KISS来日公演ライヴ・レポート到着、セットリストがプレイリストに
11月30日に東京・東京ドームで一夜限りの来日公演を行ったKISS。11月18日には、「クリーチャーズ・オブ・ザ・ナイト(暗黒の神話)」の40周年記念デラックス・エディションも発売となった彼らのライヴについて、オフィシャル・レポートが到着。ライヴのセットリストがプレイリストとなって公開された。
オフィシャル・レポート
大量の紙吹雪にまみれながらの「Rock And Roll All Nite」が終わり、4人のメンバーたちがステージを去ろうとする間際、客席のどこかから「ありがとう!」という声が聞こえてきた。今なおライヴの間もマスクの常時装着が求められ、大声を出すことは禁じられたままだが、それでも思わず“心の声”が漏れてしまうことが人にはある。声の主からすれば、それがKISSのショウを観終えた瞬間の素直な気持ちだったのだろう。そう思えたのは、その時に僕自身もまったく同じように感じていたからだ。
2022年11月30日、KISSは東京ドームにて最後の日本公演を行なった。もちろんバンドがすぐさま解散するというわけではないし、現在行なわれている「END OF THE ROAD WORLD TOUR」は2023年も継続していく。いわゆるロードが終わってもKISSの歴史が終わるというわけではない。ただ、これが“現行のKISS”としての最終ツアーであることは前々から彼ら自身の口から明言されてきた。実際、2019年12月に行なわれた前回のジャパン・ツアーがこの国にとって最後のKISS体験の機会になるはずだったし、ワールド・ツアーの終着点も2021年7月のニューヨークに確定していた。ところがパンデミックの影響はこの怪物バンドにも例外なく及び、同ツアーのスケジュールも組み直されることになったのだった。
しかもそこで彼らのもとには、もう一度自分たちの住む街に来て欲しい、KISSが一度も来たことのない自分たちの国でも演奏して欲しい、といった要望が殺到。今回の東京ドームでのコンサートがアンコール公演的に実現することになった理由のひとつもそこにあった。実際、前回の来日時のステージ上でフロントマンのポール・スタンレーは「大好きな日本にサヨナラを言いに来た」といった言葉を何度か発していた。世界がパンデミックに陥り、ライヴという日常が失われてしまったのは、それから約3ヵ月後のことだった。以降の経過を振り返り、去る10月に筆者が行なったインタビュー(BURRN!誌12月号に掲載)の中で、ポールは次のように語っている。
「パンデミックはすべてを変えてしまった。このツアーがいつ終わるか、という意味においてもね。結果的にはツアー自体が延長されることになった。というのも、ライヴ活動が再開できる状況になり、ふたたびショウをやり始めてみたところ、嬉しいことにファンがまだ僕らを手放そうとしていないことに気付かされたからなんだ。これが最後のツアーではあるけれど、それを終えるまでにもう一度訪れないわけにいかない都市がいくつもあることがわかった。東京もそのひとつだというわけさ」
さて、本題である今回の公演自体の話に戻ろう。11月30日、東京ドームにレッド・ツェッペリンの「Rock And Roll」が鳴り響き、場内が暗転したのは開演定刻の19:00を8分ほど過ぎた頃のことだった。「You Wanted the Best!? You Got the Best! The Hottest Band in the World, KISS!(最高のものを求めるお前たちは、それを手に入れた。世界でいちばん熱いバンド、KISS!)」というお馴染みのアナウンスに導かれながら聴こえてきたのは、オープニングの定番といえる「Detroit Rock City」のイントロだった。それまでステージを覆い隠していた幕が振り落とされ、天上からメンバーたちが炎にまみれ火花散るステージに舞い降り、歌い出しのタイミングではポールの歌唱が聴き取れないほどの爆裂音が耳を襲う。そんな大迫力のオープニングから、冒頭で記したクロ―ジングの場面に至るまで、彼らはヒット曲や必殺曲の数々を惜しみなく繰り出しながら、約2時間に及ぶロックンロール・サーカスを披露した。来場者のすべてが満足感を味わっていたに違いない。そう断定したくなるほどにすべてが行き届いた“完璧なKISSのショウ”だった。
実際のところ、同じツアーの一環での来日公演であるだけに、前回のジャパン・ツアーの際と比べて特に大きな演奏内容の違いがあったわけではない。ステージの左右にメンバー4人の姿を模した巨大なスタチューが仁王立ちしていることなども含め、ステージの仕様自体にいくぶんの差異があったことは確かだ。が、演奏曲目の点でいえば、2019年12月11日に行なわれた前回の東京ドーム公演時のセットリストと見比べてみても、前回披露されていた「Let Me Go, Rock’n’Roll」が外れ、「ROCK AND ROLL OVER」からの「Makin’ Love」が組み込まれていたことくらいしか大きな違いはない。ただ、その「Makin’ Love」は、ポール自身も「久しくやっていなかった曲」と紹介していた通り、今回のツアー全体を通じて初めてのセレクトとなったようだ。他にもジーン・シモンズの火吹きパフォーマンスが「War Machine」ではなく「I Love It Loud」の演奏後に組まれていたこと、「Psycho Circus」からドラム・ソロへと展開し、そのまま「100,000 Years」に続いていくという新鮮な流れがあったことなど、いくつか新鮮な材料も見受けられた。
そうしたマイナー・チェンジの部分も含めて感じさせられたのは、前回の来日時以上にライヴ・パフォーマンス自体が研ぎ澄まされているという事実だった。言い換えれば、この期に及んでいまだに進化の形跡がみられるということである。2024年2月には1stアルバムの発売から満50年を迎えるという超ベテランに対して、いまさら進化などという言葉を使うのは不適切かもしれないが、深みを増したというのとも違えば、新たな解釈が加わったというのとも違う。先頃のインタビューでは、ポールもジーンもバンドが過去最高と言いたくなるほど良好なコンディションにあることを異口同音に強調していたが、この研ぎ澄まされた状態こそがそれを指していたのだろう。近年の来日公演でたびたび指摘されていたポールの声量や高音域の伸びの不足についても、今回はまったく感じられなかったし、トミー・セイヤー、エリック・シンガーの存在感もより色濃くなっていた。
そんな現状を考えると、KISSならではの、KISSにしかできないロック・ショウをまだまだ続けていって欲しいという気持ちになってくるところではある。だが、それでも確実に終わりは近付きつつある。象徴的なシーンが、ショウの終盤にあった。それはアンコールの1曲目でエリック・シンガーによるピアノの弾き語りで「Beth」が披露し終えた直後の柔らかな余韻の中でのことだった。ポールの「僕らがみんなのことをどれほど愛しているかを伝えたい」という言葉に導かれるように4人が横一列に並び、彼の「We bow to you」という言葉を合図に全員で深々と頭を下げてみせたのだ。この言葉を直訳すれば「私たちは皆さんにお辞儀をします」ということになるが、文脈の流れによっては「降参します」とも解釈できる。そのシーンに似つかわしい字幕を付けるとすれば「ここで僕らは感謝と敬意を示したいと思う」がいちばん適切だったのではないだろうか。
今回のステージ上、ポールは3年前のように「サヨナラ」を口にはしなかった。最後の最後、ステージを去る間際に口にしたのも「We love you! Good night!!」という言葉だった。ただ、いつもの決まり文句であるはずなのに、その言葉にこれまで以上の重み、意味深長さを感じたさせられたことは間違いない。
奇跡のアンコール公演とも呼ばれたこの日本での大千秋楽は、まさに終幕の先に組まれた特別なパーティーだったのだと今現在の僕は解釈している。そして、「本当にこれが最後なの?」という疑念を抱きながら観ていた人すらも笑顔にしてしまうのがKISS。会場には昔からこのバンドを追い駆けてきたものを思しき世代のファンのみならず、若い世代や子供連れの姿もたくさん見受けられた。KISSでロックに目覚めた人たちというのは、実は特定の世代のみに属しているわけではない。このバンドが日本に根付かせたものの素晴らしさ、偉大さについて改めて実感させられ、こちらからもKISSに対して感謝と敬意を伝えたくなる一夜だった。
文:増田勇一
セットリスト
1. デトロイト・ロック・シティ Detroit Rock City
2. 狂気の叫び Shout It Out Loud
3. ジュース Deuce
4. ウォー・マシーンWar Machine
5. ヘヴンズ・オン・ファイアー Heaven’s on Fire
6. アイ・ラヴ・イット・ラウド I Love It Loud *Gene Fire
ジーンの火吹き
7. SAY YEAH
8. コールド・ジン Cold Gin *Tommy Rockets
トミーのギターからロケット弾を発射
9. リック・イット・アップ Lick It Up
10. 悪魔のドクター・ラヴ Calling Dr. Love
11. 果てしなきロック・ファイヤー Making Love
12. サイコ・サーカス / 10万年の彼方 Psycho Circus / 100,000 Years
13. 雷神 God of Thunder *Gene Flies / Blood
ジーンの空中舞、血吹き
14. ラヴ・ガン Love Gun *Paul flys
ポールの空中移動
15. ラヴィン・ユー・ベイビー I Was Made for Lovin’ You
16. ブラック・ダイヤモンド Black Diamond
アンコール Encore:
17. ベス Beth
18. ドゥ・ユー・ラヴ・ミー Do You Love Me
19. ロックン・ロール・オール・ナイト Rock and Roll All Nite
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