SHISHAMO 撮影=柴田恵理
SHISHAMO ワンマンツアー2022秋「NICE TO MEET YOUr town!!! ~10年目の初上陸~」 2022.10.8 茨城 取手市立市民会館
街の暮らしの中にあるホールでSHISHAMOのライブを観るのは、楽しくて新鮮な体験となった。『SHISHAMO ワンマンツアー2022秋「NICE TO MEET YOUr town!!! ~10年目の初上陸~」』の初日、10月8日の茨城・取手市立市民会館。
今回のツアーはSHISHAMOが過去に訪れたことのない街を回るという趣旨があり、ツアータイトルも「NICE TO MEET YOU」と「YOUR TOWN」を掛けた造語になっている。「初めまして」という挨拶と「あなたの街へお邪魔します」という気持ちを込めたタイトルとのこと。「10年目」は2022年11月にCDデビュー10周年に突入することを表している。
初めての街での、初めての人たちが多く観に来ているであろうライブ。しかもホールツアー自体が2018年春以来と、かなり久々だ(注・2020年春にもホールツアーが予定されていたが、コロナ禍で中止になっている)。つまりメンバーにプレッシャーがかかるシチュエーションなのだ。メンバー3人ともMCで「緊張しています」と語っていた。しかし、バンドはすでに“緊張を集中力へと変換する術”を獲得しつつあるようだ。これまでの活動でバンドは着実に腕を磨いてきた。SHISHAMOの3人は、初めての街でも、たくましさとしなやかさの共存する見事なステージを展開していた。
宮崎朝子(Gt.Vo)、松岡彩(Ba)、吉川美冴貴(Dr)が登場した瞬間の拍手が温かい。“自分たちの街に会いに来てくれた”という感謝の念や喜びが、拍手にも込められていたのだろう。バンドの演奏が始まった瞬間に、観客のハンドクラップが起こった。そのクラップの音色も温かい。ウェルカムの音色と表現したくなった。SHISHAMOも、初めての街だからと言って、“よそゆき”の演奏をするのでなくて、普段どおりの気合いの入った演奏を展開した。フレンドリーな歌がダイレクトに届いてくる。ステージと客席との心理的な距離が一気に縮まっていくのがわかる。
「ライブをしていない場所に住んでいる人たちは、遠出して観に来てくれていると思います。今回は私たちが会いに行くツアーになっています」と宮崎。
取手市立市民会館は住宅や神社や公民館が隣接している、街の暮らしに溶けこんだホールである。すぐ近くを利根川が流れており、土手からもカラフルな会館の外壁が見える。キャパは約1,000名と比較的コンパクトで、客席の後方からでもステージが観やすい。つまりステージからも客席が観やすいということだ。「みんなの顔がよく見えています」と3人も語っていた。この近さも、親密感と一体感のあふれるライブ空間を形成する要因の1つになっていると感じた。
初めましてのツアーでもあり、最近あまりやっていない初期のナンバーも何曲か演奏された。デビューアルバム『SHISHAMO』収録曲の「僕に彼女ができたんだ」では、曲が始まった瞬間、飛び上がって喜んでいる観客もいた。おそらくこの日の観客にとっては、SHISHAMOを好きになった曲がたくさん演奏されたステージになったのではないだろうか。お気に入りの曲を生演奏で味わうことは、忘れられない思い出になるだろう。そして、自慢したくもなるだろう。切れ味抜群のソリッドでタイトな演奏が気持ちいい。初期の曲を今のバンドの表現力で演奏することで、曲の魅力がさらに際立っていく。
松岡が「取手~!」と叫んだ瞬間に、多くの観客がすでにタオルを握りしめていた。練習タイムも曲の一部と言いたくなったのは「タオル」だ。学校帰りと思われる、制服を着た高校生が肩にかけたタオルを手に持って用意している。みんな、やる気満々だ。参加する楽しみもSHISHAMOのライブの醍醐味の1つ。ダイナミックなバンドサウンドに乗って、赤白タオルが回っている。取手に新風を巻き起こす、熱くて楽しいライブだ。
久々の曲、代表曲、個性的な名曲がバランスよく配置されていた。デビュー以来、さまざまなタイプの曲を作り続けてきた成果は、ライブの起伏に富んだ構成にも表れている。今年発表された新曲も何曲か演奏された。「ハッピーエンド」は、ニュアンス豊かな歌とコーラスと演奏が染みてきた。恋の終わりを“ハッピーエンド”と表現できる鋭敏なセンスは、宮崎だからこそだ。主人公の心模様の奥底までを精緻かつ丹念に描いてい歌の世界観を、3人が丁寧にバンドサウンドで表現している。演奏すればするほど、育っていく曲、そして聴けば聴くほど、味わい深さが染みてくる曲、つまり名曲としての器を備えた曲だろう。アルバム『SHISHAMO 7』以降に発表された新しい曲の数々の演奏からも、近年のバンドの充実ぶりが伝わってきた。
深い余韻をもたらす曲がある一方で、爽快感をもたらす曲も数多く演奏された。ハンドクラップの中で始まった「恋する」では、会場内が熱い一体感で包まれた。バンドは取手に恋をして、取手の観客はバンドに恋をした。そう表現したくなるようなハッピーな空気が充満していたのだ。SHISHAMOの歌には、失恋や別れをモチーフにしたものがたくさんあるが、バンドと観客との間で生まれた相思相愛の関係は、これからも続いていくだろう。
3人がそれぞれ以下のように挨拶していた。
「ツアー初日、これからのツアーが楽しみになるような、いい時間になりました」(松岡)
「取手という街とみなさんのことが大好きになりました。ライブを通して、みなさんからたくさんの幸せをもらいました。少しでもその幸せをお返しできたらと思っています。同じ空の下でつながっていると思うので、またライブでお会いましょう」(吉川)
「ワンマンツアー自体が久々だったので、不安な気持ちもあったのですが、みんなの顔を見て演奏していたら、いいツアーになるなと確信しました」(宮崎)
バンドと観客との関係の物語的な展開を楽しむこともできるライブでもあった。初めての出会い、心の距離を縮める展開、楽しい思い出の共有などなど。この温かくて熱い流れは、今後もツアーの見どころになっていくだろう。取手から始まったツアーはこの後、大阪・枚方市、滋賀・東近江市、愛知・日進市、群馬・太田市、兵庫・加古川市、愛媛・西予市、広島・三次市へと続いていく。秋から冬にかけて、木々が紅葉するように、各地のホールの場内にカラフルな風が舞うことになるだろう。
取材・文=長谷川誠 撮影=柴田恵理
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