Photo by 山本哲也
2019.3.10(sun)『ReoNa Live Tour 2019 “Wonder 1284”』@東京キネマ倶楽部
ずっと「ツアーファイナル」という言葉に憧れていた。そう彼女は微笑みながら語った。
TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』の劇中アーティスト・神崎エルザの歌唱担当を経て、『ハッピーシュガーライフ』『ソードアート・オンライン アリシゼーション』の楽曲も担当するなど、破竹の勢いを見せる“絶望系アニソンシンガー”ReoNa。
彼女の初となるワンマンライブツアー『ReoNa Live Tour 2019 “Wonder 1284”』は、大阪、名古屋、福岡、そしてラストの東京2Daysと4都市5公演が開催された。初のツアーで彼女の絶望は満たされることがあるのか。期待しながら最終日の会場である東京キネマ倶楽部へ向かった。
チケットは全会場Sold Outするという注目のワンマンライブ。前回のワンマンライブでは開演前に流れていたクラシックが、今回はエド・シーランのアルバムに変わっていた。彼女自身が影響を受けたというアーティストの曲が流れるオールスタンディングの会場は超満員。熱気が少しづつ渦を巻くように高まっていく。
静かに照明が暗くなり、バンドメンバーがステージへ。暗がりの中静かにステージに現れたReoNa、その表情はまだ見えない。
Photo by 山本哲也
ピアノの音がその静寂のカーテンを開くように響く。一曲目から新曲「forget-me-not」を持ってきたReoNaの本気を感じる。明るくなった彼女は笑顔。探るようなこともなく一曲目から思いっきり“お歌”を届けに行くReoNaの集中度は高い。ファンの熱い声援を心に練り込むように、一言一言をメロディに乗せていく。
「初めてのツアー、お歌を繋いでいって、ここまで来ました」
そう語るReoNa。初めてそのステージを見たときのような壊れそうな面影は少し消え、どこか自信のようなものも感じさせる。とはいえReoNaの持つ怖いくらいの透明感は健在だ。
「それではみなさん、おやすみなさい」この言葉が聞こえたら曲の合図だ。
「おやすみの詩」「怪物の詩」「Let it die」とたたみかけるようにダークかつ繊細な楽曲をぶつけていく。ギター、ベース、ドラム、キーボードがうねるようにReoNaの声と絡まりながら音の厚みを生み出していく、これまでのライブよりもバンドとの調和が高次元で取れていたのもこの音の質量を生み出す要因の一つだろう。
Photo by 山本哲也
「今日はひとりひとりの場所が決まっていないからこそ、自分の居場所を大切に」
スタンディングの観客を気遣う言葉も世界観の一つとするReoNaがここでカバーしたのが森田童子の代表作「ぼくたちの失敗」。そう言われれば巡り合うべき森田童子との邂逅。どこか心についてしまった傷や苦しいまでの思いを吐露するような名曲を歌いこなしたあとに彼女が選んだのは、まるでReoNaなりのアンサーのように響く「カナリア」。生まれつきの甘さを感じさせるシルキーな声の中に混ざり合う、都会の夜を思わせるスモーキーな響き。一瞬も聴き逃がせない魅力がある。
ゆっくりと歌の世界に浸ったあとは、神崎エルザ楽曲から「ピルグリム」「step, step」、会場下手側に用意された女性エリアではReoNaに合わせるように歌う女の子の姿も見受けられた。キラキラした目でステージを見る彼女たちの眼差しを受け、ReoNaは加速度的に本物のシンガーへと育っていく。
その時空気が一変する。ReoNaが現状発表している楽曲たちの中で最もハードなチューン「Disorder」だ。原曲とは違いコール&レスポンスから始まったこの一曲でフロアは一気に爆発。ライトブレードを振りかざすもの、興奮の中踊るもの、拳を突き上げるもの、まさにカオス状態。熱は途絶えることなくギター・ベースがフロントに飛び出してきての激しいインスト。更に客席を煽った後は「Independence」のソリッドなギターリフが鳴り響く。あまたのアーティストがライブ一つ使って生み出す温度を2曲で生み出してしまうステージ。確実にメンバーもノッているのが分かる。そしてその客席からのパワーを受け止められるようになっているReoNa。成長という言葉で片付けてはいけない気もしてくる。
Photo by 山本哲也
ReoNaの歌にはいつもどこか「エスケープ」という言葉を感じる。それは逃げてもいい、という意味でもあり、ここからの脱出という意味もある。それくらい「きついならここから離脱しよう」というメッセージがファンの心を捉えているのかもしれないが、今回のライブで強烈に思ったのは、メッセージを発するReoNa自身の「エスケープのその先」ということ。
どこか儚げで、触ったら壊れてしまいそうだった彼女は今ステージの中央で強く立っている。それが、辛かった彼女自身の10代から逃げてきた先なのだとしたら、この歌の世界は常にゴールの見えない戦いの荒野だ。そこで声を上げ続けるReoNaは今、どんなメッセージを伝えてくるのか。
Photo by 山本哲也
あくまで主観でしかないが、このライブからは「逃げてもいい、どこまででも、その先がたとえ荒野だとしても、そこで生きていくから」というReoNaのレゾンデートル(存在意義)を感じた。それはこのあと披露された「レプリカ」「ヒカリ」「Rea(s)oN」でも感じることが出来た。
変わらず美しく切ない声。だがその言葉の一言一言は以前より深く僕らの胸に突き刺さる。強くなったグルーヴだけではない、説得力が段違いに上がっている。
「ReoNaの“絶望系”アニソンシンガー”って、どういう風にみんな思ってるんだろう?」
MCで彼女が語ったのは、失恋で傷付いた心を慰めてくれる曲、元気を出したい時や前に進みたい時に頑張れと背中を押してくれる曲はたくさんある。だけど、居場所がない悲しみや孤独感、逃げ出したい時に、それを代わりに言葉にしてくれる楽曲は少ない、というもの。
だからこそ寄り添うような歌を、“あのときの自分”と同じ気持ちの人に届いたらいい。その願いにも近い思いで紡がれる歌は男女問わず胸に迫るのだ。逃げた先で待っていた場所で、歌う彼女は確かにここにいる。
デビュー前から大事に歌われていた「トウシンダイ」をバンドを引っさげて歌う姿。ReoNaと共に育っているこの曲も、大人の仲間入りをした今歌うからこそ見えてくる景色がある。『ReoNa ONE-MAN Live“Birth”』でも披露されたジミーサムPの「Starduster」では、渇望するように歌っていた5ヶ月前とは違い、暗闇の中の光のように「愛を」叫んでいた。
「つらいとき、つらいと言えたらいいのにね」
歌詞の一部を自分の言葉として、一言のMCの後に歌われたAqua Timezの「決意の朝に」。やはり夜はあける、朝は必ずやってくる。その空の青さをどう捉えるかは人それぞれで、それでいいんだろう。ただ、ReoNaが見上げる朝と、僕らが見上げる朝が同じもので、同じように感じられたら、きっと幸せだ。
Photo by 山本哲也
「ReoNaのライブにアンコールはありません」ライブ前の注意書きからずっと記されている言葉を最後に投げかける。もっと見たい、そんな思いもありつつも「潔いじゃないか」とも思わせてくれる決断。まだ一緒にいたいけど、またきっと会える。そんな約束のような言葉。
最後にデビューシングルとなった「SWEET HURT」を思いたっぷりに歌い上げ、感謝の言葉を投げかけたあと、マイクを外し「じゃあな!」と叫んで消えていったReoNa。今回のツアータイトル『“Wonder 1284”』の1284はReoNaが生まれたグラム数。ほんの1キロくらいの小さな生命が育ち、傷つき、悩み、それでも生きて歌い、こうして観客の心に確実に何かを残している。
張り詰めた緊張の時は過ぎ、優しく笑えるようになったReoNaのレゾンデートルはきっとこれからも変わらず、でも進化していく。歌い続けていくことが願いと言った彼女のステージはきっとこれからも広がっていくだろう。どんな大舞台に立ったとしても、きっとReoNaはあなたの隣にいる。
Photo by 山本哲也
レポート・文:加東岳史 撮影:山本哲也