フラワーカンパニーズ
年中バンドワゴンで全国をライブで周っていく。コンスタントにアルバムも出し続けて、結成33周年の今年19枚目のアルバム『ネイキッド!』を9月7日(水)にリリース。コロナ禍でライブがままならない時期もあったが、それでもフラワーカンパニーズは止まることなく、重くもならず軽やかに自分たちの裸を魅せている。何故このタイミングで、ここまですっきりしながらもインパクトがある最高傑作を生み出せたのか? ライブをしてアルバムを出すという彼らの活動形態の歴史から今作までを踏まえ、そしてフラワーカンパニーズが世間にわかりやく認知される「売れる」という現象を起こすには、どうしたらいいのかという振れ幅のある話を訊くことができた。
フラワーカンパニーズ
ーー結成33周年となる今、19枚目の『ネイキッド!』がリリースされましたが、改めて、アルバムをリリースして、全国にツアーへ出るということをずっと続けているのは凄いことだなと思ったんです。御本人たちにとっては、それが日常だとは思うのですが、いつから、こういう生活になると考えていましたか?
グレートマエカワ(Ba):このバンドが始まった時は、最初はスタジオに入ろうということだけだった。鈴木と(ドラムの)ミスター小西はもともと違うバンドをやっていたし、一緒にやるとは思っていなかったから。一緒にスタジオに入っている内に新曲を作ったり、ライブをしたりと楽しくなってきて、数年くらいはやるのかなと。まぁ、大学卒業するくらいまではやったとしても、その後のことは何も考えていなかった。
鈴木圭介(Vo):みんな目先のことしかおそらく考えてなかったよ。
マエカワ:大学在学中にコンテストで賞をもらったり、ツアーで関西に行ったりと本気度が増してきて、お客さんが喜んで納得する曲を作りたいとかは考え出していたかな。
鈴木:楽しくなってきたからね。最初は名古屋のホームのライブハウスに出るだけだったのがいろんなライブハウスでできるようになってきて、初めて関西に行けたりしたのもおもしろかったよね。バンドはずっとやっていくつもりだったんだけど、大学3年か4年かの時に、このバンドがどうなるかはわからないけど、俺はバンドで生きていこうとは決めた。
マエカワ:大学4年になった時(91年)は就職するつもりだったし、小西は就職活動を始めていて、そらそうだよなとも思ったけど、バンドも調子が出て来たからやっぱり辞めたくないなと。その年の8月に先輩のイベントに出て、凄く盛り上がって。自分たちは主催者じゃないので無責任だから、何でもできたし、めちゃくちゃ楽しかった。その頃にはCDが出る話もあって、やはりバンドをやりたいなと。今と違って、誰でもCDを出せる時代じゃなかったしね。
フラワーカンパニーズ 鈴木圭介(Vo)
鈴木:そのイベントは覚えてる。大学3年生の時には何の根拠も無いけど自信だけはあったのよ。実力は伴ってないんだけど、バンドで食えるだろうと思っていた。あっ、もう大学に行ってない時期かな? でも、そういうことをメンバーには言った。
マエカワ:言ってたよ。大学辞めるとも言っていたし。だからといって俺らにこうしてとかではなく、そういう宣言はしてたよね。そういうことをしそうなイメージが、鈴木には高校時代から強かったし、薄々はそうなるだろうと思っていた。決意が固いのも伝わっていたし、それくらいバンドもいい感じだったから。結果、俺も小西も就職活動を辞めて、(ギターの)竹安は大学を辞めて、93年には、もう翌年上京しようというのが目標だったし、そのあたりは33年の歴史の中でも一番テンションが高かった。無敵だと思っていたから。
鈴木:誰にも負ける気がしなかった。
マエカワ:94年2月に上京したんだけど、メジャーから出す目標はあったし、それがいけるとも思ってた。
鈴木:手前の堅実な目標しかなかったよね。野音でライブをしたいとかは無く、もっと現実的な夢しか考えてなかった。
マエカワ:ライブハウスでワンマンして、一杯にしたいなとかね。
フラワーカンパニーズ グレートマエカワ(Ba)
ーー90年代、まだまだ音楽バブルは続いていて、周りのバンドもCDの売り上げが良かったり、大きなホールでライブをやったりとかあったと思うのですが、そのあたりは気にならなかったですか?
マエカワ:興味なかったかな。ホールも嫌だったし。野音はイベントで出たことがあって、気持ち良さを知っていたから、ワンマンができた時は嬉しかったけど。
鈴木:俺も嫌だったかな、ホールは。ただ、流れ的にやらないといけない渦の中にいたよね。でも、スタンディング以外は絶対にやりたくないというビジョンまでは無かったし、結局ホールでやることになって。
マエカワ:そのホールライブも中途半端な気持ちでやったから上手くいかなかったし、対外的にも上手くいってなかった。
鈴木:どのバンドも新人の頃は売り込みの時期があって、とにかく周りの意見がいろいろと多いんだよ。まぁ、もちろん、みんな良かれと思って言ってくれるんだけど、正直こっちは戸惑ってた。俺たちはインディーズでやるという確固たる道も掲げてやっていたわけじゃないし、だからメジャーで惑わされて、右往左往して、一喜一憂して、浮き沈みが激しかった。そう考えると、今の方がやりやすいよ、すっきりしてる。
ーーまさしく今回のアルバム『ネイキッド!』のイラストなんて、すっきりの極みだと思うんですよ。このイラストは、可愛らしいとか変わっているとかだけじゃなくて、33年ものキャリアがあるバンドだけど、ここまですっきりしているという象徴だと感じていて。
マエカワ:いいよね。このジャケットがフラワーカンパニーズを言い表している。昔から教科書に載ってるような典型的なバンドになりたくないというのもあったしね。
鈴木:ちょっと世代的にバンドブームの切れ端のとこにいたから、かっこいいことをかっこよくやるのをかっこ悪く思っちゃうから。真っ直ぐ言えない世代というか。照れが出て、笑いに逃げちゃう。それは良いところでもあるし、悪いところでもある。二枚目がやる二枚目の音楽は否定していたから。
マエカワ:俺もそういうことを思った、このジャケットを見た時に。
ーーいつもアルバム制作中にライブとかでお逢いすると、圭介さんは作業が難航していることを素直に明かしてくれるんですよ。でも、僕が仕事をご一緒するようになって、もう20年弱ですけど、毎回その困難を乗り越えて、素晴らしいアルバムを出されるんですね。だから、毎回何とか最後は乗り越えられると思っているのか、それとも毎回乗り越えられるかどうか不安なのかというもお伺いしたくて。
鈴木:いつも不安だよ。前に乗り越えられたからといって、今回も乗り越えられる保証は無いもん。
フラワーカンパニーズ 鈴木圭介(Vo)
ーーマエカワさんは毎回その状況を見守っているんですよね?
マエカワ:自分なりのアイデアがある時は言うけど、一緒に悩んでも仕方ないし、まぁ、それくらいしかできないかな。
ーー 一時期、圭介さん作詞作曲の曲だけでアルバムが構成される時期もあったじゃないですか。でも、今回は初期の時の様にマエカワさん作曲の曲もあって、そのバランスも良いのかなと。
鈴木:結果、俺の曲だけになっちゃった時期もあるけど、別に毎回俺だけの曲があるわけじゃないからね。先にリーダー(マエカワ)が曲を出してくれたりもしていたから。そういうことのやりあいだし、たいていはリーダーが先に曲を出してくれる。俺は腰が重いから、そうやって出だしを作ってもらえたら、作らざるを得なくなる。そして、だんだん波に乗ってくる。尻を叩いてもらえるというか。俺から、「新曲ができたから、アルバムを作ろうぜ!」というのは無いかも。
マエカワ:それは無いと思う。俺も別に自分の曲をやりたいというのも無くて、ただ曲を作るのが好きなだけだから。そしたら、鈴木も曲を作ってくる。それがバンド感になるんだよ。フラカンは、ひとりだけが作るバンドじゃないからおもしろいと思う。
鈴木:みんながみんな主張したらね、それはそれで大変だし。今回も民主的にみんなで決めたから。
マエカワ:ひとりの人だけが曲を作るバンドも好きなんだけど、メンバーみんなの顔が見えるバンドも良いと思っているから。
鈴木:ひとりひとり優れたプレイヤーで、それが合わさって更に倍増してかっこいいものもあるけど、このバンドでしか通用しないメンバーというのもおもしろいから。
マエカワ:100%そう思う。
鈴木:すげーポンコツの時もあるんだよ。
マエカワ:でも、そこを突き詰めるというね。小西が足を骨折した時にキュウちゃん(クハラカズユキ/The Birthday)やサンコン(ウルフルズ)が代わりにドラムを叩いてくれたんだけど、あのプロフェッショナルな二人が最初は「どこでタイミングを取るかわからない」と言っていた。バンドは、そういうもんだと思うんだよ。メンバー4人だけがわかってたらいいんだから。
鈴木:そういうのをバンド感だと言うのかも。もしかしたら時代遅れかもしれないし、それぞれが上手くて、全体でも上手いというのを羨ましくも思ったりはするんだけどね。
フラワーカンパニーズ グレートマエカワ(Ba)
ーーいや、でもアルバムのリリース2日前にこのアルバムの全曲再現ライブを京都の磔磔でされたじゃないですか。もちろん初めて人前でやる曲ばかりで、1曲目から出だしを間違われたんですけど、ああいうのを全て見せるのもリアルだなと思ったんです。何か貴重なものを観てると思いましたし、ここからのツアーで、この曲たちがどんどん更新されていくのも過去のツアーを観ているのでわかっていますし。演劇の初日じゃないですけど、初日にしかないスリルを体感できて、凄くワクワクドキドキしました。
鈴木:未だにそういうことが起きるわけで(笑)。
マエカワ:こないだの磔磔はありがたい現場だと思うよ。ああいうドキドキ感は中々無いわけで。大変なんだけどね(笑)。
鈴木:でも、やっぱり新曲を初めて演奏する時は毎回おもしろいよ。(観客が)どういう反応するんだろうって、何とも言えない気持ちになるんだよね。逆に「どうだついてこれるか!?」という気持ちもあるし。一瞬でパッと盛り上がったら、それはそれで嬉しいしね。
フラワーカンパニーズ 鈴木圭介(Vo)
ーーそういう気持ちを毎回味わいながら、ツアーを繰り返していってるわけですよね。
鈴木:俺らツアーは途切れないからね。ツアーの名前が変わるだけで永遠とやっている感じだから、そんなに気持ちの切り替えとかはしていない。今はツアー中の感情も上手くコントロールできるしね。
マエカワ:毎回、楽しみしかないよ。そりゃ、特にこの1、2年は動員の不安とかもあるけど、やっぱりライブが自分たちの仕事だというのが、どっかにあるから。一番、仕事した感があるしずっと続いているしね。もうライブやるのが当たり前だし、全国を常に周りたいという欲求もある。ここから歳をとっていくけど、なるべく良いコンディションでたくさんツアーをやっていきたい。
鈴木:できる限り周りたいよ。
フラワーカンパニーズ グレートマエカワ(Ba)
ーーそうやって、良いアルバムを出し続けて、良いツアーを周り続けてるからこそ、長年のファンからすれば、いつかもっとわかりやすく多くの人に知られて欲しいという思いがずっとあるんです。要はわかりやすく売れて欲しいと思っているんですけど、そういう意味では、僕はフラカンはずっと凄く良いジャブを打ち続けていると思っていて。だから、このジャブは必ず効くとも信じているんです。
鈴木:ストレート一発も打っていないのに、ジャブで倒したら凄くない!?
マエカワ:(笑)。CDが売れなくなったと言うけど、その年に流行った曲や注目曲は毎年あるわけで、だからヒット曲を出さなくていいなんて思ってないから。でも、狙っていくものでもないし、売れる術もわからないけど、良い曲を出すというのが実は得意技だから、それを続けていくしかない。今みたいに自分達のレーベルで少数精鋭でやってる方が濃いものは出てくるから、後はそれを広げるにはどうするかだなと。
鈴木:生々しい話にはなるけど、いかんせんバンドを続けるには集客が増えていかないといけない。だから、売れなくてもいいなんて、全く思っていない。まぁ、バンバンに売れたいけど、その売れ方が自分たちにふさわしい売れ方かは考えるよ。
マエカワ:身の丈に合ってるかどうかね。
鈴木:「深夜高速」(2004年発表)も全然ヒットはしていないけど、わりと長生きしている。ある時に出た大ヒット曲より、もしかしたら「深夜高速」の方が長生きしている曲かも知れない。そういうこともあるから、その年にバーンと売れたものだけがヒットとは思わない。
ーー2年後が結成35周年で、次のアルバムは20枚目になるんですけど、その辺りで合計制作楽曲も300曲目に達するんですよね。だから、そういう記念的なタイミングが、多くの人に知られるという売れるタイミングになったら、めちゃくちゃ嬉しいなと勝手に思っていて。
鈴木:300曲目でジャブがストレートになるといいなあ!
ーー最高すぎます……! とにかく、これからも引き続きずっと応援させてください!
フラワーカンパニーズ
取材・文=鈴木淳史 撮影=福家信哉