大原櫻子
大原櫻子が2022年12月7日に6thアルバム『FANFARE』をリリースする。
「愛」を軸にした今作には、作曲者やディレクター、ツアーのダンサーらもコーラスに参加、チームの愛情が詰まった「Fanfare」や、ビールと焼肉への愛を歌った自身が作詞を手がけた「ふわふわ」など、様々な「愛」を歌った楽曲たちが収められている。
本記事では、制作を通して「愛したもの、愛するものが自分の人生を形作っていくんだなということを学んだ」という今作について、そして12月に行われる東名阪ライブハウスツアーに向けて話を訊いた。
――SPICEが取材をさせていただくのは、2021年3月に発売した5thアルバム『l(エル)』のタイミング以来のこととなります。シングル「ポッピンラブ!/Greatest Gift」「それだけでいい」のリリース、「Door」「愛のせい」「初恋」の3か月連続配信リリース、ツアー2本に舞台、映画、ドラマへの出演など、様々な表現をされてきたこの1年半強。きっとたくさんの見つけものがあったのではないでしょうか。
この1年半ちょっと、ミュージシャンとしても役者としても、本当にたくさんの経験をさせていただきました。特に、ストレートプレイ初主演作でほとんど舞台袖にはけることがない1時間半のお芝居をした『ミネオラ・ツインズ~六場、四つの夢、(最低)六つのウィッグからなるコメディ~』、男女差別や生と死、さまざまな愛が描かれた『ザ・ウェルキン』、その2つの舞台作品は自分にとって得るものがたくさんあったし、抑圧的で理不尽な社会で女性がどう生きるか、を作品としても自分の役柄としても深く考えさせられたんです。そういう中で、シングル「それだけでいい」からはデビュー以来お世話になっているプロデューサーの小名川高弘さんについていただいて、“女性の強さ”を軸に「Door」「愛のせい」「初恋」と恋愛ソングを歌っていくことになり、次は“愛”をテーマにした作品にしたいという6thアルバムの全体像も明確になっていったんです。
――だから、6thアルバム『FANFARE』には様々な恋心や愛、眩いほどの生命力が満ちているのですね。幕開けを告げるのは「Fanfare」。まさに希望のファンファーレのように、美しく高らかに響きます。
優しいピアノの音色に始まりラストに向けて壮大になっていく「Fanfare」、メロディを聴いた瞬間にゾクゾクして。作曲して仮歌を入れてくださった小名川さんのほか、本番ではディレクターさんにも歌っていただき、ツアーのダンサーさんにもコーラスしていただいたんですけど、生身の人間の声が幾重にも重なることですごく華やかになったし、チームの愛情を感じて泣きそうになるほど感動的な曲になりました。
――至るところで“分断”が顕著な今、<みんな笑顔で 踊れる>と信じる気持ち、<共にゆこう>という決意にも、胸が熱くなります。
その言葉、とても嬉しいです。「Fanfare」の主人公の女の子がそうであるように、生きていれば誰だってポジティブなだけではなくて、時にネガティブにもなることもあると思うんですけど、ただ励ましたり応援したりするんじゃなく、隣の人と手を握り合ってみんなで歩んでいこう、大丈夫ひとりじゃないよっていうことを伝えたくて。最後にこの曲をレコーディングしたことで、前向きな気持ちで作り終えることができました。今はまだコロナ禍なのでライブでお客さんと一緒に歌うことはできないとしても、気持ちをひとつにみんなで一緒に手を上げたら一体感があるだろうなとも思います。
大原櫻子
――その日が来るのがとても楽しみです。「Fanfare」のほか「寄り道」「ふわふわ」が新録曲となるわけですが、おそらくワンちゃん目線で書かれた歌詞の「寄り道」、なんて心温まる曲なのでしょうか。
これまでもミュージックビデオの脚本を書いてくれたり、和楽器とコラボレーションした「花光る」で作詞をしてもらってきた実姉の林田こずえが、「寄り道」の歌詞を書いてくれました。あらかじめ“愛”をテーマにしたアルバムになることを伝えていたので、きっと恋愛ソングになるんじゃないかなと思っていたら……「犬目線で飼い主への愛情を書くのはどうでしょう」という提案を姉がしてくれたんですよ。私たち家族は一度もワンちゃんを飼ったことがないんですけど、私も姉も動物が大好きだし、先にできていたメロディとのマッチングもとてもよくて。“犬”と言う言葉は一度も出てこないのに犬目線であることがちゃんと伝わる歌詞、1日で仕上げてくれました。
――ワンちゃんが歌詞を書いたんじゃなかろうかと思うくらいで(笑)。
本当に(笑)。1日1回ペースでかわいいワンちゃんの動画を送ってくれるくらい犬愛が強い姉だからこそ書けた歌詞です。
――どんなときも<傍にいる><ボク>の献身を感じさせる温かく優しい大原さんの歌声にも、涙腺がゆるゆるになってしまいます。動物保護サークルについて描く映画『犬部』出演の経験もいかされているのでしょうか。
それはやっぱりあると思います。あと、レコーディング前には「いつも「大丈夫だよ」って家族のみんなを励ましてくれる穏やかなサクのままで歌ってきてね」っていう言葉と、かわいい柴犬の写真を姉が送ってくれたおかげで、すごく感情をのせやすかったんですよね。聴く人それぞれ、ペットであれ家族であれ仲間であれ、傍で見守ってくれている大切な存在が思い浮かぶような曲になっていたら嬉しいです。
大原櫻子
――かと思うと、作詞・作曲を大原さんご自身が手がけた「ふわふわ」は、賑やかな曲調、ざっくばらんな歌詞がとても楽しくて。
のり巻きおにぎりのことを歌った「のり巻きおにぎり」とか、砂肝のことを歌った「いとしのギーモ」みたいなおふざけ曲を、今回のアルバムにも入れたかったんです。タイトルでかわいい曲なのかな?と思わせておいてフタを開けてみたら、ビールに焼肉にあれ?オジさんっぽい!?っていう(笑)。
――連呼される<いいんでねぇの?>もインパクトあります。
私が日常で普通に使っている<いいんでねぇの?>、いざレコーディングするにあたってそのままでいっていいものか一瞬考えたんですけど、調べたら昔からある江戸っ子言葉らしくて。じゃあいいんでねぇの?っていうことになりました(笑)。少しずつ日常を取り戻してはいるものの、長引くコロナ禍や不穏な世界情勢で不安感が拭えなかったり、疲れていることに気づいていなかったり、どうしても頑張りすぎてしまったり。そういうみんなの息抜きや癒しになれるように、私自身を癒してくれるビールと焼肉への愛をかわいく面白おかしく、振り切って脳天気に歌いました。
――歌詞カードには載っていないですけど、<カンパーイ!>というかけ声や<あとハラミもお願いします>というセリフも入っていますよね。思わず二度聴きしてしまいました(笑)。
はい、聴き間違いじゃありません(笑)。<カンパーイ!>も<あとハラミもお願いします>も「入れてみたいんですけど……」って小名川さんに相談したら、「とりあえず一度やってみる?」って言ってくださって。小名川さんにしてもエンジニアさんにしても、私のことをよく知ってくださっている方たちとまたご一緒することができたレコーディング現場で、伸び伸び楽しく歌入れさせていただけました。
――そんな「ふわふわ」、(NHKの)「みんなのうた」で流れてほしい曲だなと思ったりもします。
私もそう思っているんですよ! 歌詞はオジさんっぽいですけど(笑)、イントロからしてワクワクするし、メロディも覚えやすいし。小さなお子さんからご年配の方まで、広く愛されるような楽曲になってほしいです。
大原櫻子
――また、恋する胸の高鳴りを感じさせる「ポッピンラブ!」、<君>を想って告げる<さよなら>が切ない「Greatest Gift」、ファンの方たちへの愛と感謝を詰め込んだ「それだけでいい」、恋に翻弄され傷つきやがて決別を選ぶ「Door」、恋の駆け引きを描く「愛のせい」、タイトル通りの初々しさと一途さが滲む「初恋」など、シングル収録曲や配信楽曲なども、『FANFARE』という“愛”をテーマにした作品でそれぞれにしっかりと輝きを放っていますよね。
曲順はかなり試行錯誤したんですけど、パズルのピースがぴったりはまったような感覚はあります。
――作詞・作曲をご自身が手がけた「ポッピンラブ!」の、<頭の上にどすんと置く手の温もり><笑って食べた アイス><電話を切るタイミング 掴めない 2人>など、情景が浮かんで聴き手それぞれの体験や記憶と重なる描写も素敵だなとあらためて思います。
情景から感情が見えてくるというのは自分が目指す表現なので、そう言ってくださってとてもありがたいです。
――その「ポッピンラブ!」には<私が 私を 好きになれた>というフレーズが、「初恋」には<自分のことも好きになれるかな>というフレーズがあって。誰かに純粋な愛を注ぐには、まず自分自身を好きになるべきなのではという気づきをもらえたりもします。
どうして自分のことを大事にできないんだろうって私自身が日々思ってしまうんですけど、自分のことが好きじゃないと、余裕がなくなって人を思いやれなくなってしまうし。自分を大事にして自分のことを好きになってこそ、人を大切にできるんですよね。
――情報過多な今、どうしても周りと自分を比べて劣等感に苛まれたり、自己肯定がしにくかったりもするのでしょうけど。
そうですよね、本当に。コロナでジムに行けなくなってからは、自宅でYouTubeを観ながらトレーニングする宅トレをするようになったんですけど、私の場合は動画でトレーナーさんが言う「明日の自分をもっと好きになれるように頑張ろう」っていう言葉に励まされたりします。あと、「今日は朝ちゃんと目覚めただけでも偉い、そんな自分を褒めてあげよう」ってちょっとハードルを下げるだけで、自己肯定感が高まるんじゃないかなって思ったりとか。そうやって少しずつでも自分で自分を認めて好きになれれば、誰かを大切にして真っ直ぐに愛することができる。そう信じています。
大原櫻子
――大原さんの信念と、“愛”を軸にしたひとつひとつの曲の力が鮮やかな『FANFARE』。最強の10曲がそろった作品になりました。
確かに1曲1曲が濃いなと自分でも思います。今回、作詞を手がけてくださった方たちと綿密に打ち合わせをして、曲ごとの主人公のイメージを明確につかんだ上で歌えたということも大きいのかもしれません。出会いや別れ、様々な場面・心情・目線で愛を歌うことで、愛したもの、愛するものが自分の人生を形作っていくんだなということを学んだ1枚でもあります。
――そして、12月には東名阪ライブハウスツアー『大原櫻子LIVE HOUSE TOUR2022 ライブハウスでFANFARE!!』が開催されます。どんな期待感を抱いていますか?
“アルバムを出すからには少しでも早くみんなに新曲を生で届けたい!”と思って急遽決めたんですけど、10代だった2015年の1stツアー以来、久々のライブハウスツアーになるんですよ。近距離でファンのみんなと過ごせるっていうだけで、もうワクワクしちゃいますね。『FANFARE』の曲たちはもちろん披露しつつ、面白企画もありのクリスマス会、忘年会みたいな雰囲気のライブになると思います。
――「ふわふわ」がよりいっそう楽しいことになりそうですね。
今、ライブメンバーと軽く打ち合わせしているんですけど、バンマスの草刈浩司さんが「「ふわふわ」のとき僕はずっとビール飲んでたい」って言い出して、「じゃあ私も飲みたい!」「だったら録音したものを流してみんなで飲むか!」、みたいな話になっています(笑)。
――(笑)。間違いなく素敵な年納めになりそうです。少し気が早いですが、2023年はどんな1年にしたいと考えているかもお聞かせください。
10周年が近づいてきているので、いつも応援してくれるみんなになにかしらの形で恩返しをしたいし、もっともっとたくさんの人に私の歌やお芝居、いろいろな表現をお届けできたらいいいなと思っています。
大原櫻子
――10年近く歌やお芝居で様々な表現をしてきた上で、まだまだ追い求めたい気持ちが強いわけですか。
歌もお芝居もやっぱり大好きだし、楽しいし……ファンの方たちの反応が、喜びにもつながっていて。
――ファンの方たちの応援、存在は、大原さんにとっての原動力になっているのですね。
そうですね、間違いなく。SNSでの発信にリアクションしてくれたり、ライブや舞台公演に足を運んでくれたり。みんなが温かく見守ってくれている安心感や心強さがあるから、私は前に進めるし新しい挑戦もできるんです。2023年も、ファンの方たちへの感謝を忘れずに、ひとつひとつの表現に丁寧に向き合って全力を尽くします。
取材・文=杉江優花 撮影=菊池貴裕