ヤユヨ
この春にはキャリア初のフルアルバム『日日爛漫』をリリース。大学も卒業し、全国9公演の『ヤユヨの爛漫ワンマンツアー2022』もメンバー4人で完遂。『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022』をはじめ大型フェスやイベントにも続々初出演を果たすなど、この1年で大きく音楽人生が動き始めた大阪発のガールズバンド、ヤユヨ。10月5日(水)にリリースされた、ゆったりとしたBPMにシンセが映える、大人っぽさと新境地を目指した「POOL」。続いて、3月15日(水) リリースの3rd mini album『SPIRAL』からの先行配信シングルとして、12月14日(水)にリリースされた、軽快なピアノと言葉の妙で聴かせる正常進化の「愛をつかまえて」。そんな2曲で新章突入を告げたバンドの現在地を、ソングライティングの両翼を担うリコ(Vo.Gt)とぺっぺ(Gt.Cho)が語ったインタビューでは、ツアーやフェスの思わぬ裏話から、サウンドとリリックの両面でヤユヨの今のモードを表した新曲の制作秘話までを吐露。「新しいヤユヨを見せられたなと思ってます」と自負する、バンドの激動の2022年を総括します!
「これが私たちの仕事なんや」という実感
リコ(Vo.Gt)
――この春には、初のフルアルバム『日日爛漫』をリリース。ついに大学も卒業し、『ヤユヨの爛漫ワンマンツアー2022』もメンバー4人そろって回れて。
リコ:ようやくバンド一本で活動できるようになって、「これが私たちの仕事なんや」という実感で……何だかすごくドキドキしたというか、卒業して初めてのツアーだったので気合いが入りましたね。去年は、はな(Ba.Cho)ちゃんが(学業の都合で)ツアーに参加できなかったから、初めて4人で回れたのがまずはうれしかったし、前回と比べてたくさんお客さんも来てくれたので、「私たちの音楽が広がっていってるんやな」と感じられて、めちゃくちゃ楽しかったです。
――今、話している表情がもうイキイキしてますもんね。
リコ:本当ですか?(笑)。すごく充実した9日間(=ツアー)だったと思います。
ぺっぺ:バンド一本になった分、音楽に集中できたし、いい意味で責任を感じるようになりました。ツアー前からみんなで「ライブに対しての考え方とか取り組み方を変えていかないとね」という話はずっとしていて。ライブをして、毎回ちゃんと話し合って、を繰り返した先にファイナルを迎えたときの達成感は、今までとは全然違いました。あと、前回のツアーと同じマインドでは意味がないことには気付いてたんで、ちょっとSNSにも力を入れて動画を撮ってみたり、いろいろと工夫したり、試行錯誤しながらでしたね。
――ツアーの途中にはMr.Childrenのライブを見て大号泣したとも(笑)。
ぺっぺ:大感動しましたし、刺激になりました(笑)。ただ、そんなツアーでひとつだけトラブルがあったんですよ。福岡公演の終演後に、というか、ライブが始まるSEが鳴っている時点で、「ちょっとおかしいかも。何か頭が痛いな、疲れてるんかな」と思ったんですよ。ライブが始まればアドレナリンも出るしいけるかなと思ったんですけど、だんだん「これはヤバいな」という感じになってきて。何とか最後までやり切って、すぐにメンバーに薬を買ってきてもらって飲んだ瞬間、一気に気持ち悪くなって……(笑)。「ぺっぺだけ新幹線で帰らせようか」みたいな話もあったんですけど、一人で帰る方が何かあったときに怖過ぎて。結局、ニトリで簡易なクッションみたいなものを買ってきてもらって、ハイエースの後ろで寝ながら帰ったという(笑)。
――結局、原因は分かったんですか?
リコ:いや、全然分からなくて。でも、その翌日ぐらいに私もちょっと体調が悪くなって。コロナとかではなかったんでよかったんですけど、もしかしたら食べ物が当たったのかも。
――それは何か心当たりはあるんですか?
ぺっぺ:……ホルモン?
――絶対それやん(笑)。
(一同爆笑)
ぺっぺ:2人だけが食べたものを考えたら、ホルモンなんですよね、やっぱり(笑)。
――いやでも、そういうのもツアーならではのエピソードですね。ライブだけじゃなく、その間の過ごし方も大事だぞと。本当に間一髪でしたね。ライブ中に我慢し切れなくなっていたら、伝説のツアーになるところだった(笑)。
ぺっぺ:アハハ!(笑) 体調管理は大事やなと身に染みて分かったというか、気を付けなあかんなってめっちゃ思いました。
お客さんにとっては同じ30分で、同じステージ。その価値に違いはない
ぺっぺ(Gt.Cho)
――今年の夏は『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022』をはじめ大型フェスやイベントにも出て。
リコ:去年よりいろんなフェスやイベントに出させていただいて、やっぱり初めてやし、ついひるんでしまいそうになったんですけど、若手やからとか、まだあんまり名前が知られてないからと言って、負けたくないなという気持ちはありました。自分たちのやってきたことや音楽には自信を持っているので、そこを初めて見てくださる方、ずっと応援してくれてる方にちゃんと届けたいなと。不安や緊張というよりは「やってやる!」という気持ちでしたね。
――それは頼もしい発言ですね。
リコ:中でも、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022』は、その2日前にヤユヨの日(=8月4日)で自主企画『やゆヨ!vol.2 〜沸騰サマー〜』をやって、みんなのバイブスも上がってたし、絆も深まってたし、そのままの勢いで気合いも一段と入ってたんですけど、なぜか「あばよ、」の途中で感極まって歌えなくなってしまって……。歌詞の意味的にも、大人になり切れない少女がひとつの失恋を乗り越える、そういう成長や旅立ちをテーマにした曲なので、「こんなにたくさんの人に見てもらえるまで、ヤユヨは成長したのか……」みたいに。
――自分の歌に自分で感動して(笑)。
リコ:そう!(笑)。自分でも「ええ〜!?」と思って恥ずかしかったんですけど、「この曲をここで歌えてよかったな」という気持ちで、ホロッときてしまって。自分で自分に「やめてくれ〜!」と思いながら(笑)。
――ちなみに、それは何曲目ぐらいで?
ぺっぺ:全部で6曲やったんで、4曲目ぐらい?
――「あばよ、」で終わりなら逃げ切れましたけど、まだちょっとある(笑)。
リコ:そうそう(笑)。だから、泣きやんで、次のMCをして「てへっ」みたいな(笑)。
ぺっぺ:こっちはずっとリコを見ながら演奏してたわけじゃないので、大舞台の途中で声が止まったとき、最初は「あれ、歌詞飛ばした!?」と思って(笑)。もしくは、ライブが続いてその間にレコーディングまで挟んでたんで、声が出なくなったのか。一瞬、自分が歌おうかなとも思ったんですけど、また声が聴こえ出したから、そのまま最後までやり通して。ステージを降りた後に「どうしたん? 何があったん?」と聞いたら、「いや、ちょっと感極まって……」と言うから、みんなで「何じゃそりゃ!」と突っ込んで(笑)。
――まぁ初ロッキンというストーリーもあるから、見る方も理解できたのでは?
ぺっぺ:感情をちゃんと込められた、気持ちが乗ったという意味では、まぁギリギリセーフかなという感じの初ロッキンでした。マカロニえんぴつもそうやし、総じて自分たちより先輩アーティストがいっぱい出てるフェスにヤユヨも入れてもらいましたけど、お客さんにとっては同じ30分で、同じステージじゃないですか。その価値に違いはないという気持ちでやらないといけないとは思ってたんで。むしろ、自分たちの音楽を知らない人の方が多い=味方につけられる数が増えるというプラス思考で、「ガツンといこうぜ!」みたいなマインドでやってましたね。
――この夏の『KANSAI LOVERS 2022』で久々にヤユヨのライブを見たとき、「昔はもっとしっちゃかめっちゃかしてたな」と思ったんですよ。リコさんが派手に動き回って盛り上げるというよりは落ち着いていたので、その辺は実際どうだったのかなと。
リコ:それは見てくれてる人の数が増えたことで、自分が一方的に暴れるより、もっとお客さんとコンタクトを取ったり、リアクションを自分の目でキャッチしたい気持ちになったんですよね。なので、「ちゃんと目を見て歌おう」じゃないですけど、お客さん一人一人に届けようと思うと、今までより控えめに見えるのかもしれないですね。
――人の目を見て歌おうと思ったら、転がり回ってる場合じゃないと(笑)。
リコ:そうですそうです(笑)。でも、弾けるときは弾ける。どっちもちゃんとやりたいなと。
「POOL」はサウンド優先、メロディ優先、コード優先
ヤユヨ
――そして、10月に配信された新曲「POOL」は、もう明らかに第2期ヤユヨというか、今までとは違うことは誰が聴いても分かる一曲になっています。この曲調は歌詞の世界観なのか、音に言葉が呼ばれたのかで言うと、やはりサウンド?
ぺっぺ:そうですね。私は作詞を先にやるタイプだったんですけど、「POOL」はサウンド優先、メロディ優先、コード優先ですね。
――ここまでBPM遅めの曲も新鮮で、今回はあらかじめ鍵盤を入れることを想定して作ったと。
ぺっぺ:やっぱり『日日爛漫』との差も欲しいし、新しい自分たちを見せたい。何かを変えるとなったとき、自分は元々ピアノも弾けるのでシンセを入れるアイデアはすぐ出てきました。
リコ:今回は新しさだったり、大人っぽさを意識していたので「こういうことか!」と。自分が最初に落とし込んだ歌のイメージは、すごく色気があったんですよ。悲しさをちょっとネチッとした声で、しがみつくように歌いたいと思ってたんですけど、「もうちょっと淡々と」みたいな感じになって。あと、今回はラップパートもあって、私はそういうジャンルを通ってこなかったのでどう表現すればいいかすごく悩んだというか、時間がかかりましたね。でも、やってみて表現の幅が広がったり学びもあったので、新しい自分が見えた、成長できた一曲になったんじゃないかな。ライブで歌っても楽しい曲になったと思います。
ぺっぺ:今まではだいたい自分が書いた歌詞のイメージからコードの雰囲気とかアレンジを決めていたので、メロディとかコードから歌詞を想像するのが新鮮で。この歌のコードを考えていたら速攻で曲の世界観が浮かんで、歌詞をばーっと書き出したのがこれなんです。リコは普段、感情を乗せるように抑揚のある歌い方をするんですけど、この曲は逆にそれをあえてしないでほしいなと思って。自分が想像したのはもっと冷たいというか閉塞感があって、呼吸ができないぐらい息苦しい。だから、結構指示を出させてもらった感じですね。
――「好き」より「嫌われたくない」が、「幸せ」より「それを失う不安」が勝っていく感情が、この曲の閉塞感とか息苦しさにもつながっていると思いますけど、リコさんはこの曲の歌詞の文頭に激しい感情があるのが好きだと。
リコ:インパクトがあるし、それが頭にあることで後に続く言葉の意味も深くなる。あと、この曲はキーが低いんですけど、そこはしっかり歌うようにライブでも心掛けてますね。
――<これっぽちも好きじゃなかったんだ>から<全ての予定を飛ばして会いたかったんだ>までいっちゃうスピード感、<こっち向いてほしいいだけなのに>から<君の全部が欲しいだけなのに>までいっちゃう、恋愛の沼(笑)。
リコ:欲が広がって、すごく面白いですよね(笑)。
ぺっぺ:この曲は「メアリーちゃん」とセットというか、メアリーちゃんの感情にもうちょっと焦点を当てられるかなと思って、同じ一人称ではないんですけど、当時、このサビの部分だけメモしてたんですよ。今回、「POOL」をサウンド優先で作ったとき、「これでメアリーちゃんをもうちょっと救える歌にしよう」と思い付いて、歌詞を合体させたのが始まりでしたね。
――この曲では、安易にギターソロを弾かずにどう聴かせるかという試みも成功していますね。
ぺっぺ:ギタリストなのでついギターを入れたくなるんですけど、今回はシンセをメインに、間奏もギターじゃなくてシンセソロにして。けど、やっぱりギターを弾きたいなと思って、イントロとかは実は結構がっつりギターを入れてしまって暴れてるんですけど(笑)。
愛にちゃんと気付ける人になりたい
はな(Ba.Cho)
――続いて、12月14日(水)配信の「愛をつかまえて」は、同じピアノアレンジと言えども、またテイストが違って軽やかで。
リコ:今までも恋愛の歌をいろいろと書き続けてきたんですけど、「愛」よりは「恋」というか、片思いとか失恋とかそういう感じで。でも、『日日爛漫』をリリースし終えて、もうちょっと深いところを歌いたいなと。自分が関わる人への愛、関わる人から頂く愛。そこにちゃんと気付ける人になりたいし、自分なりの伝え方だったり表現で愛を生んでいきたかったので、「じゃあそもそも愛って何?」みたいな素朴な疑問から作り始めた歌ですね。
――「愛って何?」と聞かれても、そんなこと「分かるか!」というのも(笑)。
リコ:そう、「分かるか!」なんですよね(笑)。結局、この主人公は愛にたどり着けなかったんですけど、私と同じで「どうやったらそれを捕まえられるんだろう?」という感じで追求はしていこうと。だから、愛を知るとか理解するというよりは、手に入れたい、知っておきたいという意味も込めて、「愛をつかまえて」という言葉を選びました。
ぺっぺ:メロディ自体はキャッチーで耳に残るし、サビでも<愛をつかまえて。>と歌うんですけど、その感じが切なくて。リコの声に乗せたらすごく深みがあるなと。
――「POOL」とは違って、この曲はヤユヨの王道を引き継ぐ、延長線上の曲で。ただ、歌詞の持つ昭和歌謡っぽさは減りましたね。「POOL」は音で、「愛をつかまえて」は言葉で、今のヤユヨのモードが感じられる。<維持>と<意地>、<日々>と<ひび>の使い分けもうまいなと。
リコ:今までの歌詞より、もうちょっと言葉遊びに挑戦してみたいなと思って。私の元々の「愛をつかまえて」のイメージは『日日爛漫』までと変わらないロックチューンだったんですけど、今回は大人っぽさや新しさ=挑戦がテーマなので違うアレンジに、ピアノマジックで今のポップな感じになったんです。マスタリング済みの音源を聴いたとき、「やっぱりこっちや!」と素直に納得できたし、私はaikoさんがすごく好きなんで、自分のルーツにちょっと近づけた歌にもなったんじゃないかと思えて、うれしかったですね。
ぺっぺ:「愛をつかまえて」のアレンジは、レコーディングに向けて東京に出発するギリギリまで迷ったんですけど、私の中ではピアノが勝っていたので、最終的に入れられてよかったなと思いました。あと、さっき「歌詞の昭和歌謡っぽさがちょっと減った」と言ってもらいましたけど、私も歌詞を見たときにそこが変わったなと思いました。ただ、「愛をつかまえて」という言葉だけは、ちょっと今っぽくないなと(笑)。
――’80年代のユーミンとか岡村孝子とか、オフコースというか(笑)。
ぺっぺ:でも、リコの声に切なさが乗ってると直感で分かったというか、いつも通りのリコ感、ヤユヨ感も残ってると思ったんで、この曲はいい歌になる確信はありました。そこにいつもと違うピアノアレンジで、悲しいけど伝えたいことはちゃんと伝えるロックな感じもなくはないし……ちょっと欲張った感はあるけど、新しいヤユヨを見せられたなと思ってますね。
「ジャンルに縛られない音楽」を体現できた新曲やと思う
すーちゃん(Dr.Cho)
――もう2022年が終わるのが信じ難いですが、今年はよく働きましたね(笑)。
ぺっぺ:フルアルバムも出せて、ワンマンツアーも回れたし、フェスにもいっぱい出させてもらって、対バンツアーもできて、新曲も出せて……新境地に突入した実感もないまま、あっという間に2022年が終わる、みたいな(笑)。
――「POOL」「愛をつかまえて」で、ヤユヨの新しい一面をきっと感じてもらえると思います。
リコ:何が正解かは分からないですけど、私たちなりにいろんなアイデアを出して考えて作った結果をみんなに聴いてもらいたいし、「新しいヤユヨについてこい!」という気持ちですね。自分たちの作った新境地を一方的に見せるんじゃなくて、お客さんに心から届けていきたいです。
ぺっぺ:いろいろ新しい挑戦をしたので、ずっとヤユヨを好きでいてくれた人たちからしたら、「お、新しいヤユヨやな」と感じてもらえると思うし、知らない人たちには「ヤユヨってこんな歌もあるんや」と思ってもらえたらすごくうれしい。私たちがずっとブレずにやってきた「ジャンルに縛られない音楽」を体現できた新曲やと思うし、ヤユヨの音楽がこれからもいろんなシチュエーションで、聴いてくれる人の心情に寄り添えたらと思ってます!
ヤユヨ
取材・文:奥“ボウイ”昌史 撮影:ハヤシマコ