高校1年生の野村友里愛は、2021年夏に開催された第45回ピティナ・ピアノコンペティションで特級グランプリを獲得した。15歳のグランプリ受賞は史上最年少タイの快挙。受賞後、各地でのリサイタルにゲスト出演するなどコンサート機会が増えているという野村。2022年2月と3月に開催される『ピアノの祭典2021 特級ガラコンサート』と『第45回ピティナ・ピアノコンペティション ソロ・デュオ部門入賞者記念コンサート』に中心に話を訊いた。
――ピティナ・ピアノ・コンペティションの特級グランプリを受賞後の、周囲のみなさんの反応は?
私は通信制の学校に通っているので友だちと話す機会がなくて、実際の反応はわかりません。でも、コンクールのあとにツイッターを始め、いただいたコメントを読んでとても励みになりました。
それから、それまでコンサート……特にリサイタルをやることはほとんどありませんでした。コンクール後のことですが、これだけたくさんコンサートの予定が入ることは初めてです。
――コンサートやリサイタルで演奏するのは、いかがですか。
私はかなり緊張するタイプですが、舞台に立って弾き始めると少し落ち着きます。自分の音を聴きながら少しずつ緊張がほぐれていくのをいつも感じています。
――リサイタルやコンサートへの出演が増えていますが、一日の練習時間は?
集中してピアノの前に座るのが苦手なんです。犬と遊んだり、イラストを描いたりと、ピアノとはまったく違うことに没頭してしまうなど、すぐ気が逸れてしまいます。3〜4時間練習できれば良い方です。
――ピアノを始めたのは5歳からだそうですね。いつ頃からピアニストを目指すようになったのですか。
小学2年生の時に、ピアニストを目指そうと思いました。いつも聴いていたツィメルマンさんのCDと曲目の同じDVDを母が買ってくれました。それを見たのがきっかけです。途中で何回か挫折しかけたことはありましたが、将来ずっとピアノをやっていきたいという気持ちは常に変わりませんでした。
――ツィメルマンさんと……それからどんなピアニストが好きですか。
ソコロフさん、あとはチョ・ソンジンさんです。
――ピアニストの関本昌平さん師事されていますが、いつごろからレッスンを受けているのですか。
小学3年生の終わりごろからです。きっかけは、母が関本先生のセミナーに参加したことでした。
当時から本格的にピアノに取り組もうと固く決意していたので、母はすごく協力してくれていていました。そのなかで、関本先生のセミナーに参加し、その際に先生のCDを買ってきてくれました。そのCDを聴き、私自身も関本先生のもとで勉強したいと思ったのです。
――初めてのリサイタルは、いつ頃おこなったのですか。
ソロのリサイタルは2021年7月、名古屋の電気文化会館、本格的なリサイタルは、去年の10月、関本先生と共演したリサイタルが初めてです。
――2月25日の『ピアノの祭典2021 特級ガラコンサート』は、すべてショパンのプログラムですね。
ショパンは私が好きな作曲家の一人なので、今回、ショパンを勉強できることはとても嬉しい反面、ショパンの難しさに直面しています。技術的に難しいところもたくさんありますし、それから、ショパンの歌心や詩的なメロディ……切なさや淋しさ、悲しさなどを受け止め、自分の音として表現するのはとても難しいと思います。
――師の関本さんは、ショパン国際ピアノコンクール入賞者ですね。
実は今回のプログラムは、まだ先生に見ていただいていないので(※取材時)。いつもたくさんアドバイスしてくださいます。とても細かく、そして感覚的に教えてくださって……。時には横で歌ってくださり、「ここはこうだよ」と言葉で説明するだけではなく、隣で弾いてくださいます。耳から入ってくることでも、いつも勉強になっています。
ピティナ・ピアノコンペティション特級ファイナルの様子
――コンサートではまず、「英雄ポロネーズ」を演奏します。
堂々とした音楽のなかにもショパンらしい繊細さも詰まっていて、弾いていても楽しいですし、聴いていてもとても楽しめる曲だと思います。
――それから、バラード全4曲を、このコンクールの特級部門ファイナリスト4人で演奏するのですね。野村さんは第1番を選ばれたそうですが……
小学校の高学年の頃にちょっと譜読みしただけなので、もう1度、楽譜を読み直しています。後半の情熱的な部分もすごく好きですが、個人的には、第1主題のとぎれとぎれに訴えかけてくるような、憂鬱なメロディが好きです。でも、音数が少ないので単調になりやすく、その美しさを表現するのが難しいと感じています。
――そのコンサートで、野村さんはショパン「ピアノ協奏曲第1番」を弦楽四重奏と共演しますね。
この曲は、昨年(2020)10月のリサイタルで、2台ピアノ版を関本先生と全楽章弾きました。第2楽章のはじめ……オーケストラから引き継いでピアノが歌い出す部分で、ずっと格闘していました。オーケストラの幻想的な雰囲気をそのまま引き継いで歌い出すメロディが、どうしても自分の納得いくような形にならなくて、ずっと悩んでいた思い出があります。先生も、その部分をとても大切にされています。たった数小節のメロディですが、そこで第2楽章の印象が決まると私は考えていて、魅力的な音を表現するのに苦労しました。
とても緊張していますが、自分なりのショパンの音をお届けしたいと思っていますので、コンサートにぜひ足を運んでいただけましたら嬉しいです。
取材日は特級ファイナリスト4人でのインスタライブの日。4人は8月のファイナル以来の再会というが、和気藹々とした雰囲気で交流を楽しんでいた
――さらに、3月20日の『第45回ピティナ・ピアノ・コンペティション ソロ・デュオ部門入賞者記念コンサート』で、野村さんはリスト「巡礼の年第2年」から「ダンテを読んで――ソナタ風幻想曲」を演奏します。
まず、弾いたことのない曲を取り組みたくて。今回は時間制限もあり、この曲がぴったり当てはまりました。リストがダンテの詩を読んで書いた曲で、地獄と天国との対比ももちろんですし、悪魔的な響きと言いますか、弾いていても怖くて……そういう部分に魅力を感じました。
――それから、曲想ががらりと変わり、モーツァルトの「ピアノ四重奏曲第1番」も演奏するのですね。
浜松国際ピアノコンクールの動画を見ていたとき、課題曲がモーツァルトの「ピアノ四重奏曲」で、とても魅力を感じた作品でした。これが選曲のきっかけです。
――野村さんは、いま15歳。ワルシャワのショパン国際ピアノコンクールは、次回は4年後に開催され、参加可能な年齢ですが……
ショパン・コンクールに出場することを目標にしたいな……とは考えていますが、受けようと決めているわけではありません。もっとたくさん勉強しなければ…と思うことが多々あります。
――レパートリーを広げる時期ですものね。
広げないといけないと感じています。新しい曲にたくさん取り組みたいと思いつつも、弾いたことのある曲の完成度を高めることも大事だと思います。
――どんなピアニストになりたいですか?
いつか世界中でコンサートをしてみたいという気持ちはあります。音楽には言語がないので、自分の音を通じて世界中の方々と交流することが夢です。
『ピアノの祭典2021 特級ガラコンサート』野村友里愛インタビュー
取材・文=道下京子 撮影=福岡諒祠
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