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『アニメソングの可能性』第五回 MOTSUの考えるアニメソングの根源的な楽しさと、アニメファンカルチャーの未来

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“アニメソング”とは果たして何なのだろうか? 一つの音楽ジャンルを指し示しているように感じさせるが、しかしそこに音楽的な規則性はない。それでも多くの人の頭の中には“アニメソング”と言われて思い浮かべる楽曲の形がぼんやりとあるだろう。この“アニメソング”という音楽ジャンルの形を探るための連載インタビューがこの『アニメソングの可能性』だ。

話を伺うのは、アニメソングを日々チェックし、時にそれをDJとしてプレイするアニメソングDJの面々。多くのアニメソングを日々観測し続ける彼らが感じる“アニメソング”の形とはどんなものなのかを訊き、アニメソングというものを紐解いていこうと思う。

連載第五回に登場していただいたのは、MORE DEEP、RAVEMAN、m.o.v.e、ALTIMAと数々の音楽グループのメンバーとして活動し、これまで数々のアニメソングの制作に携わってきたMOTSU。お話を伺う中で、アニメソングとダンスミュージックの接点にMOTSUが大きく関わっていることが判明。筆者驚愕の事実も明らかになった。そして、話はアニメソングDJを飛び出し、その場を構成するアニメファン全体が作るカルチャーの未来にまで至る。是非とも最後まで楽しんでもらいたい。


■姉とのチャンネル権の奪い合いがあったので……

――MOTSUさんのプロフィールを見させていただいたところ、年齢が永遠の18歳となっています。子供時代に放映されていたアニメのお話から伺いたかったのですが、世代的なお話は聞いても大丈夫でしょうか?

全然大丈夫ですよ(笑)。僕の子供時代は『マジンガーZ』や『キャンディ・キャンディ』が放送されていました。お茶の間の時間帯にアニメが多く放送されていた時代でしたからね。ただ、僕はあまり当時のアニメを見れていなくて……。

――当時はあまりアニメに興味がなかったということでしょうか?

いや、アニメ大好きだったんので本当はもっとたくさんのアニメを見たかったです。でも僕には三つ上の姉がいて、当時はビデオなどの録画機能もなかったので姉との間に熾烈なチャンネル権の奪い合いがあったんです。姉の方が弁が立つものだからチャンネル権をどんどん奪われていって、アニメを見たいのに見れないという日々が続いたんです……。

――幼少期だと年上に口論で勝つのは難しいですからね……。

そうなんですよ。そのせいで学校に行っても友達のアニメ談義に入っていけない。ただただ羨ましいと思いながら話を聞いているだけでした。『マジンガーZ』の放送枠でいうと、次に始まった『グレートマジンガー』までは見ていたけど『UFOロボ グレンダイザー』は見られなかったです。もう本当にトラウマですよ(笑)。

――すると当時のアニメ主題歌と言われてもあまり記憶しているものがないのでは。

これが不思議なもので、逆に主題歌はやたらと覚えています。友達が歌っていたり、どこかで流れているの聞いたりすると「こんな主題歌なんだ」なんてことを思って印象に残りました。だから見ていないアニメの曲もたくさん知っていました。ただ、オープニングとエンディングのどちらかしか知らない、みたいなことはよくありましたけど(笑)。

――なるほど、見れないが故によく覚えていると。当時のアニメソングでパッと思い出すものはありますか?

『機動戦士ガンダム』のエンディング「永遠にアムロ」や『ルパン三世』エンディング「ワルサーP38」。あとは『あしたのジョー』のオープニング「あしたのジョー」なんかもよく覚えています。

――物悲しい雰囲気の曲が多いですね。

姉が僕から奪ったチャンネル権を使って歌番組を見ていたんです。そこにはピンク・レディーなんかが出ていて、それを一緒になって聴いていました。その反動で、姉が歌番組で聴かない、物悲しい楽曲が記憶に残ったのかもしれませんね。

■ツッパリの世界から音楽の世界に、その頃見ていたアニメとは

――幼少期はアニメ好きでありながらなかなか見れなかったということですが、その後、音楽活動を始めるまでの間にアニメを見る機会はあったのでしょうか?

アニメを見ていないというか、そもそもテレビ自体を見ていないんです。家にテレビがない、テレビも買えない極貧時代に突入していましたから。そこから段々とツッパリの世界に入っていって、もうテレビで何をやっているか全くわからなくなっていきました。当時はテレビなんか見ずにディスコに入り浸っていましたからね。

――なるほど、その頃にご自身の音楽活動のルーツであるダンスミュージックと出会っているということですね。

そうなんです。当時は新宿に若者向けのディスコがあって、ハイエナジーやミュンヘンサウンドといったクラブミュージックが流れていました。それをひたすら聴いていましたね。DJ KOOさんは当時既にDJとして活躍されていて、その姿をフロアから見たりしてね。

――そして音楽の世界にどんどんのめり込んでいったと。

当時のディスコはナンパをしに行くところという印象が強かったんですが、僕はもう音楽の方に夢中でずっと流れている曲に齧り付いていました。当時の友達によく文句言われてましたよ。「お前と行くと音楽聴きっぱなしでナンパの手伝いもしてくれない!」なんてね(笑)。

――純粋に音楽を楽しんでいた、というのがすごく伝わってきます。当時はご自身がアニメと関わることになるなんて思っていなかったのではないでしょうか?

思っていなかった反面、全く興味がなかった訳でもなかったように思います。僕の場合、家が貧しかったので自分の意思でツッパリの世界に足を踏み入れて、もうこのスタンスでやっていくという強い意思で生きていました。でも、オタクとして生きている人たちを見るとちょっと羨ましさを感じていたんですよ。「いいなぁ、俺もアニメやパソコンの話したいな」なんて。その度に自分を鼓舞してツッパリの道をキープしていた感じでした。

■自身の楽曲にアニメ映像がつく、他では味わえない恍惚感だった

――意図的に自分の中のオタクである部分を見ないできたMOTSUさんですが、その後アニメ楽曲制作という形でアニメカルチャーに関わることになります。

そうなんですよ。最初に関わったのが『シティーハンター’91』の「You never know my heart 」いう曲でしたね。作詞の名義が山下素公になっていますが、あの歌詞書いたの僕なんです。

――そうなんですね! どういったきっかけで制作されたのでしょうか?

僕は当時、MORE DEEPというグループのメンバーとして、各地のクラブにライブ出演のために飛び回っていたんです。メンバーがARTIMAGEという事務所を作って、ソニーと契約を結ぶにまで至りました。そこで楽曲制作の仕事ももらえるようになったんです。その頃作った楽曲がたまたま『シティーハンター』の挿入歌だった、という感じです。

――すると当時はアニメの主題歌という意識を持って作詞をしたわけではない。

正直そうですね。歌詞自体も二時間ぐらいでササッと書いたものなんです。でも、割とラフに作ったこの楽曲に、後に大きな感動を味わわされることになるんですよ。

――それはどういった感動だったのでしょうか?

まずは映像に感動しました。オンエアを見たら僕らの作った曲にぴったりのアニメ映像が流れたんです。もうそれに感動しちゃってね、音楽とアニメ映像が合わさったものを見るのってこんなに恍惚感溢れるものなんだということに驚かされました。あれは別の体験では得られないですね……。

――僕らもアニメ主題歌と映像の組み合わせに衝撃を受けることがありますが、ご自身で作った楽曲だと感動はひとしおだと思います。

本当にすごかったんですよ……。あとね、もう一つ感動したのはお金。今までの活動では入ってこなかったような印税を頂きました。これは本当に驚きましたね、音楽の仕事もアニメが関わると本当にすごいことになるんだと痛感しました。

■「You never know my heart 」の時の感動をもう一度味わいたい

――出来上がったものに感動し、お金も儲かった。非常にやりがいを感じる楽曲制作だったかと思います。その後もアニメの楽曲は頻繁に制作していたのでしょうか?

「You never know my heart 」からしばらくはアニメ主題歌を担当する機会に恵まれなかったです。久々にアニメ主題歌を制作することになったのは『クレヨンしんちゃん』の「パカッポでGO!」。これは僕とARTIMAGEのDJ GEEとt-kimuraの三人で作っているんです。

――ということは、作詞にクレジットされているポエム団がDJ GEEさんとt-kimuraさんとMOTSUさんだったということですね。

そういうことですね(笑)。

――「パカッポでGO!」は子供向けアニメ主題歌にダンスミュージックを取り入れたパイオニア的な楽曲だったと思います。

あの曲は当時やっていたRAVEMANというグループの音楽をそのまま子供向けにする、そんなコンセプトで作っているんです。なので斬新な曲を作るということはあまり考えてはいなかったです。ただ、僕らみたいなダンスミュージック畑の人が子供向けアニメの主題歌を作るというマッチングは珍しかったと思いますね。

――アニメ作品とアーティストのマッチングの妙があったということですよね。歌詞も作品に非常に作品に沿ったものとなっていますが、書くのに苦戦するということはなかったのでしょうか?

僕自身『クレヨンしんちゃん』が大好きで、依頼がある前から漫画も読んでいたんですよ。なので作品世界はよく理解していて、結果スラスラと書くことができました。ただ、注いだ情熱はすごかったですよ! 「You never know my heart 」の時にすごい感動を感じてたので、それを超えることを意識してこだわって書きました。

――熱い情熱が伝わってきます。その後、『クレヨンしんちゃん』では「とべとべ おねいさん」の作詞作曲を担当していますね。

あの曲にも本当に感動させてもらいました。映画版のオープニングとしても3回も使われて、テレビ版とは別に、映画用に新作映像が毎回作ってもらえる。なんて贅沢なんだって思いました。あんなもの見せられたらアニメソング作りの虜になっちゃいますって。

――もっとアニメソング作りたい! というお気持ちだったんですね。

そうですね。ちなみに、「とべとべ おねいさん」の制作には裏話があるんです。「とべとべ おねいさん」と「勇者ライディーン」が似てるって意見がよくあるんです。でも、実はあの曲、「勇者ライディーン」に似せる気で作ってはいないんです。

――確かにそういった意見は耳にしますが、意図的ではなかったということですね。

今になって聴き比べると、確かに似てると自分でも思うんですけどね(笑)。でも、最初にも話した通りアニメをあまり見ないで育ったので、『勇者ライディーン』も見れていなかったし、主題歌も知らなかった。ただ、制作するにあたって「70年代ロボットアニメっぽい曲でお願いします」とは言われて、「勇者ライディーン」が入った参考曲集はもらってはいたんですよ。

――なるほど。

で、僕としては参考曲に収録された曲の集約として作ったのが「とべとべ おねいさん」のつもりだった。ただ、確かに言われてみると「勇者ライディーン」要素が強くなっているのは自分でも感じますけどね(笑)。

この後、『頭文字D』主題歌を担当した際の裏話も!!

 

■MOTSUが考えるアニメソング元来の楽しさとは

――『クレヨンしんちゃん』の主題歌を担当したのとほぼ同時期には『頭文字D』の放映もスタート、m.o.v.eとして多くの主題歌を担当します。

あれはまた、どの曲もアニメ映像と合わさった時の感動がすごくて、泣くかと思いました。

――ユーロビートと、車で峠を攻める“走り屋”のレースがあんなにマッチするとは思っていなかった。あれは驚きました。

もともとユーロビートって車好きの中でも車高の低い、いわゆる”シャコタン”に乗る人たちが好む音楽でした。それを車で峠を高速で走る“走り屋”文化と融合させたのがアニメ『頭文字D』だったんです。まさかあんなにも素晴らしい化学反応が起こるなんて、罪作りな現象ですよ。

――同時にアニメとユーロビートといった本格ダンスミュージックを融合させたのも『頭文字D』だったように思います。

それは確かにあるかもしれないですね。そこから本格的なダンスミュージックがアニメの世界に一気に流入してきたような気はしています。I’veやfripSideもその系譜ですよね。

――そこから派生した楽曲の中にはMOTSUさんがラップをされている楽曲も多くあります。作詞を行うにあたってアニメソングならではの意識をしていることはありますか?

タイアップ作品に関する言葉をきちんと聴かせたい、そこは考えます。あわよくばタイトルを歌詞の中にいれて、それを強調したいと思ってます。『アクセル・ワールド』の主題歌「Burst The Gravity」なんかはそのつもりで書いたので、一番印象的な部分に「Accel world!」って入れているんです。

――確かにあの部分はすごく印象的ですね。

あの歌詞書いた時はスタッフに「本当にこれでいいの?」って言われましたけどね(笑)。それでも、アニメソングである以上は“いかにもアニメソング”と感じさせる言葉選びは心がけたい。それがアニメソングの持っている元来の楽しさだと思っていますから。

――元来の楽しさ、ですか。

そう、アニメのタイトルやキーとなるワードが歌詞の一番目立つところにきて、それを音として楽しむのが本来のアニメソングのあり方だと思っています。特に子供向けのアニメはできる限りタイトル入れてほしい、僕はそう思います。そうやって、アニメソングならでは言葉的な楽しみ方を小さい時に体験してもらいたいです。よく読んだらアニメの内容が歌い込まれている、そういうのは大人になってから楽しむものなんじゃないかと思っています。

■アニメソングが最も居心地のいい場所だった

――改めて、MOTSUさん自身アニメソングに関わることをどのように感じているのか伺いたいです。

アニメソングが僕にとってちょうどいい居場所、そう感じています。ずっとオタクである自分に目を向けないように生きていきましたけど、本来はオタクで、アニメや漫画が大好き。それを曝け出して音楽活動をしてもいいんだっていうことにアニメソングを通して気付かされました。

――目指して進んできた場所ではないけれど、最も居心地がいい場所がアニメソングの世界だったということですね。

そういう感じですね。パリピキャラでここまでやってきたけど、根はオタクですらから。お客さんにもシンパシーを感じるから、望んでいることも手に取るようにわかるんです。僕ならこうしてほしい、それを形にしたらお客さんも喜んでくれる。だからライブなんかに出ても本当に楽しいんです。

――そして今や、アニメファンの人たちが集まるクラブもできている。これもMOTSUさんにとっては居心地の良い場所なのではないでしょうか?

いや本当に、大好きなものと大好きなものの合体ですからね。アニメファンに向けたクラブがあると初めて知ったのは2000年代後半、秋葉原MOGRAとの出会いからでした。そこでm.o.v.eとしてイベントをやらせていただいたんです。

――その頃だとMOGRAも開店後すぐかと思います。MOTSUさんの通われていたディスコのとは雰囲気も違ったのではないでしょうか?

全然違いましたよ。まず治安が全然違う(笑)。ナンパも少ないし、ましてしつこく女の子に迫る人なんか見たことないです。僕としてはもうちょっと、ナンパまでいかなくても連絡先交換ぐらいあってもいいじゃん、とは思ってしまいますけどね(笑)。

■アニメファンが持つカルチャーはきっと世界に広がっていく

――治安は確かに大きく違うと思います(笑)。同時に、文化全体が大切にしているものも違ったのではないかと思うのですが。

そうですね、そこでいうと、アニメファンの人たちが画を大事にしているのは感じます。アニメソングが流れるクラブで、みんな音楽を聴きつつ画を思い浮かべながら踊っている。これって他のカルチャーでは起こり得ない、映像が必ず存在しているアニメソングDJの場だから起こる独特の現象だと思うんですよね。

――確かに、他の音楽ジャンルでは映像の存在はマストではありませんからね。

そうなんですよ。その自分達が独自に持っている文化をすごく大切にしながら楽しんでいる姿にはカルチャーとしての成熟を感じます。このカルチャーは今後、世界に進出していくんじゃないかな?

――アニメ自体の世界的ブームに留まらず、アニメファンが持っている価値観が世界的に広まっていくということでしょうか?

そう、その通り! アニメを見ることを楽しみ、アニメソングを聴き、アニメソングライブを楽しみにライブハウスに行ったり、アニメソングDJを聴きにクラブに集まったりする。そのライフスタイル自体が世界に進出すると思っています。アメリカのヒップホップから生まれたB-BOYカルチャーが世界に広がったのと同じようにね!

――なるほど。そのライフスタイルの広がりに合わせて、アニメソングアーティストやアニメソングDJも世界的に進出していければいいと。

そうですね。アーティストもDJも同じ文化を広げる人間として、ともに世界で活躍できるといいんじゃないか。僕はそう思っています。

――素敵な話ですね! MOTSUさんから見て、まだアニメファンのカルチャーが世界的ブームに至っていない理由、今後の課題として感じるものはありますか?

やっぱり言語ですね。日本人は通訳を通して外国人と会話することに慣れすぎていると思います。でも、通訳を通すと密なコミュニケーションが取れないんですよ。それではどんなに素晴らしいカルチャーであっても、その素晴らしさを伝えるところでつまずいてしまう。一人一人が外国語を学び、各々の力でアニメファンの持つカルチャーを発信する力を身につけていくことが世界進出の第一歩だと思います。


アニメソングDJを楽しむということ、それはアニメファンの一つのライフスタイルのあり方だ。そこにこれまで筆者は気づかずにいた。今回のインタビューで最も驚いたことはそれだった。

近年、世界的にアニメブームが訪れていることを考えれば、次なるブームとして我々アニメファンが過ごすライフスタイルのあり方もブームとなって世界に発信されていく、これは確かに自然な道理かもしれない。そして、その先にアニメソングアーティスト、アニメソングDJの世界進出があることも十分に考えられるだろう。

今の社会情勢では、この世界進出は果たされないかもしれない。しかし、社会情勢が落ち着いたその瞬間にアニメファンのカルチャーは世界に一気に進出するかもしれない。その瞬間はもう目の前に来ているようにも思う。

インタビュー・文=一野大悟 撮影=敷地沙織

 

また、連載『アニメソングの可能性』が記事を飛び出し、この度リアルイベントを開催することも決定した。

本連載に登場いただいた水島精二、MOTSU、つんこ、葉月ひまりのDJプレイに加え、春奈るなSpecial Live Set、そして出演者によるトークショーもお届け予定だ。

連載をイベントとして落とし込む今回の試み、是非とも会場を訪れてほしい。

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