SUPER BEAVER 撮影=森好弘
いい曲を作り、ライブで演奏し、そこで生まれた新しい感情でさらにいい曲を作り、再びツアーに出る。SUPER BEAVERはいまバンドとしてもっとも理想的な美しい循環のなかにいる。4月27日(水)にリリースされる最新のライブ映像作品『LIVE VIDEO 5 Tokai No Rakuda Special at さいたまスーパーアリーナ』を見て、そんなふうに思った。今作には、昨年開催されたバンド史上最大規模となる全国アリーナツアー『都会のラクダSP 〜愛の大砲、二夜連続〜』から、ファイナルを飾った11月7日(日)のさいたまスーパーアリーナの模様が収録される。以下のインタビューでは、今作を紐解きつつ、音楽家としての意識がより高まっているという4人にビーバーのライブの現在地について話を訊いた。一つひとつの経験を「点」ではなく、「線」でつなぐ。そこに彼らの進化の理由があった。
SUPER BEAVER 上杉研太
「アリーナでできるようになりました」と言っていいと初めて思えたんです。(上杉)
――11月7日(日)のさいたまスーパーアリーナは、会場でも見させてもらったんですけど、改めて映像作品として見ても迫力のライブだったなと改めて思いました。
一同:ありがとうございます!
――もうメンバーのみなさんもライブ映像は見たんですか?
上杉研太(Ba):もちろんです。
渋谷龍太(Vo):いいライブだなと思いました。あと、いいバンドだなと、しみじみ感じましたね。
――改めて映像で振り返ってみて、どんなライブだったと思いましたか?
藤原”33才”広明(Dr):今回はツアーでまわれたので、チーム全体のいいところが出てるんですよ。「もうちょっとこうしたほうがいいよね」というのを、次の現場ですぐに試すことで、どんどん良くなっていって。「いや、まだまだいけるんじゃない?」みたいなところでファイナルだったので、「まだ伸びしろがあるんじゃない?」というような期待感もパッケージされてると思いますね。
柳沢亮太(Vo):2020年にワールド記念ホールと代々木第一体育館もありましたけど、そこから考えると、アリーナでのライブの表現方法がわかるようになってきたんですよ。ライブの進め方しかり、曲順しかり。アリーナだからできる演出を頭に置きながら、初めて自分たちの意思のもとにやれたことを改めて映像を見て思いました。アリーナでの見せ方みたいなものに、これまで以上に踏み込めたライブになってるのかなと。
――ツアー全体の振り返りとしても、かなり手応えがあったわけですね。
上杉:アリーナを単独でやるのと、ツアーでやるのはこんなにも違うんだなと思いました。今回は埼玉に至るまで、ツアーとしてしっかりまわれた。そういうなかで「mob」と「正攻法」のあいだのセッションが生まれたんです。そうやってクオリティが上がっていくのを肌で感じられたから、この感覚をもって初めて「アリーナでできるようになりました」と、言っていいんじゃないかなと思いましたね。「思い出のアリーナライブ」じゃなくて、ちゃんと実になってる感覚があったというか。アリーナで届けるためには、どういったところにエネルギーを注げばいいのかが見えた気がするんです。
――これはいい意味で言うんですけど、ビーバーはどの会場で見ても、変わらないライブをするバンドだと思ってるんですね。小バコのライブハウスでも大きい会場でも、お客さんとの向き合い方がいつも一緒。アリーナだから、ことさら気合いが入ってるとかもないように見える。
柳沢:ああ、そうかもしれない。
――やってる側の意識として、小バコとアリーナで違いはあるんですか?
渋谷:動き方は違いますね。ライブハウスはそのままなんですよ。で、ホール、アリーナクラスになってくると、サービスモニター(スクリーン映像)があったりとか、どうしても(ステージの人物が)小さく見えるじゃないですか。それに応じて後ろまでちゃんとコミュニケーションがとれてるっていうのを表すために、身振り手振りみたいなのはライブハウスでやらないことをやってるんです。
――そこは意識的に変えている。
渋谷:場所に応じて細かく微調整はしてます。
上杉:心持ちだけでいったら、どこも一緒なんです。でも、自分たちのライブがこう伝わってほしいなというのを、どこの会場でも余すことなく伝えるには、ひとことで言うと、技術が必要というか。そういうところにみんな頭を使ってるんじゃないかなと思いますね。いちばんミニマムなことをやって、それで純度高く伝わりやすいのがライブハウスだと思うんですけど、そこでやってきたことを、どこでも伝わるように、4人だけじゃなくて監督さんとか映像チームとかとディスカッションしながら、常に話し合っている感じです。
――MCで渋谷くんが「50人キャパから1万人キャパまでやれるバンドは他にいない」と言ってましたけど。いまのビーバーは、どの場所でも最高の自分たちを見せられるバンドになりましたよね。
渋谷:ようやくですけどね(笑)。
――17年目にして名実ともにビーバーが、アリーナバンドになったというのはすごく感じました。
柳沢:アリーナバンドなんて自分らでは全然思ったことないですよ(笑)。
上杉:どこでもやるからね。
渋谷:でもまあ、自分たちの歩みを考えるとね。そこに立てるまでの経緯であったりを振り返ると思うことがあるし、近くにいてくださる方とか自分たちの音楽を好きでいてくれてる人、お世話になっている人を、この4人がアリーナに連れてこれたっていうのは誇らしく思いますね。自分でも。
上り調子に戻るキッカケが、「俺が関わってる現場か」と思えたら励みになる。(柳沢)
SUPER BEAVER
――あとはコロナ禍という意味では、2021年11月のタイミングで、たまアリではコロナ以降初めての1万人キャパのライブだったそうですね。
柳沢:興行としてコロナになってから初めてだったと言われました。
――柳沢くんは、それが「誇らしい」と言っていましたが、どういう意味だったんですか?
柳沢:2020、2021年というのは、音楽業界だけじゃなく、僕らだけじゃなくてということは大前提にして、自分たちの目が届く範囲でもいろいろなことがあったんですよ。僕ら自体もライブができないけど、僕らに関わってる人もまた現場がないということじゃないですか。
――ライターとしても、レポートの仕事は全部なくなりましたからね……。
柳沢:そうですよね。だからそこにまつわるすべての人が報われる瞬間にはなったのかなと思うんです。ちょっとでもいいから、上り調子に戻っていきたい思いがあって、そのキッカケのヨーイドンが「あ、俺が関わってる現場か」と思ってもらえたら、励みになるよなと。
――あれはむしろチームの内側に向けた気持ちだった。
柳沢:(世間に対して)「それ見たことか!」という気持ちもありますけどね(笑)。
――この時期にアリーナツアーをやる迷いみたいなものはもうないですか? コロナ禍のライブハウスの実態で言うと、自治体のガイドラインに従って小バコでやれるような時期であっても、大バコの会場となると、注目が集まる分、自粛する傾向もあったじゃないですか。
渋谷:うん、そこの責任の所在とかもすごく考えたんですけど……その基準は都道府県とか自治体がガイドラインを出してて、それを守る以外に僕たちは無理なんですよ。そこをどうにかしようというよりも、今日来たことに対するスペシャルをあげることがバンドマンの責任だなと。病気にさせないとかということは、もちろん考えてるからこそガイドラインに従ってやるけど、それよりも、俺たちがとる責任というのは、この日、時間を割いて、お金を払って、この場所に来てくれている、そのことに対する責任を全うしようということ。そこしかないじゃんと思っちゃったから、そこだけを考えて真摯に向き合っていようと思ってますね。それはいまもですけど。
藤原:(2020年に)『自宅のラクダ』という配信ライブをやったのもそうなんですけど、おもしろいことだったり、楽しめること、ワクワクすることがあるから頑張れるとか、毎日が楽しく思える、生きていく実感が自分にはあります。それはSUPER BEAVERが好きで、ライブに来てくださる方もそうだと思うんです。それがあるから、生きていく景色に色がつく。そういう人のことを考えたら、ライブをやらないよりは、ライブをやる選択をして、じゃあ、やるためにはどうしたらいいんだろうかというのを、いろいろな人に助けてもらいながら実現したい。
意識してでもいいから、自分たちの「楽しい」も大事にしないと意味がない。(渋谷)
SUPER BEAVER
――たまアリのライブでは、渋谷くんが「あなたの楽しいを守りたい」というようなことを言っていて。それを強く伝えようとしていたように見えたんですよ。
渋谷:うん、それは思ってました。このご時世じゃないと出てこない言葉だったと思います。俺たちは誰に頼まれてライブをやってるわけじゃないですからね。自分たちが音楽が好きで、バンドをはじめただけなので。バンドの成り立ちなんて、ほとんどそうだと思うんです。それに感銘を受けて、会場に足を運んでくれる人がそこにいるとしたら、できることは全部やりたい。それを楽しみに生活をしてくれてるわけじゃないですか。「ライブがあるから頑張る」と思ってくれたりとか。
――そうですね、思ってくれてたと思います。
渋谷:そういう気持ちを想像して、一人ひとりの顔を見たときに、やっぱりこのバンドを好きでいてくれるのであれば……ちょっと偉そうな言い方なんですけど、ちゃんと面倒を見たいなと。
――それ、ライブのなかでは「お世話になりました、お世話します」という言い方をしてましたよね。要するに、自分たちもお客さんに面倒を見てもらってる感覚なわけでしょう?
渋谷:うん、面倒も見てもらってる(笑)。どっちもですよね。持ちつ持たれつでいいと思ってるので、バンドは。そういう関係性を、これからも見に来てくださる方と築きあげていきたいと思ってるから。そのためには、俺たちが守れるものは全部守りたいと、普通に思っちゃっているんです。
――守りたいのは「楽しい」だけじゃなかったんだ。
渋谷:まあ、それがいちばんですよ。いろいろな感情をひっくるめてね。ライブに行ったら、楽しいと思ってもらいたいじゃないですか。
――そのせいですかね、メンバーもすごく楽しそうでした。いい表情をしてたんだなと改めて映像作品を見て思ったんです。もうみんな30歳を過ぎたのに少年みたいだなぁと。
一同:あははははは!
渋谷:続ければ続けるだけ、自分たちが楽しむのは、あとまわしになっちゃう感じがするんですよね。だから意識してでもいいから、自分たちの「楽しい」も本当に大事にしないと、俺たちが楽しくなきゃ意味がないと思ってるんですよ。俺たちが楽しいと思ってもらえることをやったうえで、それでなお楽しんでもらえたら最高だと思うから、そこに全力を注ぎたいんです。
肌に馴染んだものでそのまんまアリーナに突撃した感じがあった。(柳沢)
SUPER BEAVER 柳沢亮太
――今回のツアーのセットリストはどんなふうに組んだのですか? 個人的にはすごくアンセム感があって。いままでいろいろな場所で鳴らしてきた曲が集約された印象でした。
柳沢:去年、最初に『アイラヴユー』ツアーをZeppとホールでやったじゃないですか。そのときにアリーナツアーも決まってたんですけど、それはもう『アイラヴユー』ツアーじゃなくしようと言っていたんです。僕らには「都会のラクダ」という便利な言葉があるので(笑)。『都会のラクダ スペシャル』というタイトルをつけて、それこそ、ただただ楽しいアリーナツアーをやろうと。それはコロナが生んだいい感覚だと思うんですけど、別にもう理由はいらなくねえかというのが近年のビーバーには出てきていて。
――わかるわかる。
柳沢:そういう感覚が(2021年のライブ)行脚を生んだと思うんですよね。行きたいときに行く。で、さっきぶーやん(渋谷)の話も聞いてて、「楽しい」というのは、そうだなと思ったんです。そもそも俺ら、売りきれねえチケットのノルマ代を払ってまでライブをやってた。ということは、やりたいからやってる以外の何物でもないじゃないですか。
――そうだね(笑)。
柳沢:その感覚がいまは強くなってるんです。で、これはリリースツアーじゃないから『アイラヴユー』のリリースツアーで良かったことと、行脚で良かった流れとか、そういうのを全部盛り込んじゃおうよ、みたいな。そういうのがあったから、アンセム感があったんだと思います。別にここを集大成にするつもりもなかったけど、2021年にライブをいっぱいやってきて、その流れでせっかくデカいところでできるから、良かったところを全部持ってきたよ、みたいな感じですかね(笑)。
――だから狙ったわけじゃなかったと思うけど、いままでバンドが17年間やってきたことが間違ってなかったという再確認にもなっていたなと思いました。
柳沢:たしかにそれはありましたね。初の代々木とかワールド記念ホールとか、武道館も1回しかやってないじゃないですか。1日限りで。だから、その日限りのセットリストが多かったんです。でも、今回は肌に馴染んだものでそのまんまアリーナに突撃した、みたいな感はあったかもしれない。それも大きかった気がするなぁ。
いいライブだったのは自分たちのおかげじゃない。あなたのおかげでもある。(渋谷)
SUPER BEAVER 渋谷龍太
――ビーバーにはこれまでも何度かライブの振り返りインタビューをしたことがありますけど、「印象に残る曲」を答えてくれないじゃないですか。
渋谷:はい(笑)。
――曲の差別化をしたくないからね。でも、今回はライブ映像作品が出るということで、見どころとか、あるいは自分のなかで鮮明に記憶に残ってる楽曲があれば、教えてもらいたいです。
渋谷:あ、全然いいですよ。
上杉:映像作品で言うと、答えやすいしね。
――誰からいきます?
渋谷:逆に誰でも。名指しでいいですよ。
――じゃあ、藤原くん。
藤原:おっと! いや、ちょっと……。
柳沢:あはははは! 誰でもいけなかった。
――(笑)。じゃあ、上杉くんで。
上杉:僕は「らしさ」にしますね。演奏の長さがアリーナならではの尺にチェンジしてるんですよね。ネタバレになっちゃうかもしれないけど、ヤナギ(柳沢)と俺が(ステージ横に伸びた花道の)端まで行って、また帰ってくる。その歩数の関係で普通より長く演奏してるところがあったりとか。そういうアリーナならではのライブの作り方が詰まってる瞬間があるんですよ。
――「らしさ」は竿のふたりが両サイドの花道の先にいて、渋谷くんはセンターに伸びる花道の端まで移動して、藤原くんはステージに残ってたじゃないですか。
渋谷:(藤原が)かわいそう……(笑)。
藤原:俺も行きたい!
――(笑)。そうやってアリーナ会場をいちばん広く使った立ち位置もかっこよかったです。
柳沢:ああ、たしかに。
上杉:そのために「らしさ」だけ、俺はワイヤレスのベースを使ってるんですよ。ベースを1本用意してるし、そのためだけの音づくりをしてる。意外と細かいことが詰まってるんです。
――なるほど。次、柳沢くん。
柳沢:うわー、誰が何を言うかによって、違う曲にしようと思ってたからあとがいいな。
上杉:じゃ、藤原じゃない?
藤原:いやぁ、たくさんあるなあ……。
柳沢:まだ決まってなかった!?
藤原:いやいや、「この人これを喋るかな?」というのがあって。
柳沢:じゃあ、先にぶーやんに喋ってもらったほうがいいのかもしれないな。
渋谷:くぅー……俺も何曲かあるんですよ。
――選べないですよね。
渋谷:あげるなら、「mob」かな。初めて火を出したりして、ドキドキしたんですよね。ああいう規模感でエンターテインするのが不自然じゃなくて、ちゃんとできてた気がするし。あれは会場の規模が大きくなったからこそだったと思います。
――そもそも「mob」はファンキーな曲調で、『アイラヴユー』のなかでも新機軸だったわけだから、あの曲を作ったこと自体も大きかったんでしょうね。
渋谷:そうですね、本当に。ああいう曲が1曲あるだけでライブ1本の印象が全然違いました。ある意味、ライブの中核を担ってる。けっこう大事な曲だったと思います。
――さっき「楽しい」が今回のライブのキーワードだったと言いましたけど、もうひとつ、この日は「音楽をやりにきました」という渋谷くんのMCも印象的で。それも今回のツアーのポイントだったと思うんです。それを担ってるのが「mob」であり、それに続く「正攻法」の流れだったなと。
渋谷:ああ、かもしれない。いろんな音楽があるわけだから、そのいろんな音楽を1本のライブで見せたいなというのは思っていたので。
――「音楽をやりにきた」ということは、それまであんまり言ってこなかったですよね。
渋谷:2021年からかな、主に言うようになったのは。音楽とはなんでしょうね、と考えちゃって。2020年ぐらいまで、ライブの良し悪しを4人だけで完結させようとしてたんです。でも、ライブは俺らだけで作ってるわけじゃない。見にきてくださってる方と一緒に作ってる。だから、いいライブは4人のおかげじゃないなと思ったんです。見にきてくださる方に左右されちゃいけないと言うけど、左右されてもいい。もっと見にきてくださる方と一緒にライブしたいと思ったときに、「これが音楽なんじゃない?」と思い、「一緒に音楽しましょう」と言いました。なので、SUPER BEAVERしか使えない「音楽」の使い方かなと思いますね。
――「音楽をやる」には、「一緒に」がセットだったんですね。
渋谷:そう。「いいライブだったのは、あなたのおかげでもあるよ」と。逆もそうですけど(笑)。いまはそういうふうになってますね。
「時代」で自分たちの活動のエネルギーが循環してるのを感じられたんです。(藤原)
SUPER BEAVER 藤原"33才"広明
――じゃ、次は藤原くん、柳沢くん、どっちいく?
柳沢:ヒロ、何を選ぼうとしてる?
藤原:まだ二択ぐらいある。
柳沢:先、ヒロがいって。
藤原:どうしようかな……じゃあ、「時代」!
――アンコールですね。
藤原:この日に限った話じゃなくて、その前のホールツアーでも、「時代」をやるときというのは、ぶーちゃんの言い方で言うなら、キャッチボールをしてる感じがするんですよ。「時代」でぶーやんが喋るMCが、のちに『東京』というアルバムにつながってたりするし。ライブから作品、作品からライブにと、自分たちの活動のエネルギーが循環してるのが目で見えるぐらい感じられたんです。
――それ、すごく思いました。このライブ映像を見ると、最新アルバム『東京』の答え合わせになるんですよね。「時代」を歌う前のMCで、渋谷くんが「人間冥利に尽きる」と言ってるし、それがアルバムの「スペシャル」という曲につながってるわけですし。
渋谷:うん、そうですね。「時代」のときに「人間冥利」というのは言いましたからね。
――では、最後に柳沢くん、どうでしょう。
柳沢:僕も同じく「時代」と思ってましたけど、「愛しい人」がよかったですね。ぐっと聴いていただく部分ではあったから、純粋にいい曲だなと思ったし。「愛しい人」のときにビジョンに歌詞が出たんですけど、あれ、(ツアーの)途中からなんですよ。いや、埼玉だけなのかな?
スタッフ:埼玉からです。
柳沢:それもいろいろやっていくなかで生まれたんです。僕らはロックバンドなのでガツンガツンやって、アリーナでもライブハウス的な熱量を届けるのが魅力だと思う。そのなかで「愛しい人」は、あの規模にすごくフィットしてる曲だなと思えたんですよ。自分が好きなアーティストのライブを見にいったときに、「あのバラードを聴けてよかった」と思うときがあるじゃないですか。
――ええ、激しい曲とは違う、言いようのない余韻を持って帰れたりしますね。
柳沢:そういった空気をこの「愛しい人」は孕んでたなと思ってます。
――ちなみに藤原くん、もう1曲迷ってたのは柳沢くんとかぶらなかった?
藤原:うん、0曲目と迷ってたんですよ。
上杉:ああ、オープニングね。
藤原:あれは、このライブのために作ったものなんです。もはや作曲じゃないですか。それが大変だったなあというのもあったんですけど。プラス、(1曲目の)「ハイライト」の頭で、どれだけ、ワーッと盛り上げるかうまく演出できたなと。さっき、ぶーやんも言ってましたけど、最近は音楽というものにすごく近づけてると思ってるんです。これを作れて、アリーナツアーを成功させられたのは、音楽家として少しですけど、前に進んだ感覚がありますね。
渋谷:あのオープニングはかっこいいよね。
柳沢:ゲネ(本番前のリハーサル)で悩んだもんね。
上杉:そう、作っては壊してとやっていたので。
柳沢:ちょっと蛇足ではありますけど、いまヒロ(藤原)が言ったように、ホールとかアリーナでは(会場での)音の飛び方がライブハウスとは違うから、同じ音色だとイケてない、みたいなことがあるんですね。試行錯誤を繰り返したんですよ。それがそのままアルバムの曲作りにフィードバックしてる部分がすごく多い。『東京』と、2021年のホールツアー、アリーナツアーはすごく連動してる感じはありますね。
上杉:(アルバムの)レコーディングで「あ、いい音ですね」とテックさんと作ってたものが、そのままライブのときの設定になるぐらい親和性があるんです。
――なるほど。いまあがらなかった曲だと、個人的には「東京流星群」がぐっときました。2020年の野音ではシンガロングのところでシーンと静まりかえるという演出が、コロナ禍の現実を突きつけるようで鮮烈だったけど、今回はお客さんの代わりにメンバーが全力で歌ってる。
渋谷:ああ、そこは変えましたね。
――しかも、ビーバーは全員ボーカリストみたいな顔して歌うじゃないですか。
一同:あはははは!
渋谷:それ、超おもしれぇ。
藤原:ボーカリスト、ひとりじゃなかったんだ(笑)
――そういうのも会場だと遠くて見えないけど、ライブ映像作品だとしっかり見られるし。
柳沢:それで言うと、客席もそうですね。フロアの至近距離の映像というのは、俺らはステージ上からは見えないから。「おいおい、こんないい顔してんのかよ。なんで、そこでそんなに盛り上がっちゃってるんだよ」みたいな。そういう一人ひとりが好き勝手に……まあ、ルールのなかでですけど。楽しんでる感じを見られるのは、映像作品で楽しみにしてるところですよね。
渋谷:そうだね。
――さっき渋谷くんが言ってた、「お世話をして、お世話をされている」という関係性が、このライブ映像作品にはしっかり収められてるんですよね。
渋谷:それはこれからもちゃんと構築していきたいです。どっちも勘違いしないように、とは思ってます。ステージに立つ人間も、フロアに立つ人も。勘違いという言い方はあれですけど……なんて言うんですかね、ちゃんとお互いの立場を全うしたいし、全うされたいです。
全国各地でおもしろいことしますか、というのが蔓延するツアーになる。(柳沢)
SUPER BEAVER
――最後に最新アルバム『東京』を引っ提げて今月からはじまる全国ツアーについて話を聞かせてください。今年もホールとアリーナの2本立てになります。
柳沢:ホールは『東京』を引っ提げてますけど、アリーナは『東京』を引っ提げてるのか、引っ提げてないのか、どっちでもいけるタイトルになってるので(笑)。まだどうなるかわからないです。
渋谷:(タイトルが)「ビヨンド」だから。
柳沢:その先へ、みたいな感じになるんじゃないですかね。
上杉:絶対にホールツアーを踏まえたなにがしかになってると思いますね。
――アリーナの規模感がさらにあがるのもスゴいですね。2021年の3都市6公演から、4都市8公演に拡大してるという。
渋谷:新しい盤(『東京』)も出ましたしね。もっともっと大きいところでやっていきたいので、自分たちができる可能性にもチャレンジしたい。簡単に売り切れるキャパシティじゃないと思ってるから。たくさんの人に『東京』を聴いてもらって、ホールに足を運んでもらって、アリーナ8公演に全部つなげられたらいいなと思ってます。
――『東京』を携えたツアーはどんなものになりそうですか?
上杉:今回のアルバムは、ライブハウスでずーっと自分たちが培ってきたものがあったうえで、ホールとかアリーナとかでできるようになったいま、それを踏まえていま一度ライブバンドとして鳴らしたいというのがサウンドのテーマになっていたので。これからライブでやっていくことで、本当の意味で完成していく感じがしますね。
柳沢:音楽的で、楽しい、ライブ然としたツアーになってくるんじゃないかなと思います。『東京』は、「スペシャル」という、最近のビーバーでは珍しいぐらい最初からガツンといってる作品だから、それはそのままライブに直結してるんです。「よっしゃ、今日から全国各地でおもしろいことしますか」ということが蔓延するツアーになるんじゃないかなと思ってます。
――藤原くんはどうですか?
藤原:初めて行かせていただく会場がけっこうあるんですよ。
――どこになります?
柳沢:松山とか。
上杉:函館のホールもそうですね。
柳沢:熊本も初めてだよね、ホールは。
渋谷:滋賀も、盛岡も。
柳沢:清水もね。
――その土地には行ったことがあるけど、ホールとなると初めての会場になるんですね。
藤原:そういうところに、単純にワクワクしてます。去年のツアーが『東京』というアルバムにつながってて、また『東京』で得たものが、今回のツアーに出てくると思うんです。そこで自分たちのさらに先の目標だったり、テーマが得られると思うし。ステップアップは、もうやれば絶対できるなと思えるから。1本1本濃いライブをやっていきたいと思いますね。
――それが自ずと2023年のSUPER BEAVERにつながっていくことになる。
渋谷:もう2023年の話(笑)?
柳沢:まだ3月とか4月の時点で、12月25日(日)までスケジュールが決まってるしね。
――幸せなことじゃないですか。
渋谷:本当です。
柳沢:それが望んでたことでしたから。
藤原:ずっとこうやって続けられたらいいよね。
取材・文=秦理絵 撮影=森好弘
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