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中川晃教「演劇界に一石を投じる見せ方ができるかもしれない」 ~『Japan Musical Festival 2022 Winter Season』映像クリエイション現場レポート~

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SPICE

 

今年1月に開催された初回の好評を受け、この年末に「2022 Winter Season」として早くも2度目を迎える『Japan Musical Festival(以下JMF)』。ミュージカル界のトップランナーから若手スター、2.5次元俳優や声優まで幅広いキャストが集結することに加え、このフェスの大きな特徴となっているのが、最新の映像技術を用いたステージングだ。前回はナマの中川晃教と3D映像化された井上芳雄の“共演”が大きな話題を呼んだが、今回は同じ技術を用い、中川がなんと一人二役に挑戦するという。SPICEではその白熱のクリエイション現場を取材、最後に中川に話を聞いた。

ナマの中川悪魔と、3D映像の中川パガニーニが対峙!

 

『JMF』が用いているのは、撮影したものを3D映像として映し出すことができる「Fusion Wall」という特殊なスクリーン。映し出された人物はまるでそこに存在しているように見える上、スクリーンがほとんど透明に近いため、その後ろにいるナマの人物との“共演”も可能というわけだ。井上とは「♪僕こそ音楽(ミュージック)」をデュエットしたのみならず、事前に収録した掛け合いトークの自分のパートを練習して再現することで、本当に二人が会話しているような空間を作り上げた中川。それも十分すごいが、会話の相手が自分自身で、しかもただの会話ではなく芝居となる今回はさらに大きな挑戦と言える。

中川が演じる二役とは、今年6月に上演された日本オリジナルミュージカル『CROSS ROAD~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』より、自身が務めた悪魔アムドゥスキアス、そして舞台では相葉裕樹と水江健太がWキャストで務めたニコロ・パガニーニ。二人が出会うシーンで歌われる緊迫のデュエット「♪血の契約」のうち、パガニーニのパートを事前に収録し、本番ではナマの悪魔として、3D映像化された自身のパガニーニと対峙するという趣向だ。この日行われたのは、その事前収録。長い1日は、まず音声の収録から始まった。

 

「♪血の契約」は、パガニーニと悪魔が台詞の応酬をしたり、歌で掛け合ったりハーモニーを奏でたりする、トータルで6分半ほどもあるビッグナンバー。中川とサウンドエンジニアはそれをいくつかのブロックに分け、歌が中心のブロック→台詞が中心のブロックの順で収録を行っていく。細かい音符が連なるトリッキーな難曲ゆえ、大変なのは歌ブロックのほうかと思いきや、中川がよりこだわって何テイクも繰り返していたのは意外にも台詞ブロックのほう。言葉の裏に込められた意味やニュアンスをエンジニアやマネージャーと相談するシーンも何度か見られ、フェスという場でのナンバー披露とは言え、中川が初めて演じるパガニーニ像をしっかりと作り上げようとしていることが伝わってくる。

本番では使われることのない悪魔のパートも含め、一通り収録し終えたもの(=二人の中川によるハーモニー!)がスタジオのスピーカーから流れると、スタッフからは「素晴らしい」「かっこいい」「完璧!」の声が。だが同じく耳を傾けていた中川の意識は自らの出来ではなく、既に次なる映像収録に向いていたようで、聴き終わるとすぐさまクリエイティブディレクターのもとに駆け寄り、具体的な動きの相談していた。新しい挑戦にも戸惑ったり臆したりすることなく、積極的に意見を出していく創造性とコミュニケーション能力を目の当たりにし、“ミュージカル俳優”“シンガー”を超越した“アーティスト”中川晃教を垣間見た思いだ。

 

 

コンサートとは一線を画すフェスにするために

1時間半ほどで音声収録を終え、いったん控室に戻った中川が、次に登場した時にはパガニーニの扮装姿! 衣裳こそ相葉・水江が着用していた本番衣裳に似せたものだが、ヘアメイクは『CROSS ROAD』の本番スタッフが手がけているというから、再現度の高さにも納得だ。スタジオは一気に盛り上がり、さながら撮影大会の様相を呈したが、ここでも中川はただ撮影に興じているわけではなかったよう。グリーンバックでのカツラの映り方を動画で確認すると、ヘアメイクスタッフを呼び寄せて細かい手直しを加えてもらっていた。

 

やがて『JMF』の演出を手がける川崎悦子が到着すると、川崎作の絵コンテを元に、中川・川崎・ディレクターが活発に意見交換をしながら撮影イメージを共有していく。本番ではナマの悪魔が、階段を含む舞台セットを動き回りながらパフォーマンスすることになるため、その動きを思い描きながら、しかし自由に動ける余地も残しながら撮影するのは、かなり想像力の要る作業だ。スタジオに漲っていたのは、「FUSION WALLだからできる演出で、『JMF』を通常のコンサートとは一線を画すものにしたい」という気迫。「撮影の過程でパガニーニとして新たな感情が生まれたら、それに合わせて音声も録り直そう」と、あれほどこだわった1時間半が無駄になることもいとわない姿勢には頭が下がるばかりだ。

 

30分ほどの白熱した打ち合わせのあと、中川はいよいよグリーンバックの撮影エリアへ。先ほど収録した二人分の音声を流しながら、まずは川崎が悪魔役として入った状態でリハーサルを行い、中川パガニーニ一人での本番へと移っていく――という要領で冒頭1分半ほどのブロックが終了したため、この先もこの流れでブロックごとに進んでいくのかと思いきや、「次はもっと長くやってみよう」という話に。再び冒頭ブロックから始まったリハーサルはあれよあれよと、なんとそのままほぼ最後まで一気に進んでしまった。これには川崎も、「時間がかかりそうだと思ったけど、あっきー(中川)が素晴らしいからすぐだね!」と安心顔。実際、“川崎悪魔”が抜けたあとの本番も、ほぼ一発OKの順調ぶりだった。

 

 

 

打ち合わせや撮影の過程で、自身が演じる二役の動きだけでなく、映像編集や照明についても意見を出していた中川。「この歌詞に合わせて稲光があるといいよね」「ここで空間が歪むのはどう?」「顔とか手のアップが入っても面白いかも」……そうしたアイデアに基づき、最後には編集で使える素材として、中川の“震える手”のアップなどの撮影も。2時間ほどですべての映像収録が終了すると、居合わせたスタッフ全員から盛大な拍手が沸き起こっていた。果たしてこれがどう編集されるのか? そして出来上がった映像に、ナマの中川悪魔はどう絡むのか!? 楽しみは膨らむばかりだ。

 

>(NEXT)収録を終えた中川晃教にインタビュー!

 

中川晃教インタビュー~“競演”と“裾野”~

 

――まずは今回、一人二役に挑戦することになった経緯を教えてください。

前回Fusion Wallを使ったのは、井上芳雄さんに出てほしいけれど当日は福岡にいる、というスケジュールの都合から(笑)。でもそれが一つの目玉企画のようになり、クリエイターの皆さんから、実はこんな見せ方もできるというお話も伺って。使い方次第で、演劇界に一石を投じる見せ方ができるかもしれない、という思いのなかで生まれた企画です。

――今日は“パガニーニのパートを歌う”というより、“パガニーニを演じている”ように見えました。

企画は『CROSS ROAD』本番中から動いていたので、相葉君や水江君の芝居を見ながら、「自分がパガニーニをやるなら」ってずっと考えていました。二人ともシュッとしていて端正なお顔立ちだから(笑)、あまり血の気を感じさせないようなパガニーニだったけれど、僕がやるなら心の葛藤みたいなものをどう作れるのかな?って。全編演じるわけではないので、役を作り込むというよりはこの1曲の中で、自分の才能に自信のない青年が悪魔との契約によって変化するコントラストをどうつけるか、ということですけどね。悪魔の誘惑に抗おうとするけれども最後には心をひきつけられてしまう、その美しさみたいなものの中にパガニーニ像をどう表現できるかが、今回のゴールなのかなと思ってます。

 

――パガニーニを体験したことで、悪魔像のほうに変化があったりは?

ありました。気持ちが揺れ動いてるのはパガニーニのほうだから、悪魔は朗々と歌い過ぎずに、むしろ淡々と歌ったほうがいいのかなって今日思って。だから僕がライブで歌う悪魔は、本編とはまたちょっと違うものになるかもしれないなって、今はイメージしています。でも見え方って、声と動きが重なることでも変わるから、Fusion Wallを用いた時にどう見えるかは僕もまだ分からなくて、ゴールを色々と思い描いているような段階ですね。

――早くも2度目を迎える、『JMF』の今後のビジョンをお聞かせください。

ミュージカルシーンにおいて、フェスの形ってまだ固まってないじゃないですか。音楽フェスのように、野外で何万人規模でっていうのも念頭に置いてはいるけれど、実際それができるのかはまだ分からない。そんな中で僕は、色んな方々の興味を引くものがフェスだと思ってるんですよね。俳優、歌手、もしかするとミュージシャンとか舞踊団、色んな方が日本だけじゃなく世界から集まって“競演”して、このフェスをきっかけに裾野が様々に広がっていく、というのが一つのテーマ。出演者の皆さんにとって、色々な経験と発見ができて、楽しみにしてくれてるお客さんがいて、自分を知らない人が知ってくれる機会にもなる、そんな特別な場所と時間になっていったらいいなと思います。

そしてミュージカルの裾野ということで言うと、そこには必ず映像がありますよね。ミュージカル映画とか、テレビのバラエティ番組や音楽番組を通じてお茶の間に広がってきたわけですから。このフェスのなかに映像を使ったクリエイションがあることは、その意味でも大きいんです。

取材・文=町田麻子 撮影=福岡諒祠

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