澤野弘之
『医龍-Team Medical Dragon-』などの人気ドラマから、『機動戦士ガンダムUC』や2021年に公開された劇場映画『機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ』などのアニメ作品など、数々のヒット作の劇伴を手掛け、さらにSawanoHiroyuki[nZk]として精力的にライブ活動も行う澤野弘之。そんな彼がピアノソロアルバム『scene』を12月22日にリリースする。これまで手掛けた劇伴楽曲を中心とし、澤野自身によるピアノにより、新たな息吹を吹き込まれている。常に新たなるフィールドを模索する澤野弘之が目指すものとは何か? を訊いてきた。
『scene』
元の曲にリンクして聴いてもらえるところもある
ピアノソロアルバム『scene』
――今回ピアノソロアルバム『scene』が12月22日にリリースされます。今回の楽曲は、ご自身のオフィシャルファンクラブ内でピアノを演奏され、そこで公開してきた音源を初収録したという形ですが、なぜアルバムにまとめることになったのでしょうか?
今までこういうピアノだけのアルバムって作ったことないな、とは思っていたんです。正直「ピアノアルバム作ろう!」っていうモードでもなかったんですけど、毎月ファンクラブで自分の曲を弾いてきたものが、ある程度たまっていて。初めはライブのグッズで会場限定CDとして出したら、来てくれた人が面白がって買ってくれるかな? という発想だったんです。でも「折角だからこういう形で出してみませんか?」って話をいただいたので、「需要があるんだったら出してみます」みたいな感じですね。
――なるほど、需要は勿論あると思うんですが(笑)。
雰囲気で弾いてきたっていうのがあるので(笑)、他の方のピアノアルバムと比較されると難しいところはあるのですが、基本的にはいろいろな作品からチョイスしているので「ピアノで演奏したらこんな感じになるんだ」ってところを楽しんでもらえたらいいかなと。
――本当にいろいろな作品からの楽曲が入ってますが、どのように選曲されたのでしょうか?
自分の中で、その時々のターニングポイントになった作品、思い入れの強い楽曲を選びました。『機動戦士ガンダムUC』や『進撃の巨人』、ドラマだと『医龍-Team Medical Dragon-』は、当時自分が作曲家として活動していくうえで名刺代わりになった作品だったんですけど、そうしたものから選んでいった感じです。
――僕も澤野さんを知ったのは『医龍』からでした。アルバムは1曲目が「scene」っていうオリジナル曲で始まりますが、そこから『医龍』の「Blue Dragon」という流れは、やはり歴史を感じてもらいたいのかなと。
僕は『医龍』をやらせてもらった時は劇伴作家として駆け出して、ゴールデンドラマ2作品目だったんです。『Ns'あおい』という作品の次に担当したのかな。『医龍』はもともと河野伸さんのヘルプみたいな形で関わることになったんですけど、音楽プロデューサーが、「ヘルプでもテーマ性のある曲とかも書いてよ」と言ってくれたんです。それを受けて『医龍』を見た人の記憶に残るような曲を書きたい、と思って作ったのが「Blue Dragon」なんです。その後の自分の活動にも大きく影響を与えた曲でもあります。
――『医龍』は15年前、2006年の作品なんですよね。制作で考えると15年以上前の曲。今回収録されている曲が使われたドラマだと『タイヨウのうた』も2006年。『魔王』が2008年。澤野さんの足跡が分かる楽曲もしっかり収録されています。
『タイヨウのうた』は初めて劇伴担当として僕一人の名前で担当した作品なんです。そういう意味では記憶に残っていますね。『魔王』は初めて担当したサスペンスドラマで、ずっとサスペンスや刑事ものをやってみたいという気持ちがあったんです。この「LiVE/EViL」という曲も、作品に携わってから作ったのではなく、アマチュアの頃にいつかサスペンス作品の音楽を担当できた時に、と思ってストックで作っていた曲だったんです。
――なるほど。事前にサスペンス作品が来た時を想定して作られていた曲、と。
はい。それを話がきた時に新たにアレンジしました。そういう意味でも思い入れがある曲です。
――澤野さんにとって、まさにエポックメイキングな曲たちが今作には詰め込まれている印象がありますね。
そうですね。「Blue Dragon」もそうですし、『ギルティクラウン』の「κr0nё」や『七つの大罪』の「Eri0ne$」とかも、新規で作った曲ではなく、学生時代やプロを目指してた時に、「いつかこういう作品に関わったら」ってストックしてた曲を「このタイミングだ!」って使った曲なんです。今回は偶然にもそういう曲をチョイスしてたんだなぁって今思いました。2005年から2010年の前半ぐらいにかけては、メロディの部分では特に、そうやってストックしていたものを「ここ!」っていう時に使っていましたね。
――今日お伺いしたいと思ってたことのひとつに、実写ドラマの劇伴とアニメの劇伴に対するアプローチの仕方に違いはあるのかをお訊きしたいと思っていたのですが。澤野さんの中で違いはあるのでしょうか?
僕は基本的にアプローチを変えていないです。例えばサスペンスとか恋愛ドラマとか、作品の方向性、ジャンルとして曲のアプローチを変えるところはありますが、「実写だからこう作らなければ」「アニメだからこう作らなければ」と思っているところは正直ないです。ただ、実写の作品になると、ロボットが出てきたりとか、そういう壮大なのって少ないじゃないですか。
――確かに比べてみたらそうですね。
題材が日常に寄ってるんですよね。そうなってくると、楽曲的にあまりにも壮大すぎるとミスマッチになるな……って思って作っている部分はあるかもしれないです。逆にアニメだと世界観が壮大だったりするので、楽曲的にもフルオーケストラを使ったり、歌ものなどの激しい楽曲を入れたりして、ちょっと実験的にやれる部分があると思っています。
――なるほど。いわゆる作品の方向性、ジャンルだけではなく、その舞台になるものが楽曲制作の中で重要になってくる。
オーダーとして、制作サイドから例えば「メロディを抑えた形の作りにしてほしい」って言われたらそこに合わせて作ったりはしますけど、何も言われなければそんなに変えることはないですね。
――今回は更に「RE:I AM MARIE」や「Into the Sky」という歌ものをピアノソロとして弾いている曲もありますが、ピアノソロにすることで工夫されている部分などもあったりするんでしょうか?
これがぜんぜん(笑)。当時のレコーディングで使ったコードとメロディが書いてある譜面を持ってきて、それを見て「こんな感じで弾くか」って、その場で少し練習して弾いたものを録ってきたものなんです。二段譜面を作ってとかそういうことはしていないので、基本悩むことはなく演奏しています。
――ではまさに、澤野弘之のタッチや雰囲気がそのまま入ってるという。
そんなに大袈裟なものじゃないですけど(笑)。あくまで自分の感覚で弾いていますね。
――今回は歌ものだからメロディーが立ってる部分があるのかもしれないですけど、「Into the Sky」は今回のピアノソロで聴いても、いわゆるオーケストレーションではないけど、曲の持ってる壮大さを感じられます。
ありがとうございます。でもある意味、このアルバムが成立しているのは、やっぱり元の曲があるからっていうのが大きいんじゃないかって思っています。例えばこのアルバムに収録されている原曲をぜんぜん知らないで聴いたら、感情移入の仕方が違かったりするのかなと。やっぱり『医龍』にしても『ガンダムUC』の曲にしても、元のオーケストレーションされた原曲を知ってたり、その作品の内容がそれぞれ沁み込んでるところってあるじゃないですか。そういう中でまたピアノとして聴くのと、何もないところから聴くのとは感情の入り方が違うところもあるんじゃないかなと思うんです。それが逆にありがたいなと思ってるというか、作品の劇伴でやれたからこそ、作品や原曲にリンクして聴いてもらえるところもあるんじゃないかなと。
――確かに、元々持ってる作品の、例えば『ガンダムUC』の壮大な世界観だったりっていうのは、もう僕らに刷り込まれているので、リンクして聞いている部分はあると思います。
知らず知らずリンクしながら聴いてもらえるのは、他のピアノ曲を聴くのとは違った感覚じゃないかなって思うので、そこは作品に対して感謝しています。
『scene』
――それは劇伴作家さんの作ったピアノアルバムとしての楽しみ方、正しい聴き方かもしれないですね。いいバフ(ゲームにおいて、攻撃力や防衛力などが上昇し、有利な状態が発生すること)がかかっているというか。『ギルティクラウン』の「κr0nё」も、そうそうって思ながら聴いてました。そう考えると、僕はここ10年間ぐらい澤野さんの楽曲と一緒にアニメを観てきたんだなって思いました。
ありがとうございます(笑)。
――そしてアルバムの最後の曲が「Silent Night」なんですが、時期的にも12月22日に発売ということもあり、凄くお洒落な締め方になっていますよね。
これも「-30k」のコンテンツの中で、2年前ぐらいにクリスマスの時期に録音したものなんです。こんないい年してなんですけど、クリスマスがめっちゃ好きなんですよ。なのでクリスマスソングも同じように好きで。「Silent Night」って曲をいつからこんなに好きだったかわからないですけど、必ずこの曲を聴くっていうぐらい好きなので、どこかで演奏したいなと思ってたんです。そしてアルバムの発売が12月なんだったら、この曲はどうしても入れておきたいなぁと思って入れました。
――クリスマスの曲ってすごく不思議ですよね。この曲を聴くと誰しもが心に浮かぶものがある。
僕がこの「Silent Night」に感情移入してるのは、もしかしたら子どもの頃から見てきた景色とか、クリスマスが好きだっていうものがあるからなのかもしれないです。これがクリスマスの曲じゃなかったら、こんなにまで「Silent Night」って曲を好きだったか分からないですね。
――確かに曲に付随する思い出だったり、いわゆるバックストーリーみたいなものっていうのが、どの曲にもあるとは思うんですけど、澤野さんの楽曲っていうのは、映像作品を増幅する力があるように、こういう曲を主体にしたアルバムでは逆に作品の力を受けて、楽曲が目立っていくっていうのもあるかもしれないですね。それが劇伴作家さんの面白いところなのかなと。改めて考えると『医龍』から15年もたつんですね。
そうなんです。あっという間ですね。あの頃は25歳で、「若いですねー」とか言われたことに喜んでたりしましたけど(笑)。逆に「若くてもできんだよ!」とか思いながらやっていました。
――やはりその頃は反骨精神があったわけですね。
ありました! ずっと(劇伴を)やりたいって言いながら劇伴作家を目指していて、結構いろんなところでケチョンケチョンに言われたりしたんです。でもそのケチョンケチョンに言われた曲をプロになってから使っている。
――当時、色々と言われた曲を使っているぞ、と。まさに反骨精神ですね。
それは多分、反動ですよね。あの時にダメ出しされた曲が、ちゃんと成立してるじゃないかってことを、自分の中にも言い聞かせたい部分があったり。その当時は劇伴を常連でやってる方って、若くても30代がやっぱり多かった。そうすると20代って相手にされないのかなぁとか思っていた中、たまたま興味を持ってくれた音楽プロデューサーが若い人を使うような人だったので、そこから『医龍』という作品に繋がっていって、そこを機にして。
『医龍』って作品は当時、サントラとしても多少反響があった作品だったんです。それで劇伴業界では知ってもらえる切っ掛けになったんです。でも「こんな若いんですね」とか言われた時には……なんと言うんですかね。「年齢なんて関係ないんだ」とはずっと言いたかった。もちろん、重ねれば重ねただけ作れる音楽っていうのはあると思うんですけど、若いし経験が浅いから劇伴を任せるのは難しい、みたいに考えている姿勢に納得いかなかったって言うか。逆に、若い人間の方が、これで自分の将来が決まるんだったら、そこにメチャクチャ正面からぶつかるだろうって思うんです。そういう意味でも、「20代なんですね」とか驚かれたりしたのは、してやったりと言うか、「年齢やキャリアなんて関係ないんだ」と強く言える自信に繋がりましたね。
澤野弘之
澤野弘之が楽曲で注目するポイントはキャッチーさ
――澤野さんは常々「トレンドを取り入れてアップデートしたい」という話も結構されてることが多いと思うんですが、最近感じられてるトレンドみたいなものはありますか?
普段は洋楽ばかり聴いてるんですけど、何年か前から洋楽のヒットチャートって、ヒップホップ色が強くなってきているところがあって。嫌いなわけじゃないですけど、あまりヒップホップとかに寄りすぎちゃうと聴かなくなっちゃう傾向があるんですよ。
どっちかと言うと、3年前ぐらいまでのEDMよりのポップなシンセサウンドやメロディアスな洋楽が好きで聴いていたんです。早くこういう感じに戻ってくれないかなと思ってたら、ここ最近出てる新譜、エド・シーランとかもまた80'sのサウンドを取り入れたりとかしていて。ああいうメロディアスな楽曲がまた増えてきてくれたら嬉しいなあと思っています。
――2年前ぐらいはチルウェイヴみたいな、家でゆっくり聴く音楽みたいなものがすごく流行ってた時期がありましたよね。やっぱり嗜好としてはメロディアスなものに耳がいってしまうのでしょうか?
そうですね。別にヒップホップやラップも、後ろのバックトラックが結構壮大に作られてるものだったら好きなんです。昔影響を受けた『GODZILLA』(※1998年公開)のエンディング曲でPuff Daddyっていうアーティストが、レッドツェッペリンの「カシミール」をリアレンジして、そこにラップを乗せてるんです。バックトラックがオーケストラになっていたり、ロックなギターサウンドになっているなど、トラックがかっこいいとラップでもぜんぜん聴いていられるんですよね。
――やはりトラックのゴージャスさだったりといったところに耳がいってしまうと。
サウンドにキャッチーな部分とかがあったりすると、やっぱり聴こうとなりますね。
――澤野さんが楽曲で注目するのはやはりキャッチーさ、なんでしょうか?
そうですね。いっとき、ザ・チェインスモーカーズとかがサビをシンセリフに任していたような曲が流行りましたけど、キャッチーであればサビに歌がなくても「かっこいいな」と思います。
――確かに澤野さんの楽曲は作品にすごく馴染んでるんですけど、すごくキャッチーで耳に残りますよね。アルバムの話に戻りますが、3曲目の「MOBILE SUIT GUNDAM UC-medley」は、メロディを聴いただけで、鼻歌で歌えてしまうというか、なんかそういう強さを持ってるのが澤野さんの楽曲だなって印象があります。
やはりそこは、映画音楽に感動したのが久石譲さんであったり、映画音楽じゃなくても、例えばASKAさんや小室さんもメロディが強い方たちじゃないですか。そういう音楽を好きで聴いてきた流れがあって、自分もそういう曲を作りたいって思っています。だから海外の曲を聴くといっても、マニアックなところを掘り下げるっていうよりは、トップチャートの曲が好きなんですよ。それってやっぱりキャッチーだったりするじゃないですか。だから楽曲にエンターテインメント性を感じるものを作っていきたいって気持ちはありますね。
――エンターテインメント性はすごく感じますね。そして今回のアルバム、初回生産限定盤にはBlu-rayも付いてくるということで。これ、ライブがほぼそのまま入っていてすごくお得ですよね。
普段のSawanoHiroyuki[nZk] のライブでは、基本は歌ものメインでお客さんと盛り上がりたい気持ちのライブがほとんどなんですけど、サウンドトラックに寄ったライブをやりたいという思いから、2017年に『LIVE【emU】』でオーケストラライブをやったんです。それをまたシリーズとしてやりたいなっていう思いから開催したものですね。
――やはりそれは、今回のピアノソロアルバムというところへの親和性があるからっていうところからの初回生産限定盤の特典なのでしょうか?
そうですね。収録した内容を特典として付けるんだったら、この『scene』がタイミング的にいいんじゃないかって。[nZk]のアルバムでこれを付けるとなると、ちょっと離れてしまっているかなと感じたので。
澤野弘之
自分からも作品に対して今後もいろいろやっていくべきだと思った
――澤野さんは劇伴作家としては、かなり精力的にライブもされていますが、やっぱりライブはご自身の中で特別なものなのでしょうか?
そうですね。今年10月にSawanoHiroyuki[nZk]Liveでは、久々にボーカルを中心としたライブを有観客でやったんですけど、お客さんの反応とか見たときに、やっぱりみんなで一緒に音楽を共有する空間は、何物にも代え難いと思いました。もちろん作曲家なので、曲を作ってる時はものすごくテンションが上がってるし、レコーディングして完成した時はすごく幸せではあるんですけど、やっぱり曲って、人に聴いてもらうために作っていると思うんです。自分だけしか聴かないのであれば、たぶん曲を作るのが楽しくなくなってくると思うんです。劇伴であっても、聴いてくれた人がどういう反応をしてくれるかっていう思いがあるからこそ、曲を作れていると思うんです。ライブって、ダイレクトにお客さんの反応が見れる場所なんですよね。普段こもりがちな自分にとっては、作曲とはまた違った幸せをもらえる場所だと思っています。
――そんな澤野さんですが、コロナ過でライブができない状況で「〈宅REC-nZk〉」とかもやられてましたけど、コロナ過の影響ってあったのでしょうか?
正直、僕は作曲家なのでコロナ過ですごく支障があったか? って言うと、ちょっとスケジュールがずれたりとか、レコーディングスタジオが使えない、ということとかはあったんですけど、基本は自分の仕事場で作業しているので、あまり普段と変わらないペースで楽曲制作できていたんです。でもライブが延期になったりだとか、ミュージシャンと同じ場所でこれまでのようにレコーディングできないことで、今まで普通だったことがどれだけ重要だったかって改めて感じたりもしました。そんな中、悪いことが起きた時にネガティブな方向に気持ちが向くよりも、やっぱり前向きな方向に動きたいなという思いから〈宅REC-nZk〉みたいなこともやってたんです。
――これまでの普通だったことがいかに貴重なことだったのかを実感したと。
僕は職業作家なので、これまでは仕事をいただいてそれに応えて、納品したら終わり、となっていたんですけど、〈宅REC-nZk〉をやったことによって作品のファンの人たちが動画に興味を持ってくれてコメント書いてくれたりして。作品に関わってる人たちがこうした音楽制作にも興味を持ってくれるんだったら、劇伴を作って納品したら終わりにするのではなく、自分からも作品に対して今後いろいろ提案していくべきなんじゃないかなと思ったんですね。
――劇伴を作って終わりではなく、その先のアプローチがあると。
はい。作品サイドに頼まれていなくても、何かアレンジしたものを公開することによって、その作品のファンの人たちが、面白がって見てくれて、それが作品にとって微々たるものでも相乗効果になるんだったら、自分の活動にとってもプラスになるし、やるべきなんじゃないかなってことに気づけたんです。だからあの時にやっていた動きっていうのは重要だったなと思います。
――納品した後のアプローチをすることによって、ご自身も前のめりになることができたわけですね。
今年も『86―エイティシックス―』に関わった時、劇中曲のMVやリアレンジを提案したら、作品制作サイドが面白がって協力して頂けたんですね。こうした動きは今後もやっていきたい。人間って、今ある出来事が過ぎ去って、また普通になると気づいた事や反省した事を忘れがちになってしまうなんですけど、これは忘れちゃいけないなと思っています。
――そうですね。そう言う意味では、このアルバムもそういう作品に対する、改めてのアプローチになっていますよね。では最後に今回はピアノソロアルバムにチャレンジされたわけですが、これからチャレンジしていきたいこと、やってみたいことはあるのでしょうか?
今動いているプロジェクトで、ボーカリストと共に組んで動いているものがあるんです。そこで[nZk]とはまた違う、ボーカルプロデュースみたいなことを広げていけたらいいなと思っています。そしてライブにも繋がっていったらいいなとも漠然と思ってます。また、今回の『scene』は今まで録ってきたものをまとめてみましたという感じですが、それとは違う、コンセプトを考えて作るピアノアルバムもいつかはやってみたいですね。
――『scene』は澤野さんの生のタッチを感じられてすごく気持ち良かったです。素朴にピアノが上手いなと。
僕、うまくないですよ! 全然!ナンチャッテで弾いてます(笑)。
――いやいや(笑)。作曲家の方は曲をピアノで作ってるかもしれないですけど、そこから普通は完成した曲しか聴けないわけじゃないですか。そういった作曲家の方がファンクラブ用に弾いた演奏を作品としてまとめて発売するというのは、なかなかないアルバムだと思うんです。
そうかもしれませんね(笑)。
――今回のアルバムはすごく澤野さんを近くに感じられる1枚になっているなと。いちファンとしてこういうアルバムの『sceneⅡ』も期待したいです。
ありがとうございます。「-30k」では、今後もピアノソロは続けていくので、またたまったら……。これを発売したことでレーベルが痛い目を見なければ(笑)。ぜんぜん売れなかったら自主制作で出します!インディーズで出しますんで(笑)。
取材:加東岳史 構成:林信行