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石井琢磨×髙木竜馬、満員の観客からの大喝采に固い握手交わす~14年来の盟友ふたりが奏でた二台ピアノの夕べ

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石井琢磨、髙木竜馬

石井琢磨、髙木竜馬

石井琢磨と髙木竜馬はウィーンで日々ともに切磋琢磨し、どんな時も互いに励まし合ってきた盟友だ。その二人が2022年10月14日(金)、東京の浜離宮朝日ホールで二台ピアノによる演奏会を開催した。会場は満席の大盛況。聴衆の期待を裏切ることなく、出演者の二人もこの日を迎えた喜びが隠せない様子だ。演奏会当日の模様をお伝えしよう。

左から 石井琢磨、髙木竜馬

左から 石井琢磨、髙木竜馬

『石井琢磨×髙木竜馬 2台ピアノコンサート』の夕べは、髙木のソロ演奏から始まった。

ショパンの「ワルツ第9番」と「ポロネーズ 第6番≪英雄≫」。髙木にとっては両作品ともに8月からの約2カ月、『ピアノの森 コンサート』のリサイタルツアーでも弾き込んできた自家薬籠中の作品だ。この長期リサイタルツアーを経て、「ワルツ 第9番」はさらに成熟した感がある。憂いに満ちた涙を感じさせる響きとともに、昔日を回顧するように丁寧に一音一音をしたためる様が美しい。一方、「英雄ポロネーズ」は精気あふれる演奏。歯切れの良いリズム感と、対照的に内省的なパートにおいてのメリハリの付け方やダイナミズムの “もってき方” など、すべての点においてさらに手に馴染んでいた感があった。

続いては石井琢磨のソロ演奏による グノー=リスト「歌劇『ファウスト』のワルツ」。9月末開催のリサイタルでも個性あふれる演奏を聴かせ、自他ともに認める石井の十八番ともいえる作品だ。先日のリサイタル時の演奏よりも全体的にテンポの揺れが少なかったようにも思えたが、その分、すべてのパートが丁寧に表現され、特にフィナーレに向けてのカタルシス的な大胆な感情表現が効果的に際立っていたのが印象的だった。

前半のプログラム最後は、ドビュッシーの小組曲。一台4手のための作品だ。演奏の前に二人のトーク。当夜のプログラムはよく見ると、確かにワルツ、ポロネーズ、後半もヨハン・シュトラウスⅡ世によるウィンナ・ワルツにラヴェルの「ラ・ヴァルス」と舞曲尽くしだ。そこで、「先日リリースされた石井のフルアルバム『TANZ』 (ドイツ語でダンスの意) を思わせるプログラム内容では……」と、髙木が指摘すると客席からドッと笑いが起きた。

ちなみに、このドビュッシーの小組曲は二人にとっては思い入れの深い作品だそうだ。出会いから14年。酸いも甘いも互いに知り尽くし、ともに留学先のウィーンで長い時間を共有してきた二人の絶妙なトークもまた会場の聴衆を魅了するに十分だった。

第一曲:小舟にて~たゆたうようなさざ波の静けさを感じさせる叙情性とドビュッシーらしいアンニュイな二面性が、二人のたおやかな息づかいによって客席にも伝わってきた。二人でともに舟遊びを楽しんでいるような雰囲気が微笑ましかった。

第二曲:行列~スカルラッティの同名の名曲を思わせるような作品を二人が息をぴったりと合わせ軽やかに演奏。二人とも童心に帰ったような少年のような姿が感じさせ、何とも可愛らしい。

第三曲:メヌエット~典雅な世界を品よく歌い上げ、第四曲:バレエ~コケティッシュでは細やかにテンポが揺れる曲を二人の一糸乱れぬ息のあった演奏で聴かせ、会場をほのぼのとしたあたたかな空気感で満たした。

 

後半の第一曲目はブラームスの交響曲第二番より第3楽章。ブラームス自身が後に二台四手用のピアノ版として編曲した作品だ。ブラームならではのあたたかみに満ちた優しいフレーズを、心を込めて演奏する二人の姿が印象的だった。ちなみにこの作品は髙木が愛してやまないものだそうだ。

続いてはウィーン在住が長い二人にとって、まさに「ウィーンといえば」という一曲。ヨハン・シュトラウスⅡ世 「美しく青きドナウ」。事前の石井のトークによると、フィーリング、センス、お互いの尊敬などが問われるこの作品も、リハーサルでの一回目からピッタリと息が合い、完璧な手応えだったそうだ。

トレモロの導入部分からゾクッとさせるようなシュトラウス節を聴かせ、聴き手に早くも期待感を持たせる。本編のあの耳慣れたフレーズも二人がピタッと息を合わせ、絶妙の間の取り方で歌う。加速度の強いウィーンワルツの独特な節回しもこの二人の手にかかると自由自在。ウィンナ・ワルツの本質を知り尽くした二人の粋なリズムの取り方に、聴いている方も “Shall we danse?” さながらに高揚感に誘われる。ウィーンの華やかな日常が感じられ、聴衆もウィーンを旅している気分に誘われたのではないだろうか。

続いても ヨハン・シュトラウスⅡ世「雷鳴と稲妻」。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートのアンコールシーンを思い起こさせる一曲だ。管弦楽バージョンでは、大太鼓やシンバルが表現する雷鳴や稲妻の擬音的効果も随所にあり、ピアノで演奏されるとどうなるのか聴き手としても期待感が高まる。この点はさすがに巧みな描写で期待を裏切らない。ロッシーニ・クレッシェンドのようにフィナーレに向かってより速く、より強くなってゆく様子は聴き手も手に汗握る感覚で大いに楽しめた。運動会の徒競走のBGMにも使われるギャロップのようなリズム感覚を、全身を使って楽しみながら弾いている二人の姿に客席からも拍手喝采だった。

プログラム最後を飾るのは二台四手のピアノ作品の最高峰ともいえる ラヴェル「ラ・ヴァルス」。ラヴェルらしいラテン的な多彩な色彩感を際立たせつつも、複雑な構成の中に聴こえてくるウィンナ・ワルツのテーマ的展開は華やかで品格があって美しい。対照的に、時折現れる憂いのある個所では、ラヴェルらしい古典的な世界観を高雅に歌い上げる。二人が揃って息の長いパースペクティブでダイナミクスを表現してゆくところなどは、決して行き過ぎずに軽やかに、あくまでも洒脱に攻めるところがカッコいい。

次第にそのリズムは大胆なアクセントをともなってさらに発展してゆく。特にフィナーレでの大団円は鮮やかなグリッサンドの技法なども存分に聴かせ、そのダイナミズムを各人が鮮やかな技巧で表現。スピード感、ダイナミクス、そしてスリリング感という点でも、あますところなく二台ピアノのピアニズムの醍醐味を聴かせてくれた。

石井は先日9月のリサイタルでファリャ「火祭りの踊り」を演奏した際に「僕自身の男らしい一面もお聴かせしたい!」と語っていたが、この作品でも重厚なバス音を瞬発的に轟かせ、十分に男らしさを見せつけてくれた(!)。

アンコールはブラームスの「ハンガリー舞曲 第5番」。鳴りやまぬ拍手に「雷鳴と稲妻」をもう一度。さらに乗りに乗った二人のスリリング感あふれる演奏に会場からは大喝采。冷めやらぬ会場からのエールに髙木と石井も思わず固い握手を交わし、会場のファンのあたたかいメッセージに応えていた。

取材・文=朝岡久美子 撮影=荒川潤

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