筋肉少女帯、結成40周年を迎えたツアーファイナル大盛況
筋肉少女帯が、デビュー35th カウントダウン シリーズ「KEEP CHEEP TRICK TOUR」の最終公演を、11月26日に東京・江戸川区総合文化センターにて開催した。
1982年に中学の同級生だった大槻ケンヂ(Vo)と内田雄一郎(B)によって結成され、1998年6月にアルバム「仏陀L」/シングル「釈迦」でメジャーデビューを果たしてから来年で35年。1998年には活動休止しながらも2006年に復活し、そこからの年月は活動休止前の期間を遂に超えた。40年もの間それぞれの信念を貫き、常にたゆまず進み続けた4人の歩みは力強く、結成40周年記念作「いくぢなし(ナゴムver.サイズ)」を引っ提げた今回のツアーでも、定番曲や人気曲を惜しみなく投入して川崎から名古屋、大阪と各地で“お客さん”のハートを鷲掴み。自身の楽曲が初期から比類ない輝きを放っていたことを証明し、さらに時を経て熟練したテクニックによる厚みあるパフォーマンスで圧倒しながらも、新たに筋肉少女帯のライブにもたらされた眩い景色で、我々の目と心を潤ませてくれたのだった。
幸福な“異変”は幕開けから明らかだった。「オカルト」のミステリアスな響きをSEにメンバーが暗がりのステージに現れ、全員が一斉に音を出した瞬間、全開になったライトの下に広がったのはきらめくペンライトの海。コロナ禍で発声やコール&レスポンスが叶わない状況で、なんとかクラップ以外でオーディエンスが感情を発露させられるものを……と生まれたバンド史上初のグッズだが、これが筋肉少女帯のライブには予想外にハマッていた。1曲目から“筋少ワールドへようこそ!”と言わんばかりに放たれる「僕の宗教へようこそ」の演奏が一部の隙も緩みもないバカテクなら、それに呼応して振られるペンライトの一糸乱れぬ整然たる動きも熟練の域。リリースから30年以上が経つ曲だけに、おそらくリズムやメロディが細胞レベルで染みついているオーディエンスも多いに違いない。その景色に大槻が「美しい! 光の海だ!」と喜びながら自身もペンライトを大きく回せば、その横で橘高文彦(G)も白いドレスを翻して華麗にターンする。さらに、いつの間にかステージど真ん中に陣取って、歌詞の通りオペラヴォイスを朗々と響かせるエディこと三柴理(サポートKey)には拍手喝采。そのままクライマックスへと雪崩れ込む長谷川浩二(サポートDs)の高速ビートも激重で、鉄壁のサウンドメイクに思考的余白だらけの得体の知れないリリックという驚天動地のコラボレーションが、筋肉少女帯という唯一無二の存在を頭から叩きつけてくる。
こうなれば、オーディエンスも臨戦態勢。声の代わりに拍手やペンライトで盛り上げてほしいと請う大槻が「日本印度化計画」の歌いだしで“日本を印度に!”とコールしたとたん、正確に“してしまえ!”のリズムでクラップを返す対応力の高さたるや凄まじい。続く「ムツオさん」でも、ダンサブルなディスコ曲をクラップで牽引する橘高が、プレイの合間に光るタンバリンでお尻を叩いたり、ドラム台に上がったりと愛らしいアクションで魅せる一方、間奏に入るや激烈なソロをかますギャップが痛快。その上で楽器隊一丸となった即興色の強いパフォーマンスをアウトロで豪快にぶちかまして、自由なアクションは確かなテクニックがあるからこそ映えるものなのだと知らしめる。さらに「久しぶりにやっていい感じ。なんでやらなかったかなぁ。歌気持ちいいんだよなぁ」と、大槻が歌い終えて評したのが「境目のない世界」。アコースティックギターとピアノの哀愁味ある音色からバンドサウンドへのドラマティックな展開は客席のみならず演者側にも恍惚を呼び、三柴が虚空を向いて指揮棒を振るような仕草を見せる場面も。溶け合いたいまでの情念を歌う詞世界へとそれぞれが入り込み、渦巻くエモーションでオーディエンスの心を撃ち抜いていく。歌っている内容は決して幸せではないのに、加速する演奏が突き上げる高揚に心さらわれる。
あわやキャンセルの危険もあったという40年前の初ライブについて大槻と内田が語り、「40年、不思議だね」という感慨深げな言葉からは、40年の奇跡を感じさせるシーンが次々と。歳月を経たからこその歌声が味わい深さを伝える「きらめき」では、客席を見上げる本城聡章(G)に橘高が寄り添い、一緒に笑顔で手を振る姿に文字通りの“きらめき”を感じさせられる。一転、映画のような物語を想起させる「機械」では大槻が放つ歌のエモーションと、客席から振り上がるペンライトの勢いが急速にシンクロして、曲が終わると万雷の拍手が! 分厚いヘヴィロックの先で神秘的なピアノとリフレインが神託のように降り注ぐ「ディオネア・フューチャー」といい、この恍惚たる一体感こそ、バンドとファンが筋肉少女帯という存在に対して積み上げてきたキャリアと想いの為せる奇跡に違いない。
さらに、筋少ならではの不穏な世界観も存分に。映画『時をかける少女』の挿入歌カバーで、本城と内田が原田知世役として台詞を担当した「愛のためいき」では、ピアノとアコースティックギターが紡ぐ音色の美しさにもかかわらず、アウトロの台詞ひとつで底知れぬ恐怖を与えるのが流石。また40周年記念作のカップリング曲で、34年前の空手バカボンの楽曲をセルフカバーした「KEEP CHEEP TRICK」も、キーを下げたことでブルージーな大人の色味を増したぶん、大槻の一人大喜利や“凡庸な人々よ”という無感情なリフレインが空恐ろしく、観る者の背筋を震わせる。だからこそ印象的だったのが、比較的直近の曲である「宇宙の法則」の健やかさだ。悲しい現実は変わらないとしても、あるがままを受け止めようとする歌詞のスタンスには安らぎさえ感じ、“来世でも再びお逢いしましょう”というフレーズの響きも清らかに。着席してペンライトを振るオーディエンスが纏う温かな空気も先ほどまでとは明らかに違っており、これこそ“今”の筋肉少女帯が新たに得た武器なのだと実感させられる。
「コール&レスポンスではない、光の海という筋肉少女帯のライブが完成された、重要なツアーだったと思うんだよね」(大槻)と今ツアーを振り返ってからの終盤は、その“光”の威力を鉄板曲で思い知らされることとなった。「イワンのばか」で正確無比なビートを刻む長谷川、大胆かつ華麗に鍵盤を奏でる三柴、勢いよく掛け声を放ちながら輝くペンライトでベースを弾く内田、客席を見渡して体中でコミュニケートする本城、頭だけでなくギターもブンブン振り回して舞う橘高とくれば、オーディエンスは熱狂。体感温度も一気に上がり、さらに「君よ!俺で変われ!」から「サンフランシスコ」へと雪崩れ込めば、待ってましたとばかりに突き上がるペンライトの勢いも半端ない。そして橘高と本城がポジションをスイッチすれば、上手がピンク、下手が青と、それぞれ迎え入れたギタリストのカラーに客席が染まるという衝撃的な光景が! さらにベースソロへと続くと内田カラーの緑にチェンジして、目に見える形でライブに参加するオーディエンスの柔軟性たるや、お見事の一言だ。
その景色に「素晴らしい!」とペンライトを回す大槻が「ありがとう! 感謝します!」と贈った本編ラスト曲は「いくぢなし(ナゴムver.サイズ)」。40周年を迎えた記念作の制作にあたり他アーティストとのコラボを考えていたところ、「一番ブッ飛んでいる若者は過去の自分たちだった」という発見から叶ったセルフカバーは、ポエトリーリーディングと激情ヴォーカルが交錯するカオスな原曲を踏襲して、若さゆえの衝動と手練れの成熟が共存するものに。最後はリリースから37年を経た今の目線で締めくくるかと思いきや、さらに当時の音源をサンプリングして若き日の自分が“この根性なしが”と今の自分を断罪するという仕掛けも鮮烈で潔い。
アンコールでは、これまた40周年記念作でセルフカバーした34年前の空手バカボン曲「7年殺し」を披露。リズム隊と本城のギターがファンキーなノリの土台を作り、その上でソロを掛け合う橘高と三柴には互いへのリスペクトも覗く。客席との写真撮影を挟み「今年もお世話になりました。良いお年を!」という大槻の言葉に続いて、ライブを締めくくったのは「釈迦」。おなじみのモンキーダンスもペンライトのぶん派手さを増して、遠慮なく会場を揺らしていく。最後に「筋肉少女帯40周年、大槻と内田に大きな拍手を!」と橘高が求めると喝采が湧き、ステージに残っていた内田が「Merci beaucoup。Salut!(=どうもありがとう。またね)」とフランス語で返す場面も。いわば“亀の甲より年の劫”を、あらゆる面で彼らは着実に体現している。
来年6月のデビュー35周年に向け、絶賛カウントダウン中の筋肉少女帯。12月18日には“筋肉少女帯Debut35th カウントダウン シリーズ”として「2022ライブファイナル」を東京・恵比寿 LIQUIDROOMで行うことが決まっている。また、それに先立ち12月14日にはLIVE Blu-ray「King-Show Archives Vol.1〜3」を3作同時発売。2020〜2021年のライブをVol.1から順に時系列で収めているので、未曽有のコロナ禍の中で己を見つめて道を切り拓かんとする彼らの姿を確かめられるだろう。紆余曲折ありながらも“筋肉少女帯”という場所を彼らが守り続けてきたのは、筋肉少女帯が絶対に替えの利かない存在であるから。裏を返せば、あの言葉にできない熱狂と孤独、光と闇、絶望と幸福を味わわせてくれる場が、キチンと用意されているということだ。一度触れれば忘れられない、けれど人として大切なものを教えてくれる空間は、いつでも貴方のために開かれている。
TEXT:清水素子
PHOTO:コザイリサ
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