Midnight Grand Orchestra (C) VIA/TOY’S FACTORY , (C) 2016 COVER Corp.
2022.8.20(Sat)Midnight Grand Orchestra 1st LIVE『Overture』
サウンドプロデューサー/コンポーザー/DJと多方面での精力的な音楽活動を続けるTAKU INOUEが、VTuberでありVシンガーとしての評価も名高い星街すいせいと本腰を入れてタッグを組み、始動した「Midnight Grand Orchestra(以下:ミドグラ)」。去る7月27日に発売となった1stミニアルバム『Overture』では”グランドオーケストラ”たる所以を遺憾なく発揮し、歌声と楽曲が織りなす深みのある世界観をリスナーに提示していた。今回はそんなミニアルバムを引っさげ、8月20日(土)に配信された1stライブ『Overture』の模様をレポートする。
まずはミドグラの結成経緯について軽くおさらいしておくべきだろう。TAKU INOUEがメジャーデビュー楽曲として制作した「3時12分」にゲストヴォーカリストとして迎えたのが星街すいせいであり、またほぼ同タイミングで彼女が製作していた1stアルバム『Still Still Stellar』のリード曲「Stellar Stellar」の作編曲をTAKU INOUEに発注していた……という、まさに星の巡り合わせとでも言うべき偶然の出会いは、ファンの間では周知の事実として語られている話だ。
そのような経緯から産み出されたこの2曲がミドグラのルーツになっていることは間違いない。深夜と早朝の境界線が最も曖昧な時間帯と言っても良い「3時12分」は、まさにそんな夜と朝の狭間を、朝日が昇って世界に光が差し込み、それまでの景色が今すぐにでも逆転しかねない刹那を”静”と”動”をもって描いた楽曲だったと思う。そして「Stellar Stellar」は、彼が得意とするドラムンベース〜リキッドファンクを基調にしつつ、ストリングスを用いたオーケストラのような荘厳さをアグレッシブに加えて、アルバムのリード曲として華を添えた。今回のミニアルバムはまさに「Stellar Stellar」のような”動”の楽曲と、「3時12分」のような”静”の楽曲から構成されていた。
(C) VIA/TOY'S FACTORY , (C) 2016 COVER Corp.
前置きが長くなったが、今回の配信ライブでは150名限定のライブビューイングも行われ、筆者はそちらに参加させていただいた。先に会場の様子からレポートしておくと、エンドロールが流れ始めた最後まで、発声はもちろん拍手すらもほぼ起きないという、ある意味ライブビューイングの醍醐味とも言えるような”空間の共有”は、あまり無かった。決して内容が悪かったというわけではなく、むしろ逆で、あまりにも圧倒されすぎて、没入しすぎて皆が反応を忘れていたという表現が正しいはずだ。少なくとも私はそうだったし、終盤でようやく我に返った数名が曲終わりにパラパラと拍手しだしたのを聞いて、私もハッとさせられた。いや、むしろそういう意味では「皆が圧倒されて何も言えなくなる」という”空間の共有”はあったのかもしれない。
(C) VIA/TOY'S FACTORY , (C) 2016 COVER Corp.
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事前にティザームービーがあったように、今回のライブはどこかサイバーパンク感のあるヴァーチャル空間に特設ステージが設けられていた。とにかくその作り込みがハンパじゃなく、何かのRPGゲームのマップの1つとしてそのまま使える規模なのだ。1つの都市が隅々まで作り込まれており、高層ビル群の中に設けられた中央広場のような場所にミドグラのロゴをモチーフにした球状のステージが浮かび上がっている。ライブ開始を告げるカウントダウンが始まり、ミドグラのロゴが浮かび上がり、モールス信号で「SOS」と打つ音が聞こえてくる。そして目の前にこの光景がいきなり飛び込んでくる。キービジュアルや楽曲から、なんとなく受け取っていたミドグラの世界観にバチンと吸い込まれ、気付けば「Never Ending Midnights」そして「SOS」まで、終わらないミッドナイトは深みを増していた。
(C) VIA/TOY'S FACTORY , (C) 2016 COVER Corp.
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「皆さ〜ん!初めまして!今日は私たちMidnight Grand Orchestra 1stライブ『Overture』にご参加頂きありがとうございます〜!」と2曲を終え、星街から挨拶が入る。彼女から見て左斜め後ろにキーボードやベース、そしてギターを抱えたTAKU INOUEが、そしてその更に後方ではバックバンドとオーケストラのメンバーが控えている。「そしてYouTubeのチラ見せ配信はココまで!このライブのとてつもない感じは伝わったと思うので、ぜひ最後まで見てください!」と次の曲へと入っていく。その言葉は決して偽りじゃないと思えるほどに衝撃的だった。彼女の歌声やTAKU INOUEが作る楽曲が間違いないのは当然として、彼らの描く世界観をこのように立体的にまざまざと見せつけられると、一気にその奥行きに吸い込まれる。たった2曲だけでも十分にその凄さは伝わっていたはずだ。
(C) VIA/TOY'S FACTORY , (C) 2016 COVER Corp.
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続く「Allegro」では更にギアを一段上げ、ダンサブルな「Rat A Tat」を情緒たっぷりに歌い上げる。ミドグラの衣装も素晴らしいし、星街の口元を映し出す寄りのカメラワークは、ビブラートの息遣いや口の震えさえも分かるくらいに彼女を艶やかに映し出す。再び2曲を披露した後のMCでは街やステージが一望できる、いわゆる”SOSデッキ”へ2人でワープし、2人の出会いからこれまでのエピソードトークが展開される。ライブ会場ではよく見かけるプロンプター(カンペや歌詞を映し出すモニター)までちゃんと作り込まれていて思わず笑ってしまったが、そこに映し出されたカンペを受けて、「(出会いのキッカケとなった)3時12分から、もう1年ですよ」とTAKU INOUEが語りかける姿を見て「MOGRAでやったリリースパーティからもう1年も経つのか…」と感慨深い気持ちになっていると、この日のバンドメンバー紹介へ。 Gt / tepe、Key/永山ひろなお、Violin / CHICA&杉野裕、Viola/細川亜維子、Cello/篠崎由紀、Dr / bobo&山本真央樹とオーケストラの名に恥じない構成の生バンドが演奏をサポートする。
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アルバムの構成通りにステージも進行し、「Tuning (Interlude)」を経由してバラードパートへ移行。「流星群」ではステージ頭上に星が降り注ぐ演出もあった。続く7曲目は「3時12分」。サビにかけて壮大になっていくパートでグッと引いて街全体を映し出すカメラワークが、MVを想起させる。床面に映し出された”3:12”を指し示す大時計が回り出す。時間が動き出す。そこへ「1、2で世界を変えに行こうぜ」と星街の儚げな歌声が重なる。そしてここに「Stellar Stellar」を差し込むセットリストがニクい。腹の底から繰り出す力強いロングトーンと伸びやかなファルセットの高低差。星街すいせいの歌声という才能を軸に、TAKU INOUEが紡いだ音が、生バンドによって奏でられ、まるで衛星のように寄り添いながら自転と公転を続けている。
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続くMCパートでは「ミニライブということで全9曲、次の曲で最後」と星街からアナウンスがあったように実際にも短かったが、それ以上に体感として短く、本当にあっという間にその時を迎えた。「これからどんなことが出来るのか?私たち自身も楽しみだし、注目しててください!」とだけ言い残し、最後のミッドナイトクルーズへ。火球が街を包み込み、よもや世界の終わりとも思えるような光景が広がる中で披露された「Highway」は、ひとつの旅の終わりのような、ロードムービーぽさを感じさせる印象的なアルペジオがより際立つ映像体験だったと言えよう。サビ終わりのストリングスパートでステージは光の粒に包み込まれる。まるで超新星爆発のように、破壊と創造。新たな星の誕生に立ち会ったような神秘さもあり、隕石が街へと降り注ぐ絶望的な状況なのに、どうしてこんなに希望に満ち溢れた気持ちになるのだろうと、情緒を咀嚼しきれずにいた。
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「ありがとうございました。Midnight Grand Orchestraでした。またどこかでお会いしましょう。」
エンドロールが流れ始めると、ようやく思い出したかのように会場からはパラパラと拍手が起こった。
『Overture』とは”序曲”のような意味を持つが、今夜はミドグラという惑星系がまさに誕生した瞬間だったと言えよう。太陽系が太陽を中心に回っているように、星街すいせいという惑星を軸に、TAKU INOUEやバックバンドのメンバー、特設ステージを作り上げたスタッフなど、様々な才能という引力が互いを引き寄せ合って、大きな惑星系を形成している。そう形容しても大げさすぎないくらいの世界観を徹底的に作り込んで、ミドグラはこの日に臨んできた。”社運をかけて〜”と言ってた言葉は本当にそうなのだろう。
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地球の長い歴史の中で、我々生物が残してきた足跡などちっぽけだし、さらに宇宙の歴史から比べたら地球の誕生もついこないだのようなものだ。果たしてミドグラはどこまで膨張を続けるのかは定かではないが、星々の起源のような神秘さを併せ持った、新たな可能性が今日ここに生まれたのは間違いない。3Dで配信でしか見ることの出来ない体験がそこにはあった。決してアルバムのリリースは言うならば紀元前で、このライブからようやく時計の針が動き出したように感じた。Midnight Grand Orchestraのポテンシャルは、決して聴覚だけに頼っていては堪能することは出来ない。
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レポート・文=前田勇介
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