NIKO NIKO TAN TAN
4人組のバンド編成と聞いて誰もが真っ先に思い浮かべる、ギター、ベース、ドラム、ボーカルという極めてまっとうな景色とはまるで異なる、OCHAN(Vo.Syn.etc/作曲)、Anabebe(Dr/編曲)、Samson Lee(映像 /アートディレクター/作詞)、Drug Store Cowboy(映像/モーショングラフィック/アートディレクター)という、音楽担当2名と映像担当2名を擁するクリエイティブミクスチャーユニット、NIKO NIKO TAN TAN。シーンで着々と存在感を増すそのファニーな名前とは裏腹に、ルール無用のマッドでカオスな音像は、コロナ禍以降の抑圧された日々に強烈な高揚感と狂乱のビートを解放。その勢いのままデジタルリリースされた最新作となる1st EP「?」には、海外のトップアーティストの作品にも携わり世界的に活躍する日本人キーボード奏者・BIGYUKIが参加し、新世代のアイコンとして注目を集めるカメレオン・ライム・ウーピーパイのChi-との刺激的なフィーチャリングも実現。トリッピーでメロウな楽曲群で一気に非日常へと引きずり込み、溢れる可能性を存分に感じさせた。そこで、この夏は『FUJI ROCK FESTIVAL’22』『SUMMER SONIC 2022 OSAKA』をはじめとした各地のライブで、多くの目撃者を生むであろうNIKO NIKO TAN TANから、前身バンド時代より苦楽を共にしてきたOCHANとAnabebeに、結成のいきさつから4人のキャラクター、個性的なサウンドの秘密に新作の裏話、11月に控える東阪ワンマンツアーに至るまで、多岐にわたるトピックを語ってもらった。NIKO NIKO TAN TANの解体新書をここに!
いわゆるロックバンドという形態をもうやりたくなかった
――大阪出身で前身バンドからの仲という2人ですが、今回の撮影場所がまさに当時の思い出が詰まったエモい場所という。
OCHAN:もう、まさにここ。久々ですね……ふと通り過ぎたりはしましたけど、こんな形で来られるとは。
――かつてはここ大阪・湊町リバープレイスのウッドデッキで語り合い、ビールを飲んで。
OCHAN:そうそう! クリアアサヒをね(笑)。
――そして、2人はセカンドキャリアとなるNIKO NIKO TAN TANでも一緒に音楽をやることになったわけですけど。
OCHAN:前のバンドをやめて次は何をしようかなというとき、とにかく音楽は続けようと思って。最初はエレクトロニックミュージックで、打ち込みのビートで、とも思ったんですけど、やっぱり生のドラムを入れた方がカッコいいなと。それは自分がずっとロックバンドをやってきたのもあると思うんですけど、僕が知り得る限り一番いいドラマー=Anabebeだった。だから僕の中の選択肢はもうAnabebeしかないんですよね。
Anabebe:いや~うれしいですね。それこそ、彼とは初めて会ったときからビビッときて、一緒に道端でビールを飲んで、友達になって……音楽的にも彼しか考えられないというか。
Anabebe
――何でしょう、この「のろけ合い」は(笑)。ちなみに、OCHANの由来は何となく想像がつきますけど、Anabebeという名前はどこから?
Anabebe:僕の小学校の頃のあだ名だったんですけど、当時は肌も地黒で坊主頭で。そもそもうちの家では、中学校を卒業するまでは坊主にしないといけないというルールがあって。
――校則じゃなくて、まさかの家則(笑)。
Anabebe:坊主でヘルメットをかぶってるみたいだったんで、小学校の先輩が僕のことを「お前、漫画『ジャングルの王者ターちゃん♡』のアナベベみたいやな」といじってきたあだ名を今、芸名に(笑)。
OCHAN:それでいじられてたから、精神的復讐として(笑)。
OCHAN
――前のバンドもフォーピースのロックバンドとしてはひとクセあることをやってはいましたけど、NIKO NIKO TAN TANではガラッと編成も音楽性も変わって。元々そういうルーツとか嗜好を持っていたんですか?
OCHAN:むしろ今やってるこっちの方がルーツに近くて、あとは、いわゆるロックバンドという形態をもうやりたくなかったんですよ。音楽的に制限される部分もあるし、最初はライブすらやるつもりがなかったんで。ただ、音楽を作っていくうちにいつ間にかこう……ガッツリ走り出してしまってる感じですね(笑)。
――最初は単純にクリエイティブ的な欲求を内輪で満たせたらよかったのが、活動が本格化していったのには何かあったんですか?
OCHAN:2019年に「東京ミッドナイト feat. Botani/キューバ、気づき」を試しにリリースしてみたら、意外と反応がよくて。今までもこういう音楽性でやりたい思いはずっとあったし、「案外、聴いてもらえるんや、リアクションがあるんや」と思って、そこからどんどん楽しくなってきたのはありますね。
より音楽の世界観が広がる映像を作ってくれる
NIKO NIKO TAN TAN
――NIKO NIKO TAN TANはOCHAN、Anabebeの音楽担当2人、Samson Lee、Drug Store Cowboyの映像担当2人という珍しい編成で。そもそもSamson LeeはAnabebeの知り合いだったみたいですね。
Anabebe:Samsonは高校の同級生で、3年間ずっと一緒のクラスで。それから僕がOCHANと出会い、前のバンドでMVを作るときに「友達で映像が作れる人がいるよ」と紹介して。
――その数年後、なぜか鹿児島県の種子島に移住していたSamsonから「映像に音を付けてほしい」とOCHANが頼まれた。彼からしてもオーダーありきのクライアントワークと作家としての自分の狭間にいて、OCHANのクリエイティブ的欲求と結実したのがNIKO NIKO TAN TANの始まりだったと。2人から見たSamsonはどんな人ですか?
Anabebe:意地悪で優しいヤツ。
OCHAN:ツンデレですね(笑)。でも、発想が面白くて、昔のバンドの頃から彼の映像に音楽が救われてきたので。より音楽の世界観が広がる映像を作ってくれる人ですね。
――MVを作るたびに作家を変えるのも一つの手ですけど、パーマネントなメンバーと継続して映像を作っていく利点は?
OCHAN:僕らの音楽にメッセージはあってないようなものなんですけど、楽曲の世界観をより密接に考えられるし、ここまでやってきた過程の文脈というか、今、NIKO NIKO TAN TANが何を見せたら面白いか、これからどう見せていきたいかは、いきなりお願いするのとはやっぱり理解が全然違うので。そこはすごく大きいですね。
――もう一人の映像担当、Drug Store Cowboyに関しては?
OCHAN:彼はSamsonと仲のいい友達で、専門のモーショングラフィックの知識がすごいですね。だから難しいグラフィックは彼が作ってくれてますし、僕とAnabebeはこういう音楽をやってますけど考え方はアナログ人間で、それとはまた逆のタイプの人間だと思います。
Anabebe:あと、映画とかゲームとか、いろんなことに詳しいですね。
――そして、バンド名はSamson の妹が小さい頃に使っていた、アニメ『美少女戦士セーラームーン』柄の枕に勝手に付けていた名前だそうで(笑)。ファニーな名前と狂暴なサウンドのギャップがいいですよね。
僕らが自分自身に問い掛けてきたことへの現時点での答え
OCHAN
――NIKO NIKO TAN TANは音数も膨大で、あえてビートをズラしながらもそれを絶妙に成立させるような、カオティックなサウンドメイクに対するバランス感覚があって。こういう核となる芸風はどこから生まれたのかは気になるところですね。
Anabebe:何やろ? 共通点で言えば、マーズ・ヴォルタかな。
OCHAN:元々そういうカオスな音楽が好きなのはありますし、狙ってないところも正直あって。前のバンドではその辺が全然投影されてなかったんで、逆に今となっては「何でやらなかったのかな?」と思ったりもするんですけど(笑)。NIKO NIKO TAN TANでは、好きな音楽とか信じてる音楽の詰め合わせを聴かせてる感覚ですね。
――昨年、「より多くの人に聴いてもらおう」と意識に変化があったそうですが、クリエイティブな欲求から始まったバンドなのに、その他大勢との熾烈な戦いを強いられかねない土俵にまた挑もうとなったのには、何か理由があるんですか?
OCHAN:前のバンドの頃とはちょっとモードは違いますけど、音楽を作ることがずっと好きで、作ったからには誰かに聴いてもらいたい。今の周りの環境とか、「もっといい音楽が作れそうやな」という気持ちが相まって、また戦場に戻ってきた感じですね(笑)。一発、世に響かせられたら、そこをベースに好きなこともできるし、勝負してみるのもいいんじゃないかと。
Anabebe:だからこそ、ドラムもヘンなことばっかりやり過ぎると分かりにくいので、ストレートなビートを意識するようになってきていますね。
OCHAN:最新EPの「?」は、結果的に既発の4曲+新曲3曲を入れたんですけど、作品を作る=自分たちに問い掛ける行為だと思っていて。そして、出来上がった作品は逆に、僕らから聴いてくれる人たちへの問い掛けでもあるし、いいタイトルかなと。同時にこのEPは、2019年から僕らが自分自身に問い掛けてきたことへの現時点での答えでもあります。
――今作においては、エンジニアの吉川昭仁(STUDIO Dede)さんが本当にMVPな役割を担っていて。吉川さんはバークリー音楽院出身の現役ドラマーでもあるので、それも今回のディレクションにも大きく関わっているのかなと。
Anabebe:もうね、修行でした。いや、苦行(笑)。「The Dawn」は一発録りでいいテイクが録れるまで、10時間ぐらい叩きましたから。周りにスタッフさんもいたんですけど、あまりに時間がかかり過ぎて録ってることすら忘れてる、みたいになってきて(笑)。
――「え、うそでしょ。あの曲まだやってるの?」みたいな(笑)。
Anabebe:でも、むっちゃいい経験になりました。ストレートなビートに変えていったのも、そこを踏まえたところもあって。
――要はトリッキーなことをやれば耳を引くけど、打点の精度や本当の意味でのグルーヴとなると、それだけじゃねという。
OCHAN:そこなんですよね。さっきおっしゃられたように、手数が多くてトリッキーな、カオティックでカッコいい音が僕らは好きなんですけど、今回のレコーディングでは「こんなビートで踊らせようと思ってんのか?」みたいなところから始まって(笑)。
Anabebe:「全然違う。ダンスミュージックが分かってない」と言われ(笑)。
――吉川さんは全くオブラートに包まない(笑)。でも、NIKO NIKO TAN TANが世に出ようというタイミングでクリニックをしてもらえたような……ドラマーとしての根本的なボトムアップがあってこそ、トリッキーが映えると。
Anabebe:まさにその通りですね。
OCHAN:だからこそ、今作でバンドがネクストステージにいけた感じがしています。
すさまじかったですね、ちょっとガチモンを見た感じ
NIKO NIKO TAN TAN
――しかも、「The Dawn」には世界的に活躍するBIGYUKIさんがシンセベースで参加していますが、それも吉川さんが思いついて「ちょっと聞いてみるよ」と電話をかけたら偶然、同じ建物内にいたという、ものすごいミラクル(笑)。
OCHAN:たまたま上の階にいて降りて来てくれました(笑)。しかも、さっきまで僕らのことを何も知らなかったのに、いきなり曲を聴いてもらって。次の日には「じゃあセクションごとに録ってみようか。でも、このフレーズがイヤだったら言ってね」みたいな……もう、すさまじかったですね、ちょっとガチモンを見た感じ。ヤバかったな〜! さすがでした。
Anabebe:「これはどう? こっちはどう?」って、引き出しの数がすごかったよな。
――2曲目の「胸騒ぎ feat. Chi- from カメレオン・ライム・ウーピーパイ」は、3年ほど前に対バンしたのをきっかけに、ようやく実現したコラボで。
OCHAN:楽しかったし刺激的でしたね。彼女は他でもいろいろとフィーチャリングしてるんですけど、他人の書いた曲を歌うのは初めてらしくて。ただ、この曲は元からChi-ちゃんをイメージして作ったので、「これはハマッたな」とレコーディングスタジオで確信しました。Chi-ちゃんは歌がうまいし、すごくスムーズに録れましたね。
Anabebe:彼女は電子音楽のきれいなタイム感の曲をたくさん歌ってきたので、僕のちょっとうねりのある生ドラムは歌いにくいんちゃうかなと思ってたんですけど、レコーディングではバッチリで。
――OCHANは元々ギタリストで、その後はギタリスト、キーボーディストとしてTempalayのライブサポート等も手掛けるまでになり。そもそもNIKO NIKO TAN TANにしても音楽的にはインストという選択肢もあったと思うし、Chi-ちゃんみたいなボーカルを入れてもよかった。なぜOCHAN自ら歌うことになったのか、実際に歌ってみてどうなのかは気になるところだなと。
OCHAN:それは初めて聞かれましたね。SamsonとNIKO NIKO TAN TANをやり始めた初めの頃は、本当は歌うつもりはなかったんですよ。
Anabebe:女性ボーカルを探してたよな。
OCHAN:それこそ最初に「東京ミッドナイト」でフィーチャリングしたBotaniとかね。全曲でゲストボーカルを呼ぶのもアリだったし。インストに関しては、これだけいろんなことができそうなバンドだから、やっぱりメロディが、歌がある音楽をやった方がいいなと思って。とは言え、なかなかボーカルが見つからなくて、「誰もおらへんなら俺が歌うか……」という流れで歌い始めた感じです(笑)。まぁ初期に比べるとだいぶ慣れてきて、いい楽曲ができるたびに、自分が歌う意味を最近は見つけられてきたかなという感じですけど。
――ただ、MVのこのシーンでもうちょっと尺が欲しいからと曲自体を延ばしたり、映像とシンクロさせたいからとアレンジが変わったり、みたいなことがこのバンドでは起こり得る。ボーカリストとしてのプライドや先入観がないからこそ、そういうときもフレキシブルにやれるかもしれないけど、逆に絵面を優先してしまってブレスが続かなくなるとか……。
OCHAN:ホンマに! 今作でも実際にそうで、「ヨルガオ」には息継ぎポイントがなくて、ちょっとおかしなことになってるんですよね(笑)。
また夢が一つかなってしまった
NIKO NIKO TAN TAN
――個人的に、今作で一番好きな曲は「多分、あれはFly」で。他の曲はある意味、ちゃんと刺さるように設計されているというか、時代を見越した着地点も感じますけど、この曲はもう単純に「音楽」で、これがNIKO NIKO TAN TANの真髄という感じが。
Anabebe:うれしいな……この曲は結成当時からあって、2019年のライブではもうやっていたぐらいの曲で。
OCHAN:これは僕らも一番好きな曲です。「この曲が好きな人とは仲良くなれるやろうな」と思うぐらい(笑)。なのに、なぜか今まで音源化しなかったという。今作はシングルとして出してきた曲も多いんで、この曲はさっきおっしゃられたみたいに刺さらせるポジションの曲ではないのかなと。でも、そういう曲と曲の間にあると一番カッコいい、真価を発揮できる曲だったので、やっと入れられました。
――二胡の音をサンプリングした、オリエンタルなフレーズも印象的ですね。
OCHAN:デモを作っていたときに「多分、あれはFly」というワードはもうあったんですけど、二胡の音が頭の中でハエのように鳴っているというか……。
――なるほど! だから「Fly」ね。
OCHAN:そこからSamsonが詞を膨らませていったという。だから、<湧いて出るの>とかもちょっとその感じが。
――面白い。正直、深読みし過ぎてエロい曲かと思った(笑)。
OCHAN:そっちにいきますよね? でも、それは大人の考えです(笑)。
――間違いなくNIKO NIKO TAN TANの存在をより知ってもらえるであろう「?」が出来上がったときは、どう思いました?
Anabebe:「これがNIKO NIKO TAN TANです!」というものを形にできた達成感はありました。
OCHAN:「多分、あれはFly」をやっと入れられたのもあったし、夏フェスとかに出る前の本当にいいタイミングで世に出せたなって。
――「フジロックに出たら解散しよう」と言っていたバンドが、本当に出てしまった(笑)。その上、『SUMMER SONIC 2022 OSAKA』まで決まって。
Anabebe:感動ですね。本当にまた夢が一つかなってしまった。
OCHAN:それこそ、この場所(=湊町リバープレイス)でずっとそんなことを話していましたから。フジロックとサマソニ、両方出られるようなバンドになりたいと思っていたので。
VJが入ってこそNIKO NIKO TAN TANが目指すライブの完成形
NIKO NIKO TAN TAN
――思えば、NIKO NIKO TAN TANをやる前は、パート的にも2人はフロントマンではなかったわけじゃないですか。今は歌う上にツーピースというライブでの形態もあって、自ずと前に出ることになる。これまでのキャリアとは視界が変わりましたね。
OCHAN:もう日々、毎度のライブでそれをめっちゃ感じてます。こういう取材やラジオもそうですし、2人で前に出るようになって意識はかなり変わってきたよな? いろいろと考えるようにもなったし、特にここ半年でだいぶ変わりましたね。
――5月にNulbarich、ビッケブランカ、Vaundyらと『SOUND CONNECTION 2022』で共演したのを見たときも、ハイスペックな3組と大阪・フェスティバルホールで対峙しても、オープニングアクトながらしっかり爪痕を残せてましたね。
OCHAN:他の3組は普段からあの規模のライブをやっているだろうけど、僕らにとっては純粋に今まででキャパが一番デカかったから見える景色も違ったし、これからやっていくステージの未来が見えたというか……。全員が僕らのお客さんじゃなかったにしても、多くの人に聴かせる感覚を得られたかなと思ってますね。
――11月には『NIKO NIKO TAN TAN 1ST ONE-MAN TOUR「SMILE?」』が控えていますが、この東阪ワンマンツアーには映像担当のSamson LeeとDrug Store Cowboyも参加するそうで。
OCHAN:VJが入ってこそNIKO NIKO TAN TANが目指すライブの完成形なので、それを念願の地元・大阪の初ワンマンで、これだけ早く実現できるとは思ってもみなかったです。その頃には夏フェスを超えてさらにパワーアップしてると思うので、いいライブにしたいですね!
Anabebe:夏フェスに出てパフォーマンスもグルーヴもアゲて、ワンマンツアーに向かいたいと思います!
取材・文:奥“ボウイ”昌史 撮影:ヨシモリユウナ