無いので、そこにいるメンバーの音以外は出てこないので。「これで『and』の曲をやったら、どうなるのか?」とか、メンバーに無理難題も言ってみようと思ってて。生音だけでは再現不可能なものをやらせて、「なんだよ、この曲!?」ってファンを驚かせる。で、俺は一切責任を取らないということも考えています(笑)。
――わはは、楽しいですけどイジワルですね!(笑)
だから、どんなライブになるのか? 僕自身もすごく楽しみです。で、大阪は配信を予定してないんですけど、横浜は配信する予定で。大阪も横浜も同じセットリストなので、観る人には「大阪どうだったの?」じゃなくて、「大阪もこうだったんだ」って安心して欲しいんです。大阪でも横浜でも配信でも、ひとつでも観れれば体感出来るものにしたいなと思って。それがやるべきことなんじゃないかと思っています。
――では2021年をたっぷり振り返ったところで、2022年の予定や目標はいかがですか?
2022年上半期はバッチリ決まってて、ライブが結構ありますというのは確定事項としてあります。下半期は少しゆったり進んでいくところがあって、表立った活動よりも作品作りをしっかりしていかなきゃいけないのですが。作品作り=リリースということではなく、再来年がSURFACE25周年になるので。そこに向けて水面下で動かなきゃいけないこともあると思います。その中に対バンだったりとかイレギュラーなものが入ってきたら受けたいと思ってますし、きっと楽しい年になるんじゃないか? と期待しています。
――ソロもやりつつ、SURFACEの25周年に向けての仕込みも始まって。今年以上に2軸で動いていくことにもなりそうですね。
ホントですね、めんどくさいですよね(笑)。でも、わずらわしいのがSURFACEですから。二足のわらじで変わらずやるので、どちらも楽しみにして欲しいです。
――あと、ライブに行きたくても行けない人、医療従事者の方であったり、仕事や家族の関係で行けなかったり、事情を抱えた人もたくさんいますから。来年は状況が良くなって、みんなが安心してライブを楽しめる状況になると良いですね。
本当にそうだと思います。医療従事者の方もファンに多いのは僕も見えているので、「私たちでもライブに行っていいんだ」と安心して来れるような日が一日も早く来ることを願ってますし。きっと来るでしょう! と思ってます。みんなで楽しい年にしましょう。
取材・文=フジジュン 撮影=大塚秀美
椎名慶治