大野雄二 80歳記念 オフィシャル・プロジェクト、映画『ルパン三世 カリオストロの城』シネマ・コンサート!and 大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!オフィシャルライブレポート
1月27日・28日に東京・東京国際フォーラム ホールAで開催された大野雄二 80歳記念 オフィシャル・プロジェクト、映画『ルパン三世 カリオストロの城』シネマ・コンサート!and 大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!オフィシャルライブレポートが到着した。
最初に結論から言ってしまえば、「生で音楽を聴くこと」の楽しさや豊かさを心から実感させてくれた素晴らしいイベントだった。それはたとえどんな時世であっても変わらない、とても大切なことなのだ。
「大野雄二80歳記念オフィシャル・プロジェクト」と銘打たれた今回のコンサートは、東京国際フォーラムにて1月27日、28日の二日間で開催された。2部構成のうち第1部は、映画『ルパン三世 カリオストロの城』シネマ・コンサートで、映画の全編上映にオーケストラを交えた生演奏の音楽を合わせていくという贅沢きわまりない内容。第2部は「大野雄二ベスト・ヒット・ライブ」と称して、本邦屈指の作編曲家・大野が手掛けた名曲の数々が披露された。なお日によって構成やアレンジが若干異なっているが、以下のレポートは初日である27日の印象をメインに綴っている。
第1部は、会場全体の昂ぶりと緊張が入り交じるような雰囲気のなかで始まった。開演のブザーが鳴ると、巨大スクリーンを背にしてプレイヤーたちが次々とスタンバイ。市原康(Drums)、ミッチー長岡(Bass)、松島啓之(Trumpet)、鈴木央紹(Sax)、和泉聡志(Guitar)、宮川純(Organ)というおなじみYuji Ohno & Lupintic Sixのメンバーに加え、腕利きのトップ・アーティストも多数参加。オリジナルの劇伴を演奏したバンド名と同じYOU & EXPLOSION BANDとしてクレジットされている。そこにストリングスやコーラス隊Fujikochansも加わって、ステージ上には50名を超える奏者たちが集結した。そして下手より指揮者の栗田博文、最後にピンスポットを浴びて大野雄二が登壇。いよいよスクリーンに「ルパン三世 カリオストロの城」が写し出されてシネマ・コンサートが幕を開けた。
冒頭、カジノから大金を盗んだルパンと次元が、偽札であることに気付いてフィアットから豪快に札束を投げ捨てる。もちろん映像に合わせて演奏も始まっているが、初っ端から驚いてしまった。体感するサウンド、というか音そのもののインパクトが予想以上に凄いのだ。それでいてしっかり劇伴でもある。と感嘆するのもつかの間、タイトルバックと共に主題歌「炎のたからもの」のイントロが流れ出すと、舞台袖から赤いドレスを纏った藤原さくらが登場してヴォーカルをとり始めた。ゲストであることは事前告知で知っていたものの、第1部にこうした形で参加するとは思いもよらずサプライズな気分。彼女のスモーキーヴォイスは叙情に流されない強さがあって実にハマっている。さてオープニングこそ譲ったものの、おなじみ「ルパン三世のテーマ ’80」は序盤最大の見せ場であるカーチェイス・シーンを華やかに演出。スピーディーな展開に合わせてオーケストラも疾走感満点で異様なほどの高揚感だ。
以降も、リアルタイムで演奏しているとは信じがたいほど映像と音楽が完璧にシンクロしながら進んでいく。当時のルパン・シリーズでは音響監督の鈴木清司という達人によって秒単位で編集されていた音楽を、総勢54名が一糸乱れずに生演奏で画面に合わせていくのだから、もはや神技にも等しい。たとえばルパンが城の屋根から北の塔に飛び移るシーンなど、少し音がズレただけでも台無しになる場面は幾度となくあるが、これが寸分も狂わないのだ。絶妙なタイミングを計って全体を統率する指揮者・栗田博文の繊細かつ躍動的な背中を頼もしく眺めているうちに、物語は地下牢獄から脱出したルパンと銭形がオートジャイロを奪う展開へ。中盤の山場ともいうべきこのシーンで流れるのが人気曲「サンバ・テンペラード」だが、ステージ上の奏者たちが楽しんでプレイしているのが伝わるような快演。緊迫した場面でありながら軽快なラテン・フュージョンが抜群にマッチしているのも、大野の非凡なセンスゆえだろう。
ところで、劇伴はあくまで映像の補佐というイメージがあるが、この場では音楽と映像がまったく対等に存在している。これはシネマ・コンサートだからこそ体験できる不思議な感覚だろう。私的にもっとも強くそれを感じたのは終盤、ルパンとクラリスが指輪の合わせ目に刻まれたゴート文字を読むくだりで流れる「哀愁の一匹狼」。財宝の謎を解く重要な会話シーンのためオリジナルの本編では楽曲の印象はやや薄いが、今回の生演奏を聴いて非常に美しく穏やかなメロディの佳曲だと再認識した。同曲以外でもこの作品の音楽は、テレビ・シリーズの都会的でスタイリッシュなテイストに比べると牧歌的で優しい味わいを持つ曲が多い。その筆頭が「炎のたからもの」で、劇中何度かバリエーションを変えて挿入されるのだが、北の塔でルパンとクラリスが再会するときにはコーラス隊が彩りを加え、その後クラリスが一人佇む場面ではヴィブラフォンが、ルパンが昔を回想するシーンではフルートが主旋律を奏でる。そしてクラリスとルパンの別れの場面では大野自らが生ピアノでそっと寄り添っている。目の前で繰り広げられる演奏を実際に見ているからこそ、こうした差異がよりヴィヴィッドに感じられる。
銭形の「あの」名セリフが合図かのようにエンディングの「炎のたからもの」が始まり、再び藤原さくらが見事な歌唱で応えて映画は完結した。時節柄スタンディングオベーションこそ起こせないが、万雷の拍手が観客の感動を十分に代弁していた。
第2部「大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!」は、ルパンチックな私服に身を包んだ進行役の土井敏之の軽妙なMCで開幕。話によれば先ほどの上映ではなんと一部の効果音も生だったらしく、シンセサイザーでちょこっとエフェクトを実演してくれたのが楽しい。そしていよいよ演目がスタート。MCの紹介で颯爽と姿を現したのはスペシャル・ゲストの松崎しげる。歌うは「ルパン三世のテーマ’78」のヴォーカル・バージョン。もともとインストとして作られたこともあり音域が広い難曲だが、それをライブで完璧に歌いこなす力量には驚嘆する以外ない。その後のトークで「ルパンを歌うということは歌い手冥利に尽きる。この歌は僕の憧れでもありました」と熱く吐露したのも印象的だった。また土井敏之もMCで触れていたが、リズム・セクションが当時と同じ市原康&ミッチー長岡コンビなのも嬉しい。さらに松崎は映画『野性の証明』の主題歌「戦士の休息」をソウルフルに激唱し、満場の拍手のなか舞台を後にした(なお公演2日目に歌われたのは「人間の証明」の同名テーマソング。初期角川映画を代表する2曲を日変わりで実演してくれたのが心憎い)。つづく次元大介のテーマ「トルネード」の白熱した演奏を挟んで登場したのは藤原さくら。「炎のたからもの」のフル・バージョンを披露したのちに、「カリオストロの城は小さい頃から何度も家族で観ていた映画なので、本当に光栄です」と喜びを語ってくれた。つづけて「ルパン三世 PART6」の新エンディングテーマで、ジャジーな歌謡テイストを漂わす好曲「BITTER RAIN」を艶っぽくも情感豊かに歌い上げて場内を魅了した。
ゲスト2名の素晴らしい歌唱に沸いた会場をさらに煽るように演奏されたのは、大野流ジャズ・ファンクの真骨頂ともいえる「大追跡のテーマ」。宮川純のオルガンがドライブする激アッパー・チューンに客席も興奮を隠せない。このままノリノリで行くのかと思いきや、次曲は一転して「犬神家の一族」から「愛のバラード」。流麗なオーケストラがこの名曲のメロディをより鮮やかに飾り立てて嘆息するほど美しい・・・と感慨に耽るのもつかの間、つづいては手塚治虫が監督を務めたTVアニメ「海底超特急マリン・エクスプレス」よりグルーヴィーなディスコティーク「ザ・マリン・エクスプレス」。Fujikochansのコーラスと洒脱なヴィブラフォンが歌メロを奏でて、またもや会場はヒートアップするのだった。
次のパートはNHKの長寿紀行番組のテーマ「小さな旅 〜光と風の四季〜」の、穏やかな叙情に満ちたあの旋律でスタート。短い尺ながらオーケストラを加えた忠実なアレンジが感動的だ。そしてNHK連続テレビ小説のポップで明るいテーマ曲「マー姉ちゃん」「スペースコブラ」エンディングのオールド・タイミーなナンバー「シークレット・デザイアー」という、どこかノスタルジックな雰囲気が心地よい3曲を経て、「キャプテン・フューチャー」主題歌の傑作ディスコ歌謡「夢の舟乗り」をFujikochansのTigerがパワフルに熱唱。
つづいて、大野とは何度も仕事を共にした松田優作の主演映画から2曲をセレクト。松島啓之のトランペットや鈴木央紹のサックスのソロ回しが鳥肌もののハードボイルド・チューンは、「最も危険な遊戯」のテーマ曲。そして映画『人間の証明』オープニングテーマ「我が心の故郷へ」をリリシズム溢れるインスト・バージョンで演奏(2日目は、こちらも大野と縁の深い石立鉄男主演ドラマのテーマでFujikochansのコーラスが映えるソフトなポップ・ソング「水もれ甲介」)。
公演もクライマックスに近づいた頃、MC土井が「最後は怒涛のルパン・サウンドで!」と告げ、石川五ェ門のテーマ「斬鉄剣」が始まると場内は大盛り上がり。ところがお次はなぜか「きのこの山」〜「レディボーデン」というCMソング2連発でほっこり。ちなみに大野は現在までに1000曲以上のCM曲を手掛けている。さて、つかみはOKという感じで再びルパン・ナンバーに戻ると、Fujikochans稲泉りんがエモーショナルなヴォーカルで魅惑する峰不二子のテーマ「ラヴ・スコール」と、ダンサブルなアレンジに生まれ変わってFujikochansが大活躍する「銭形マーチ」で一気に駆け抜ける。そしてテレビ・シリーズPART2の甘美なエンディングテーマ「ルパン三世 愛のテーマ」がついに終演も近いことを知らせると、ラストに演奏されたのは和泉聡志のロッキンなギターが大フィーチャーされた「ルパン三世のテーマ2021」。ライブでは本邦初公開ということもあり、和泉のみならずプレイヤー全員が超ハイテンションな熱演を繰り広げて、圧巻の大団円を迎えた(2日目は日本のアニメ音楽史上初めて本格的なビッグ・バンド・ジャズを取り入れた一曲で、歴代テーマの中でも屈指の人気を誇る「ルパン三世のテーマ ’80」で有終の美を飾った)。
最後は、奏者たちが降壇した後もずっと鳴り止まない拍手に応えて大野が一人で登場。ピアノに向かって穏やかなタッチで弾き始めたのは、ルパン役の初代声優にして大野の親友でもあった、亡き山田康雄との思い出の曲「メモリー・オブ・スマイル」。美しい余韻が静かに優しく後を引いて、公演の幕は下りた。
大野雄二は60年代初頭にジャズ・ピアニストとしてキャリアをスタートし、70年代以降はプロの作編曲家として膨大な数にのぼる楽曲を世に送り出してきた。90年代に入るとプレイヤーとしての活動も再開し、いまもなお現役バリバリの音楽家として、作曲、ライブ、レコーディングなど超精力的な活動を続けている。シネマ・コンサートに際して電話帳2冊相当にも及ぶ譜面を新たに一人で書き上げ、奏者としてもリハを含めて1日5時間以上もプレイする80歳が他のどこにいるというのだろう。今回のコンサートは、そんな大野の驚異的なバイタリティーを間近で感じられたという意味でも、普段ライブで聴くことの出来ない曲も含めたキャリア総括的な内容という意味でも、破格のイベントだった。そして冒頭に書いたように「生で音楽を聴くこと」の素晴らしさが詰まった最高のエンターテインメントだった。それはとても大切なことなのだ。
文:北爪啓之
第2部:大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ! 〜セットリスト〜
M1:ルパン三世のテーマ’78(TVアニメ「ルパン三世 PART2」) /Vo.松崎しげる
1日目:M2:戦士の休息(映画『野性の証明』主題歌)/Vo.松崎しげる
2日目:M2:人間の証明のテーマ(映画『人間の証明』主題歌)/Vo.松崎しげる
M3:トルネード(ルパン三世 次元大介のテーマ)
M4:炎のたからもの(映画『ルパン三世 カリオストロの城』主題歌)/Vo.藤原さくら
M5:BITTER RAIN(TVアニメ「ルパン三世 PART6」第2クールエンディングテーマ)/Vo.藤原さくら
M6:“大追跡”のテーマ(TVドラマ「大追跡」主題曲)
M7:愛のバラード(映画『犬神家の一族』主題曲)
M8:ザ・マリン・エクスプレス(TVアニメ「海底超特急マリン・エクスプレス」主題歌)
M9:小さな旅 光と風の四季(NHK「小さな旅」主題曲)
M10:マー姉ちゃん(NHK連続テレビ小説「マー姉ちゃん」主題曲)
M11:シークレット・デザイアー(TVアニメ「スペースコブラ」エンディングテーマ)
M12:夢の舟乗り(TVアニメ「キャプテンフューチャー」主題歌)/Vo.Tiger form Fujikochans
M13:映画『最も危険な遊戯』メインテーマ
1日目:M14:我が心の故郷へ(映画『人間の証明』オープニングテーマ)
2日目:M14:水もれ甲介(TVドラマ「水もれ甲介」主題曲)/Vo.Fujikochans
M15:斬鉄剣(ルパン三世 石川五ェ門のテーマ)
M16:きのこの山〜レディボーデン
M17:ラヴ・スコール(ルパン三世 峰不二子のテーマ)/Vo.稲泉りん from Fujikochans
M18:銭形マーチ(ルパン三世 銭形警部のテーマ)/Vo.Fujikochans
M19:ルパン三世 愛のテーマ(TVアニメ「ルパン三世 PART2」)
1日目:M20:ルパン三世のテーマ2021(TVアニメ「ルパン三世 PART6」)
2日目:M20:ルパン三世のテーマ’80(映画『ルパン三世 カリオストロの城』)
アンコール:メモリー・オブ・スマイル