Uniolla
“ド新人バンドだもの”
Uniollaの首謀者、深沼元昭(Gt)はそう言った。
いや、真の首謀者は、KUMI(Vo)なのかなという気もするが、ともあれ、LOVE PSYCHEDELICOのKUMI、自身のバンド、PLAGUESやソロプロジェクト、Mellowheadに加え、LOVE PSYCHEDELICOのサポート、佐野元春&ザ・コヨーテバンドのメンバーとしても活躍している深沼。さらには深沼と多くの活動を共にしているTRICERATOPSの林幸治(Ba)。深沼がプロデュースしたバンド、Jake stone garage(活動休止中)の岩中英明(Dr)。それぞれにキャリアを持つ4人がUniollaなる新バンドを組んで、謙遜でも何でもなく、本心から“ド新人バンド”と言うんだから、まっさらな気持ちでバンドに取り組んでいることが窺える。
そもそものスタートから4年。そのUniollaがLOVE PSYCHEDELICOのプライベートスタジオ「Golden Grapefruit Recording Studio」でレコーディングエンジニアとして参加したLOVE PSYCHEDELICOのNAOKIとともに作り上げたセルフタイトルの1stフルアルバムは、バンド自ら掲げる“大人のガレージ・バンド”という言葉がふさわしいポップロック作品だ。キーボードにザ・コヨーテバンドで深沼と活動を共にする渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)を迎えたその1stアルバム(深沼とKUMIはギター以外の楽器も演奏している)を聴けば、4人がどんな気持ちでレコーディングに臨んだのかが想像できる。そして話を聞いてみたところ、実際、4人の口から出てきたのは、“ド新人バンド”らしい、わくわくするようなエピソードばかり。メンバーの年齢やサウンドは“大人”だが、気持ちはロック少年、ロック少女のままらしい。
この顔ぶれで、いかにもいわゆるスーパーバンドみたいにならなかったところが個人的にはうれしい。4人にとって音楽がどういうものなのかがわかるではないか。音楽の世界でバンドこそが一番尊いものだと考えている筆者は、4人の話を聞きながら、終始、うらやましいと思いながら、4人の楽しさを追体験しているような気分だった。
“(バンドの)ロゴステッカー貼っちゃおうかな!”と深沼は言ったが、30年のキャリアを持ちながら、この言葉はなかなか言えないと思う。
メンバー4人が顔を揃えた貴重なインタビューを、ぜひ楽しんでいただきたい。
――12月7日、8日、10日と東京、大阪、名古屋で開催するツアーのリハーサルは、もう始まっているんですか?
林幸治:まだ始まってないんですけど、今度(11月22日に)やる配信ライブのリハーサルがけっこうたくさんできて、そこではすでにみんなツアーのことも意識していたと思います。レコーディング以来、そこで初めて演奏したんですよ。
深沼元昭:けっこう時間かけてやれたよね。配信ライブのサウンドエンジニアもNAOKI君ってこともあって、相当シビアな環境でやったから、うん、疲れましたね(笑)。
林:ハハハ。
深沼:だって、ろくにリハもやっていない曲を、すっごいシビアな音で、みんなが見ている前で演奏するわけだから、“あ、やっぱりこれ、もうちょっとちゃんとやっておかないと”みたいな感じになるじゃないですか(笑)。でも、すごく楽しかったです。Uniollaを始めたものの、コロナ禍だから、そんなに頻繁には集まれなかったんですよ。だから、集まれる時は常に貴重な時間だと思ってて。あと、「A perfect day」のMVの撮影の前に、ね。
岩中英明:あぁ、はい。そうでしたね。
深沼:街のちっちゃいスタジオに集まって、ちょっと音を出したりして、1回1回をかなり大事にね。だから、ちゃんと目的があって、集まっているんですけど、いつも単純に楽しいっていう(笑)。バンド(でやる)演奏、楽しいって思いました。
――みなさん、それぞれにキャリアを持っていらっしゃるじゃないですか。でも、“リハなんてしなくなって全然大丈夫だよ”とはならないわけですね?(笑)
林:全然ならないですよ。
深沼:だって、ド新人バンドだもの(笑)。Uniollaのノウハウは何もないですからね。
――あぁ、ノウハウが。
深沼:人前でやったことがないわけだから。
KUMI:バンドの呼吸感とかあるからね。同じテンポでも、こういうリズムで来るんだとか、こういう音色で来るんだとか、そういう感覚をね、まず掴まないといけない。でも、それがすごい新鮮なんですよ。
岩中:新鮮ですね。深沼さんと林さんとは俺、前にやったことがあるんですけど、KUMIさんとは今回初めてなんですよ。だから、ほんと、KUMIさんが言ったようなことは俺も思いました。KUMIさんってこういうリズムなんだって。
KUMI:音源を聴いているだけじゃわからない。やっぱり演奏しないとね。
岩中:実際、合わせてみてわかるっていうこともありますからね。
――12月のライブ、すごく楽しみにしているんですけど、アルバムの全11曲だけだと、曲数がちょっと足りないですよね?
深沼:だから、新曲を書きました。
――書いたんですか!?
深沼:はい、書きました。ライブですぐやれるようにってことで、アレンジとか構成とかはその後変えるかもしれないけど、できるだけ演奏しやすいヘッドアレンジで4曲、書きました。
――4曲も。
深沼:いやぁ、打率、悪かったですね(笑)。時間をかけた今回のアルバムに比べると。とにかく作らなきゃならなかったので、16曲ぐらい作ったのかな。そこからどんどん倒れていき、その屍を乗り越えた曲を、ツアーでは何曲かやろうかなって。
■KUMIが歌っているところを想像しながら曲を書いて、それがバンドになっていく作業もとても楽しかったし、ものすごく新しいものを作れる気がした。(深沼)
――楽しみにしてます。ところで、Uniollaは元々、深沼さんのソロプロジェクト、MellowheadにKUMIさんをゲストボーカルとしてフィーチャーしたいというところからスタートしたそうなのですが、それがバンドに発展したのは、どのタイミングでどんなきっかけがあったんでしょうか?
深沼:何回かKUMIに曲を歌ってもらったら、どれもいいんだけど、他のMellowheadの曲から独立していたんですよ、響きが。どうもこの一塊りは違うという感じがして。何曲かあったから、よけいにそう感じたのかもしれないですけど、これはこれで全然違うバンドだなって思ったのが最初ですね。KUMIもそんなふうに言ってたんですよ。それで、いつも一緒にやってもらってる林君に“バンドでやろうと思ってるんだけど”みたいなことを相談しつつ、ヒデ君(岩中)にも声をかけて、1回、録った曲を流して、ドラムを叩いてもらったんです。スタジオに個人練習で入って、ね。
岩中:入りましたね。
深沼:それがすごく良かったから、KUMIにも聴いてもらって、“彼をドラムにしたいんだけど”“いいと思う”って話になって、バンドとしてやってみようってなったんですけど。Mellowheadはサウンドプロダクションがすごく凝っていると言うか、僕が1人で全部作り込んでってところが特徴なので、逆に完全に生で行こうよって。タンバリンの一振りまで生で録ろうと思って、NAOKI君に相談して、“じゃあ、ここ(Golden Grapefruit Recording Studio)でやってみよう”って今に至ります。
――生のバンドサウンドが曲にふさわしかったわけですね?
深沼:そう。最初は、うっすらそう思ってても、一応、Mellowhead feat. KUMIっていう形でやろうとしていたから、生音を使いつつ、Mellowheadっぽい感じにしてたんですけど、そういう小賢しいことをやってもあんまりいい感じに響かない。それがすごく良くなる時もあるんですけど、何をやっても蛇足になる。そんな気がしたんです。でも、KUMIもすごくバンドをやりたかったんだよね?
KUMI:バンドに対する憧れはずっとあって。NAOKIさんとずっとLOVE PSYCHEDELICOをやってきて、バンドと言えば、バンドなんだけど、2人で作った楽曲を2人では再現しきれないというジレンマがずっとあったんですよ。だから、バンドだったらいつでも、その仲間が集まったら、どこでもその音になるっていうことにずっと憧れがあって。でも、彼(深沼)と最初にやろうとなった時は、もちろんそこまで考えていたわけではなくて。私は歌を歌うことも含め、LOVE PSYCHEDELICO以外で音楽の活動をすることは初めてだったから、まずは歌ってみたいというところからのスタートでした。それで、何曲か曲をもらったら、どれもいい曲だったから、全曲歌ってみたんです。そしたら、彼のプロジェクトに私が歌だけで参加すると言うよりも、なんかバンドが見えたんですよ。だから、“バンドがやりたいな”っていう話をしたんです。
深沼:どっちかと言うと、KUMIが主張してた。“これはバンドなんじゃないの?”って(笑)。
KUMI:“誰か仲間いないの?”って(笑)。
――へぇ。KUMIさんに“バンドをやりたい”と言われたら、“絶対やりたい!”ってなりますよね。
深沼:うん、まぁ、それはやっぱりね(笑)。KUMIに歌ってもらうにあたっては、頭の中で歌っているところを想像しながら曲を書いたわけなんですけど、それがバンドになっていく時の作業もとても楽しかったし、ものすごく新しいものを作れる気がしたし。ただ、そこから時間もかかってるし、バンド名もないし、どこでどうやっていくのかもわからないから、まずは自分が一番信頼できる仲のいいメンバーに相談してみようって思いましたね。
――それで林さんと岩中さんに声をかけたわけですね。深沼さんがMellowheadにフィーチャーするつもりでKUMIさんに歌ってもらったのは、いつだったんですか?
深沼:17年か18年かな。LOVE PSYCHEDELICOでサポートギターを何回かやった後だったから。
KUMI:みんなそれぞれに活動があったから、そんな話はしつつもすぐにバンドになったわけではなく、ちょっとずつバンドになっていったって感じでしたね。
――林さんと岩中さんは最初、声をかけられたとき、どんなふうに思ったんですか?
林:深沼さんのプロジェクトでは、僕がベースを弾くことが最近多かったので、“いいですよ”って即答しました(笑)。ただ、バンドって言ってたから、どうなっていくのかなっていうのはありましたけど、おもしろいからやってみようって。全然何も決まってなかったんですよ、その時はまだ。どこから出すのかも決まってなくて、“とにかく録ってみようよ”って言われたんですけど、LOVE PSHYCHEDELICOのスタジオで、NAOKI君がエンジニアやるなら、もうぜひって思いました。普通、レコーディングにはスタジオとプロのレコーディングエンジニアさんが必要ですけど、LOVE PSYCHEDELICOの場合、自分たちでできちゃうんですよ。スタジオもあって、そのスタジオにはミュージシャンが普通持っていないような機材も揃っていて、それをNAOKI君が操作してやるっていう。だから、最初の段階では、レコード会社の人もいなくて、僕ら4人とNAOKI君だけ。そのミュージシャンだけで作っているって感じが、すごくおもしろくて。
KUMI:そうか、それは特殊と言えば、特殊なんだね。
林:なんだか部室にいるみたいな感じと言うか、単純に楽しんでやってました(笑)。
深沼:いわゆるプロのレコーディングとは時間の流れ方が全然違うよね。普段は、みんなもっと効率優先でしっかり短い時間でちゃんといろいろなことをやるけど、全然そういうのとは違って、まずNAOKI君がマイクをどう立てるか考えるところから始まるんですよ。
林:普通のレコーディングだと、スタジオ代がかかってくるから、そんなにやってられないんです。しかも、エンジニアさんにはそれぞれに自分なりのセッティングもあるから。
深沼:迷ったら2本立てて、後から選ぶ、というのが一般的なんだけど、NAOKIくんは最高のチョイスで選んだマイクをここしかない!という場所に立てるまで探し続ける(笑)。
林:リリースも決まってなかったからたっぷり時間をかけて、昼の12時ぐらいに入って、ドラムのセッティングを夜の8時ぐらいまでやるみたいな(笑)。
KUMI:ドラムのセッティングが一番時間かかるんだよね(笑)。
岩中:すっごい時間がかかった記憶がある(笑)。
KUMI:びっくりしたでしょ?
深沼:演奏したの(1曲につき)1、2回だよね。
岩中:そうでした(笑)。
深沼:“音が決まった。はい、どうぞ”って時には、もう1発でキメなきゃいけない時間帯になってる(笑)。
林:そういうことって普通できないから楽しかったし、いい経験になったし。
深沼:ヒデ君はたぶん曲を演奏している時間の4倍くらいバスドラを踏んでた。ドーン・ドーン・ドーンって(笑)。
――あぁ、音を決めるために。その間、みなさんは何をしているんですか?
林:“いいね”とか、“さっきのほうが良かったんじゃない?”とか、“こっちのマイクを試してみよう”とか。
深沼:別の機材をセッティングしたり。
KUMI:楽器を弾いたり。
林:コーヒーを買いに行ってみたり(笑)。
――いただいた資料に“大人のガレージバンド”と書かれていましたが、その言葉はみなさんから出たものなのですか?
深沼:なんとなくそういう感じかなって僕が言ったら、見出しに使われました。ガレージって言うにはあまりにも立派なスタジオですけど(笑)。
――ガレージバンドというのは、林さんが“部室にいるような感じ”とおっしゃったように、シンボリックな意味で言っているんでしょうか? それともバンドが鳴らす音のイメージとして、いわゆるガレージバンドサウンドを意識したところもあったんでしょうか?
深沼:いや、ガレージバンドサウンドっていうのは、特にはないからね。ガレージと言ってもいろいろなバンドがいるじゃないですか。みんながみんな、ガサツな音を出しているわけじゃないだろうし、超洗練されたフュージョンみたいなバンドもいるだろうし、いろいろな人たちがいるから。ただ、自分たちが抽象的にガレージだなと思ったのは、音を出している環境みたいなものを、さっき言ったみたいに自分らで好きなように整えて、商業的なスタジオよりも圧倒的に利便性はないわけだけど、その中でいろいろ工夫して、みんなで音を出すという精神性みたいなところは、すごくガレージバンドっぽいと思ったからなんですよね。
――なぜ、そんなことを聞いたのかと言うと、僕個人はアルバムを聴いて、60’sのロック/ポップスを、80’sのUKネオサイケバンド、あるいはガレージリバイバルバンドが演奏しているような印象があったからなんです。
深沼:うんうん。
■深沼さんとずっとやってきたものが進化してきて、そこにKUMIちゃんとヒデが入って、バンドに昇格した感じはありますね。(林)
――Uniollaが鳴らすサウンドは、どんなものをイメージしていたんですか?
深沼:出来上がった曲でなんとなく決まっていったと言うか、あんまりコンセプトは決めてなかったんですけど、今、おっしゃったような感じの曲が多いと言えば、多いですよね。でも、考えてなかったと言えば、考えてなかったです。特に、強く“こういう音にしてくれ”みたいなものもなかったし、割と自然にできていった感じはあるよね?
KUMI:そうだね、自然にね。そういうコンセプトは設けてなかったんだけど、80’sの、ちょっとインディーズシーンみたいな、女の子がボーカルで、バンドで、1曲だけヒット曲があるけど、あんまり記憶に残ってないみたいな。そういうバンドっていろいろいたじゃないですか(笑)。
深沼:アルバムは微妙なんだけど、ヒットしたその1曲だけはハンパなくかっこいいみたいなインディーズバンドがけっこういたと思うんだけど、その輝きを全曲にいただきたいと言うか(笑)。
KUMI:何曲かできた時にそういうイメージは意識するようになりましたね。
――林さんと岩中さんはバンドサウンドについては、どんな印象がありますか?
林:僕はそんなに通ってないですけど、確かに80’sは感じました。あと、90’s代的な、オルタナの匂いも感じていて。
KUMI:そうだね。
林:オルタナロックがすごく好きだったんですよ。
深沼:やっぱり、青春時代に通ってるからね。
林:正統派の部分もありつつ、80’sっぽいとか、オルタナっぽいとか、そういう遊びの要素も散りばめていこうかみたいな感じなのかな。
深沼:自分たちがやっていて、盛り上がると言うか、楽しめるものを素直にやっている感じですけどね。もちろん、聴く人のことを意識していないわけじゃないんだけど、それ以上に自分たちがやりたい雰囲気は重視していた気はします。そういうところも含めて、ガレージバンドなんだと思います。
岩中:正直、俺はコンセプトみたいなところは、意識している余裕もなく(笑)。みなさん、年上ですしね。曲に対して、自分が思うリズムを表現しただけなんですけど、深沼さんは俺が札幌にいる時代、何度もプロデュースしてもらった中で、ダメならダメではっきり言うっていうのはわかってるから、なんとなく緊張しながらやってました。
――全曲、深沼さんの作詞・作曲、アレンジなのですが、アレンジする時に林さんと岩中さんが演奏することを前提にアテ書きしているところもあるんですか?
深沼:林君の場合、それは必要ないかもしれない。あまりにもいろいろやってもらっているから。元々、僕は林君風のベースを弾いているつもりの時もあるし、林君もたぶん9割ぐらい僕が弾きそうなベースフレーズをわかっていると思う(笑)。ここで絶対、9thの音に行くよな、みたいなのは。そもそも僕はベーシストじゃないから、引き出しもそんなにないし、一応、アレンジはしたけど“あとはよろしく”って任せておけば、勝手に直しておいてくれるんですよ。そういうところは信頼してるんです。
林:深沼さんのデモって完成されているから、大幅にベースラインを変えるってことはできないんですけど、やれるとしたらちょっとした語尾を変えるみたいなことですかね。
深沼:語尾を変える! わかるわかる(笑)。
林:でも、けっこう長いこと一緒にやってきて、僕も深沼さんのベースに影響されていると言うか、自分の一部になっちゃっているようなところもあるんですよ。
深沼:そうだね、お互いに混ざっちゃっているところがあるよね。いいベースって、どういうものなのか、林君が弾いているのを見て、研究しているところもあって。それはフレージングだけじゃなくて、林君が弾いたベースを、僕はたくさんミックスもしているんですよ。そうすると、バスドラムに対して、どういうタイミングで音を出しているかみたいなところも含め、“あ、そう弾くから林君はいいベーシストだって言われるんだ”みたいな感じで研究できるんですよ。
林:今回はバンドってことだったから、フレーズは変えてないですけど、俺だったらこうするなって、ちょっと弾き方を変えるってことはけっこうしたかもしれないです。PLAGUESのサポートをやらせてもらったり、Mellowheadでやらせてもらったり、深沼さんとずっとやってきたものが進化してきて、そこにKUMIちゃんとヒデが入って、バンドに昇格した感じはありますね。
深沼:ヒデ君に関しては、ヘッドアレンジは打ち込みなんで、やりたいことを全部やって、“これをやってくれ。多少無理はあるかもしれないけど、よろしく”って(笑)。でも、絶対に食らいついてやってくれるんですよ。場所によっては非人間的なフレーズも多いんですけど、それに対して、“これは普通にこうやった方が安定しますよ”みたいなことは言わない。おもしろがってやってくれるし、それができる実力もあるし。ベースもそうだけど、アレンジしている時から、バンドでやることを思い浮かべると楽しいってところがすごくあるかな。
――バンドってやっぱりいいですね。
深沼:ほんとはね、もっといっぱいスタジオに入りたいよね。
KUMI:入りたいね。
深沼:あ、そうだ。これからツアーのリハでさんざん入るんだった(笑)。
■試行錯誤してやっと辿りついたものではなくて、ぽんと歌ってみたら、素直に新しい何かが生まれたという手応えがあったんです。(KUMI)
――ところで、作詞・作曲する時は、もちろんKUMIさんが歌うことを想定していると思うのですが、今回、どんなことを思いながら作ったのでしょうか?
深沼:曲のキャラクターに関しては、最初にKUMIに歌ってもらったものを聴いて、僕の中にできてきたUniollaの新しい主人公なんです。元々、僕の場合、PLAGUESでもストーリーテリング的に歌詞を書いていて、曲の中に自分はあまりいないんですよ。Mellowheadはソロだから、もうちょっとパーソナルな歌詞でしたけど。Uniollaの場合も、PLAGUES同様に主人公が出てきたら、ある程度、勝手に動いてくれたと言うか。元々、英語詞の分量ってもうちょっと多くて、もう少しパブリックなKUMIのイメージに寄り添った感じだったんです。曲調的にもジャクソン・シスターズみたいな古いR&Bで、ポップなやつを考えていたんですけど、日本語で素直に歌った声を聴いたら、全然イメージが違ったので。こんなにすぱっと素直な声なんだと思って、それを生かしていこうと考えているうちにUniollaの主人公が出てきて、あとはその人が勝手に動いてくれたものを書いていくみたいなところがありました。
――全体で1人の主人公なんですか?
深沼:いや、曲ごとに微妙に違いますけどね。それはやっぱり時間をかけて、いろいろな時期に曲を作っているから。
――歌詞を受け取って、KUMIさんはどんなふうにアプローチしていったんですか?
KUMI:最初に歌を入れるとき、そんなに考えずに歌ってみたんですよ。キャラ設定とか、どういう声色で歌おうとか、どういう感情で歌おうとか、考えずに素直に歌ってみたら、私もUniollaの主人公がぽんと浮き出てきて。歌詞を書いているとき、彼の中におぼろげながらも、すでにあった人物像が素直に歌うことで、自然に出てきたということだと思うんですけど。
深沼:でも、そこは不思議な感じがしました。
KUMI:そこが一緒にやるおもしろさと言うか、まずマジックを感じたところかな。何か工夫して歌わないとおもしろくならないとか、試行錯誤してやっと辿りついたとか、全然そういうものではなくて、ぽんと歌ってみたら、素直に新しい何かが生まれたという手応えがあったんです。
深沼:僕のプロジェクトで、KUMI from LOVE PSYCHEDELICOでやるんだったら、LOVE PSYCHEDELICOのKUMIにもっと合わせたものをやったほうがプロ的には正しいはずなんだけど、そういう思いもあったにもかかわらず、全然違うものができちゃったんですよね。そこが結果的におもしろくなったところかな。
KUMI:そこが1個目のマジックと言うか、Uniollaへの一歩だったのかもしれないね。
――曲を聴きながら、強さと弱さの両方を持ちながら、思いきりの良さのある女性像が浮かび上がってきました。
KUMI:あぁ、そうかもね。すごく繊細で儚げでもあるけど、割とさばさばと進んでいくところがありますよね。
――Uniollaというバンド名は、ユニコーンたちという意味だそうですね?
KUMI:そうです。
――KUMIさんの発案だとか。
深沼:ギリギリ決まったね。
KUMI:ずっと考えてたんだけど、考えすぎても出てこないじゃないですか、バンド名って。難しいよね。
岩中:めっちゃ難しい。
深沼:考えすぎちゃうとダメだよね。
KUMI:いろいろ考えたのもあったけど、ぽんと響きでUniollaって出てきて、ユニコーンのUniでもあるし、Uniっていうのが好きなんですよ、字面も響きも。
――そしたらみなさん賛成した、と。
KUMI:みんな、自然にUniollaって言ってて(笑)。
深沼:でも、その後、じわじわと、今はどう考えてもUniollaだなって感じはするからね。
KUMI:する?
岩中:しますします。
林:バンド名ってそういうものですよね。段々定着してくる。最初、聞いた時も違和感はなかったですけどね。
――資料にも“メンバーの顔が見えるような”と書かれているように、音数が厳選されているせいか、それぞれのプレイがちゃんと聴こえるところも聴きどころですよね。そういう意味では聴きどころがいっぱいあると思うのですが、たとえば、バラードの「果てには」のピアノの音色が絶妙に揺れているところが個人的にはとても気に入っていて。
深沼:あんなに弾き語りに近いほど、KUMIはピアノを弾いたことはないよね?
KUMI:うん、ない。あの曲は私がメロトロンでピアノの音色を奏でているんです。
――あぁ、メロトロンで。だから絶妙に音が揺れているんですね。
KUMI: LOVE PSYCHEDELICOではオルガンを弾いたことはあったけど、ピアノメインって曲は初めてかもしれない。
深沼:そのピアノに対して、バンドの乗り方がすごくよくできている。あれだけ添える感じは、バンドに熱意と曲に対する愛情がないとできないですよ。演奏は地味だけど、あれが一番すごいと思います。何も刻むリズムがない中で、ピアノにしっかりベースが寄り添っていて、呼吸だけでよくできるなって(笑)。
■1回目はメロディを聴いて、2回目はバックの音をメインに聴いてみる、みたいな聴き方しても楽しいと思います。(岩中)
――その他、こんなところに耳を傾けると、より楽しめるという聴きどころがあったらお願いします。林さん、ベースプレイについてはいかがですか?
林:概ね気に入ってます。“良くない? 聴いてよ”って思います(笑)。僕自身、完成後、ジョギングしながら何回も聴いてますからね。
――フォークロック調の「Knock」のベース、リズミカルですごく好きです。
林:なるほど(笑)。でも、そこまでグルーヴの詰めって、事前にしてないのに、なんかみんなの息が合っているところが聴きどころなのかもしれないです。
深沼:バンドの1枚目なんだけど、4人の奏で合いが不思議なくらい聴きどころになっていると思います。
――岩中さんはいかがですか?
岩中:全曲にキャラがあって、いい曲ばかりなんですけど……そうですね、ドラムはめっちゃ時間かけて音作りしたので(笑)。それがうまいことバンドに溶け込んでいるし、メロディや歌詞に重きを置いてという聴き方もあると思うんですけど、たとえば1回目はメロディを聴いて、2回目はバックの音をメインに聴いてみる、みたいな聴き方しても、すごい楽しいと思います。
深沼:今回、意識した全体のサウンド感って、竹林みたいなアンサンブルなんですよ。スカスカでもいいなと思っていて。
――あぁ、そういう意味で竹林なわけですね。
深沼:もちろん、スカスカで足りないところもあるんですよ。自分の感覚としては、もう1個何か入れたら、より充実すると思ってるところもこのままでいいと思えるんです。渡辺シュンちゃん(渡辺シュンスケ)がキーボードで参加してくれましたけど、この人数のバンドが作り得るサウンド、しかもライブで再現できないことはやらないと決めて。だからスカスカなんだけど、それがちゃんとアートになっているようなアンサンブルっていうのをすごく意識したんです。結果、それができたし、それができるメンバーなのはすごくうれしいし、それができるメンバーだと普通にリハやってるだけでも楽しい。それがちゃんとアルバムにも表れている。録音物として、すごく楽しいものができたなと思います。いくつになっても、“バンドやろうぜ”って気持ちは変わっていないなっていう(笑)。こんだけやってきているのに、いまだに集まって、みんなで音を出して、新しいバンド、うれしい! バンドロゴのステッカー貼っちゃおう! みたいなところは全然変わってない(笑)。
――日本の音楽シーンにちょっと足りないところを、Uniollaが埋めてくれたという気がしていて。海外って、もっといろいろなバンドのメンバーが楽しいからという理由だけで、新しいバンドを組んで、いきなりアルバムを出しちゃったりするじゃないですか。日本の音楽シーンも、もっとそういうことがあると、より楽しくなると思うんですけど。
深沼:それには2枚目、3枚目を出せるようにがんばらないと。1枚だけっていうパターンは割とあるからね。
――つまり2枚目、3枚目も作ろうという気持ちはあるわけですね?
深沼:新曲作ったから、早く録りたいですけどね。
KUMI:私はもう2ndアルバムが見えてきてます。こんな感じになるかなっていうのが。
深沼:見えてるって言われると、作らなきゃいけないから大変なんですけどね(笑)。
取材・文=山口智男