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押尾コータロー、メジャーデビュー20周年の幕開けを飾るライブ開催 公式レポート到着

アーティスト

写真:sencame

押尾コータローが5月27日に「EX THEATER ROPPONGI presents 押尾コータロー 20th Anniversary Live Special Prologue “My Guitar, My Life”」を開催した。

2002年7月にメジャーデビューした押尾コータローの20周年の始まりまで2ヵ月を切った。タイトルに“Prologue”とあるように、今夜はアニバーサリーイヤーの“前奏・序章”を告げるライヴである。

開演時間の19:00。今回の公演のために自身が制作したSEが流れる中、ステージ下手側から客席に手を振りつつ登場した押尾。ステージ中央に立った彼は、弦を叩きスピーディなリズムを生み、そして弦を弾いてキラキラとしたメロディを紡ぐ。1本のギターから同時に複数の音を鳴らして奏でたオープニングナンバーは「GOLD RUSH」だ。躍動的で心の奥底でうごめく衝動を刺激する低音と、澄んだ高音がスリリングに、時に祝福を讃えて響き、聴く者の“楽しさ”を軽やかに解放していく。満員の客席ではハンドクラップが鳴り、リズムに合わせて体が揺れている。

「20周年です」

1曲を演奏し終えた押尾が、この時間を共有できることの喜びと、20年の感謝を温かな声のトーンに乗せて伝える。

感染症対策で声を出せない観客は拍手で祝う。「おめでとう」の気持ちを込めた横断幕を広げているグループもいた。

「インディーズの頃、初めてちゃんとインストを作ろうと思って制作した曲です。当時、サビのワンフレーズしか思いつかずそれを延々、3時間……5時間、ずっと弾いていた」というエピソードを話してから演奏に入った「Blue sky」。サクソフォン奏者・上野耕平氏を迎えてリアレンジされ、MBS「お天気部 春のテーマ曲」に使われた曲でもある。クリアで伸びやかな音色、晴れやかなフレーズに乗せて、同じ空の下にいる大切な人まで想いが届く、そんな映像が脳裏に浮かんだ。押尾本人が出演したこともある「六甲のおいしい水」のCMで使われた「オアシス」は、豊かで広大な自然と長い時間を内包した演奏が胸に沁みてくる。このCMはボーカル入りバージョンもあるのだが、制作当時を振り返って、実際にボーカルが乗った状態をシミュレーションした時の声色を再現してみたり。「徹子の部屋」出演後の周りの反応を明かしたり。トークでは笑いを誘って和ませ、演奏で魅了する。

次にハイチェアーとともに登場したのは、ギブソンのオールドギター。サウンドホールの前に立てたマイクが拾う音からは、ギターが持つ響きと、奏者である押尾の人柄がリアルに伝わってくる。このギターでは、師である中川イサト氏の曲「Chotto Tropical」と「その気になれば」、石田長生氏の「Pushing Tail」を繋げて披露。今は故人である恩師へのリスペクト、そして師の心が、豊かな音色と賑やかな演奏に滲んでいる。CDで「Pushing Tail」はプラスチック素材のギターを使っていただけに、フル・アコースティックギターでの演奏は、コントラストがついて、違った温もりが伝わってきた。

ステージ上方から下りた数本の柔らかな照明の光が、天使の梯子を彷彿とさせる。そんな中、凜としたフレーズがゆっくりと紡がれる。曲は映画『戦場のメリー・クリスマス』で使われた坂本龍一氏の「Merry Christmas Mr. Lawrence」。

インディーズ時代にカヴァーして以来、押尾がライヴでほぼ毎回、披露してきたナンバーである。静寂を帯びて始まった演奏は曲の中盤で激しい一面を覗かせ、エネルギーの奔流が渦まく。“バチン”、弦を叩いたエッジーな音に意識がハッと釘づけになる。そして再び静けさを纏う。その音色には人の体温が宿っていて、希望を重ねずにはいられなかった。

続いた「ナユタ」は、2011年にリリースしたアルバム「Hand to Hand」に収録した曲。その年の全国ツアーでは義援金を集めながら音楽を届け、東日本大震災の被災地へも演奏に出かけた。そんな時間を経て今は東北へのラブソングになり、ライヴでは欠かせない楽曲になっている。1音1音紡いでいく雄大で美しいメロディ。それは幼少の頃に観た景色、最近テレビで観た綺麗だった街並……心の中に焼きついたままの景色と結びついていった。

押尾コータローはアコースティックギター1本で、曲のアンサンブルのすべてをリアルタイムに奏でる。そのスタイルをエンタテイメントに昇華。ベース、エレキギター、津軽三味線、ドラム…全パートをそれぞれアコースティックギターで再現する“メンバー紹介”で、ライヴはクライマックスに向けて加速する。

ライヴでやってみたい、という動機から生まれた「Snappy!」は、ハンドクラップでオーディエンスが参加。このクラップは、難易度高めのリズムパターンなのだが……。観客が打つそれはバッチリと合い、アンサンブルの一翼を担う。2009年に「Snappy!」が発表されてからの年月の積み重ねを感じる一幕だった。

鳴り止まない拍手に応えたアンコール。明るく、開けた空気を持つ「Together!!!」では、オーディエンスが打つ手拍子が響く。

観客はマスクをしていてもまだ声を出せない。それでもホールには、音楽を奏でる喜び、聴く喜び、生の音を浴びる喜びが満ちていた。

コロナ禍での閉塞感や、テレビやネットが伝えてくる凄惨なニュースとそれに対してなにもできないという無力感……日常には、痛み、哀しみが転がっている。もちろん喜び、楽しみを与えてくれる刺激もある。アコースティックギターのインストという押尾コータローの音楽は、日々生きていく中で蓄積するポジティヴな感情を増幅し、負の感情を薄れさせてくれる。少なくともライヴ会場にいる時間だけは、楽しいと心から感じさせてくれる。彼の人柄、エンターテイナーとしての美学、在り方がそうさせてくれるんだと思う。

押尾がコミカルな語り口で、少し照れながら家族への愛を伝える。そして、大切な人を想いながら聴いてほしいと願い、奏でられた最後の曲は「MOTHER」だった。スローテンポなナンバーは、どこまでも穏やかで、その深い音色と旋律、観客の涙する音が会場内で静かに響いていた。

20周年イヤー第1弾のライヴはこうして幕を閉じた。

この日のMCで押尾は、7月31日に大阪・フェスティバルホールでライヴを行なうことと、アルバム制作中であること。さらにツアーもやりたい、という希望を語った。そして今夜、5月27日のライヴは“Prologue”である。20周年のアニバーサリーイヤーは、これから。

まずは、7月の地元大阪、フェスティバルホールでのライヴ。どんな楽曲を披露し、そのコンセプト、演奏はどんな景色を見せてくれるのか。期待せずにはいられない。

音楽ライター・大西智之

SET LIST

01. GOLD RUSH
02. Blue sky
03. オアシス
04. 彼方へ
05. Pushing Tail
06. 黄昏
07. Merry Christmas Mr. Lawrence
08. ナユタ
09. メンバー紹介
10. Snappy!
11. Legend〜時の英雄たち〜
12. 翼〜you are the HERO〜
13. Cyborg

アンコール

Together!!!
MOTHER

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