ズーカラデル 撮影=鈴木恵
フルアルバムとしては2作目となる、ズーカラデルの新作『JUMP ROPE FREAKS』が、2022年1月19日にリリースされる。
2020年9月リリースのミニアルバム『がらんどう』収録の「トーチソング」と、デジタルで発売された5曲の既存曲6曲に加え、新録9曲を収録した、サブスク全盛時代の逆を行く全15曲という大ボリューム。1回聴けば何を言っているのか理解できる、詩というより散文に近い日本語の歌詞が主流になる中で、その真逆を行く、意味よりイメージを伝えるリリックの世界。そして何よりも、こればっかりは持って生まれていないことにはいかんともしがたい、メロディメーカーとしての天賦の才。
という、今のズーカラデルのような、“なんかいい気はするけど抽象的でよくわからない”と見なされていたバンドが、ほんのちょっとしたきっかけで大ブレイクして世間の評価が一斉に手のひら返しになる、そんな瞬間をここ30年くらいで何度か見たことが僕はある。で、そんな奇跡の瞬間を、これから見せてくれそうな最右翼が、今のズーカラデルだと思っている。このバンドのポテンシャル、とんでもない。現状、動員も評価も順調に上昇カーブを描いているところだが、“世の中がひっくり返る”前にはまだギリ間に合うので、今のうちに聴いておくことを、強くお勧めしたい。
──2021年は、デジタルリリースが多かったですよね。2月に先行シングル「ブギーバック」と5曲入EP『若者たち』、7月に「未来」、8月に「シーラカンス」、10月に「ノエル」。
鷲見こうた(Ba):コロナ禍でライブができないんだったら、曲を作って出すしかない、っていう。特に「未来」「シーラカンス」「ノエル」に関しては、立て続けに曲を出していって、次の作品ないしライブとかにつなげていけたらいいな、というような目論みもあって。
吉田崇展(Gt&Vo):時代に合わせたやり方、みたいな側面は大きかったんじゃないかな、と思います。
──ニューアルバム『JUMP ROPE FREAKS』は、最近作った曲が中心ですか?
吉田:昔からある曲も、最近作った曲も入っています。ずっとある曲だけど、完成まで至ってなかったのが、やっと完成した曲とか。1年ぐらい寝かせて、アレンジをいろいろやったりしながら。
──じゃあひたすら創作、というのは、ずっと続いていた?
吉田:止まらなかったですね。
鷲見:時間がある時は、ずっとスタジオに入って曲作り、という感じでした。何かリリースが決まってなくても、特にコロナ禍になってからのこの2年間は、作れるうちにどんどん作っておこう、っていう。
──15曲というボリュームになったのは?
鷲見:それは、正直、仕方なく15曲に収めたというか。なんならもっと出したいくらいで。
──何曲くらいあったんですか?
鷲見:同じ曲数のフルアルバムを、もう1枚作れるぐらい。出せるものなら、今すぐ全部出したいぐらいです。
──もともと曲を作るのは苦ではない?
吉田:完成形まで持っていくには、めちゃくちゃ労力はかかるんですけど。ざっくりとした骨組みというか、まだ目は入れてないけれども形はできた、みたいな状態まで曲を作るのは、無限にできる我々であるような気はします。
──このアルバムの全15曲を聴いて、僕がスタッフだったら、この形で出すことに反対したかも、と思ったんですね。
山岸りょう(Dr):どういう意味ですか?
──半分に分けて2枚出す。こんなにいい曲ばっかり15曲も入れて、1アイテムとして出すのはもったいない、という判断をしたかも。
山岸:ああー。
──でも、もったいないどころか、この倍あったんですね。
鷲見:そうですね。確かに、今のサブスクとかでの聴かれ方だと、2枚に分けて、ミニアルバムで、っていうのは、大いにあるんじゃないかなと思いつつ、やっぱり、我々は世代としても、フルアルバムを聴いてきたし。フルアルバムを通して聴く良さっていうのは、間違いなくある、という思いが強くて。フルアルバムだから入れられる曲とか、フルアルバムだからこそ機能してくれる曲っていうのが、存在すると思うので。だからって、1曲1曲で聴いている人に対して、“それは間違ってるよ”っていう気持ちはないんですけども。
──ただ、フルアルバムだから入れられる曲、このアルバムにはあります? その1曲だけ聴かれても、大丈夫な曲しか入っていない気が。
吉田:ああ、それはでも、うれしいことではありますね。1曲1曲がちゃんと輝いてくれるように作った曲たちではあるので。
ズーカラデル/吉田崇展(Vo,Gt)
全曲、聴いた瞬間に100で刺さるところを目指してやっているので。今はいい曲しかやりたくないです。
──1stフルアルバムの時でしたっけ、インタビューで、オアシスの『MORNING GROLY』とかBUMP OF CHICKENの『ユグドラシル』のような、いきなりベスト盤のようなニューアルバムを作りたかった、とよくおっしゃっていましたが。
吉田:はい。
──毎回それをやろうとしてないか? という。
吉田:(笑)。まあ、曲が強いのに越したことはない、っていうのは間違いなく思っているところなので。
──曲をボツにすることってあるんですか?
吉田:バンドに出して、3人で合わせてみて、いったん申請を取り下げることはあります。
山岸:“まだちょっとビジョンが見えないね”みたいな。
吉田:“いい曲だとは思うんだけど、その良さの出し方がわかんないね”みたいなことで、引っこめて。でも、そういう曲もいずれ形を変えたりとか、何かほかの要素と合わさって、またおもしろいアイデアになる日を眈々と待っている、みたいな感じではあるので。
山岸:たとえば、このアルバムの「どこでもいいから」は、だいぶ前に吉田が持って来て、1回やってみたけどうまくいかなくて。長い時間かけて、何回もやり直して、今の形になったから、入れたんです。
鷲見:ずいぶん姿形も変わって。「まちのひ」とかも、第四形態、第五形態ぐらいまで変形したかもしれない。
──「どこでもいいから」、6曲目じゃないですか。このへんの曲って……変な言い方ですけど、もっと弱い曲でいいんですよ。
山岸:いわゆる捨て曲みたいな?
──(笑)捨て曲とまでは言わないけど、さっきの言い方でいうと、アルバムだから入れられる曲でいい、というか。10年以上前ですけど、奥田民生が雑誌のアンケートに答えている記事を読んで、“すげえ”と思ったことがあって。“今の若いバンドについてどう思いますか?”という質問の答えが“みんな曲がいい”。で、次の“今の若いバンドにアドバイスを”というのの答えが、“よくない曲もやれ”。
山岸:(笑)ええ!
吉田:すごいっすね。
──“すげえ! さすが!”というのと、“あなただから言えるんでしょ、そんなこと”という(笑)、両方を思ったんですけども、僕は。
吉田:めちゃくちゃかっこいいですね。確かに、一理あるかもしれないと思いつつ、強い気持ちで“イヤだ”と言いたい、というのもあります(笑)。
──要は昔の洋楽、レッド・ツェッペリンとかのアルバムを買うと、よくわからない曲も入っている。でもがまんして聴いているうちに、おもしろさがわかってくることがある。というような意味合いで、そうおっしゃったんだと思うんですけど。
吉田:わかります。いや、まあほんとに、今の話はけっこう、自分に突き刺さっちゃったな、と思ったんですけど。我々としては、全曲、聴いた瞬間に100で刺さるところを目指してやっているので。それは、ほんとに……。
──“よくない曲もやってる余裕なんかねえ”という。
吉田:余裕もないし、CDの容量にも限界があるので。やっぱり、そうですね、今はいい曲しかやりたくないです。
──で、そう思って聴き直してみると、過去の作品も全部そうなんですよね、ズーカラデル。EP『若者たち』の曲で、このアルバムに入っている曲もあるけど、入ってない曲もありますよね。“なんであれ入れないんだよ!”って、腹が立つというか(笑)。
鷲見:それは、既発の曲をこのアルバムに入れる時、いい曲から順番に選んでいったというよりかは、フルアルバムで必要なポジションを果たせる曲たちを入れた、という感じなので。ここに入ってないけど、めちゃくちゃ好きな曲も間違いなくあるので。全部聴いてほしいです。
──シンプルに、なんでこんなにどんどんいい曲ができるのか、不思議なんですが。
山岸:曲の種の部分というか……曲を作り終わった段階で、(吉田が)ギターを持って、もう次の曲を一節歌ったりしていて。ほんとにずっと作ってんだなあ、っていうのはありますね。
吉田:でも楽しいからね、それが。
──リリース関係なく作っているくらい?
鷲見:そうですね。具体的に、いつ出すとか、何曲録るとかは決まってなくても、作れるうちに作る、っていうのは。いちばんのめりこんでいる時は、吉田が週一で新しい曲を持って来て、それをバンドで触って、一回録音してみて、それを踏まえてまた新しいアイデアをみんなで出していって、みたいな。バンドとして着手している曲が、常に数曲ある状態というのが、ずっと続いているので。
ズーカラデル/鷲見こうた(Ba)
締切がないうちに、楽しんでいろいろ試さないと。遠回りできなくなっちゃうので。常に制作をしているのが楽しい。
──ビクターの前、スペースシャワーから全国流通でリリースを始めてから、もう3年以上経っていますよね。
鷲見:そうですね。
──それだけやって来て、今でもリリース関係なく曲を作っているバンドなんて、いません。
三人:(笑)。
──言い切りますけど、曲は締切があるから作るもんです。プロのバンドというのは。
鷲見:締切が近づいてくると、イヤな思いをしながら作らなきゃいけなくなるじゃないですか? 締切がないうちに、楽しんでいろいろ試さないと。遠回りできなくなっちゃうので。レコーディングが控えている時もありましたけど。でも、それが見えてから動き出す、っていうよりかは、常に動いていて。納期があるから制作をやる、とかではないですね。常に制作をしているのが楽しいので。
吉田:でも、これが理想ではありますけどね。曲を作るのがおもしろいから、バンドをやっているので。それがノルマにすり替わらないようにいけたら、いちばんいいなあと思います。
──ノルマにすり替わってからが勝負なんですけどね、普通(笑)。だって曲を作る、最初に0から1を生むのって、苦しいでしょ。
吉田:いやあ、0から1は、別に。クオリティを問わなければ無限なので。
山岸:むしろ、最後の方が難しいかもしれないですね。
吉田:そう、この曲がどうなればいいか、正解は見えてるのに道筋がわからない、みたいな状況になったりするから。その方が苦しみは大きいような気もする。
──とりあえず、プロのミュージシャンで、リリースも締め切りもないのにどんどん曲を作る人って、僕が知っている前例はふたりだけです。忌野清志郎と曽我部恵一。
吉田・山岸:おおー……。
鷲見:むちゃくちゃ大物が。
──それ以外はほぼ全員、3枚目くらいからは、締切との闘いですね。
吉田:いや、そうなるのは本当につらいので。
──しかし、オーソドックスな3ピースバンドに見えるけど、実は特殊なんだなあ、と、今日、話を訊いて思いました。
鷲見:自分たちとしては、この生き方こそロックバンドというか。いちばん健康的にバンドをできていると思っているんですけど。
──じゃあ、最初からこういうバンドだったんですね。
鷲見:そうですね。“将来あのステージでワンマンをしようぜ”みたいなのが最初にあるバンドではなくて。バンドで楽しく健康的に、めちゃくちゃいい音源をたくさん作っていきたい、っていう考えが先行してある。だからこういうやり方になっているのかな、と思います。
ズーカラデル/山岸りょう(Dr)
──マスタリングまで終わって、最初に聴き通した時、どんなことを感じたか、それぞれ教えていただけますか。
山岸:今までに比べて、いろんなジャンル、いろんなアレンジ、いろんな音も試せて。幅広いところを表現できて、我々の道筋の次の一歩、一回り大きくなった、みたいなところに、うまくまとめられたんじゃないかな、という印象があります。昨日マスタリングして……作ってる時は、“これ、やりすぎかな”っていう心配はあったんですけど、最後に通して聴いたら、最終的に、いま言ったようなところにまとめることができていて。すごい安心しました。
鷲見:いろんな新しいことに挑戦して、それが背伸びとかじゃなく、ちゃんと自分たちの作品になっているところと、現時点での我々の限界というか、ベストなものを出せたんじゃないかな、という。現状我々がやれることのギリギリまで辿り着いて、いい作品を作れてよかったな、という、安堵の気持ちが大きいです。
吉田:うん……いや、ほんとに、できあがってよかったな、と思いました。
山岸・鷲見:(笑)。
吉田:もうほんとに、いろんな方向に手を伸ばした一枚であることは間違いないと思うんですけれども。1曲1曲に大いに悩み苦しんで。でも、それで、どうにもならんまんま、なんとなく入れちゃった、みたいな曲は1曲もなくて。そこまで粘り強く、ちゃんと歩を進められたっていうのが、よかった。最初からいけるってわかって、作っていたわけではないので。“大丈夫かなあ”と思いながら作っていて、最後に聴いて“あ、大丈夫だった”という。いろんな方向に手を伸ばして、その手を伸ばした先に本当に何かがあるのか、とか、そこにあるものは俺らがつかめる形をしているのか、とか。そういうのがわからないまま飛び込んでいったので。できてよかったな、という気持ちがあります。
──今回、ライブ前提だったらここまでやってないだろうというアレンジの曲、多いですよね。
鷲見:そうですよね。今まで、そこが足枷になっていた部分もあって。“これ、ツアーでどうやって演奏すんの?”みたいなので、それ以上進めなかった部分も、過去の曲ではあったんですけど。今回はいったんそこを取っぱらって作ってみよう、ライブはその後考えよう、という。
──ツアーでどうやるか、考えてます?
鷲見:ツアーのサポートの、キーボードの山本健太さんとギターの永田涼司は、今回の作品にたくさん参加してくれているので。そこはおまかせなんですが、そのほかは、どうやってステージで表現しよう、っていうのは、まったく未定です。レコーディング以来、弾いてない曲しかないので(笑)。
──今回特に、演奏技術的に難しい曲が多いんじゃないかと──。
鷲見:そうなんですよ。
山岸:それはあります。
吉田:それが本当に心配です。“それ、歌いながら弾けると思ってんの?”って問いたいですね、レコーディングしてた時の自分に(笑)。
──最後の質問ですけど、このアルバムで、「ジャンプロープフリークス」が、いちばん最後にできたんでしたっけ?
吉田:はい。先にアルバムのタイトルを考えてあって、後から曲ができて、“あ、これが『ジャンプロープフリークス』かもしれない”という順番で、できた曲ではあるんですけど。
──というタイトルにしたかったのは?
吉田:日本語に簡単に訳すと、“縄跳び狂”みたいな。縄跳びを跳んでいる時、すごい一所懸命にその人は跳んでるんだけど、外から見ると、上下には動いてるけど、一歩もその場所から進んでない、っていうのがおもしろいなと思って。一歩もその場所から動いていないんだけれども、身体の中では何かが燃えていたりとか、何か筋肉が構成されていたりとか、そういうことが起こっている。それって、縄跳びという行為に限らず、もっと広い、今の社会だったりとか、自分たちの状況とか、この作品について考えている時の気分にも当てはまるんじゃないかなあ、っていうようなことを考えまして、『ジャンプロープフリークス』というタイトルを付けました。動いているけど、ずっと同じ場所にいる、逆に、ずっと同じ場所にいるけど確実に変化が起きている、っていう感じでもあるし。そんな感じではあります。
取材・文=兵庫慎司 撮影=鈴木恵