ODD Foot Works
ODD Foot Works、約3年ぶりとなるサードアルバム『Master Work』は「超音楽宣言」というキャッチコピーが表している通り、音楽の面白さを追求し尽くしたような本質的なミクスチャーアルバムとなっている。これまでのマスにもコアにも刺せるヒップホップというところから、有無を言わさずど真ん中に刺さるエネルギーが渦巻いている。この大躍進は、ライブマニュピュレーターのYohji Igarashiと、昨年7月からODDに参加し始めたMPCプレイヤーのTaishi Satoというサポートメンバー2人が制作に関わったことも大きいという。そこで、SPICE独占でPecori(Rap)&Tondenhey(G)&SunBalkan(B)というODDの3人+サポート2人のインタビューを実施。いかにして『Master Work』が生まれたかに迫った。
――『Master Work』がとても良くてびっくりしたんですが、どんなところから制作が始まったんですか?
Pecori:去年、5人で会議室に集まって、アルバムのコンセプト決めをしたんですね。そこで、具体的にトラックリストを作って、一曲ずつのコンセプトを仮で作っていった。YohjiとTaishiにも制作に参加してもらいたかったんで、どの曲をプロデュースしてもらうかっていう割り振りもやっていきました。
―――1曲ずつのコンセプト決めというと、アルバム資料の曲解説にある通り、“ニュージャックスウィング”とか“SMAP”とかですか?
Pecori:そうですね。それぐらいのデカい感じの括りでパッパッパッって書いていきましたね。
SunBalkan:正直ここまでバラバラな曲が集まると思わなかったよね。TaishiやIgarashiさんの引き出しを開けられたのも大きいと思います。意図してバラバラなアルバムを作ろうと思ったわけでもなく、単純に「こういう流れのアルバムがあったらいいよね」っていうのを作ってみたら思いのほかバラバラになった。けど、まとまりもあるっていう。
Tondenhey:「ODD Foot Worksってジャンルなんだよ」って言っちゃえばいいのかと思ってきて。そうすればもうジャンルが聞こえなくなるじゃないですか。そもそも音楽を聴いてジャンルが聞こえるってことは……みたいなところもあるから。
Pecori:ODD Foot自体、元々ひとつのジャンルをコンセプトに掲げてるわけじゃなし、ビートメイカーもいてベーシストもギタリストもいる編成で作るとこうなるんだと思います。「ジャンルジャンルうるせえな」みたいな感じはODDやっていて感じることではあります。
SunBalkan:あるね。
――今はもうジャンルレスなのが当たり前の時代ではありますからね。
Tondenhey:だから芯みたいのが大事になってきたのかなと思って。いろんなライブを経ることで、5人の結束が強くなってきて、芯も強まってきたことで色々なアプローチに手を出せるようになったところはあると思います。
Pecori(Rap)
■MPCを入れたことで使える音色がだいぶ増えた(SunBalkan)
――生ドラムの5人編成の時はKing Gnuの勢喜遊さんが参加していますけど、そもそも昨年からMPCとしてTaishiさんを入れたのは?
Pecori:遊くんがいない時はトラック出しのビートでライブをやっていて。それが続いた時に、「ライブハウスでこのアプローチだと結構キツいものがあるね」っていう話にメンバーとなったんです。だったら人力でビート叩いている方が良いライブができそうだよねってことになって、MPCが良いんじゃないかっていう話になりました。当時Taishiはベース弾いたりトラックメイカーをやっていて、MPCはやったことなかったんですけど。
Taishi:TondenheyとZattaってユニットを組みながら、一緒に住んでる時期があって。そこでふと「MPCやってみるか」みたいな話になったんです。結構な見切り発車でしたけど(笑)。
SunBalkan:その前からキイチ(Tondenhey)の家で制作してる時、チラチラとTaishiの部屋をノックして、「これどうにかなんないかな?」って相談したりもしてたんですよね。
Tondenhey:Taishiはジニアス系というか、本当に器用で何でもできちゃうんですよ。
Pecori:生ドラムだとライブでいわゆるロックバンド的なアプローチになりがちだけど、それと差別化したくて。MPCだとビートも太くなるし、ヒップホップ的に首を振りやすい。お客さんの聞き方や感じ方が結構変わって、両方のアプローチができるようになったのが良かったと思います。
SunBalkan:使える音色がだいぶ増えましたね。ライブでできることの幅が広がったし。
――IgarashiさんはTaishiさんが加わってどうですか?
Yohji:僕がやること自体は特に変わっていないんですが、佐藤君はすごく才能があると思います。あとやっぱり人柄が良いからなんだろうな。僕はODDが初めて関わったバンドなんですけど、いいヤツっていうのがマジで大事なんだなと。そうじゃないと突き詰める段階で深度が浅くなる。
SunBalkan:間違いない。MPCをやってたわけじゃないから、入りが“いいヤツ”。
Taishi:いいヤツだから呼ばれました(笑)。僕は元々1枚目の『ODD FOOT WORKS』を作ってる段階から聴いててファンというか好きで。だから制作に混ぜてもらえて嬉しかったんですが、メンバーでもないから一歩引かなきゃっていう気持ちがあって。だから今回しっかり混ぜてもらえて嬉しかったから頑張りました。
SunBalkan(B)
■Yohjiさんがクラブやヒップホップっていう路線で考えていったとしたら僕はJ-POPがテーマでした(Taishi)
――TaishiさんとTondenheyさん主導で作ったという第一弾シングルの「I Love Ya Me!!!」はニュージャックスウィングに中盤トラップっぽい展開が入ったり、かなり今っぽくアレンジされている印象があります。
Taishi:良くも悪くもニュージャックとトラップを差別化してないというか。僕はニュージャックの入口が『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』っていうアニメのオープニング曲なぐらいなんで、ニュージャックスウィングに対して「あの派手なサウンドね」ぐらいの印象で、ニュージャックスイング単体としてのことはあまり深く考えてなかったです。
Tondenhey:俺もいろんな音が好きで聴いてますけど、「このジャンルとこのジャンルを掛け合わせたら面白いことになるかも」っていう感覚がそもそもなくて、いい感じの曲を作ろうと思ったらそうなってた。後からそうやってジャンルの組み合わせになってることを指摘されて「へえ」って思うっていう。
――もう1曲Taishiさんがプロデュースしてる「ジュブナイルジャーニー」はクワイア的なアプローチです。
Taishi:Yohjiさんがクラブとかヒップホップっていう路線で考えていったとしたら、僕はJ-POPがテーマでした。俺は歌謡曲が好きなので、その角度からJ-POPを捉えてみた。それでイントロも歌謡曲みたいにストリングスから始まって、日本らしいAメロBメロサビっていう、サビがどこかわかりやすい展開にしつつ、Cメロも作りました。ODDはマイナーキーの曲が多いので、わかりやすいぐらいメジャーキーで作ることを意識した。アルバムに入っていて、対比としてちゃんと効果的な曲が作れたかなと思いますね。
――Igarashiさんがプロデュースしてる「SEE YOU DAWN」はオートチューンがかかりまくったヒップホップですが、途中で急にロック感が出ますよね。
Yohji:僕は基本クラブミュージックの人間なので、バンドサウンドとどう混ぜるかなって思った時に混ぜないっていう選択肢も全然あったんですけど、一緒にライブをやってきた経験を踏まえると、バンドインのところが沸点になるようなものにしなきゃいけないと思いました。ビートをスイッチさせたのはライブを一緒にやってきたから生まれた発想だと思います。この曲だけミックスもやらしてもらったんですけど、Pecoriのボーカル処理がすごく多くて。
Pecori:俺はガヤとかすぐ入れたがっちゃうタイプなんですが、この曲はトラックが良いんで嬉しくなっちゃっていろんなコーラステイクを全部投げて、エディットを含めてYohjiにお任せしました。
SunBalkan:Pecoriの声、何人か消した?
Yohji:いや、むしろ5人ぐらい増やした。
Pecori:これ何人か消されるだろうなと思って送ったんだけど、基本全部活きてるミックスになっててマジですごいなって思った。
SunBalkan:でも、うるさい印象が全然ないのがすごいよね。
Yohji:だから、人にミックスを任せると難しいかもしれないと思って自分でやったんですよね。
Tondenhey:昨日気付いたんですけど、俺のギターは2本しか弾いてないのに1本消されてるんですよ(笑)。ずっと気付かなかったってことはすごい完成度なんだと思う。
Yohji:(笑)シンプルになったよね。メインで鳴ってるギターを強調しました。
SunBalkan:Pecoriの声を消すのってPecoriの声を目立たせるためにやるわけですけど、それをやらずに1個1個立たせられてる。バンドの人だったらやらないアプローチだなって思います。
Tondenhey(G)
■それぞれが自由にやって、そこに嘘がないようにはした(SunBalkan)
――それぞれのクリエイティヴィティが随所で爆発してますよね。
SunBalkan:それぞれが自由にやっていて、そこに嘘がないようにはしました。
Yohji:自由度はすごく高いバンドだと思います。規制がない感じがある。
――その上で、ちゃんと整理されたポップミュージックにするっていうところはこだわりましたか?
Pecori:そこは一番こだわりました。
Tondenhey:聴いてもらわないと、現実的な話として生きていけないところはありますから。そこは自分のエゴイスティックなフェチみたいなところと乖離しているというか。
SunBalkan:自分としては「これは売れる!」っていう気持ちよりは、自分の気持ちを優先したんですが、それでもポップにまとまるものなんだなあって感覚がありました。
――そのバランスはメンバーそれぞれ違いますよね。
SunBalkan:そうですね。自分はポップなものが元々好きなので、特に意識しなかったっていうのはあります。
Yohji Igarashi(ライブマニュピュレーター)
■伝わらなきゃ全く何も意味ないっていうことを前提にリリックを書きだした(Pecori)
――ボーカルワークの進化も印象的です。特に「卒業証書」の三つ巴感のあるボーカルワークとか。
Pecori:この曲はコンセプトがSMAPで、個人的にはサビで5人の声が重なるところがSMAP感って思ってて。ガヤの感じとかがちょっとダサポップっていうか、キャッチーな感じ。SMAPへの気持ちはこの曲をプロデュースしてるTondenheyが一番強くて、ファーストからSMAPってことは言ってましたね。
Tondenhey:言ってたね。
SunBalkan:それで全員が歌う曲を作ろうっていうことで「時をBABEL」を作ったりもしました。
――ラップ面でいうと、今回のアルバムではどんなラップのビジョンがあったんですか?
Pecori:さっき出た話に通じますけど、伝わらなきゃ全く何も意味ないっていうことを前提にリリックを書きだして、例えばマネージャーの三宅さんとかにも見てもらって、初めてちゃんと添削作業をしました。これまで自分で書いたものってあまり人にアドバイスを聞いたりしなかったんですけど、今回は何度か書き直すことも多かったですね。
――1曲目の「ODD Knows」で音楽への愛を掲げて、今作がマスターピースだという宣言になっていて、そこからアルバムの曲順含めてのストーリーができてますよね。
Pecori:そういうことは絶対にやりたかったんです。アルバムを3年出してなかった上での1曲目ってめちゃくちゃ大事じゃないですか。「待たせたな」っていうことを伝える意味でも、まず最初に旗を掲げるような曲を入れたかった。
――そして、ラストの「音楽」というパンクロックに帰結するわけですが、マネージャーでもありライターの三宅さんが作詞しています。どんな経緯があったんでしょう?
三宅:今年2月にマシン・ガン・ケリーの「emo girl feat. WILLOW」を聴いてて、こういうアプローチでODD Footがカジュアルなポップパンクをやって、ライブでコロナの規制が解けたらモッシュとか起こったらいいなって思ったんです。Pecoriがラップせずに「音楽!」ってひたすら叫んでるみたいな。それでとりあえず詞を書いてメンバーに送ったら、曲を付けてくれることになりました。
――こういうパンクをやりたいという気持ちはあったんですか?
Pecori:ありましたね。でもいわゆるポップパンクでオートチューンかかってるみたいな流行りには乗りたくなくて。この2000年初期や10年代の邦ロックみたいなニュアンスもあるパンクは俺らにしかできないでしょ、っていう手応えのあるものになったと思います。
Taishi Sato(MPCプレイヤー)
■ODDでは自分が全く関わってこなかった世界を勉強させてもらえてる(Yohji)
――Igarashiさんは、最近DJやプロデューサーとしてどんどん活躍されているように見えますが、ODDでの活動はどんなフィードバックをもたらしていますか?
Yohji:単純に現場の数が増えましたし、ライブのマニュピレーターをやったのはODDが初めてだし、バンドにジョインするのも初めて。自分が全く関わってこなかった世界のことをいろいろと勉強させてもらえてるのが財産としては一番大きいですね。
Tondenhey:はたから見てて、ODDのサポートやり始めてから仕事増えたんじゃない?
Pecori:去年末から今年のYohji Igarashiの躍進度はすごいですよね。
Yohji:いえいえ。今でも何者でもないですけど、もっと何者でもない時に近くにいたから声をかけてくれたところもあったと思ってて、恩はすごく感じてます。だから、ODDに与えてもらうというよりこちらが吸収して返さないといけないって思います。
Pecori:こちらとしても、今の現場の空気を知ってる人が欲しかったんですよね。最初に声かけたときに、すぐ「やりません」って断ってくるからか、やるかどっちかだろうなと思っていたら、「やる」って言ってくれたから信頼してくれてるんだろうなとは思った。
SunBalkan:そこからセトリとかも全然違う観点で作れるようになったよね。
■ODDが自分の音楽人生の中で大事な場所にあることに気付けた(Tondenhey)
――Igarashiさん、Taishiさんが制作に加わることでメンバー3人の力もこれまで以上に発揮できて、覚醒感もあるアルバムだと思うんですが、それができた一番の理由って何だと思いますか?
Pecori:うん。このアルバムではマジで間違いなく覚醒したと思います。
SunBalkan:音楽の話じゃないところに大事なものがすごくあると思ってて。お客さんもですけど、メンバーと三宅さんも含めて、大事なものを素直に大事にしようという気持ちが強くあって。それが音楽に出てくれたんじゃないかって思います。スピ的な話じゃなくて、純粋な気持ちでいいものを作りたいと思って作ったらそれぞれが持ってる面白さが良い感じに出てくれたし、普通に肩を組めたっていうのが一番デカいと思ってます。バンドなんてみんなそうだと思うけど、仲良い時も仲悪い時もあって。どっかで「まあいいけど……」って感じがあったんですけど。
Yohji:はたから見てですけど、Pecoriは基本歌詞を書いているし、BalkanさんもTondenheyもそれぞれプロデュースした曲がある。結果、メンバー同士がこのアルバムでODD Foot Worksとしての当事者意識が強くなったかなっていうのは思います。制作する中で、お互いへのリスペクトを感じたというか。
SunBalkan:間違いない。
Tondenhey:インディーズで活動する中で、生活する上でもODDの活動を生命線にしないといけないという気持ちは出てきましたし、このグループが今後の自分の音楽人生の中でも大事な場所にあるっていうことにようやく気付けたっていう。
SunBalkan:本当そうだね。別にお金儲けしたいとかいう話とも違くて、それぞれ外でやってる活動もODDあってこそだから、ODDをデカくすることでしか支柱が強くならないというのはあります。でも今回のアルバムはそれができたと思ってます。だから誇りに思いますね。気持ちの強さと純度でしかないと思います。
――最初「超音楽宣言」っていうキャッチコピーを見た時は大ぶろしきにも感じたんですが──。
SunBalkan:俺も思いました(笑)。
――(笑)ただ、アルバムを聴いてみたら実際本当にそうなってるんですよね。
Pecori:ちゃんと伏線回収できてるんだよね。特に最後の「音楽」で。
SunBalkan:Twitterでも、「超音楽宣言(笑)って思ったけど、たしかに超音楽宣言だ」っていう書き込みがあったしね(笑)。