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Mr.Childrenが30年の歴史と”その先”を示した、日産スタジアム公演を振り返る

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Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス  2022.6.12  日産スタジアム

バンドの30年間の歴史の豊かさと、今という瞬間を音として刻むことのかけがえのなさの両方を強く感じたステージだった。Mr.Childrenの30周年を記念してのツアー、ドーム4か所8公演に続いてのスタジアム公演2日目、6月12日の日産スタジアム。彼らはスタジアムという野外の広大な空間でのライブの進め方を熟知しているバンドだ。空や夕陽や月まで演出の一部にしてしまっていると感じる瞬間が何度もあった。

スタジアムの上には青空が広がり、白い雲がゆっくりと流れていた。オープニング映像に続いて、力強いギターのカッティングで始まった1曲目は「終わりなき旅」だ。ドーム公演では演奏されなかった曲からのスタートということもあり、イントロが始まった瞬間から、観客のテンションの高さが拍手の大きさからも伝わってくる。拍手はすぐにハンドクラップに変わっていった。桜井和寿(Vo/Gt)、田原健一(Gt)、中川敬輔(Ba)、鈴木英哉(Dr)というメンバーに、SUNNY(Key/Vo)を加えた5人編成でのステージ。1曲目から早くも会場内がひとつになっていると感じた。「終わりなき旅」の終盤で桜井のMCが入ってくる構成。

「どんなものにもきっと終わりはあるのだと、今はそう思っています。だからこそいつまでも続いていくことを願って、だからこそ情熱のすべてを音に変えて、人生最高の音をみなさんにお届けしたいと思っています」というのがMCの内容だ。「終わりなき旅」は1998年に発表された歌だが、20数年間経って、人生という旅の過程で歌われることで、歌の強度がさらに増していると感じた。彼らはこの曲によって、半世紀へのエントランスの先にある次の扉を力強くノックしたところなのではないだろうか。

続いての「名もなき詩」もドーム公演では演奏されなかった代表曲のひとつ。ダイナミックなグルーヴに7万人のハンドクラップが加わっていく。30周年を記念したツアーということで、代表曲満載のセットリストになっている。しかもヒット曲の連続。こんなセットリストを組めるバンドは極めて限られている。Mr.Childrenの音楽がここまで多くの人に、そして長きに渡って支持され続けているのは、人生の並走者のような役割を果たしている曲がたくさんあるからだろう。

「海にて、心は裸になりたがる」は野外の開放的な空間にぴったりな曲だ。桜井がステージ上を走り、飛び、踊っている。ステージの下手には田原、上手には中川。桜井が「ナカケー!」とマイクを差し出すと、中川がシャウト。メンバーの歌声が観客の歌声の替わりでもあるだろう。空耳ではあるのだが、7万人の雄叫びが聞こえてきたような気がした。

「めちゃくちゃ気持ち良くない? この景色、最高!」と桜井。晴れやかな笑顔を浮かべる桜井の頭上には青空が広がっている。「シーソーゲーム ~勇敢な恋の歌〜」、そして「innocent world」では青空のもと、7万人の手や体が、バンドの演奏に合わせて揺れている。メンバーが観客の反応をしっかり感じながら演奏していることも伝わってくる。ステージ横に設置されたLEDスクリーンに笑顔で歌う桜井が映っていた。

桜井がアコースティックを弾きながら、時折目をつぶって歌っていたのは「彩り」だ。温かな歌と演奏がスタジアムを包み込んでいく。<水色 オレンジ>というフレーズが聞こえてきた瞬間、空を見上げると、青空が夕陽でかすかにオレンジに染まっていた。Mr.Childrenの演奏と夕陽によって、スタジアムの上空も彩られているかのようだ。「口笛」では桜井が空を見上げながら、ファルセット混じりの歌。バンドがさりげなく、でも丹念に音を紡いでいる。

「みなさんと空を同時に見ながら歌っていると、ものすごく気持ちいいです。久しぶりに見る7万人の景色って、すごいねえ」と桜井。このスタジアム公演、声は出せないものの、人数制限が解除された中でのライブであり、確かに7万人がつめかけた客席の景色も壮観だ。ライブ環境が少しずつ正常に戻りつつある中での開催。演奏する側も観る側も“生のライブのかけがえのなさ”を噛みしめていたのではないだろうか。

中盤の2曲は花道の先にあるセンターステージで演奏された。アマチュア時代からある初期の曲「車の中でかくれてキスをしよう」は桜井、田原、SUNNYという3人のみでの演奏。歌とアコギとキーボードというミニマルな編成で、車の中という閉ざされた狭い空間の中での出来事をモチーフとした歌を、スタジアムという広大な空間で演奏する対比が鮮やかだ。桜井が20代のころに作ったせつなくも密やかなラブソングを、今の桜井の歌声で表現していく。時空を超える歌の魅力を堪能した。花道に中川と鈴木が登場して、5人での演奏となったのは「Sign」。<君がみせる仕草 僕に向けられるサイン>というフレーズは、センターステージで演奏しているバンドと客席の関係ともシンクロするものだろう。メンバーが観客の仕草や気配を察知しながら、演奏していると感じたからだ。曲の終わりで客席からの温かな拍手が湧き上がると、桜井が拍手で返している光景が印象的だった。

頭上に広がる空はまだ深いブルーだったのだが、LEDの画面では、ひと足早く星々が輝く夜空が映し出されていた。再びメインステージに戻っての「タガタメ」。このスタジアムの頭上に広がる空とつながっている同じ空のもとで、戦火が続いている。争い、迫害、搾取、差別など、人が人にもたらす悲惨な出来事の数々を前にすると、無力感を感じずにはいられなくなってしまうが、Mr.Childrenはその無力感とすら向き合ってきたバンドだ。時代と対峙しながら音楽を奏でる姿勢はずっと変わらない。悲しみや怒りや憤りや願いや祈りなど、2022年の今、湧き上がる感情を込めた歌と演奏に強く胸を揺さぶられた。これが2022年の最新の「タガタメ」だ。

「タガタメ」から「Documentary film」、「DANCING SHOES」という流れから見えてきたのは、彼らが奏でているのは絶望の歌ではなくて、希望をたぐりよせようとする歌であるということだった。「DANCING SHOES」はバンドのアンサンブルの妙を堪能できる曲でもある。田原の陰影を帯びた印象的なギターの音色によりディープでダークな空気感が漂う中で、中川と鈴木が生命力あふれるグルーヴを生み出していく。曲の持っているエネルギーを解放していくようなバンドサウンドに体が揺れる。踊ることは精神と肉体を解放すること、そしてファイティングポーズを取ることでもあるだろう。「LOVE はじめました」からはさらに加速していく展開だ。桜井の切迫感あふれる歌声を核として、バンドサウンドが自在に展開されていく。7万人のハンドクラップも一体となって、グルーヴを形成していく。さらに「フェイク」、「ニシエヒガシエ」、「Worlds end」へと、曲からほとばしるパワーが次の曲へと引き継がれていく。

「この曲もみんなの思い出や愛情や記憶をいっぱい吸い取って、大きい歌になったらと思っています」というMCに続いては3月に配信限定でリリースされた「永遠」が演奏された。桜の舞い散る映像が映し出される中で、桜井のせつない歌声が染みてくる。続いてもミディアムバラードの「others」で、<窓の外の月を見てる>という歌詞と、実際の景色がシンクロ。ステージの下手側に月が昇り、ステージ両脇のLED画面に実際の月が映し出されていた。上空の月やLED画面の月を見ながら「others」を聴いていると、ファンタジーの世界の中に入り込んだような気分になった。

神秘的なSEに続いて、「Tomorrow never knows」のお馴染みのキーボードのフレーズが聞こえてくると、ハンドクラップが起こった。1994年リリースの曲だが、懐かしのメロディにならないのは、<まだ明日は見えず>というフレーズが、どんな時代にも普遍的なものとして響くからだろう。鈴木の4つ打ちのドラムで始まったのは「光の射す方へ」だ。すっかり暮れた夜空に向かって、光の筋が放たれていく。この曲の持っているスケールの大きさを表現するにはスタジアムという空間がふさわしい。高揚感と開放感が果てしない空へと広がっていく。

「fanfare」からはラストスパート。<昨日に手を振ろう>という歌詞では、観客も一緒になって手を振っている。桜井も田原も中川もステージの左右へと移動しながらのパフォーマンス。桜井が花道を走り、ジャンプしている。「この最高の夜を忘れないために、大変だった昨日を過去を忘れ去るために」というMCに続いては「エソラ」。ポップでカラフルでポジティブなダンスミュージックが7万人の内面までも彩っていくかのようだ。メンバーが笑顔で演奏している。銀テープが宙を舞っている。

「どの曲でみなさんとお別れを、そして感謝を告げようかと考えて、この曲を選びました」という桜井のMCに続いて演奏された本編ラストの曲は「GIFT」だった。30周年のライブの幕を閉じるのにふさわしい曲。<君の喜んだ姿をイメージ、いつも、今日も、これからもイメージしながら>と過去も現在も未来も網羅した表現で歌われていた。田原も中川も鈴木も歌っている。これは観客の心の歌声の代弁でもあるだろう。ステージと客席、双方の思いはしっかり伝わっていたに違いない。ステージと客席とのギフトの交歓会のようなエンディングだ。

アンコールの1曲目は「HANABI」だった。イントロが始まると、声にならないどよめきと拍手が起こった。7万人の心を一気にひとつにしていくようなパワーを備えた歌だ。届きそうで届かない何かに対して、手を伸ばしていくような歌。届かないもどかしさと、届くかもしれないという希望。その行ったり来たりしながらも、前に進んでいこうとする感覚は、Mr.Children独特のものだ。メンバー紹介をはさんで、「さらに強くたくましく優しく楽しく過ごしていけたらと思っています」という桜井のMCに続いて、アンコールの最後に演奏されたのは「生きろ」だった。この曲が“半世紀へのエントランス”の先を提示するものでもあるだろう。痛みや喪失感も糧として進んでいく歌。渾身の歌と演奏によって、<生きろ>という根源的なメッセージがダイレクトに届いてきた。

アニバーサリーライブとして観客に感謝の気持ちを伝えるステージであると同時に、バンドのリアルタイムの思いも真っ直ぐ届いてくるステージ。Mr.Childrenと7万人の観客が創り出した空間は力強くて、温かくて、彩り豊かだった。演奏された歌の数々ととともに、終演後の夜空と月と銀色に輝くスタジアムの景色が胸に刻まれた。この日、手にしたものは思い出だけではない。生きていく上で必要になるアイテムをひとつ入手して、握りしめたような感触の残る夜だった。

取材・文=長谷川誠  撮影=渡部 伸、樋口 涼

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