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TM NETWORK『How Do You Crash It? three』 創造と破壊の後に訪れたのは新たなステージの始まりの合図

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TM NETWORK

TM NETWORK 撮影=高田真希子

『How Do You Crash It? three』TM NETWORK 2022.02.12

TM NETWORKの配信ライブ映像3部作の3作目『How Do You Crash It? three』の配信が2022年2月12日にスタートした。このライブ映像を観てまず感じたのは、一般的な映画3部作の完結編のような大団円を迎える終わり方ではないということだった。この3部作で完結したのではなく、むしろ未来への新たな扉が開いたと感じたからだ。これは過去を懐かしむ作品ではなくて、未来の展開が楽しみになるライブ映像だろう。

まずセットリストにうならされた。過去に発表された楽曲の数々が時空を超えてリンクし、新曲「How Crash? 」と共鳴しあうことで、新たな意味や表情が付与されて、2022年の今にリアルに響いてきたからだ。たとえば、オープニングナンバーの小室哲哉作詞・木根尚登作曲のバラード曲「TIMEMACHINE」。ゆっくりと時の流れを超えていくような始まり方が新鮮だった。初期のナンバーであり、アルバム未収録曲だが、<未来も振り返ることはできない 壊せない>というフレーズと、ライブ映像のタイトルにある“Crash”という言葉との対比が鮮やかだ。宇都宮の伸びやかな歌声と小室の叙情味あふれるキーボードと木根の繊細なアコースティックギター。彼らの奏でる演奏には聴き手の一人一人に寄り添っていく“近さ”と“温かさ”が備わっていた。今の3人だからこそ醸し出せる空気感だろう。

照明やセットなどの演出の美しさも特筆ものだった。「TIMEMACHINE」の演奏中にセットの上部と三角形のLEDから放たれる光が、満天の星空のように見える瞬間かがあった。『How Do You Crash It? one』と『How Do You Crash It? two』にも言えることだが、小宇宙のようでもあり、コクピットのようでもある近未来的なライブ空間が小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登の3人によく似合っている。

TM NETWORK 撮影=高田真希子

TM NETWORK 撮影=高田真希子

“光のシンフォニー”と表現したくなる光の鮮やかなラインに照らされて始まったのは2014年発表のアルバム『QUIT30』収録曲「Alive」だ。画面越しでありながら、3人のメンバーのエモーションの波動のようなものがダイレクトに届いてきた。演奏はもとより、歌詞の持っているパワーによるところも大きいだろう。7年以上前の曲なのだが、この曲で描かれている世界の状況は今も変わらない。いやむしろ状況はさらに深刻になり、<stay alive ><to survive>などのフレーズが切実に響いてくる。彼らの意志が詰まった演奏によって、生きることのかけがえのなさが浮き彫りになっていく。

木根作詞作曲の「N43」はクリスマスソングだが、ボーカル、キーボード、アコースティックギターから伝わってくるぬくもりが冬のこの時期にしっくり馴染んでいく。間奏での小室のオルガンプレイはエモーショナルかつスリリング。70年代ハードロックのテイストを継承するかのような小室のプレイが温かさの奥底に潜む情熱を表現していると感じた。祝福感や包容力を備えた歌と演奏に包まれていくのはなんと気持ちのいいことだろう。

KINE soloでは木根の温かさと柔らかさと素朴さを備えた人間性がにじみでるような演奏を堪能した。ギターのボディを叩き、ギターをつまびき、ループさせることによって、リズミカルかつシンフォニックな演奏を展開。アコースティックギターのニュアンス豊かなタッチやハーモニカの郷愁がにじむ音色を活かすことにより、ヒューマンな世界が出現した。シンディ・ローパーの「Time After Time」に通じるようなパーソナルな祈りの音楽のようにも響いてきた。

骨太なリズムによって新たな息吹が吹き込まれた「RESITANCE」、祝祭感と開放感あふれる「BE TOGETHER」など、中盤から終盤にかけてはダイナミックかつエネルギッシュな演奏が続く展開。宇都宮がキーボードを演奏する木根の横に立ち、一瞬のブレイクを挟んで、歌とハーモニーが同時に始まるタイミングで、アイコンタクトを取りながら見せた、それぞれの笑顔も印象的だった。ほんの一瞬のやりとりではあったのだが、バンドの絆が見えてくるようだった。

力強く刻まれるビートで始まった「Self Control」ではメンバー3人の熱い鼓動までもが伝わってくるようだった。宇都宮の自在なボーカル、小室のスペイシーなキーボード、木根のブライトな響きを備えたギターのカッティングからは、高揚感とともに確かな意志のようなものも伝わってきた。曲が進行するほどに演奏が熱を帯びていったのは、この瞬間のリアルな思いを音の中に刻んでいたからだろう。

TM NETWORK 撮影=関口佳代

TM NETWORK 撮影=関口佳代

『one』でも演奏された新曲「How Crash?」がフルサイズで演奏されたことは、この『three』の大きなポイントの1つになっていた。このプロジェクトのテーマ曲的な存在であると同時に、今後を示唆する曲だと感じたからだ。物語性やメッセージ性とともに、光と影などの相反する要素を包括するスケールの大きさを備えている。

曲間には少女が登場する映像やドキュメント映像など、さまざまなビジョンが挿入されていて、鑑賞する人間の想像力を刺激していく。音楽と映像との相乗効果により、大きなメッセージのようなものが浮き彫りになっていると感じた。しかしこの作品が提示しているのは明解な結論ではなくて、一人一人への投げかけだろう。このライブ映像によって喚起されたイメージを、リスナーそれぞれが組み合わせることで主体的な解釈が可能になっていく。

『How Do You Crash It? three』のエンディング曲は「ELECTRIC PROPHET」。『How Do You Crash It? one』の始まりもこの曲だった。「ELECTRIC PROPHET」で始まり、「ELECTRIC PROPHET」で終わる循環構造の構成。光り輝くトライアングルの集合体を見つめる3人の後ろ姿は意味深だ。『How Do You Crash It? three』と新曲「How Crash?」にある“クエスチョンマーク”はTM NETWORKの新たなステージの始まりの合図と解釈したくなった。創造とは破壊(Crash)の後に訪れるものだからだ。
 

取材・文=長谷川 誠

TM NETWORK『How Do You Crash It? three』

 

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