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マカロニえんぴつの飛躍を象徴する決定打 最新アルバム『ハッピーエンドへの期待は』を語る

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マカロニえんぴつ 撮影=菊池貴裕

マカロニえんぴつ 撮影=菊池貴裕

これは名実ともに、最強のメジャーデビュー・フルアルバムだ。マカロニえんぴつの新作『ハッピーエンドへの期待は』は、「メレンゲ」(JR SKI SKI 2020-2021キャンペーンソング)や「はしりがき」(『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』主題歌)など、14曲中10曲にビッグなタイアップチューンがずらりと並ぶ。さらにファン待望の初音源化曲「キスをしよう」や、DISH//への提供曲「僕らが強く。」のセルフカバーなど、「バンドが今やりたいこと+時代が彼らに求めるもの」のすべてを詰め込んだアルバム。その内幕をメンバー全員の言葉から解き明かしていこう。

――まさに全力疾走で駆け抜けた2021年。マカロニえんぴつにとって、どんな年でした?

田辺由明:制作に関しては、タイアップをたくさんやらせてもらって、いろんな世界観に触れることができたことで、僕らも得るものがあったと思うんですけど、やっぱりこの1年で思うことはライブですね。2020年はほとんどライブができなかったんですけど、2021年はツアーを2本も回れて、フェスにも出られて、会えなかった人たちに会いに行けたことがすごくうれしかったし、自信がついた1年だったと思います。

――その、実り多き1年を締めくくるニューアルバム『ハッピーエンドへの期待は』。去年から連続で大型タイアップつきのシングルをリリースしていって、それらがアルバムにつながっていくわけですけども、その流れは最初から想定していた?

はっとり:2021年の年末か2022年の頭にはアルバムを出そうという予定は立てていたんですけど、それまでは目下の制作に没頭していただけで、アルバムのイメージはしてなかったですね。そのあと、既発でない新録音のもの、具体的に言うと「キスをしよう」「なんでもないよ、」「僕らが強く。」「TONTTU」「ワルツのレター」の5曲を録ってる時は、アルバムの残りのピースを埋めにいってる感覚はありましたけど、常に目の前のものに向き合ってきた感じです。一個一個のタイアップが大きかったので、この1曲ですごく間口が広がると思うと、僕らのいろんな側面を見せたい気持ちが特に強かったので、こうして並んだ時にそれぞれの色が強いのは必然だったと思います。

――マカロ二えんぴつはアルバムアーティストだから、ということを前に言っていたのを覚えてますけど、それぞれがシングルになりうる個性の強さを持ちつつ、アルバムの中でうまくまとまってるなぁと思いました。

はっとり:まとまったのか、無理やりまとめたのかはわからないですけど(笑)。

――ところがアルバムの直前に配信リリースされた「なんでもないよ、」はノンタイアップ。にも関わらず、すごく多くの人に受け入れられましたよね。あれは、あえてノンタイアップでの勝負曲という感覚ですか。

はっとり:はい、勝負をかけたいなと思ってました。この曲はタイアップはつかずに行けるだろうという自信もあったので。とはいえ、リリースと同時にTikTokの「#秋の歌うま」という企画のアンバサダーに就任させてもらって、この曲をカバーしてくださいという企画を同時に走らせられたのも、ヒットにはつながっていると思います。みんなが広げてくれたということですね。

 

――SNSでの浸透はすごく大事ですよね、今の時代は。もちろん曲が良くなければ何も始まらないけれど。

はっとり:「なんでもないよ、」は、ほかの曲とはなんとなく違う毛色を帯びているというか、幸せを受け入れる体制ができている主人公がいる曲です。恋愛詞であれば相手が必ずいて、その相手と過ごしていく過程を描くのがだいたいのラブソングの作り方ですけど、この歌は「この思いをどうやって伝えようか」ということを歌ってるんですね。人は会話しながら瞬間的に、頭の中ですごいスピードで言葉を選んでいく、その一瞬を1曲で描いてる。長い間の時系列や、季節を表すのではなくて、その一瞬をわざわざ1曲に引き伸ばしてる。縮小じゃなくて、拡大してるんですよ。

――ああー。なるほど。

はっとり:そこが革新的だったかもしれない。自分がクリエイトした過去のものと比較してもそうだし、現代のJ-ROCKの中の立ち位置としても、いい意味で浮いてくれたのかな?という気がします。

――あらためて、アルバムが完成した手応えをメンバー全員に聞きましょう。高野さんは。

高野賢也:はっとりが言ったように、1曲1曲に視線を向けて曲を作っていって、(タイアップの)クライアントさんからの要望もあったので、ジャンルが幅広いんですよ。映画、アニメ、CMとか、自分たちの音楽がいろんなジャンルに対応できるんだということを感じましたし、それらの曲を通して自分たちの力を感じたアルバムになったと思います。1枚通して聴くと、自分たち4人だけでは作れなかったと思うし、この1年間は本当に目まぐるしかったですけど、少しずつ成長していってるんだなということを感じました。

はっとり:ほとんど、この1年で作った曲だからね。「生きるをする」「mother」以外は。そう考えると、頑張ったよね。換算すると、1か月に1曲だから。逆に、1か月にたった1曲かよとも思うけど(笑)。

高野:今回は、(1曲ごとの)制作が隙間なく埋まっていて、アレンジのかぶりがないんですよ。

はっとり:そうだね。直近の記憶があるから、無意識に「次は違うことをしよう」という意識が働いて、だからマンネリは避けられたのかもしれない。

 

――長谷川さんは?

長谷川大喜:それぞれ本当にキャラの立った曲ばかりだと思っていて、1枚としてどうまとめるか想像できなかったし、まとまるのか?という不安も感じてたんですけど、曲順や新録曲でバランスを取って、すごくいい形になったなと感じてます。「なんでもないよ、」が配信されて、わかりやすい数字やランキングは出ましたけど、ほかの曲も「なんでもないよ、」が引き連れている曲たちではなくて、ちゃんと横並びというか……。

はっとり:引けを取らない。

長谷川:そう。引けを取らない力強い楽曲ばかりだから、そういうアルバムができたと思った瞬間に、すごい自信になりました。

――では田辺さん。

田辺:アルバムの流れを見直すと、面白い絵本みたいな感じがします。『hope』にしても『CHOSYOKU』にしても、僕らのフルアルバムは毎回バリエーションに富んでいて、毎回フルアルバムを出すたびにやり切った感はすごくあるんですよ。それと同時に「次はどうなるんだろう?」という、ワクワクでもあり、不安でもあり、『hope』ができた時にもそう思ったんですけど、そのあとに『ハッピーエンドへの期待は』というものすごいフルアルバムを作れたので、自信になりましたね。今は不安はないし、いつになるかわからないけど、次のフルアルバムに向けてまた楽しいことをみんなでやれたらいいなって、楽しみな気持ちの方が強いです。

――田辺さんが作曲した「好きだった(はずだった)」。めちゃくちゃいい曲です。

田辺:ありがとうございます。

はっとり:こんないい曲作れるの? ゴーストライターがいるんだっけ?

田辺:いちおう、僕が作りました(笑)。でもみんなが良くしてくれたんですよ。デモの段階ではもっとギターライクな感じだったので、みんなのエッセンスが入って良くしてくれたという感じです。

――そして「ワルツのレター」の作曲は長谷川さん。これはTBS系『news23』エンディングテーマ(2022年1月~)という、歴代にずらりと名曲が並ぶすごいポジションをゲットしました。

長谷川:『news23』のタイアップということで、明日を頑張るために今日を乗り越える、みたいなイメージで作った曲です。夜に考えることとして、何かわからない不安や恐怖みたいなものがあると思うんですけど、そこでそっと背中を押してくれるような曲を作りたいなと思って、あえて明るいポップな曲ではなく、暗めの曲にすることによって、共感するというか、不安を分けるような曲にしたいと思ってました。最後のサビでは息苦しさを出したくて、リングモジュレーターというエフェクトをエレクトリックピアノにかけて、はっとりくんのボーカルもあえてフィルターをかけてこもらせてる。そういうことで、共感できるような曲になったらいいなと思いました。

はっとり:生きづらい、息苦しい世の中ですからね。

長谷川:最近は特にね。

 

――はっとりさんの歌詞にも、そのニュアンスは色濃く出てますよね。「ワルツのレター」には、時代や世相というものが、背景ではなく前面に出てきている。

はっとり:世相を歌おうとすればするほど、大風呂敷を広げるはめになるし、ピントがぼやける恐れもあるので難しいんですよ。ただダイちゃんがそういう思いで作った曲だし、俺も曲調からそれを感じ取って、形にできない不安を形にしたいというか……たとえば真っ黒の絵の具で塗りつぶすとすごく息苦しいし、深い闇に感じるんだけど、水を含んだ筆でひと撫ですれば、絵の具の下の白い紙が見えてくるし、色が薄くなって広くなる。水を与えて滲ませていく、という感じですね。それ(不安や恐怖)を消すことはできないけど、分散させることはできるから。ダイちゃんは「分ける」という言い方をしたけど、俺にとってそれは、水を混ぜて広げていくことなのかな?と。そういう思いで歌詞を書きました。

――ああー。なるほど。

はっとり:この曲には特に「悲しみを背負ってやるぞ」という意志の強さが必要だと思ったんですよ。だからこのアルバムの中で唯一、一人称が「おれ」になってる。もともと「おれ」って、めったに使わないんですけど、初めてかな? あ、でも「恋のマジカルミステリー」では言ってるか。それぐらいかな。「おれに頼ってくれよ」という気概のある、悲しみを背負う覚悟のある曲だという気がします。

――<希望の歌が残ってないなら/おれが作ってやる>。素晴らしいです。そんなシリアスな曲がある一方で、「TONTTU」のような曲もあって……これ、何なんですか一体。

全員:あははは!

はっとり:もはやクレーム(笑)。

――ではなくて(笑)。面白すぎるんで、こりゃ一体何だ?と。

はっとり:この曲、どの現場でも聞かれるんですよ。

田辺:待ってました!みたいな感じで(笑)。そもそも僕とはっとりがハードロックが大好きで、昔から何かしらの形でやってきたんですけど、今まではポップな曲の中にハードロック要素が入っている曲で、でも「ハードロックに振り切った曲をやりたいね」という話は昔からずーっとしていて、それをなぜかこのタイミングでやったというところです。まあ、歌詞はサウナのことなんですけど。

はっとり:サウナ大好き人間ですから。彼ら(田辺、長谷川)が。

――トントゥは、サウナの妖精として、知ってる人は知ってると思います。

田辺:サウナ好きのバンドマンは多いし、サウナの曲を作る人もいるんですけど、だいたいお洒落な方に寄っていくんですよ。でも俺らがやるなら、サウナの熱さをフィーチャーすれば、それはハードロックと親和性が高いのではないか?と。

――論理的ですね(笑)。

田辺:80年代のハードロックがやりたくて、メタリカの「エンター・サンドマン」のリフを意識してみたり、みんなで相当研究しました。ダイちゃんは自分で研究してくれて、それっぽいシンセの音を作ってくれたりとか。レコーディングは一番楽しかったな。

 

――アルバムの中でしか聴けない遊び心いっぱいの曲だと思います。その一方で、「キスをしよう」のように、ライブでやっていた人気曲の初音源化もある。これ、なんで今だったんですか。

はっとり:これ以上先延ばしにしても、「もう入れなくてもいいかな」と思っちゃいそうだったのと、あとは、待望の声が大きくなってきたんですよね。もともと姉貴の結婚式のために作った曲で、披露宴で歌ったら反応が良くて、ライブでやったらお客さんのリアクションも良くて、ラジオで弾き語りをやったら「いつリリースするんですか」と言われ、みんなが望むのであれば、ということですね。バンドでやらなくてもいいかな?という思いは正直あったんですよ。だって、姉貴の結婚式のために作った歌だよ?

田辺:うん。

はっとり:で、いざ入れることになったら、ニルヴァーナの「サムシング・イン・ザ・ウェイ」みたいに後半にストリングスが入るとかっこいいかなとか思ったり。ハーモニカも入れようとしてて、ブルースハープを買ったんですけど、弾き語りでけっこういいテイクが録れたから満足しちゃって、「あ、ハーモニカ入れるの忘れた」って。今から間に合えば入れたいんですけど。

――もう間に合わない(笑)。でもすっぴんの弾き語りで、すごくいいテイクですよ。

田辺:コーラスすら入ってないもんね。本当の一発録り。

――高野さん。自作曲「トマソン」のお気に入りポイントは?

高野:「トマソン」は、アウトロのギターソロですね。ベースをループ再生した上で、はっとりがノリでギターを弾いて、「これいいね」というやつを二人で選んで、最終的に決まったのがこれです。スケールをあえて外した音を弾いてるんですよ。

はっとり:トゥルルルレットゥレットゥレッ、って、文字にできないけど(笑)。

高野:リズム録りの段階からすごくこだわって作ったので。期待を超えるギターソロになって、これは本当に満足してます。

 

――マカロニえんぴつは本当に演奏能力が高いので、マニアックな聴きどころもいっぱいあります。1曲目の「ハッピーエンドへの期待は」とか、コードチェンジがすごすぎて、展開が全然わかんなかったり。

はっとり:ああー、でもあれは猫だましというか、すごいように聴こえるけど、セクションごとのコード進行はけっこうベタなんですよ。ただ転調の仕方がちょっと特殊で、一音半上げだっけ? 感覚でやってるから忘れちゃった。

高野:まだメンバーで合わせてないから、コード進行を把握しきれてない。

はっとり:合奏してないんですよ。

田辺:セクションごとに録ったからね。だからツアー初日が大変。

――「ハッピーエンドへの期待は」は、アルバムのタイトルチューンでもありますけど。この歌詞がアルバムを象徴しているということですか。

はっとり:いや、この歌単体で言ったら映画(『明け方の若者たち』)の主題歌のために作ったし、映画の内容にとても寄り添っているので、もしかして普遍的ではないかもしれない。ただ「ハッピーエンドへの期待は」という字面がすごく良かったのと、映画でも「ハッピーエンド」という言葉がキーワードになるんですけど、それはすごく前向きでありつつ、どこか空想に近いぼんやりしたものとして、ちょっとみんなが小馬鹿にしながら使っている感じがあるんですね。「ハッピーエンドなんか実はない」ということを、みんな心のどこかで知りながらも使っている。その漠然としたイメージは、前作の『hope』というタイトルにとても近いんですね。

――ああー、そうか。確かに。

はっとり:本当にハッピーエンドが待っているかどうかは別として、それをイメージすることが大事なんです。そこが夢想家っぽくていいと思ったのと、このアルバムにかける思いとしても、2022年1月にこれを出して、これから1年間で俺たちをすごいところまで連れて行ってほしい、いろんな人に届いてほしい、そして1年の終わりに「今年もハッピーエンドで終われるね」と言える期待も込めて付けたタイトルです。言ったら、前作の『hope』と何ら変わらないんですよ。それは期待、希望ということだから。『hope2』みたいなイメージです。

――アルバム初期の「生きるをする」「mother」は、青春や人生をストレートに叫んでいる印象がありますけど、アルバム曲にはひねりの効いた歌詞も多いし、青春や恋愛や世相もあって、歌詞の風景がすごく豊かになってきた印象があるんですね。歌詞で歌いたいことは、だんだん変わってきている自覚はありますか。

はっとり:歌いたいことが変わってきているというか、歌えることが増えたという感じです。それは心的余裕もあると思いますよ。ある程度評価されるようになったことで、冷静に物事を見れたり、歌ってる時の自分すら俯瞰で見れるようになって、それは10年というキャリアのおかげかもしれないけど、ある程度の大台に乗れたからこその冷静さはあると思います。いいか悪いかはわかんないですけどね。売れてない時のストイックさやハングリー精神、擦り切れそうな摩擦感みたいなものはもしかしたら無くなってるのかもしれないけど、評価されたことはすごい自信と余裕につながってると思うし、表現の幅が広がったと思います。言いたいことと、言えることの。

――はい。なるほど。

はっとり:やっぱり、売れないと、自信はつかないと思いましたね。

――金言ですね。それはマカロニえんぴつが、いいものを作り続けたからこそだと思います。

はっとり:手に取ってもらえる機会が増えたからこそ、そこで生半可なことや適当なことをやると、大損こくこともあるんですよ。たまたま手を抜いた1曲がめちゃくちゃ聴かれちゃったら、「ちょっと待って、それ違うの!」って言っても遅いから(笑)。だからどこを切り取って食ってもらってもいいように、全部おいしくしておきたいなということです。

――それがまさにこのアルバムじゃないですか。素晴らしい。辻褄が合った。

はっとり:「TONTTU」だけ切り取られるとまずいですけど(笑)。

田辺:「TONTTU」から入られたらどうしよう。ヘビメタバンドか?って思われる(笑)。

取材・文=宮本英夫  撮影=菊池貴裕

 

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