松下洸平 2022.1.20 東京・中野サンプラザホール
KOUHEI MATSUSHITA LIVE TOUR 2022 ~CANVAS~
2022.1.19 東京・中野サンプラザホール
「山下達郎さんが毎年ライブをやる会場なんだよ」と興奮気味にMCで話していた松下洸平。12月にリリースされた最新ミニアルバム『あなた』のSPICEでのインタビューで、「こんな日が来るとは。2、3年前は100人キャパのところでライブをしていたので、その頃の自分が現状を知ったら、すごく喜ぶと思います。俳優でもなく、生身の僕でもなく、まず僕の作る音楽で、いちシンガーとしての松下洸平を好きになってもらいたい。カッコつけずに、ありのまま、裸一貫でステージに立ちます」とツアーへの想いを語ってくれたが、「100席の会場に観客ひとり」というライブも経験したことのある彼にとって、満員の中野サンプラザは感慨深い光景だったに違いない。一発目のMCで誇らしげに語った「中野サンプラザ、2Daysです」という言葉が、この日の松下の気持ちを表していた気がした。1月8日からスタートしたメジャーデビュー後初となる全国4ヵ所6公演のライブツアー『KOUHEI MATSUSHITA LIVE TOUR 2022 ~CANVAS~』。SPICEでは、その東京公演初日、千秋楽前日となる1月19日の中野サンプラザホールの様子をレポートする。
1曲目の「FLY&FLOW」は「ライブで楽しんでもらえる曲を作ろう」という意図で制作したとインタビューで言っていた通り、紗幕に映し出されたリズムに乗る松下のシルエットと、ポンポン飛び出すサビのリリックが会場をハッピーな空気とリズムで包み込み、1曲目で会場は総立ちに。「声は出せないけれど、マスクの下がニッコニコなのは知ってるんだから!」と会場のファンを見て松下は言ったが、音楽を全身で浴び、受け止めて、そして自分の身体全体を使ってそれをファンに向かって投げ返す。そんな音楽のラリーをニッコニコの笑顔で誰よりも楽しんでいたのは、当の松下洸平自身だ。
昨年はドラマ『最愛』が大好評。ドラマやバラエティで大活躍中の彼だが、歌手を目指し音楽専門学校でボーカルを学び、2008年に絵を描きながら歌う「ペインティング・シンガーソングライター」の洸平としてデビューした……という過去を持つ。後に俳優に転身したが、ライブ活動は地道に続け、俳優としての注目度が上がる中、昨夏、アーティスト・松下洸平としての念願の再メジャーデビューを果たしたのだ。
再デビューのきっかけとなったのは、音楽プロデューサー・松尾潔との出会い。「大きく人生を変えてくれた」という出会いから生まれた再デビュー曲「つよがり」を「僕の音楽のはじまり」と言って熱唱。同じく松尾潔のプロデュースによる最新曲「あなた」については、「皆さんの背中をちょっとでも押せたらという気持ちで曲作りをしているけれど、皆さんからもらうものの方が多い。「あなた」は歌いながらいろいろな人の顔が浮かぶ。音楽は僕ひとりのものじゃなく、届けた曲を聴き手の皆さんが誰かにつなげてくれて、広がっていくもの。これからもこの曲を愛して育てていただけると嬉しいです」と音楽に対する気持ちを交えて饒舌に語った。
全16曲のセットリストには新旧の曲が並んだ。さながら松下洸平のミュージックヒストリーだ。「僕は今、34歳。21歳でデビューしたけれど、気付けば俳優に。18歳からコツコツと曲を書きはじめました。降りて来い、二十歳の俺!」と言って歌った初期の楽曲「止まない雨」、「涙の中に君がいる」。これらの曲を作った専門学校時代から、ライブでギターを弾いているカンノケンタロウ(Nulbarich)とは曲作りでもライブでも“音楽の相棒”と呼べる関係。そんなふたりがライブ中盤に「一緒にライブをしても誰も聴いてなかったのに、あの頃、中野サンプラザでふたりでアコースティックなライブをやるなんて誰が思いました?」と笑って「Heart」をアコースティックセットで歌ったが、感慨ひとしおだったろう。あえて「最初に音楽と出会ったときの気持ちを忘れないように作った」というこの曲を選んだのも彼らしさだ。
自曲だけでなく、ドラマ『最愛』の主題歌でもある宇多田ヒカルの「君に夢中」をピアノとギターのアコースティックバージョンでカバーするというお楽しみも用意してくれた。満員の会場を感慨深けに見渡すと、「昨年の印象深い出会いがドラマ『最愛』でした。たくさんの人が僕を知るきっかけになってくれました」と、この選曲には感謝の気持ちも込められていた。
アンコールには、松下ひとりでピアノの弾き語りで「握手」を歌ったが、“歌が上手い”というだけでなく、作詞作曲ができたり、ダンスができたり、楽器ができたり……、ドラマ『最愛』で俳優としての彼を知ったファンには、ライブという場で改めて見るアーティストとしての彼の姿に驚かされたはずだ。
実に奥が深い男である。全編通して感じたのは、音楽に対する愛とファンに対するおもてなしの心。開演前に会場に流れていたBGMで「“ブラックミュージックが大好き!”という彼は、普段、こういう曲を聴いているのかな?」と思わせるところから彼のおもてなしが始まっていた気がするし、まだ音源化されていない曲もたくさん演奏してくれた。その中でも人気の高いラブソング「KISS」が音源化され、今春配信されるという嬉しいサプライズも最終日にあった。ライブの最後を、一度音楽の道をあきらめた松下とカンノの想いが詰まった「旅路」で締めたのにもグッときた。松下洸平という人間性と、松下洸平というアーティストを作る音楽成分を存分に見せてくれたライブだったが、その反面、“でもまた見せていない部分がたくさんあるんだろうな”と思わされたのも確か。次はどんなライブを見せてくれるのか……、早くも楽しみになった。
取材・文=坂本ゆかり 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)
※写真は1月20日の公演のものです。