BUCK-TICK 撮影=田中聖太郎
BUCK-TICKが、2021年12月29日(水)に『魅世物小屋が暮れてから~SHOW AFTER DARK~ in 日本武道館』を開催した。BUCK-TICKの日本武道館公演は、2000年に行われた『TOUR ONE LIFE, ONE DEATH』からスタートし、以来、2019年は日本武道館の改修工事により会場を国立代々木競技場第一体育館に移しての開催となったが、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、同年唯一の有観客のライブとして日本武道館公演を行った。そして、2021年は、10月から計画されていた全国ツアーが今井寿の怪我の治療のため中止となり、本公演が同年唯一の有観客でのライブとなった
本公演同日に、2020年12月29日の日本武道館公演を映像作品化したLIVE Blu-ray & DVD『ABRACADABRA THE DAY IN QUESTION 2020』が発売となり、2022年最初の作品となるLIVE Blu-ray&DVD『魅世物小屋が暮れてから~SHOW AFTER DARK~』を3月7日(月)に発売することも発表された。さらに、本公演終演後には、2022年の活動予告として、7月にファンクラブ限定ライブ、8月19に『Yagami Toll ~60th Birthday Live~』、9月23日、24日に横浜アリーナで『35周年Anniversary Special Live』、10月から全国ホールツアー、最後に12月29日に恒例の日本武道館公演の開催を発表した。
さらに、2023年春にはニューアルバムをリリースすることも発表。35周年ティザーサイトも開設となり、いよいよ始まった2022年のBUCK-TICKの活動に期待が高まる。
以下、2021年12月29日『魅世物小屋が暮れてから~SHOW AFTER DARK~ in 日本武道館』公演のオフィシャルレポートを掲載する。
“さあさあ寄っておいで 覗いてみな”
そんな謳い文句で幕を開けたBUCK-TICKの『魅世物小屋が暮れてから~SHOW AFTER DARK~ in 日本武道館』公演が、2021年12月29日東京・日本武道館にて開催された。
開幕を知らせるブザーの音がけたたましく会場に響くと、SEとともにステージ前に張られた紗幕にサーカス小屋の奥へと誘う映像が流れた。これは、昨年7月に配信したStreaming Live『魅世物小屋が暮れてから~SHOW AFTER DARK~』と同じイントロダクション。今回のステージはタイトル通り、Streaming Liveの世界観を踏襲した内容の2部構成になるという触れ込みで、このイントロダクションを見終わるまでは、筆者を含めた誰もが妖艶で淫美で蠱惑的なあの世界観を現実世界で楽しめるものだと思っていたはずだ。なにせ時間もなかった。BUCK-TICKが12月29日にコンサートを開催するのは今回で連続21回目だが、開催決定が発表されたのは約1カ月半前のこと。今井寿(Gt)の足の怪我により秋の全国ツアーをすべて中止にした彼らは、この武道館公演についてもギリギリまで開催を検討していた。中止にしてしまえば2021年の有観客ライブはゼロになる。それはデビュー以来初のこと。コロナ禍の2020年も有観客ライブは12月29日の1本限りだった。“逢いたい”という強い想いが開催へと針路を変えた。そこから急ピッチで準備が進められたことは想像に容易い。
Streaming Liveと同じイントロダクションが終わり、タイトルロゴの後ろにメンバーが透けて見えると、大きな拍手が湧き上がった。そこにダンドンダンドンと高らかに鳴り響くティンパニーの音。“さあさあ寄っておいで 覗いてみな”と、「DIABOLO」がショーの始まりを告げた。空中ブランコや自転車に乗った熊といった賑やかなサーカスのグラフィックが紗幕を彩るその奥で、ゆらりと体を揺らしながら演奏をするメンバー。シルクハットを手に観客をもてなすようにステージの右へ左へと歌い歩く櫻井敦司(Vo)が、《御機嫌よう さようなら》のフレーズをシアトリカルに歌ったと同時に幕が落ち、メンバーの姿が露わになった。その瞬間に爆上がりした会場のテンションを肌で感じた。今年も観客は声が出せないため大きくて長い拍手でメンバーに応えていた。ソファに寝転がって足をジタバタとさせながらギターをかき鳴らす今井の姿を確認する。その足には、ヒールの高いブーツがしっかりと装着されていた。「ようこそいらっしゃいました。楽しんでいってください」。短い挨拶の後、最高潮に高まった会場に投下されたのは「夢魔 -The Nightmare」。一瞬にして黄泉の世界へと突き落とされたのだった。
今思えば軽率だった。第一幕をアコースティックセットで構成していたStreaming Liveを踏襲したものであれば、まだ完治していない今井の足についても幾分か安心だろうと思っていたことも、あの時と同じような世界観を楽しむことができるだろうと思っていたことも。しかし、BUCK-TICKはいつだって想像の遥か上をいくポテンシャルで、我々を楽しませてきてくれたではないか。現に、緊張感のある歌とアンサンブルでアジテーションする「夢魔 -The Nightmare」に合わせて両手を掲げる観客の表情は、恍惚感に満ちていた。ギターを鳴らしながら今井が杖をついてステージを闊歩する。その姿を目にした頃にはすでに、夢魔が見せる深い深い夢の中に落ちていたのかもしれない。
「DIABOLO」「夢魔 -The Nightmare」に続く第一幕の楽曲群はシングルタイトル曲を含まず、聴けばその世界にどっぷりとはまってしまうような中毒性の高い楽曲が並んだ。まるで一曲一曲異国にトリップするような感覚だ。シャラリンと櫻井が鳴らすグングルの音に導かれた「楽園」、「謝肉祭 -カーニバル-」ではステージ上のトーチに炎があがり、その灯りだけで魅せる演出も印象的だった。エリック・サティの「グノシェンヌ」のフレーズを今井が奏でたインタールードから続く「Lullaby-Ⅲ」では、樋口豊(Ba)のアップライトベースがジルバのリズムを刻み、赤いリップと黒いマラボーをまとって揺れる櫻井のパフォーマンスは、酒場の妖艶なマダムのようだった。星野英彦(Gt)のスパニッシュギターに合わせてクラップが湧いた「絶界」、16ビートを刻む2本のアコギがケチャを彷彿とさせる「Living on the Net -Acoustic Ver.-」、ヤガミ・トール(Dr)がタイトなドラムを聴かせる「光の帝国」では近未来の世界へ、続くキャッチーなロックチューン「ユリイカ」では一気に宇宙までトリップする。そして第一幕ラストは「忘却」。情感豊かなサウンドスケープと歌が無の境地へと引き込んでいく。アウトロに乗せた櫻井の切々としたハミングが、より一層余韻を深めた。
「BABEL」で幕を開けた第二幕は、「獣たちの夜」「堕天使 YOW-ROW Ver.」といった近年のアップチューンや、アコースティックアレンジを加えたナンバーなど11曲中8曲がシングル曲で構成された。情景を物語る楽曲が多かった第一幕に対し、第二幕の楽曲群は感情を描く。櫻井と今井がツインヴォーカルをとる「Villain」ではむき出しの憎悪を、櫻井が声色とパフォーマンスで男女を歌い分けた「舞夢マイム」では、駆け引きの根底に流れる虚無感を、「MOONLIGHT ESCAPE」では圧力からの解放を伸びやかなボーカルで歌う。中でも珠玉のアレンジで聴かせたのは「形而上 流星 -Acoustic Ver.-」。間奏から続く歌にかけて、今井が爪弾く「かごめかごめ」のメロディが叙情感を炸裂させた。櫻井のボーカルも、いつも以上に儚げで美しかった。ノスタルジーを増長させたのは「JUST ONE MORE KISS Ver.2021」。音源には入っていなかったエンディングでの《I want you, I love you.》や《I‘ll kiss you.》の囁きにトキメキを覚えた人は少なくないだろう。ジャジーなアコースティックアレンジで聴かせた「唄 Ver.2021」、シャッフルビートにアレンジされた「ICONOCLASM Ver.2021」は太ももを露わにした櫻井のパフォーマンスも相まって、淫美に響いてきたのが新鮮だった。その余韻に浸っていると、再びダンドンとティンパニーが鳴り響き、長い夢から目醒めよとショーの終わりを告げる。第二幕のラストナンバーは「Alice in Wonder Underground」。軽快なナンバーで現実に引き戻されるも、同じティンパニーの始まりと今井が歌う《さあさあ寄っておいで 覗いてみな》のフレーズが第一幕一曲目の「DIABOLO」の記憶を呼び起こし、ここからショーが始まるパラレルワールドにでも迷い込んでしまったかのような、不思議な感覚に陥った。第一幕と第二幕の間に感染対策のための15分の換気休憩があったものの、オープニングからエンディングまで一貫して見せた深遠なる世界観に、ただただ放心するばかりだった。
アンコールでは最新シングル「Go-Go B-T TRAIN」とカップリング「恋」の生演奏を初披露した。旅立っていく大切な人へ想いを寄せるレクイエムである「恋」では、静寂の中で紡がれるたおやかなアンサンブルに、赤い長襦袢を羽織って登場した櫻井の儚くも美しく、芯の強いボーカルが映えた。続いてイントロで赤いタンバリンを打ち鳴らす「Go-Go B-T TRAIN」へ。樋口の存在感のある骨太なベースと、ボトムを引き締めるヤガミの重くタイトなドラム、今井と星野のツインギターが生み出すヘヴィなリフ、そして櫻井の張りの良いボーカルが一体となってパワフルに疾走する。「Go-Go B-T TRAIN」をタイトルにした秋ツアーが中止になったことを踏まえて「やっとB-T TRAINに乗れたね。今年のことは忘れて、来年はたくさんコンサートができたらいいなと今思っています」と櫻井。一方メンバー紹介では、今井が「お待たせしました。なんかいろいろとやらかしちゃうのは今に始まったことじゃないんで、これからもよろしく」と、中指を立てつつピースをして見せ、会場をざわつかせるシーンも。そして2021年ラストを飾ったのはアップチューンの「独壇場 Beauty -R.I.P.-」。客電のついた明るい会場で顔と顔を突き合わせながら、この日一番の一体感の中で大団円を迎えた。
2022年にBUCK-TICKはデビュー35周年を迎える。7月にファンクラブ&モバイルサイト会員限定ライブ、8月19日(金)に『Yagami Toll ~60th Birthday Live~』、9月にDEBUT 35th ANNIVERSARY プロジェクト始動、9月23日(金)・24日(土)にAnniversary Special Live YOKOHAMA ARENA、10月に全国ツアー開催決定、12月29日(木)日本武道館公演、そして2023年春にニューアルバムのリリースと、終演後続けざまに告知された活動情報に会場は沸いた。35周年に向けたメンバーの一人ひとりの想いは、実はすでに日本武道館へと続く最寄りの地下鉄九段下駅のエスカレーター横に貼られたポスターに掲載されていた。共通のメッセージとして掲げられていたのは“行こう 未来へと、行こう。”。この言葉は2020年12月29日の日本武道館公演、ラストナンバー「New World」直前のMCで櫻井が力強く言い放った言葉だ。無限の闇を切り裂き、まばゆい未来に向かってB-T TRAINは再び走り出したばかり。メモリアルな一年を巡る列車の旅を、乗り遅れることなく大いに楽しんでほしい。
取材・文=大窪由香 撮影=田中聖太郎