広告・取材掲載

広告・取材掲載

NEE「辛い時はここに帰ってきてください」 ツアー『緊急全国逃避行』を通して伝えたこととはーーツアーファイナルをじっくり振り返る

アーティスト

SPICE

NEE

NEE

NEE 4th TOUR「緊急全国逃避行」
2022.11.11 EX THEATER ROPPONGI

ライブの序盤と終盤で、NEEというバンドの印象が変わった。
何を今さら、と何度も彼らのライブを見ているファンからは思われるかもしれないが、今回初めてNEEのライブを見た筆者には、そこがおもしろかったのだ。遅ればせながら、NEEというバンドにがぜん興味が湧いてきた。
どう印象が変わったのか。それについては後述するとして、まずは11月11日、EX THEATER ROPPONGIで開催された『NEE 4th TOUR「緊急全国逃避行」』のファイナル公演を、順を追って振り返っていきたい。

「ファイナルよろしくお願いします!」とくぅ(Vo/Gt)が声を上げ、夕日(Gt)が鳴らしたフィードバック・ノイズからなだれ込んだ1曲目は、ファンキーなラップ・ロック・ナンバー「ボキは最強」。スタンディングの1階フロアとスタンド席を埋めた観客が、早速手拍子で応える光景を目の当たりにしたくぅが「みんな最高じゃん!」と叫ぶ。

単音のリフに加え、歯切れのいいカッティングを閃かせる夕日のギター・プレイはもちろん、ベースをスラップするかほ(Ba)、変拍子を交えながらずしっと重いビートを鳴らす大樹(Dr)――バンド・アンサンブルを支えながら、印象的なフレーズを織りまぜるリズム隊2人のプレイも聴きどころだ。そして、夕日がアーミング奏法で痙攣するようなフレーズを奏でながら轟かせたソロに、かほがベース・ソロを繋げる頃には、観客全員が手を振りながらジャンプして、会場を大きく揺らしていた。

「ファイナルぶちかましていくぞ!」(くぅ)

くぅ(Vo/Gt)

くぅ(Vo/Gt)

バンドは「アウトバーン」、「因果オウホウ」と繋げ、観客を跳ねさせつづける。
「アウトバーン」では、言葉を投げかけるようなくぅの歌に、かほがハーモニーを重ね、夕日がトリッキーなリフを閃かせた「因果オウホウ」では呪文のようなくぅの早口の歌の裏で大樹がジャングル・ビートを鳴らした。そんなところが自らエキゾチックロックバンドを掲げるNEEのエキゾチシムズなのだろうか!? そして、ぐんぐんと演奏の熱を上げていった4人はメタルのブレイクダウン・パート、くぅ、夕日、かほが歌声を重ねるラスサビ、そして夕日が奏でるフュージョン風のギター・ソロとたたみかけ、観客を圧倒していく。

「マジでやべえ。(会場が)広すぎるやろ! マジで!」

興奮気味にまくしたてたくぅの言葉からは、大きな舞台に立っている実感がようやく湧いてきたことに加え、冒頭の3曲で大きな手応えを感じていることがうかがえた。そして、「今日はやるぞ!」(くぅ)と自らに発破をかけ、バンドはそこから「第一次世界」「ビリビリのーん」「九鬼」「緊急生放送」「ハッタリ」と代表曲と言ってもいい5曲を立て続けに披露。言語感覚も含めユニークな感性を持つポップ・センスを落とし込んだソングライティングの魅力をアピールしながら、ファンク・サウンドを基調にテクニックに裏打ちされたエキセントリックなプレイを、メンバーそれぞれに織りまぜるエネルギッシュな演奏で会場をさらに大きく揺らしていったのだった。

夕日(Gt)

夕日(Gt)

音で勝負するプレイヤー志向のバンド。前半、筆者が抱いたそんな印象は、後半ガラッと変わるのだが、後半を振り返る前にこのファイナル公演を含め、全国8カ所すべてがソールドアウトとなった今回のツアーの手応えを語ったメンバー達の会話と、11月30日のリリースに先駆けて披露した新曲「バケモノの話」についても書き記しておこう。

MCにて
「全国8カ所回って、どう思った? 何か気づいたことある?」(くぅ)
「(今まで)行ってないところでも、お客さんがなぜか盛り上がり方を知ってるっていうのが多かったから、みんなの力だなと思って。本当ありがとうございます。おかげで初めてのところも楽しく回れたんだよね」(かほ)
「わかるわかる。慣れてる人しかいないんじゃないかって。でも、初めて来た人?って聞いたら、8割ぐらい手が上がって、えっ!?てなった」(夕日)
「本当にうれしい」(大樹)

そして、「ファイナルだから、ほんとに集大成だから、悔いなくやろうと思います。ここだけの話で11月に新曲を出すんだけど、それを今からやります」(くぅ)と披露した「バケモノの話」は、疾走感が心地いいロック・ナンバー。音を歪ませ、ドライブ感を強調したかほのベース・プレイが光る。

かほ(Ba)

かほ(Ba)

そこからラップ・ナンバーの「人外」を挟んで繋げた悲しいトーンのバラード「本当は泣きそうです。」を境にくぅは自分の気持ちを前半以上に言葉にしはじめた。
初め、「こんなどうしようもない、自信もない、そんな僕みたいな人間がみんなと出会えたことが信じられないくらいうれしいです。だから、ここにいる全員1人1人が幸せになるように……。生きていると、どうしようもないことはありますが、どんなに辛いことがあっても、僕達がそばにいます。みんなに向けて、僕は歌います。幸せになってください」と観客に語りかけてからフォーキーな「ぱくちー」を演奏しはじめた時は、「本当は泣きそうです。」、「ぱくちー」、そしてメランコリックな「You are はっぴー」と、じっくり聴かせる曲を並べた中盤のセットリストに合わせた演出なのかと思ったが、「You are はっぴー」を演奏し終えてから、くぅが語った言葉を聞き、彼は溢れてきた思いを素直に言葉にしているだけなんだということがわかった。くぅはこんなふうに言ったのだ。

「みんなの顔見えてますから。やっぱり顔が見えると、マスク越しではあるけど、みんなの表情がわかるから、僕もけっこう感情的になっちゃうけど、みんなに受け取ってもらえてると思えるから本当にうれしいです」

そして、「俺だけのNEEじゃなくて、メンバーだけのNEEじゃなくて、ここにいる1人1人が作り上げているNEEだと思うので、本当に今日という日を特別にしたいと思います」と語ってからの後半戦は、「本日の正体」「不革命前夜」「aLaLe」とダンサブルな曲をたたみかけ、ラストスパートを掛ける。

大樹(Dr)

大樹(Dr)

ツアー・ファイナルに臨む気持ちを改めて語ったくぅの言葉を、ちょっと長くなるけれど、NEEというバンドのアイデンティティやライブに対する彼らの考え方を物語るものとして、書き残しておきたい。

「今、僕は絶賛、自分のことが嫌いな時期に入ってまして。どうしようもないぐらいの精神状態だからこそ、みんなの気持ちがマジでわかると思って。みんなの抱えてる悩みは俺のものだからな。ジャイアンみたいなことを言うけど、辛い時はいつでもNEEの曲を聴いて、ライブに来て、忘れちゃってください。なんで、(今回のツアーが)『緊急全国逃避行』ってタイトルかって言うと、言わば現実逃避だよね。俺、現実逃避したかったんだなと思って。来てくれてるみんなも大変な日々を過ごしているとは思いますけど、NEEのライブで現実逃避できてるかなと、(ツアーを)やってくるにつれて思いました。だから、みんな、辛い時はここに帰ってきてください。いつでも待ってます。俺だけじゃないよ。俺は当たり前のように待ってるけど、ここにいる1人1人があなたのことを待ってますから。一生さよならなんて言いません!」

NEE

NEE

演奏していた4人がぴたっと止まるストップモーションを交えた演出やファンク・ナンバーと思わせ、曲の後半、音頭になる展開に思わずニヤリとせずにいられなかった「万事思通」、気迫に満ちた演奏が圧倒的だった本編最後の「月曜日の歌」と繋げる頃には、バンドとその熱演に応える観客が大きな一体感を作りながら、この日一番の盛り上がりが生まれていた。その時、筆者はNEEというバンドが、観客の感情に訴えかけるエモーションや凄みなんて言葉も思い浮かぶ気迫も持ち合わせていることを知ったのだった。

会場からこぼれるほどの大きな拍手で観客に迎えられ、ステージに戻ってきたバンドはアンコールに応え、1曲の中で疾走感とファンキーなノリを巧みに使い分ける「夜中の風船 Mark II」とフォーキーな「こたる」の2曲を披露。くぅをはじめ、メンバー達がMCで語っていたように得るものが多かったツアーの大団円を飾ったのは、曲が進むにつれ、音数が増え、熱を上げていったバンドの演奏と、切実さの中にどこかユーモアが滲むくぅからのメッセージだった。

「マジで、いい景色をありがとう! 本当にどうしようもなくなったら俺を見習ってください。俺らもこうやって生きてる!」

文=山口智男 撮影=nakaiso yoshio/ホリウチレイ

関連タグ

関連タグはありません