2018年7月25日は筆者にとってエポックメイキングな一日となった。マイナビBLITZ赤坂で行われた『神崎エルザ starring ReoNa ✕ ReoNa Special Live “AVATAR”』で大舞台にその姿を表した新人アーティストReoNaは、どこまでも自然で、弱い自分のままで、弱い人に寄り添うために強く歌っていた。そのライブを観てどうしても話を聞きたくなり、急遽インタビューを行わせてもらった。SPICEでは異例の前回インタビューから一ヶ月という短いスパンでの再開。1万字を越えたReoNaの過去と、今と、これからを感じてもらいたい。
――まず、先日行われたライブ『神崎エルザ starring ReoNa ✕ ReoNa Special Live “AVATAR”』はいかがでしたか。
今までとの規模の違いを感じました。人の多さもそうですけど、緊張ももちろんしますし。ただ観に来てくれている方の顔が一人ひとり見えるということは変わらなかったので、そういうところはいつもどおりだったかなと思います。
――構成としては前半は神崎エルザパートということで、まったくMCをせず歌唱だけという構成でした。
「神崎エルザ」というキャラクターについては、私は歌唱役で、お芝居は日笠陽子さん、というのが作品の世界観としてあったものだったので。MCを日笠さんにお願いするのが決まった時に、作品の中に出てくる神崎エルザというキャラクターとしてのライブが本当に再現できるというのがすごく新鮮に感じて、ああいう形でできたのは本当に良かったと思います。
――MC部分をすべて日笠さんが担当されていましたが、喋りたい気持ちなどはあったんでしょうか?
あんまり喋りたくなるというのはなかったかもしれないです。曲が終わると、つい「ありがとう」、とはもちろん言いたくなっちゃうのですが、それを言うべきなのはエルザで私じゃないので。
――そこからReoNaパート行く前にTwitterに日々投稿されている“こえにっき”のスペシャルバージョンがありました。あの時にお客さんの集中度がぐっと上がった気がするんです。『SAO』のファンや神崎エルザのファンがReoNaという存在にフォーカスしていく時間でした。何かノスタルジックな切なさも感じてしまいましたし。
嬉しいです、すごく。
――“こえにっき”はほぼ毎日寝る前などに録られてるんですか?
そうですね。本当にライブがあってぐったりしている時とか以外は、欠かさず寝る前にですね。
――自分の一日の備忘録なのかなと思いましたが。
その日を通して思ったことだったりとか、例えばアニメを観た日だったら、アニメを観た一番活きている感覚のまま話すこともあるし、特に大きい事件とかもないいつも通りの一日でも、お風呂入ってお風呂上がってどういう日だったかなと思い出している時もあるし、わりとその時その時の気分によってという感じです。
■画面の向こうにいる人間との「一対一」の関係性
――印象的だったのは「当たり前になりたいの」とか、「誰かの苦しみとか痛みを引き取ってあげたい」という言葉でした。力づけてあげたいとか応援したいという表現は結構聞くんですけど、寄り添いたいってアーティストは珍しいなと思って、その感覚はどこから出てきたのかを今日はお聞きしたいです。
私が本当に辛かった時とか苦しかった時とかに、何を助けとして求めるかって、引っ張ってくれる人とか押してくれる人とかじゃなくて、理解してくれる人がなにより欲しかったんです。見る作品も暗いものが多かったりとか、聴く音楽も明るい前向きなものよりちょっと暗いもののほうが多かったりということがあったので、私とまったく一緒じゃなくても似たような境遇の人って、そういう風に共感してくれるものだったりとか、代弁してくれるものだったりを求めている人がいるんだろうなと思っていて。それを私が少しでもできたらいいなという感覚はあります。
――当時理解されたかったことというのは、話せる範囲でお聞きできたらと思うんですが。
表に出せるかどうか分からないんですけど、私小さい頃から家の中でいざこざとかすれ違いみたいなことが多くて、物心がついていくにつれてこれはきっと世間一般とはまたちょっと違う形の家庭なんだろうな、というのを理解しだした頃があって、その時結構周りに恵まれている子というか、家の中で不自由していない子がすごく多かったように思えたんです。状況が違うから、話してもみんな理解してくれない。
――そうですね、特に子供時代だとそういう事情を汲み取るのは難しいかもしれませんね。
家にも学校にも居場所がないとなると、まだ自分の力ではお金を稼ぐことができないので、逃げ場所がないんです。だからそこからは完全にインターネットの世界に逃げる方向に走っちゃって。ネットの世界って本当に広いじゃないですか。こんなに同じような経験をしている人が画面の向こうにこんなにいっぱいいるのに、なんで周りの人が私のことを理解してくれないんだろうという、自分の中にモヤモヤとしたものが結構残ったりとかして。「そんなの気のせいだよ」とか、「辛いことばかり見なくてももっと楽しいこともあるよ!」とか、そんなのを押し付けられてもしんどい時ってあるじゃないですか。本当に自分が辛いことでいっぱいいっぱいだと、それ以上は前をどうしても向けないんですよね。それを共感してもらえるような、辛い時悲しい時苦しい時に当たり前のようにのめりこんで逃げ込める音楽やアニメが、当時の私にとってはすごく救いだったので、今度はそういう存在に私が近づいていければいいなと思います。
――家にも学校にも居場所がないと、ずっと公園にいたりとかになりますよね……。
本当にそうでした。携帯も取り上げられてパソコンも取り上げられて学校行きなさいって言われて、家を出たのが8時9時とかで、その時点で遅刻なのは確定してるんですけど、そこから5、6時間目ぐらいまでギリギリまで時間を潰してから行くみたいなことをしていました。
――なるほど……。
でも辛いことを経験していない人のほうが少ないと思っているんです。いただいた手紙とか読み返すと、「すごく自分の当時の事を思い出しました」って方もいらっしゃいますし、現在進行形系で悩んでいる人、そういう人がたくさんいるなと本当に感じて。私の中でアウトプットしたことによって逆にみんなに救われているような部分もきっとあるんだろうなと思います。
――ReoNaさんがアウトプットするほうにスイッチが入った瞬間ってあったんですか?
未だにアウトプットにできないものももちろんあります。こういう経験をしたんだよって、やっぱり過ぎ去ったことじゃないと言えないから、徐々に徐々にという感じです。
――なら、歌っていこうと思ったタイミングは?
それも徐々になんです。SNSとか、人の前でそういう自分の経験や体験を露呈するのって怖いじゃないですか、一生残るし。“こえにっき”も最初はもっと当たり障りのない内容だったし、リハビリじゃないですけどちょっとずつ自分にも慣らしていったような感じです。
――デビューされてSNSで発言するとリアルタイムで反応が返ってきますが、そうした存在になっていくことに戸惑いなどはありましたか?
ないですね、戸惑いはない。もちろん心ない言葉をぶつけられる機会もゼロではなかったですけど、今まで生きていて。ある程度の耐性がついてしまっているし。画面の向こうにいるのが人間だっていう意識は、最近どんどん強くなっているんです。ましてや音楽って本当に一対一じゃないですか、“こえにっき”も一対一だと思ってますし。だからあまり反応が増えることに対しての戸惑いはないかもしれないです。
――なりたかった自分には向かえている?
そうですね。無理に明るくしなくていいんだなとか、そういう部分では肩の荷が下りた感覚はありました。
――無理に明るくしていた時期もあったってことですか?
ありましたありました(笑)。 頑張ってアッパーな曲を歌おうとしないと、アニメの歌って歌えないのかなとか思った時期もありましたし。
――アニメや歌に救われる時期があったという発言もありましたが、音楽はずっと聴いていたんですか?
本当に小さい頃から聴いていました。やっぱり私の世代ってパソコンとかインターネットが身近にあるので、片手間で検索してとか、コンビニで聴き取った箇所を頑張って家に帰るまで憶えていて、それで歌詞で検索してアーティスト見つけるとか、やりますよね(笑)。
――自分の中で印象に残っている曲とかは?
私エド・シーランさんがすごく好きで、ギターなんかも彼の影響が強いんです。あとテイラー・スウィフトさんとか、結構カントリーっぽいギターで弾き語っているような音楽を聴いていたんです。その中でエド・シーランさんの「The A Team」という曲を聴いた時に、あれなんでこんなにフワフワした明るい感じの曲なのに、こんな単語が出てくるんだろうと思ったんです。それで調べたら結構歌詞が重たくて暗い内容の曲で、そういう歌もありなんだ、という風に感じさせてくれたのはエド・シーランさんがキッカケかもしれないですね。
エド・シーラン – The A Team
――アニソンの歌手でアコギを弾く人の中で、フォークとかJ-POP源流の人は多いですが、カントリーからというのは新鮮かもしれませんね。今は曲も提供してもらっていますが、自分で作りたいというのもあったりするのでしょうか?
ありますね。すごくあるんですけど、私の言葉で何かを書く事や、自分の言葉で表現するというのがあまり得意じゃなかったので、そういうのも含めて“こえにっき”ではちょっとずつアウトプットというか、自分の感じたことだったりを自分の言葉でまとめるという練習を始めているところなんです。それがゆくゆくは歌詞に繋がったらいいな、とは思っています。
■後ろで腕を組んでみている人たちに向けて歌ったほうがいいなと思った
――そういうアニメや音楽に救われたReoNaさんが人前で歌うことになって、プレッシャーを感じたりはしたのでしょうか?
規模が今までと違うだけで、やってきたこととか言いたいことに変わりはなくて。ただ、やっぱり歌っていても反応がないと怖いじゃないですか。それこそ拳を上げてくれる人とか、MCに反応してくる人とか笑う人とかっていう、そのコミュニケーションがないと最初は怖くて。本当に固まって聴いてくれてるだけでライブを楽しんでもらえているんだろうか? という時期ももちろんあったんです。
――ああ、確かに先日のライブでもお客さんは凝視するようにReoNaさんを見つめていましたね。
やっぱりアニソンライブってみんな立ち上がって盛り上がって騒いでというイメージが強かったので。ただそこを、そうじゃなくていいんだなと抜け出せてからは、ライブのあのMCでみんながじっと集中して聴いてくれている感覚とかも、そんなに「苦しい」とは感じなくなりました。
――その壁はあったと。
ありました。やっぱり動くことでアドレナリンが出て、それでライブって楽しいんだな、というお客さんがほとんどだと思っていたので。
――たしかにアニソンのライブやイベントというと、声を出してペンライトを振って、というのが多いかもしれませんね。
楽しみ方は人それぞれだと思っていて、声を出して盛り上がりたい人もいるけど、そうじゃない人も絶対いるわけじゃないですか。後ろのほうで腕組んで聴いている人も、もちろんどのライブでも絶対いるし、と思ったら、私はじゃあそういう人たちに向けて歌ったほうがいいなと思ったんです。
――最初からそっちの人たちがターゲットなんですね。
いや、それは最初からというわけではなくて。でもリアルタイムで反応が返ってくるSNSで、最初の頃は次はもっと激しい曲やってほしいなとか、そういう意見もあったんですけど。それに比べて圧倒的に、私は君の歌が聴きたいんだ、と言ってくれている人が、こうしてアニメの歌を歌う様になる前でもいてくださったので、私はじゃあそういう歌が歌いたいな、というふうに思えるようになっていった感じです。
――これもちょっと聞きたかったことなんですけど、アーティスト“ReoNa”でいる時と、プライベートの自分でいるときって何か差はありますか?
何を変えているかと言われると、伝え方を変えているだけで根底はそんなに変わってないんです。やっぱり一対一は一対一なんですけど、会場にいる人は大勢なので、それに本当に歪みなく伝えるためには、ちょっと言葉の区切り方を普段と変えてみたりとか、喋り方や雰囲気や動きだったりを変えたりとかは意識してますが、別人格とかそういう感覚じゃないかもしれないです。
――お話を伺う前はひょっとしたらステージで人格が変わるというか、憑依型のアーティストなのかな? と思っていたんです。でもそのままを伝わりやすくという感じなんですね。
外で楽しく喋ってる人でも、家の中でずっとそのテンションでキャーキャーしてるかといったら多分そうじゃないし、表向き明るくても家に帰ったらため息を付いちゃう人もいると思うんです。それでいったら一対一で話してる時とかは普通に外の私で、ライブとかはむしろ家の中の私とか一人きりの私とかに近い状態なのかなと思います。
――ライブのほうがプライベートに近い状態というのは珍しいですね。
身近に寄り添う様な存在になりたいので、大人しく喋っていても、できれば本当に近いところにいたいですし、できればライブとかも出ていく人、一人ひとりに最後に挨拶したいぐらい(笑)。
――お話を伺っていると、まだ1stワンマンも開催前、デビューシングルも発売前というタイミングですが、すごく活動してる感じがありますね。やはり神崎エルザの存在が大きいのかもしれませんが。
エルザは大きいですね。
――ミニアルバム『ELZA』は全体的にバランスのとれたアルバムですが、僕はライブ後に改めて聞くと「Rea(s)oN」が印象に残りました。
ライブから「Rea(s)oN」聴き返してくださっている方がすごく多いな、という印象です。
――アルバムの中でお気に入りの曲はありますか。
全部思い入れはあります、例えば「Rea(s)oN」はこのアルバムの中でも一番最初に歌った曲だったので、そういう思い入れもあるし。聴いてくれる人によって、7曲の中でこの曲が好き、この曲が好き、というのがすごくバラバラに分かれるアルバムなんじゃないかなって思います。
――作曲や編曲は毛蟹さんとruiさん、歌詞は全曲ハヤシケイさんが手掛けられていますが、全部ReoNaさん本人が言いたいことをちゃんと語っているような歌詞という印象が強く感じます。曲を作る前に話し合いやセッションはあったのでしょうか?
この曲はこういう事を歌いたい、というのは私一切言ってないんです。でもデビュー前のオリジナル曲とかもケイさんや毛蟹さんに書いていただいていて、同じ事務所というのもあって会う機会も多かったりとか、私がこういうことを歌いたいんだよってことも知ってくださっていてくれているんです。私が歯がゆくて言葉にできなかった気持ちとかも歌詞をいただいた時に、ああ私この時こういうことが言いたかったんだな、と思えるようなモノを毎回書いただいて、すごくありがたいです。
■失恋じゃないしんどさを歌った曲が少ないと思う
――そしてやっとデビューシングル「SWEET HURT」がリリースされます。
ちょっと私の中でもやっと出るぞ感があるんです(笑)。
――本作は1stシングルで初の本人名義になります。
本当に贅沢な一枚になりました……。
――3曲とも印象が違うというか、「SWEET HURT」はエンディングテーマ曲としてタイアップしているTVアニメ『ハッピーシュガーライフ』にかなり添っている印象があります。
『ハッピーシュガーライフ』は最初少女漫画かと思っていて、読み始めた時の衝撃たるやという感じでした(笑)。
――この曲を歌っていく中での思いはいかがでしたか。
作品を読んで曲のイメージを決めたりとかというのもあって。でもこの明るい感じの曲調で明るい感じの声でも、歌詞は明るいままじゃないんだよ、というのは示せたというか、私はこういうことがやりたいんだ、というのは出せた一曲なんじゃないかなと思っています。作品も絵が可愛いのに内容がすごく重たかったり、そういう表現もあるんだな、という印象を作品から受け取って、それをそのまま歌にできたのが「SWEET HURT」。
――カップリング一曲目の「おやすみの詩」は少しだけダークな世界観の印象です。
こういう鬱々とした気持ちだったりを、今リアルタイムで抱えていなくても、小さい頃やちょっと前に嫌なことがあった、辛いことがあったという人にも共感してもらえるというか。そんなこともあったな、と思い返してもらえるような、そういう曲になっていると思うんです。
――歌う際に気にした部分とかありますか?
歌うにあたって結構色んなことを思い返したりとか、どういう風に歌おう、どういう風に表現しようとか、すごく悩んだ曲ですね。自分はこういう風に歌いたいけど、自分の技術力で追いつかないモヤッとした部分もあったので。ただ本番レコーディングに入って、楽器の方がフルバンド編成ですごく激しくて、デモよりもエモーショナルに演奏してくださった曲だったので、そのオケに負けないよう、出来る限り気持ちを乗せて歌えるように、というのは気をつけました。
――3曲目は『ハッピーシュガーライフ』挿入歌にもなる「カナリア」ですが、恋愛や人への思いを歌っているのにあまりラブソングという印象を感じない気がしたんですが。
多分私が愛だの恋だのをそんなに重要視してないんだと思います。
――そうなんですか! 世にはラブソングが多いですが……。
それはそうだと思います。ライブの中とかでも結構言ってきた言葉なんですけど、失恋ソングってすごいありふれているのに、失恋じゃないしんどさを歌った曲ってそんなにないじゃないですか。
――失恋じゃないしんどさ、ですか。
私の中で結構モヤモヤしているものの一つでもあるんですけど、圧倒的に恋愛で負うダメージがひどいことはわかるんです、裏切られたとか浮気されたとか。でもなんというか、恋人とは対自分なので一対一の関係性じゃないですか、でも友達って何人もいるわけで、その数だけぶつかったり、縁が切れちゃったりすることがある。そういうしんどさって色々な形でいっぱいあると思うんです。でもそれに対して曲の数が足りてないというふうに私は思うんです。
――ああ、それは凄くわかりますね、人間関係の数だけ悩みも痛みも多種多様にある。
そう、だからその中に恋愛感情がもしあったとしても、そうじゃなくても共感できるような歌にしたいなというのはあります。ストレートにラブソングですねと言い切られる曲よりは、色んな含みを持たせて友情にも取れるものにしたいな、とか。
――いろんな取り方ができる歌詞ってことですよね。
私は『ハッピーシュガーライフ』が進んでいくにつれて、この「カナリア」や「SWEET HURT」の解釈の仕方や見え方が変わっていくと面白いと思いますね、作品と一緒に進んでいくといいな、という気持ちがあります。
――アニメーションと楽曲の親和性が高いと色々な取り方も出来ますもんね。
「SWEET HURT」と「カナリア」を歌わせてもらってから、『ハッピーシュガーライフ』の原作の方も話が少し進んでいるんです。それに対して未来予知じゃないですけど、最新刊を読んでもここまで曲との親和性が取れてることってあるんだろうかって思うぐらい、すごく作品に添った曲になってるなと思っていて。そういう意味ではとても真っ直ぐに“アニソン”を歌わせていただけたのではないかと。
■「散々な10代」を超えていくための「Birth」
――イベント出演も9月1日に『サイサイフェス2018』、16日には『“ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン”スペシャルイベント』と、更にワンマンの先の京都でのイベントも発表されましたが、そこも緊張は無く迎えられそうですか?
緊張はないかもしれないですね。ワンマンはすごい緊張してるんですけど、イベントに対しての緊張はそんなにないかもしれないです。
――サイサイフェスはすごい面子の中に入ることになっていますね。
大先輩方がいっぱい出てるんだからもうどこまでやってもいいかな、という感覚です(笑)。
――でもワンマンは緊張すると。タイトルが「Birth」となっていますけど。
「Birth」です、誕生します! ワンマンってやっぱり私の歌を目当てに来てくださっている方々が全員なので、一番ホームであり一番緊張するのがワンマンになりますね。
――内容はこれから作っていくと思いますが、個人的希望としてはどういうふうにしたいとかあるんですか?
私ワンマンの翌日から二十歳になるんです。そういうのもあって「Birth」になっているんです。私11~12歳の頃の自分と今の自分が同一人物だってことが信じられないぐらい10代が長く感じたので、それを全部最後の一日で詰め込んで出し切れたらいいなとは思います。
――それは先ほど伺った部分も含めて、辛かった10代でもあると。
そうですね……散々な10代でした。
――どこまでお聞きしていいかわからないんですが、その辛い部分を隠さないというのは凄いことだと思いますね。
暗黒の3~4年間があったんです。小さい頃にいじめられて、私そこまで本当に無遅刻無欠席の健康優良児だったんですけど、いじめがきっかけでお腹痛いとか嘘ついて学校に行かなくなって、両親が共働きだったので昼間家に一人で、その状態でパソコンカチカチやって曲聴いたりアニメ観たりとかが続いて。やっぱり学校で問題になって相手の子とかに謝られたりもするんですよ。でもそれだけで「分かった!じゃあ許すよ!」とはならないじゃないですか。
――そうですね、負った心の傷はそう簡単に癒えることも忘れることもない。
はい、辛いところに行かないでアニメを観てるほうが気持ちも安定するし、両親とも弟にかかりきりだった部分もあって、私はなんだかんだで手のかからない子だったようであまり咎められることもなく、でも構われることもなく、ということがちょっとずつ自分の中で歪みになっちゃって。そこから学校に行かなくなって、学校行かずに遊びに行ったりとか、そういうのが続いたまま、それを引きずって高校ぐらいまで行っちゃったので、それが私の暗黒の3~4年です。
――なんでしょうね、いじめってだいたい小学校4年生くらいから始まる印象ありますよね……。
そうなんですよね、多分体力が余り始めるんでしょうね。気持ちも大人に寄ってくるし、高学年になるし。私がいじめられ出した時、なんで理解してくれる人がいなかったかというと、周りが本当にいい子ばっかりだったんですよ。いわゆるヤンキーとか一切いなくって、中学上がっても誰もピアスを開けない。校則破ってる子がいたら周りの友達が注意するみたいな、子どもを育てるには良い環境のところだったんです。私は学年で唯一ピアス空いてるわ、遅刻してくるわ、保健室で寝てるわ、みたいな感じの子だったので、スクールカーストの圏外みたいな(笑)。
――クラスの雰囲気に馴染めない子って確かにいましたね。でもそれは環境が違ったら違う人間になっていたかもしれませんね。
取り巻く環境によってはヤンキーになってたと思います(笑)。 ただ私、喧嘩とかは本当にしたくなかったし、そういうのを避けて避けて、どちらかというと穏便なSNSで知り合った女の子とずっと一緒にいるみたいな感じでした。
■死ぬまで歌い続ける気でずっといる
――そんな過去があるからこそ、今日があるという考えもできますが、あえて今のReoNaから当時のReoNaに声をかけるとしたら、なんて言いますか?
「そのままでいいよ」って言います。その時、お互い気づけなかったものとかも今は気づけるというか、親との関係も良くなってますし、その時は分からなくても時間経過で癒えていくものとか許せるようになっていくものってきっとあるので。
――確かに、当時はわからなかったけど、時間の経過が癒せるものも許せるものもあります。全部が全部そうとは言えないですけど。
そうなんですよ、それに多分私の性格上人を恨み倒すみたいなそういう無駄な心の使い方はどう曲がってもしないと思うんです。だからどういう分岐をしても、そのままでいいよって言うんじゃないかな。
――イベントやワンマンを控え、今後も様々な展開があると思いますが、引き続き一対一の感覚で歌うとしても、どんどん大きなハコでライブしていくようになると、大人数と寄り添い続けるのは大変なんじゃないですか?
本当に大変だと思います。やっぱり背負うであろうものもきっと増えていくし……。
――期待も増える。
と、思います。
――それに対する覚悟はすでに自分の中にある?
私はもう死ぬまで歌い続ける気でいて、歌う事以外のことでご飯食べていくつもりはないんです。そう考えたら、覚悟みたいなものはもうあるんだと思います。
――だいぶ長々とお話を伺ってきましたが、今日の最後にこれを聞かせてください。ReoNaにとって、歌とは?
なんだろうな……歌とは……。(長い沈黙)うん、「お歌はお歌」ですね、代えようがないから。多分自分自身なんだと思います。「SWEET HURT」の中での「あなた」も、私は誰か人に向けて歌うというより、私のお歌に向けて「あなた」と言ってる感じなんです。だから私にとって「お歌はお歌」です。
インタビュー・文:加東岳史