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ReoNa、神崎エルザと向き合って歌いあった「電脳世界と現実の境界線上」のメロディ ライブレポート

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photo by 山本哲也

2019.7.25(Thu)神崎エルザ starring ReoNa ✕ ReoNa Special Live “Re:AVATAR” @川崎・CLUB CITTA’

ちょうど一年前に見た彼女は、果たして本当に同一人物なのだろうか?そう思ってしまうくらいの成長がそこにはあった。

『 ソードアート・オンライン  オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』の作中に登場する女性シンガーソングライター、神崎エルザ。その歌唱を担当するということでアニソンフィールドに現れたReoNa、初ワンマン、初ツアーとチケットは完売続きという順風満帆ぷりを見せているが、彼女が掲げる「絶望系アニソンシンガー」の冠は変わることがない。

神崎エルザと共にこの世界に姿を表してからちょうど365日、去年と同じ7月25日に開催された『神崎エルザ starring ReoNa ✕ ReoNa Special Live “Re:AVATAR”』をレポートする。

photo by 山本哲也

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会場はマイナビBLITZ赤坂から川崎・CLUB CITTA’へと変わったが、開演前の演出は変わらず。静かにクラシックが流れる空間。ただ昨年とは比べ物にならないファンの熱量と期待があった。

開演前アナウンスも、神崎エルザを演じた日笠陽子からのアナウンス。あくまでも今日は“神崎エルザ starring ReoNa”と“ReoNa”の対バンという形式だ、静かに明かりがおち、無音の中そっとステージにはReoNaが登場する。一年前と同じく、白い服に裸足、あくまでも神崎エルザがこの世界に顕現するために選んだ「アバター」としての歌うたいはそっとギターを爪弾き出す。

「ピルグリム」のメロディーも一年前と同じ。リフレインしていく感情。ただ厚みを増した音楽だけが以前とは違う部分だ。曲間ではステージ上は薄暗く演者たちの表情を伺うことができない、そこに響き渡る神崎エルザの声。明るくライブの開催を、この場に集ってくれた観客に感謝を述べるエルザはある意味異質にも見える、いや、これは神崎エルザのライブだ、だとしたらステージで静かに佇むReoNaの存在が異質なのか?幽世と常世の端境、電脳世界と現実の境界線上に僕たちはいる。

「さわやかな曲たちをメドレーで」そう言われて演奏されたのは「レプリカ」「ヒカリ」「step, step」の三曲、ReoNaのライブでも歌われる楽曲たちが今日は本来の持ち主のもとで披露される。本当にアバターのように歌を紡ぐReoNa。前にインタビューで「エルザとして歌うときは、エルザが私をコントロールしていると思う」と語ったReoNaは、神崎エルザが抱えている悲しみも孤独も強さもその楽曲の中で表現しようとしていく。まるで眼前にエルザがいるように、架空の彼女と目を合わせ向き合うように歌の世界を現世に紡ぎ出そうとしていた。

「バトルっぽい曲、メドレーでブっ放すけど、みんなついてこれるー?」エルザが語ると観客もやおら立ち上がり戦闘態勢を取る、「Independence」「Disorder」がメドレーとして流れ出すと熱狂が渦のように巻き起こる。ピトフーイが駆け巡った戦場を思わせるような激しさ、弾丸のように繰り出されるメロディーに歓声が巻き起こる中、新曲「Dancer in the Discord」で爆発する会場。ReoNaを依り代としてそこに神崎エルザがいるように見えたのは気のせいだろうか。

photo by 山本哲也

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「『歌を歌う』って道を示してくれた、大事な、大切なおじいちゃんとおばあちゃんを思った曲です」興奮を覚ますように静かに告げられた曲は「葬送の儀」。限りなくリバーブを抑えた、生の声に近いアカペラから始まる曲は遠く何処かの空を感じさせるようだ。続く「Rea(s)oN」、ふと客席に目を向けると静かに涙を拭いながらステージを凝視するファンの姿も。

「ホントにありがとうございました!」明るく別れを告げる神崎エルザが最後に奏でたのは「ALONE」。新曲ではあるが、神崎エルザが生まれた理由の一つを紡いだ楽曲。もうその時にはReoNaも神崎エルザも区別はなく、そこには思いを持って歌を歌うシンガーがいるだけだった。「Life is alone」と軽やかに声を上げる神崎エルザはもう数分でこの空間からいなくなる、いや、ログアウトしていくのだろうか。

別れを告げた神崎エルザとともにステージを去るReoNa、そして静かに流れ出したのは彼女が日々Twitter上でアップし続けている「こえにっき」を使用したスペシャルムービーだ。その日思ったことを一日の最後にただ言葉にする、そして「おやすみなさい」で終わる動画日記は彼女のメンタリティを表したものの一つだ。

絶望系アニソンシンガーと自分を表現するReoNaは決してファンを鼓舞することもなく、隣りにあり続けようとする、それはきっととても忍耐のいることで、いっそ背中を押したほうが楽なこともあるのかもしれない。でもそれを彼女は選ばない。無理に背中を押されることの辛さや痛みを知っているからだろう、だからこの「こえにっき」もただ思いをつぶやき続ける、だが、必ず最後にかける「おやすみなさい」の言葉があるからこそ、これは誰かに聞いてもらっている前提のメッセージだということがわかる。

神崎エルザを送り返した不安定な歌う巫女は、誰かにつぶやき続けることによってReoNaへと戻っていく、ログインするためのローディングのように画面上は言葉で埋め尽くされていく。

photo by 山本哲也

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黒いワンピースに黒いスタッズのついたジャケットを羽織ったその姿は完全に「ReoNa」そのものだ、改めての一曲目はデビュー曲の「SWEET HURT」、画面にはその切なる思いが記された歌詞が踊る。ReoNaはそこで一つ一つの言葉を噛みしめるように歌う。

歌唱力はデビューの頃から天性のものを持っていた、そこに一年かけて加わったのは詩のメッセージをダイレクトに届ける表現力だろう。一つ一つのワードが胸にすっと入ってくる。続く『ソードアート・オンライン アリシゼーション』EDテーマ曲でもある「forget-me-not」でも歌は思いを載せて投げられる。もともとの甘く少しウィスパーな声が絞り出すようにボリュームを上げていくと、呼応するようにバンドの演奏も熱を帯びていく。ステージで起こる化学反応は見ている観客の思い出を揺さぶっていくようだ。

どこかReoNaの歌は若き日の痛みの匂いがする。彼女自身の体験から生まれてきた曲が多いというのもあるだろうが、誰もが学生時代の頃に感じるような世の中の理不尽、些細な、けれど一生抜けない棘のような悲しみや怒り、絶望、喪失感がふとした歌詞の隙間にリフレインしてしまうことがある。その刹那のセンチメンタルから我に返るとき、目の前にいるのはただまっすぐこちらを向いて歌い続けるReoNaだ、彼女は嘘偽りなく寄り添って歌い続ける。

「生きる理由を探していた時に出会ったお歌。」デビュー前から大事に歌われ続けているライブでのマスト・ナンバー「怪物の詩」では力強く、全てを吐き出すように「愛をもっと、愛を」と叫ぶ。唸るギターの音と混ざり合うその声はシリアスだ。

何も残さずに歌だけを届けようとしている。そんな印象さえ受けるReoNaが最後に選んだのは、ずっと大事にカバーし続けているAqua Timezの名曲「決意の朝に」。それまでどこか借りてきたように丁寧に壊さないように歌っていたこの曲を、この日のReoNaは自分の楽曲のように自由にしっかりと歌い上げていた。

壊れるくらいに「愛をもっと」と言った彼女が「辛いとき、辛いと言えればいいのにね」とつぶやいてこの名曲を届けてきたとき、どこか自分も許されたような気になった。共感が生む幸福な時間。会場の人間はみんなどこか温かなものを感じていたかもしれない。

photo by 山本哲也

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改めていつもの別れの台詞「じゃあな!」を叫び、しっかりと頭を下げ、ステージの端から端まで手を降って去ったReoNa。一年前のステージよりもしっかりと、でもあのときと同じ様に少し恥ずかしそうに手を降った彼女はきっとまたすぐ、僕たちの横に微笑みに来る。彼女の存在をログアウトさせるのは、かなり難しそうだ。

レポート・文:加東岳史 photo by 山本哲也


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