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ピアニスト外山啓介に聞く、モーツァルト~ベートーヴェン~ショパンの魅力 『外山啓介ピアノ・リサイタル』

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外山啓介

外山啓介  (C)Yuji Hori

ピアニストの外山啓介は、2007年のデビュー以降、毎年サントリーホールで演奏してきた。2022年も9月24日(土)にサントリーホールでリサイタルを開催する。プログラムは、モーツァルト、ベートーヴェンそしてショパンのピアノ・ソナタを軸としている。外山に公演についてうかがった。

ーープログラムのコンセプトを教えてください。

モーツァルトのピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲」から、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第12番「葬送」、そしてショパンのピアノ・ソナタ第2番「葬送」という、古典派からロマン派にかけてのピアノ・ソナタの変化や進化を楽しんでいただけたらと思っております。

ーー今回のプログラムを決めるとき、最初にどの作品が頭のなかに浮かびましたか?

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第12番「葬送」です。本来であれば、2020年にこの作品を含めたプログラムを各地で演奏するはずでしたが、新型コロナウイルスの影響で多くの公演が中止になってしまいました。そこで、ベートーヴェンのこの作品を含めた新しいプログラムを組み立ててみようと思い、できあがったのが今回のプログラムです。

ーーモーツァルトのピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲」の聴きどころを教えてください。

モーツァルトならではの多彩な表情、自由自在なあそびが魅力だと思います。第1楽章に変奏曲、第2楽章にメヌエットとトリオ、第3楽章に行進曲という独特な形式も楽しんでいただきたいです。

 (C)Yuji Hori

 (C)Yuji Hori

ーーモーツァルトのこの作品を最初に弾いたのはいつですか?

最初に弾いたのは中学2年生で、海外で演奏するチャンスをいただいた時でした。会場はパリのコルトー・ホールです。その時のプログラムはモーツァルトのこのソナタと、ショパンの「舟歌」、そしてサン=サーンスの「アレグロ・アパッショナート」でした。

ーーベートーヴェンのピアノ・ソナタ第12番「葬送」は、モーツァルトのピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲」と構成が似ていますが、そのことは選曲にも影響していますか?

モーツァルトのそのピアノ・ソナタから影響を受けて書かれているだろうことが、選曲のきっかけになっています。

ーーベートーヴェンのピアノ・ソナタ第12番「葬送」の魅力を教えてください。

この作品の魅力も、やはり独特の形式であることです。

しかし、第1楽章の変奏曲のキャラクターは、モーツァルトのピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲」とは少し異なると感じています。モーツァルトは、主題のキャラクターを守って変奏していくようなイメージですが、ベートーヴェンはそれぞれの変奏のキャラクター自体が少しずつ変わっていくようなイメージです。

第2楽章のスケルツォは緊張感の中、ところどころにベートーヴェンの気性の荒さが見え隠れするのが楽しいです。

第3楽章の「葬送」は、ショパンの葬送行進曲の底なし沼のような悲しみとは少し違い、私の師である練木繁夫先生の言葉をお借りすると天に召された方への敬意、死=すべての苦しみから解放されるというような考え方が感じられます。

そして第4楽章は、とても自由な音楽だと感じています。軽やかなパッセージとともにどんどんキャラクターが変化していき、最後は何事もなかったかのように音楽が遠のいていきます。

ーーベートーヴェンのこの第12番は、彼のピアノ・ソナタのなかでも特に個性的ですよね。

ほかにも、ベートーヴェンが初めて自分の意思で残した(とされている)ペダルの指示があるなど、中期、後期の作品へのきっかけになっていくようなピアノ・ソナタではないでしょうか。

ーー最近のアルバムで、外山さんはベートーヴェンのピアノ・ソナタをとり上げていらっしゃいます。近年、ご自身のなかでベートーヴェンはどのような位置にある作曲家でしょうか?

学生時代は、ベートーヴェンだけでなく、古典派の作曲家に対してどこか窮屈さというか、やってはいけないことが多いというイメージがありました。でも、最近はとても親近感を持って演奏しています。

ベートーヴェンは古典派からロマン派へのかけ橋となった作曲家だと思います。ピアノの進化とともにどんどん作品が変わっていったことからみても、やはり常にその背中を追いかけていたいと感じるようになりました。

 (C)Yuji Hori

 (C)Yuji Hori

ーー後半のプログラムは、ショパン作品ですね。外山さんは、デビュー・アルバムでショパンのピアノ・ソナタ第3番をレコーディングされています。このリサイタルで演奏されるピアノ・ソナタ第2番「葬送」の魅力を教えてください。

ショパンの中期の創作のなかでも、最高傑作のひとつであると思います。感情が包み隠さず表現されているように感じられるところが私にとっての魅力です。

第1楽章の明と暗、特に冒頭や中間部の呻きや苦しみは、何度演奏しても大きなプレッシャーです。

第2楽章のスケルツォも、ベートーヴェンのスケルツォよりかなり壮大なものです。これはまさに楽器が進化したからこそ生まれたスケールの大きさではないでしょうか。

第3楽章の「葬送」は、深い悲しみからまだ立ち直るきっかけが掴めないようなイメージです。

第4楽章は本当に難しい! 風が一瞬で吹き抜けていき、あとに何も残らないような場面を想像して演奏しています。

ーーそのほかにも、ショパン作品では「雨だれ」(24の前奏曲より第15番)と2つのノクターン作品27もとり上げられています。外山さんの繊細で透き通るような美しい響きにとてもマッチした選曲だと思います。

cis-moll(嬰ハ短調)とDes-dur(変ニ長調)という、変化のつけ方が難しい同主調(筆者注:この場合、異名同音の主音をもつ長調と短調)なので、Des-durの暖炉のようなあたたかみと、cis-mollの氷のような冷たさを弾き分けられるように工夫したいです。

ーー外山さんは、ショパンの作品を多くレコーディングされています。外山さんにとって、ショパンの音楽は特別なものなのでしょうか?

デビューする前から、とても敬愛する作曲家です。清潔で理路整然とした音楽、ショパンにしか生み出せなかったであろう和声や旋律は、いつまで経っても色褪せることはありません。

実は、いま一番チャレンジしてみたいショパンの作品は、ピアノ・ソナタ第1番です。

ーーコンサートへの意気込みをお聞かせください。

今年もみなさまと共に会場にて音楽をできることを楽しみにしております! ピアノの進化の歴史を辿るようなプログラムです。お楽しみにいただけますように。

ーー演奏活動とともに、後進の指導にもたずさわっていらっしゃるなど、とてもお忙しくお過ごしのことと思います。いまハマっていることがあれば教えてください。

ハマっていると言えるほどではないですが、ジムに行くことがストレス解消です。理想は週4回ですが、なかなかそうもいかず、パーソナルのジムで予約を取って、強制的に行かねばならない状況を作っています。

「ジムに行かずに後悔することはあっても、ジムに行って後悔することはない!」という、どなたかのお言葉を胸に刻んで頑張っています。

  (C)Yuji Hori

 (C)Yuji Hori

取材・文=道下京子

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