広告・取材掲載

Kroi、ライブツアー「Dig the Deep」がスタート 異端児たちが交差した初日・福岡公演の模様をレポート

アーティスト

撮影:田中紀彦

Kroiが活動初期から実施している対バンツアー「Dig the Deep」。どんぐりず、韻シスト、ニガミ17才、CHAI、マハラージャン、在日ファンクといったトリッキーなゲストが各地に配された中で、11月27日、SOLD OUTを記録した出発地・福岡でツアーの幕が上がった。

歓声を上げられない状況下でも、観客の期待と高揚が伝わってくる空気感の中でまず登場したのは、ゲストのどんぐりずだ。

2021年7月に開催された「4EP2 NO RELEASE PARTY」でもKroiとの2マンが実現しているラッパーの森とトラックメイカー/プロデューサーのチョモは、この日が福岡での初ライブ。「遊びましょう」「福岡よろしく」という挨拶と共にチルな「domingo」でアクトが始まり、祭囃子のイントロから代表曲「わっしょい!」で一気にフロアのテンションがグッと高まる。そして、序盤から観客のギアを確実に一つ上げた「NO WAY」では、端から端までステージを広く使い、妖しげなグリーンの照明に照らされて森のフロウが繰り出される。「tiki dang dang no way」の連呼では、観客の無言の合唱が聴こえた気がするほどだ。

その後、(2人いわく)「靴紐結びタイム」と「お水飲みタイム」を挟んで、暗闇の中の朧げなシルエットから〈なんだってやっちゃえばいいじゃん 正解もどうだっていいじゃん〉と彼らのアティチュードが放たれる「E-jan」、そして浮遊感漂うラップとメロディに陶酔する「ワナワナワナ」「ジレンマ」「dambena」「マインド魂」が続く。タイトな森のラップとシティポップのように歌い上げるチョモのボーカルの対比が心地よい「powerful passion」でボルテージをさらに上げ、8月リリースのEP「4EP2」の収録順通りに「Just do like that」「8 hole」「6 ice」「ベイベ」が披露された。

「ラスト2曲になりました。みんな跳ねる準備できてますか?」(森)、「俺らが終わったら、Kroiの最高のライブが待ってるんで」(チョモ)。2人がそう挨拶した後、「nadja」と「Woo」でどんぐりずの約55分間、全16曲の福岡初夜はフィニッシュ。

多くの観客にとって彼らは初見であったであろうにも関わらず、ユーモラスかつテクニカルなどんぐりずのパフォーマンスに「もうすでに観に来てよかった」「ヤバいものを観た」といった熱狂の残滓が間違いなくライブハウスに充満していたことを記しておく。

Kroiのライブへ向けたステージの転換中、BGM代わりに流れ始めたのは長谷部悠生(Gt.)がDJを務めるお手製ラジオ番組。グッズの紹介を交えながら、「ア●パンマン」のジャムおじさん、「ドラ●ンボール」の悟空ならぬ「悟スウ」(?)といったキャラたちが番組のゲストとして迎えられ…と真面目に語るような内容ではないので、ぜひ今後ツアーで巡る名古屋、札幌、梅田、渋谷の会場で確認してほしい。長谷部は「(福岡公演前日の)朝4:00までラジオの音声を録っていた」とのことで、観客のウケがよほど悪くない限りこれからも放送されるはずだ。

サウンドチェック中に一人、また一人とKroiのメンバーがステージに現れ、まるで日常からシームレスにライブに接続するようにそのまま本編へ。全く気張らないスタートながら、最新EP「nerd」収録のオープニングナンバー「pith」は原曲よりスローなテンポでがなるような内田玲央(Vo.)のボーカルは荒々しく、5人のダイナミックなプレイはスタジアム・ロックを想起させる。初っ端からいきなりクライマックスのようなテンションをぶつけてくるのだから、つくづく本当に油断ならないバンドだ。日本語なのに英語…いや、何語かすらわからないホラーみの強い呪詛のような内田のラップも相まって、圧倒的な存在感を前に集まったファンたちはさっそく魅了された。

しかし、MCが始まれば肩の力抜けまくりの軽妙さ。「(転換中の長谷部のラジオのせいで)始めづらすぎるって!」とツッコミを入れながら、続く「Balmy life」では千葉大樹(Key.)のキーボードがスペーシーな80sサウンドを鳴らし、〈踊れ 踊れ〉のフレーズで観客をファンクの世界へと誘う。「selva」では性急なギターカッティングと矢継ぎ早なラップ、「Page」ではマイケル・ジャクソンばりのソウルフルな歌唱と、縦にも横にもノレる、黒にも白にもなれる多国籍で変幻自在なグルーヴを見せつける。その後のMCでは「俺ら、今日調子良くないですか?」と手応えを感じさせつつも、教室で談笑する同級生のようなワチャワチャ感が自然と出てしまうのも彼ららしい。ゲラゲラ笑い合いながら、バンド自体はまるで多面体の賽が転がるように楽曲によってその表情を変えていく。遊び感覚を大切に好きなことを表現している彼らの音楽が、何にも似ていないまったく新しいものだということは非常に興味深い事象だと思う。内田は「こんな感じでKroiのライブは進行していきますので、苦手な方はぜひご退室ください」と笑っていたが、Kroiの音楽に触れることで、また新しい音楽への扉が開く……ツアー名通りもっと“Dig the Deep”したくなるのだ。観客の音楽IQを自然と引き上げる存在に今後なっていく、いや、すでになっているのかもしれない。

ライブ中盤では「nerd」収録のバッキバキなファンク・ナンバー「Juden」、音源よりリズムがタイトにアレンジされた「Rafflesia」、まるでセッションのようなバンドのアンサンブルに拍手が起こる「Monster Play」がドロップされた。そして益田英知(Dr.)の腰低めなグッズ紹介を挟んで、「一回チル・セクションに入ります」(内田)と宣言。一転してジャジーでムーディな「侵攻」は、ひと言で言うとエロい。ここはホテルの最上階にあるバーだったか? そう想像力を掻き立てんばかりの媚薬のような演奏で思わずトリップしてしまった。そして、ラスト3曲と告げてからライブ終盤へ。現在もツアー真っただ中につきアンコールの詳細などは割愛するが、「今日は最高の日になりました。最高の日を作りあげてくれた2人をご紹介いたしましょう。どんぐりず、カモン!」(内田)と、ゲストのどんぐりずをステージに招聘。そのまま再び「No Way」へ突入し、ハンドクラップに包まれた多幸感の中でフィナーレを迎えた。

脊髄反射で本能的に鳴らしている音が、どれも必然的に新しいものになってしまう。そんな感覚さえ覚えてしまうKroiのライブ。「ミクスチャー」といった言葉だけでは言い表せられないこのバンドの存在は、今後もピンボールのように無軌道に広がっていくはず。君たちはいったい何面体のバンドなんだ、Kroiよ。

文:福島大祐(シティ情報ふくおか)

関連タグ