あいみょん
AIMYON 弾き語りTOUR 2021“傷と悪魔と恋をした♡ in武道館”
2021.11.30 日本武道館
ギター1本と声ひとつ。たったそれだけで届けた愛と人生の歌に強く心が揺さぶられた。あいみょん初の弾き語り全国ツアー『AIMYON 弾き語りTOUR 2021“傷と悪魔と恋をした▽ in武道館”』の日本武道館公演だ。初日に予定されていた東京・日比谷野音公演が新型コロナウィルス感染拡大の影響で中心になったことを受けて、新たに場所を変えて開催されたこの日(11月30日)は、2016年にメジャーデビューを果たしたあいみょんの5周年記念日でもあった。自身の5年間を振り返ったあいみょんはMCでこんなことを言っていた。「音楽はひとりでも続けられるんですけど、こうやって“みんなが目の前にいてくれて”続けることは難しいと思ってるから。みんなの前で歌えてる5年間はすごい幸せだって思いました」と。満員のお客さんに祝福されるなか、10代の頃に路上ライブで歌っていた楽曲から、11月24日にリリースされたばかりの最新曲「ハート」まで披露されたこの日は、あいみょんの過去と今とがつながるような、2年ぶり2度目の武道館ライブだった。(※▽=白ヌキハートマーク)
暗いステージで、今回のツアーのために書き下ろしたという未発表の新曲「傷と悪魔と恋をした!」を歌い出し、ライブが始まった。低いメロディライン。暗闇を彷徨うようなシリアスな曲調とは不釣り合いに《可愛く結んだリボンが風に揺られている》という優しいフレーズが紡がれる。複数のスポットライトがステージに注がれ、あいみょんの姿がパッとクリアに見えるようになったのは「青春と青春と青春」。ふわりと夏の匂いがたちこめるような歌で会場の景色が一変した。ストーリーが目に浮かぶような「ポプリの葉」はあいみょんの感情豊かなボーカルが映える。歌い出す前にスッと息を吸いこむ音も、アコースティックギターの弦の上を指がキュッと滑る音すらも会場に響く。そんなダイレクトな音のやりとりのなかでライブは進んだ。
「お待たせしました、やっほー、見えてる?」。最初のMCで満員の客席を見渡したあいみょん。2年前に初めて武道館に立ったときは360°を客席が取り囲むセンターステージでのライブだったが、今回は正面からお客さんと向き合う通常のスタイルということで、「めっちゃ近く感じる!」と新鮮な感想を口にする。「ゆるく楽しく過ごせたらいいなと思ってます」と意気込みを伝えると、2年前の初武道館で1曲目に披露した「マリーゴールド」を届けた。かつてあいみょんの存在を広く世間に知らしめた楽曲もさらりと序盤に置ける。いまさらだがそこに、自分の現在地を常に更新し続けるあいみょんの歩みの濃さを感じたりもした。薄むらさきの照明がステージを染めるなか、ネオン街を思わせる音源とは趣を変えた「スーパーガール」から、音源のファンキーなテイストを引き継ぎつつ疾走感が増した「朝陽」へ。弾き語りならではのアレンジが新しい発見を与えてくれる。
ライブは数曲おきにMCを挟みながら進んだ。お客さんはコロナ禍のライブのルールで声を出すことができないため、あいみょんへのメッセージを書いたボードを用意している人たちもいた。あいみょんはそれを見ながら、フレンドリーにお客さんに話しかける。「親子で来てるの?」「姉妹?」と相方との関係を聞いたり、じゃんけんをしたり、結婚報告を受けたり、「最近買ったものは?」という質問に答えたり。「コンタクト仕込んできてるから、けっこう見えるよ」というあいみょんは2階席、3階席のお客さんも見逃さない。
あいみょん自身の呼吸感を大切に揺らぐテンポで歌った「裸の心」からはゆったりとしたバラードが続いた。音源では徐々に楽器が加わることでなだらかに色合いが変わってゆく「恋をしたから」も、ギター1本と歌だけで見事にふくよかな抑揚を描いていく。ステージにやさしい光が注がれるなかで届けた最新曲「ハート」は、これまで数多くのラブソングを生み出してきたあいみょんの到達点とも言えるような名演だった。弾き語りだからこそ色濃くなるあいみょんの剥き出しの歌によって「恋のはじまり」の健気で一生懸命な心のかたちがくっきりと表現されていく。このタームの曲たちは、何度も傷つき、それでもまた何度も恋に落ちてゆく人間の滑稽で愛おしい姿が描かれていて、それがツアータイトル『傷と悪魔と恋をした』にもリンクしているように感じた。
18歳の夏から大阪の梅田で路上ライブを始めた。そんな自身の原点をMCで振り返り、「これから歌う2曲は知ってる人がおらへんかもと思って、不安ながらセットリストに入れました。18歳ぐらいにときに作った曲です。“伝われ”と思って歌ってた。まさか武道館に持ってこられるとは思ってなかったです」と言うと、「夜行バス」と「19歳になりたくない」を届けた。上京した頃に作った曲であると公言しているフォーキーな未音源化曲「Tower of the Sun」を、ブルースハープを吹き、岡本太郎へのリスペクトと共に時折声を震わせるように歌うと、続けてメジャーデビュー曲「生きていたんだよな」へとつなぐ流れは圧巻だった。ゆっくりとしたギターのストロークが次第に加速し、語りのようなメロディの途中に静寂を挟む。武道館を支配するようなその一挙手一投足に熱い視線が注がれるなか、あいみょんは命の歌を全力で歌い切った。
終盤。今年5月にリリースされた「愛を知るまでは」を歌うまえに、あいみょんが少し時間をとって想いを語るシーンがあった。「メジャーデビューしてからの5年間がいちばんがむしゃらでした。この曲を作った22、23歳のときがいちばん音楽に対してどうしていいかわからなかった。これを出せて、武道館でやれてうれしいです。一つひとつ夢が叶っていってるなって感じます」。決して平坦なだけではなかったこれまでをそんなふうに振り返ると、「改めてこの5年間ありがとうございました。……あ、なんか引退するみたい(笑)。しません、しません! まだまだやりまっせ」と冗談っぽく笑いながら、「愛を知るまでは」へとつないだ。武道館の天井に花のような光の模様を描いたミディアナンバーは、いまを“生きている”ということを確認しながら、未来への約束をつないでいくような温かく力強い歌だった。「次の曲はみんなのリズム感と手拍子が必要かも」というあいみょんの言葉をきっかけに、軽やかに転調してゆく歌に一体感のあるハンドクラップが重なった「今夜このまま」。冒頭に歌詞をミスって「あ、間違えちゃったな、もう嫌ー!」と髪をくしゃっとしながら歌い直した「サラバ」のあと、最後はそれまで着席で聴いていたお客さんに「みんな立てますか?」と呼びかけて、「君はロックを聴かない」で終演。オールスタンディングの客席が見守るなか、万感のフィナーレを迎えた。
なお、この日のライブであいみょんは来年1月から自身初のファンクラブツアーを、来年4月からは全国アリーナツアーを開催することを発表した。全国14都市28公演をまわる自身最大規模のツアーのタイトルは『ま・あ・る』だ。「すんごいまわるから、“ま・あ・る”って名前にしました」。そんなふうにツアータイトルに込めた意味を説明したあいみょんは、「これからもとことん曲を作って、みんなに会いに行きたいと思ってるので」と、今後の活動についての意欲も口にして、「6年目もよろしくお願いします。がんばります!」とステージをあとにした。悩みながらも決して同じ場所に留まらず、前へと進み続けるあいみょん。その視線はすでに“この先”へと向かっていた。
取材・文=秦理絵 撮影=鈴木友
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