GLIM SPANKY、約2年ぶりに開催できたツアー「Extra Show」ファイナルのオフィシャルライブレポート到着
GLIM SPANKYが全国7箇所を回ったツアー「GLIM SPANKY Live Tour 2021」の追加公演「GLIM SPANKY Live Tour 2021 “Extra Show”」を、12月7日東京・新木場USEN STUDIO COASTで開催した。
STUDIO COASTは2022年1月をもって約20年の歴史に幕を閉じる。バンドには全国津々浦々、思い出の地や音楽性を磨いてきた聖地があるものだが、GLIM SPANKYにとって同所は、ワンマンライブや数々のイベントで何度もその舞台を踏んだ、もっとも思い入れがある場所のひとつだ。そして新型コロナウイルスのパンデミックによって思うようにライブ活動ができなかった期間を経て、未だ予断を許さぬ状況は続いているものの、約2年ぶりに開催することができたツアーの最終日。さらにこの日は松尾レミ(Vo / Gt)の誕生日(本人はステージが楽しくて自分のことは忘れていたとMCで話していたが)ということで、いつにも増して素晴らしいステージになるであろうと、期待に胸を膨らませながら会場に足を運んだ観客も多くいたことだろう。
結論から言えば、まさにスペシャルな夜。初期の曲から2020年10月にリリースされた最新アルバム「Walking On Fire」まで、ライブでの定番曲あり、痒いところに手が届くチョイスありの、アンコールも含めた全21曲の流れに痺れた。舞台のセットや照明も含め、持ち前の変わらぬ魅力や音楽的な進化をこの上ないレベルで味わうことができた、ここまでのキャリアの集大成と言っていい至極の時間。それと同時に、バンドの未来に指す光が見えるようなパフォーマンスだった。
「Walking On Fire」のオープニングを飾るダイナミックなインスト曲「Intro: Walking On Fire」が流れると、お馴染みのサポートメンバー、栗原大(Ba)、かどしゅんたろう(Dr)、中込陽大(Key)とともに松尾と亀本が登場する。1曲目は1stアルバム「SUNRISE JOURNEY」から「サンライズジャーニー」。The Rolling Stonesの60年代後半から70年代初頭に架かる橋をさっそうと渡るような、小気味良いブルースロックサウンドとともにアンセミックなメロディを展開する、GLIM SPANKYのキャリアのなかでもオーセンティックなロック色の強い人気曲だ。しかし、意外と近年のライブでは演奏していなかったこともあり、声こそ出せないご時世だが場内の空気が大きく沸いた。
続いて「THE WALL」から「BIZARRE CARNIVAL」で、3rdアルバム「BIZARRE CARNIVAL」の冒頭の流れを体現する。青と黄の照明と舞台に敷かれたレトロな赤のカーペットの色彩感や、音源よりもヘビーなサウンドの迫力に割れんばかりの手拍子が起こった「THE WALL」、浮遊感のあるサウンドと優しいメロディにフロアがほのぼのと揺れた「BIZARRE CARNIVAL」。そんなGLIM SPANKY流サイケデリアのコントラストが見事だった。
そして土くさいギターリフと120BPM台の四つ打ちを掛け合わせたブルースディスコとでも言いたくなる「いざメキシコへ」から、映画『ONE PIECE FILM GOLD』の主題歌としてもお馴染みの「怒りをくれよ」へと、序盤は“GLIM”で“SPANKY”なバンドの持つ色を明快に示す名刺代わりのセットを披露した。
次のゾーンは亀本が「前半からやりすぎた(笑)」と冗談交じりで話していたほどに弾きまくる。インディーデビューのミニアルバム「MUSIC FREAK」から、ライブでは亀本の全力で気ままなギターソロから始まるパターンが定番になっている「ダミーロックとブルース」、そして「Flower Song」へと、プリミティブなギターサウンドが炸裂。そしてGLIM SPANKYのレパートリーのなかでも最大のアンセム「大人になったら」を早くもここで演奏したことは、今となってはどこに何の曲を入れても問題ない、純粋に表現したい世界感を向き合ってライブを構築できる今の二人とサポートメンバーの耐久力を象徴しているように思えた。
そんな初期の曲を中心に情熱的なロックを展開した前半から、中盤ではGLIM SPANKYの新しいチャンネルが顔を出す。妖しげな夜の世界を演出するように深くて青い照明の幕がメンバーの前に照らされると、その向こうで「NIGHT LAN DOT」が響く。そして最新アルバム「Walking On Fire」から「こんな夜更けは」と「Up To Me」へ。60年代のロックンロール/R&Bや、そういったサウンドがリバイバルした00年代の洗礼を受けたバンドが、90年代から00年代、現代へと続く、モダンでスムースなソウル/R&Bにアプローチ。松尾がギターを下ろしハンドマイクでステージ上を踊りながら動く。亀本も心地よいグルーブに体を横に揺らしながらギターを弾く。そして観客も踊る。2020年にGLIM SPANKYが提唱したロックサイドからのクロスオーバーカルチャーが結実した瞬間だった。
ステージは終盤へ。前述したようにジャンルの幅を広げた「Walking On Fire」のなかでも、トラディショナルなロックの真ん中を射抜く精神は忘れない「Singin’ Now」、陽のサイケポップ「The Flowers」ではタイトル通りの派手で鮮やかな照明の演出で楽しませてくれた。そして濃厚でブルージーなナンバー「いざメキシコへ」に対して、同じサイケなダンスナンバーでも、2015年にTame Impalaがアルバム「Currents」でエレクトロを大胆に取り入れ、サイケとポップの関係性を新たに構築しシーンの流れを変えたことと共鳴するドリーミーな「In the air」から、ハンズクラップや大合唱できるコーラスの効いた、シンプルでパワフルなロック「NEXT ONE」へ。冒頭で示した色とりどりのGLIM SPANKYさながらの豊かな引出しを、再びここで展開した。
締めはスローなナンバーを3曲続けて演奏。幻想的なサウンドスケープが美しい「ストーリーの先に」のテイストを汲みつつ、よりメロディの輪郭が強く「大人になったら」を塗り替える力を持った「美しい棘」の流れは涙ものだった。そしてラストは「Walking On Fire」から、もっとも挑戦的なダウンテンポと宇宙を描いたようなビッグで先鋭的なサウンドが響く「Circle Of Time」で大団円。時代とともに進化を求める姿勢が“変わらない”からこそ“変わりゆく”メンタリティとファンとの信頼関係によって、ロックの現在に大きな旗を打ち立てた瞬間だった。
アンコールはストイックな本編から一転してアットホームなムードで。まずは亀本いわく「5年ぶりくらい」に演奏したという「夜が明けたら」。松尾がまだ大学生の頃に書いた曲だそうで、確かに、現在のGLIM SPANKYに繋がるサウンドの片鱗はあるが、初期衝動に溢れた青いメロディが心に響く。そして松尾が「最後はやっぱり盛り上がっていきましょう」と「褒めろよ」と「リアル鬼ごっこ」で終了。攻めに攻めて新しいサウンドを投げかけ続けることも、なんだかんだベタが一番だという気持ちも、同じ“ポップ”という枠の中で捉えられる柔軟さや寛容さ、ユーモアこそがGLIM SPANKYでありロックなのだと強く思った。
すべてを終えて記念撮影をしたあと、満面の笑みでステージを見ながら去っていく亀本、何度も何度もぴょんぴょんと跳ねながらフロアを振り返って手を振る松尾の姿が印象的だった。GLIM SPANKYはここから本格的なアルバムの制作に入り、そう遠くないうちにニューアルバムをリリースするという。二人の次なる一手と、再びライブ会場で会えることを、首を長くしながら待つ。
文:TAISHI IWAMI
セットリスト
1.サンライズジャーニー
2.THE WALL
3.BIZARRE CARNIVAL
4.いざメキシコへ
5.怒りをくれよ
6.ダミーロックとブルース
7.Flower Song
8.大人になったら
9.NIGHT LAN DOT
10.こんな夜更けは
11.Up To Me
12.Singin’ Now
13.The Flowers
14.In the air
15.NEXT ONE
16.ストーリーの先に
17.美しい棘
18.Circle Of Time
encore
1.夜が明けたら
2.褒めろよ
3.リアル鬼ごっこ